10.波乱のスキル鑑定(1)
数日後、ミカがベッドから出られて散歩はくらいは許可された頃に、スキル鑑定師のひとがお屋敷にやってきた。
「まずは、この子を鑑定してほしい」
そう子爵が言ったのは、騎士の人に付き添われたロダン。
今は来賓用の部屋に、鑑定師、子爵、メレとミカ、そしてロダンとその近くにいる騎士だけである。
「そ、そうですか?」
ちらりとメレを見る鑑定師の人は、40歳前後の柔らかい雰囲気の男の人だ。眼鏡をかけていて、小さな帽子とローブを羽織っている。
おそらく事情を聴いていて、治癒スキル持ちだというメレよりも先にロダンを見ることになって、驚いたのだろう。
「では、こちらに座って。……手を出して。両手です。……」
鑑定師は椅子に座ったロダンの前に座り、彼の両手を軽く握って、目を閉じる。
すると、鑑定師とロダンの体が光る。
メレがスキルを使ったときと似ている。
そうして、2分ほど。
「……ど、どういうことですか、子爵」
かっと目を見開いた鑑定師が立ち上がる。
「どうしてこのようなジョブスキルを……!」
「分からないから鑑定を依頼したのだ。で、ロダンのジョブスキルは」
鋭い目で子爵は鑑定師を睨む。ここまで厳しい顔を見たことがない。
鑑定師の人は、汗をかきながら椅子に座り直した。
「……暗殺者です」
「え?」
暗殺者。
聞くだけで危なそうなジョブスキルだ。
子爵は悩むように、眉間に指を当ててほぐすようなしぐさをする。
「やはりな。レベルは」
「さ、」
一度鑑定師の人は言葉を詰まらせた。
「37……です」
「37!?」
ぎょっとした子爵と騎士。
ロダンはぼんやりと座っている。その前に子爵がしゃがみ込んだ。
「君は……何人殺した?」
「……!?」
ミカとメレが、同時に息を呑んだ。
ふたりと答えたなら、先日の刺客のことで済む。
けれど――
「動かなくなるまで……なら、3人」
「ふたりは、あの男たちだね、もうひとりは」
「……」
ためらうように、ロダンは口ごもる。
鑑定師の人は真っ青になり、騎士は剣の束に手を乗せている。
「……あの小屋にいたとき、外で……急に腕をつかまれて」
「……そう、それで」
子爵がぎゅっとロダンの手を握る。
それを、ロダンはぼんやりと見ている。
「どこかに連れて行かれて、服を破かれて」
「分かった、もういい」
「さわられて」
「ロダン!もういいの!」
ミカは思わず彼に駆け寄っていた。
椅子の上のロダンを、抱きしめる。
「もう思い出さなくていい。言わなくていい……」
「ミカが、言うなら」
「どちらも正当防衛だ」
子爵が低い声で言った。
「先日、我が屋敷にならず者が押し入った。屋敷の者がその手にかかりそうになったところを彼が助けてくれた」
「……さようですか。では、心の中に留めておきます」
「助かる」
鑑定師も、いくぶん落ち着いた声でやりとりしている。
ロダンを抱きしめたまま、ミカは泣かないように必死になっていた。
きっと、彼は、だから暗殺者というジョブになったのだ。子爵や大人たちの反応で分かった。
そして――
「ミカ、メレ、そしてロダン。聞いてくれ」
子爵の声に、ゆっくりと振り返る。
「ロダンのジョブスキル、暗殺者というのは……危険なものとして、国から監視されるものだ」
「……!」
「そんな……っ」
「だが、経緯と、私が見る限りロダンが危険とは思えない。どうにか、そのジョブを隠せるように手配する」
「……」
「ロダン。本来は君がやったことはいけないことだ」
「……」
「人は、ああやって血をたくさん流して動かなくなると、死ぬ。二度と動かない。それは……例えば、ミカが、そんなことになったら?」
「……だめだ、それはだめだ」
ぐっと険しい顔になるロダン。
「そう、だめだ。だから、ロダン。君の力は大切なものや君自身が危ない時に、使うものだ。そして、できる限り、動かなくなるまではしてはいけない」
「……」
また無表情に戻ったロダンは、戸惑っているようだった。
「ねえ、私を助けてくれたでしょ?どうして?」
「……君が、おれを助けてくれたから……」
「え?」
「けいりが、いるって……」
「けい……警吏、あの時!」
「どういうこと?」
メレが聞いてきた。メレも顔色が悪いけれど、冷静なようだ。
「えっと……お金を稼いでいたとき、その……」
「……危険な人がいるって教えたの?ミカが?」
「ぐうぜん、見ちゃって……」
「なるほど」
子爵にはバレたようだ。小さく笑ったけれど、怒られることはなさそうだ。
「恩返しか。なんだか騎士のようだな」
「……」
咳払いする騎士の人。……何かあったんだろうか。
「ともかく、ロダンは私ができる限り守るし、被害も出させない。だから、みんな、安心してほしい」
「はい……」
「では、次の鑑定はメレをお願いしよう」
「分かりました。では、代わりに座っていただいて……」
鑑定師の人に促されて、ロダンの代わりにメレが座る。
彼女の両手を握って、鑑定が始まる。
ミカはなんとなく、ロダンの手を握る。彼は何も言わずにつながった手を見ている。
「……子爵、ロダンのレベル?で驚いていらしゃいましたけど、どうしてですか?」
「ん?ああ、……まず、このスキルが開花する前後の歳で、あり得ないレベルだったからだよ」
「37とか……高いんですか?高いとどういうことなんですか?」
「ああ、ああ、そうか。レベルというのは……」
ゲームと同じように、スキルを使ったりすると経験値というものが増えるらしい。
それを増やしていくと、スキルのレベルが上がり、技能の精度が上がったり、できることが増えたりするという。
「だから、どれだけスキルを使ったのか、確認した」
「そうだったんですね」
ここで、子爵はミカの顔の横に顔を近づけた。ひっそり声が届く。
「……人を殺せば、経験値が多くなる」
「……!」
「その経験値分、使用頻度が多いスキルに振り分けられる。ロダンはだからスキルレベルが高い」
「……」
「これは、誰にも言わなくていい」
ミカが頷くと、子爵は離れた。




