11.波乱のスキル鑑定(2)
「……鑑定できました」
メレの鑑定が終わったようだ。
「ご想像のとおり、こちらのお嬢様のジョブスキルは治癒師です。素晴らしいことです。ただ……」
メレはきょとんとしている。それをあいまいな笑みで鑑定師は見やった。
「レベルが42と、既に高レベル帯です」
「……なんだと」
子爵が目を剥いた。
「……こちらも、他言は致しません」
「すまない、助かる」
大人たちは頭が痛そうだ。
よく分かっていないメレは、それでも自分が何かおかしいのだと気づいて苦笑している。
「……あとで説明しよう。それでは、続けてで悪いが、ミカの方を」
「ええ、どうぞ」
ミカが椅子に座ると、両手を握った鑑定師は目を閉じた。
つられて、ミカも目を閉じる――
暗闇に、何かちかちかと点滅する……星のようなものが見えた。そして、体の中をぐるりと回るような、水のように流れる何か。
血液を感じられたら、こんなものかもしれない。
(あれ?でも前に感じたことがあるような……)
ちかちかと点滅していたものが、文字だと気づくのに時間がかからなかった。
(これ……これが)
私のスキル。
読んでいる、という感覚ではなかった。頭の中に流れ込んでくるような、そんな感じ。映画を集中して見ているような……
(……え!?)
最後に、よく分からない『文字』を『見た』気がする。
ぱちっと目を開ける。
目の前に、ぽかんとした鑑定師の顔があった。
(あ、そっか鑑定師の人も見えるのか……)
あの謎のジョブスキルが。
しばらく無言で見つめ合ってしまった。
えへん、と咳払いが聞こえた。
「……どうだった、ミカのジョブスキルは」
「はっ、……はい、あの、このお嬢様のジョブスキルは……」
たっぷり溜めて、
「………………『座敷わらし』だというもの、だそうです」
「は?」
子爵もさっきの鑑定師と同じ顔をした。
「…………すまない、聞いていいか、それは、どういったものだ?」
「ええっと、私も、なにぶん初めて見たもので……」
やっぱりですよねー、と心の中で思いきり相槌をしたミカだった。
――座敷わらし。
日本の妖怪だ。
家に住み着き、その間は家に幸福が訪れる。
けれど、出ていくととたんに不幸が訪れる、そんな小さな女の子の妖怪。
たぶんこの世界にあるとしても、東洋の島国の言い伝えか、あるいはホンモノもいるかもしれない。
けれど、東洋風のものなんてミカは今まで見たことがない。
なら、この国では少なくとも未知のものである可能性が高い。
ジョブスキルとは言ったもので、それらしい能力だった。
「その……似たもので、高名なスキルですと指揮官や、一般的な職業として吟遊詩人や舞踏師など……」
「ステータス上昇スキルか」
「いえ、その……」
鑑定師はひどく困惑していた。
「……ステータスではございません。このジョブスキルが上昇させるのは……経験値、です」
子爵の息が一瞬止まった。
すぐに吹き返し、
「経験値?……間違いないか?」
「はい……」
ミカにも驚いたような目が向くので、頷いておく。
ゲームの画面みたいだったな、とミカはのほほんと思い出していた。
自分の能力値がグラフと数値で示され、ジョブスキルやスキル一覧がずらっとならぶ。
スキルはひとつだけなのかと思ったら、細かにいっぱいあり、ジョブスキルといっしょになってるものや、全然関係なくどこの雑用でそんな作業をしたかな?というものだったり。
その中で、ネーミングの点でひときわ異彩を放つ、ジョブスキル座敷わらし。
……言い換えれば、ミカが座敷わらしということだろうか?
