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勇者は昏い声で止められぬ言葉を紡ぐ。


「地獄の様な帰路だった。魔王の仇討ちに逸る魔物達、ゲスで愚かな目をして恩人たる姫を見る民」


俺は信じたかった。

小さく呟き、虚ろな目で勇者は虚空をただ見上げた。


「姫はずっと、聖なる祈りでヴァールバラを護っていたのに。魔王の売女だ? 穢れ姫だ?? その眼球は節穴か?」


憂い顔で口を開こうとするリリア姫を制して、敬意と慈しみのたっぷりと乗った声を姫に捧ぐ。大きく無骨な手は恭しげに白き姫の手を捧げ持ち、澄んだ青き瞳がある熱を深く帯びている。


「姫はもう十分以上に国に尽くされた。このヴァールバラ近辺だけが豊かで、魔物の襲撃なき安寧を得ていたのは、誰のお陰か誰もが知っていただろうに。強力な魔物の侵攻が防がれていたのは、リリア姫の聖なる祈りのお陰だったというのに」


しかし段々と声の調子が変わりゆく。

目を伏せ、そして視線は周囲へと向かう。

勇者ユリウスは命を懸けて護った筈の人々に対し、ほとんど呪詛の様な声を上げ続けた。


「お前たちはリリア姫が魔王に誘拐された穢れ姫などと宣うが、そもそもだ。お前たちは誰も姫を守らなかったじゃないか。俺は覚えているぞ。俺以外の近衛騎士も、護衛も側近も大臣達も、婚約者や姫の両親すらあの場に居たな! 何せ現場はここだ。俺は覚えている! 抜刀したのは俺だけだった! 誰も抵抗しなかった。誰も挑まなかった。誰も血を流さなかった。俺以外は、誰も!」


勇者は周囲の騎士を見回した。

場に在るはかつて憧れた先輩騎士達。

実戦知らぬ新品じみた近衛騎士らの鎧が滑稽に見えた。

この場に立てる騎士はほぼ、高位貴族の令息だ。

周囲におわす大臣達の、次男三男四男坊。

名誉職なのだ。


「俺はあの時単身魔王に挑み、返り討ちに遭い死にかけていたが、ちゃんと見ていた。お前たちの目を覚えている。放った言葉を覚えている。お前たちは、リリア姫を促していたな。自分たちが無事に切り抜ける為に魔王に誘拐されろと強いていた。言い逃れはするなよ? 俺にはハッキリ聞こえていた。お前たちが差し出したんだ」


輝かしき鎧姿の近衛騎士らは先輩面で勇者に語る。


「仕方がなかったんだ。だって魔王は強大だ」

「相手は魔王だぞ? 勇者のお前と一緒にするな」

「怖ろしかったんだよ魔王が」

「お前は勇者だから平気だったのだろうが」


失望と怒りのあまりに震えすら走る。


「恐かったに決まっているだろう……! 俺は近衛の新入りだった。死に物狂いで強くなる前、あの場の騎士の、誰より弱かった! だから死ぬのは俺だと即断できた。

あの時、俺は先陣だと思っていた。俺は先陣を切って死に、しかしその後には俺より強い先輩方が続いて、魔王を倒せはせずとも退けてくれると。姫を護ってくれると、信じていた!」


かつての栄光も今は昔。

最強を謳われたヴァールバラの騎士も今や腰抜けばかり。


「けれど後続はなかった。貴方方は抜刀すらしなかった」


先輩騎士らは事実のもたらす気まずさのあまり、居直りを始めた。言い逃れとも言う。


「だから何だ。そこな元姫は自ら魔王に誘拐されたんだ」

「勇者様の言いがかりだ。我々は何も言っていない」

「穢れ姫が勝手にやったこと」

「穢れ姫は強い方に靡いた! 媚びた!」

「今度は勇者を誑し込んだか! ほんと、よくやる」


言葉もなく勇者ユリウスは一閃をくれた。

勇者の放つ一閃を、視認できた騎士は一人も居なかった。


「不快な鳴き声今すぐ止めろ。ゴミの様な言葉しか吐けないのならその舌切り刻んで廃棄してやる感謝しろ」


勇者の剣より生じた風の刃が、騎士団長の頬をかすめて赤く一筋、血が流れる。全く反応できずに手を柄に当てる事すらしていなかった。


「リリア姫の肩は震えていた。

お顔は青ざめていた。

俺は死にかけていたが、死ぬ気でちゃんと見ていた。

見ていることしか出来なかった。

けれど、お前らよりは正しく事実を認識している。

姫は、俺なんかの命の為に! お前たちなんかの命を助ける為に! 誘拐されてやったのだろうが……!」


血を吐く叫び。

悲痛な顔をするのは姫ばかり。


一縷の期待を込めた見回そうとも、被害者面の加害者ばかり。


「…………むなしい。この場、言葉は無力な様だ」




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