と、思っていたのだが。
子爵はふらふらと空いた椅子に座った。
近くに立った騎士も、なんだか顔が白くなっている。
「……レベルは」
「3です」
子爵の唸るような声に、間髪入れず鑑定師は答えた。
「……少しは安心できる材料があったな」
「ですが、年月が経てば……」
「ああそうか、常態化スキルなのか……」
「3?」
メレが不思議そうな声を出した。
ミカと同じく大人がなぜここまで頭を抱えているのか分からないから、無邪気だ。
「ミカがそんなにレベルが低いの?」
「うん。開花したてだと、低いんだって」
「え?でも、すごくたくさん私に経験値?くれたよね?」
「え?」
「「「え?」」」
ミカと、大人たちがハモった。
メレは微笑んで、
「経験値が多いほどレベルって高いんでしょう?さっきの鑑定で分かったわ。でも、私が治癒スキルを開花したのは、ミカが力をくれたからだよ。あれが経験値だったんだね?」
「何?」
「どういうことです!?」
「なに?なに?」
「えっと……」
軽く全員混乱して、我に返った子爵が何度も咳払いした。
「……整理しよう。まず、メレの言うには、その治癒スキルの開花は、ミカが経験値を君に渡したからだと……」
「はい。そうです」
「その時の状況は?」
ブローのことを話すと、子爵は少しだけ表情を和らげた。
「そうか。……そういったことも可能なスキルなのか、その、ざし……?」
「座敷わらしです」
「わらしは方言だと聞いた覚えがあるが、ざしき、とは?……まあいい、ともかくミカのジョブスキルには」
「いえ、そういう事はできないみたいです」
説明だと、『座敷わらし』は、特定のエリア内に、使用者の加護を受けたものは獲得経験値2%の上昇――とあった。
漫画で見たゲームの説明文そのものだ。
加護というものはよく分からないが、自分も含まれているようで、レベル3というのはそれで増えた経験値でレベルアップしたのだろう。
「え?でも何となくミカだって分かったよ?」
「ううん……」
「仮説ですが……」
鑑定師の人は、恐る恐る言った。
「上級スキルではありますが、自分のステータスの何割かを他人に付与するものがあります。……その、もし、同じことを経験値でできるスキルをもとからお持ちだったとしたら……」
「なるほど、それが高レベルだった場合……」
「はい。スキルのレベルダウンなどをしてフロー分をメレ様に丸ごと付与されたのでは。スキル自体は経験値が大幅に減り、維持できずに解除されたのでは」
「辻褄は合うが……」
子爵はぼうっとした顔で、ミカを眺める。
居心地が悪い。
「それが本当だとしたら、どんな恐ろしいジョブなのだ」
「……え?」
「いや、私も混乱していてな」
ふと子爵は顔を騎士に向けた。
「分かっているな?」
「もちろんにございます。一切を他に漏らしません」
騎士は手を胸に当てて直立不動になった。緊迫した空気を感じる……
「メレ、君はだからこの場にミカを、と言ったのか」
子爵の呆然とした様子は気にしないのか、メレは満面の笑みだった。
「はい。きっとミカは、すごいスキルを持ってるって思って」
「……素晴らしい直感だ。感謝する」
「?はい!」
子爵は深い溜息をついて、天井を仰ぐ。
「これも神の仕業なのか……」
鑑定師の人は疲れたと言って、屋敷で一泊休んで、翌日他の子どもたちを鑑定することになった。
たぶんスキルを使ったからじゃない、気疲れというやつだ……と、なんだか申し訳ないミカだった。
自分では有用だけれど地味なスキル、と思っていたが……やはり、何かとんでもないものらしい。
夕方、子爵が夕食前に執務室にミカを呼んだ。
「……経験値というものは、普通外部からは操作できないのだ」
「はい?」
「自分の経験値は自分でしか扱えない。スキルでも道具でも、そういう他の何かで自分の意思に関係なく経験値の振り分けや、ましてや増減はできない」
「そう……なんですね?」
つまり……
(チートってやつ?)
いまいち使いどころが分からない能力だが。
だいたい、特定のエリアというのはなんだろうか。
本来の座敷わらしなら、どこかの家だ。
だが、今までミカがいた家では不幸ばかり起こっている。経験値と言われても、その恩恵を受けたのは今のところメレだけで……その家も燃えてしまった。
「だから、メレ以上に、君の能力は隠さなければならない」
「……え?」
「鑑定師も言っていただろう?今のところ唯一無二のスキルだ。これが知られれば国どころか世界中が黙っていない」
「……え?」
国どころではない?それ以上?
子爵は真剣に、こればかりは子供の言う事を聞かせる大人の顔だ。
「だから、絶対に、君のスキルは隠せ」
「は、はい!」
万が一があったら、自分だけではなく、周りにも迷惑がかかるのが確定だ。
特に、子爵は……ここまでしてくれて誰が疑えるというのか。
かばってくれた、保護してくれた子爵には、絶対に迷惑はかけられない。
「絶対に、隠します」
「……君は聡い子だから、心配はするが大丈夫だと思う。けれど、誰にだって弱点を突かれたり、どうしようもないことが起こると思う。そのときは迷わず私を頼ってくれ。力になろう」
「……ありがとうございます」
「うん。それと……」
言いにくそうに、言葉を一回切ってから、
「……余裕ができたら、古い物語を読むといい。君のスキルの、その、理解が深まるはずだから。あいにく、うちにはそれらしい本がなくて」
「?……はい。分かりました。いつか見てみます」
「ああ。……そろそろ晩餐かな。今日はみんなと食べるのだったな?」
「はい。では、失礼します」
「ああ、ではな」
大きな来客用の部屋に行くと、テーブルにはみんなが着いていた。
メレや、ロダンもいて、彼にはもう騎士が見張っていなかった。ほっとする。
彼の隣の席が空いていたのでそこに座る。
「ロダン、気分が悪かったり、泣きそうだったりしない?」
さっき、無理に嫌なことを思い出させた。
聞いているミカが悲しくて……彼は表情が動かないから、何を思っていてもうまく伝えられないのではないだろうか。
こっそり聞くと、彼は考えてから首を振る。
「……そう、ならいいの。でも、何か嫌な気分になったり、変なこと思い出したら、私か、子爵に言ってね」
「……」
無言だけれど、かすかに顎は上下したので、たぶん聞いてくれた。
「……ミカは」
「うん?」
「嫌な気分になったりする?」
「たまにね」
でも……
「今は、ロダンやみんながいるから、平気だよ」
「……そうか」
なんだか、ロダンも嬉しそうに見えるのだが、気のせいだろうか。




