第2章 第13話 兄妹
祝勝会から一夜明け、オルレアンでは戦後処理が始まった。
俺は、まだ寝ぼけているマリンとハム太を置いて王宮の中庭に出ると、朝食を済ませた騎士たちが三々五々集まっていた。
ところがジュリアが姿を現すと、それまでばらばらだった騎士団員たちは急に一糸乱れぬ動きで整列した。
ジュリアは指揮棒を手に全体を見回すと、各小隊長たちを呼び出した。
「防御用の武器は、倉庫に戻す前に手入れと記録を怠るな。商家や民家の財に手を付けることのないよう、騎士団の誇りを持って事に当たらせよ!」
「はっ」
「投降兵たちは、しばらくの間オルレアンからの街道整備にあてさせる。正式な騎士団としての身分と栄誉を与える代わりに、同じ責任も負わせよ」
「承知いたしました」
小隊長たちはジュリアに敬礼すると、素早く自分の隊を率いて持ち場に散っていった。
そして、ジュリアは指揮棒をおさめて俺を振り返った。
「どう。お兄ちゃん。私もすっかり板についてるでしょ」
「うん。さすがは近衛騎士団長なだけはあるな……って、ちょっと待て! 珠莉、記憶があるのか?!」
「うん。黙っててごめんね。ただ記憶を失くしたことは本当なんだよ」
ジュリアは記憶を失くして森の中に倒れていたのをオルレアンの騎士に助けられたそうだ。
そしてジュリアが振るう指揮棒は、紛うことなき我が飯田家のお玉である。
「王宮ではクレアさんから王家に仕えるように言われたんだ。私はその時は記憶もなかったし、助けてもらった手前、『差配の騎士』として騎士団の仕事を引き受けたんだ」
「それで、いつ記憶が戻ったんだよ」
俺の言葉に、珠莉は炊飯器を指さした。
「昨日の宴で、この炊飯器からご飯をよそって食べた時だよ。一口食べたら、これまで失ってた記憶が一気に流れてきちゃったんだ。だってこの炊飯器は元々私が懸賞で当てたものなんだから。まあ、お兄ちゃんもこの世界に来ても私に感謝してよね……」
「うん。珠莉には感謝するよ」
俺はそう言うと珠莉を抱き寄せた。相変わらず異世界に来ても生意気な奴だ……。なんて思わない。珠莉は強がりながらも声を殺して泣いていたのだ。
「珠莉、元の世界に帰るぞ」
「うん……あっ、お兄ちゃん」
珠莉は俺を押し返すように離れると、思わせぶりに目配せしてきた。振り返るとマリンが柱の影からこっちを見ている。愛用の杖を握りしめ体をプルプル震わせていた。
(もう、マリン様、勇者様にちゃんと聞いた方がいいっすよ)
(だ、だって……)
「お兄ちゃん、モテモテだね」
「んな訳、あるか!」
しばらくすると、柱の陰からハム太に促されてマリンが出てきた。何故かマリンは泣き顔である。
「お前、盗み聞きなんで行儀が悪いぞ」
「うっ、ぐすっ……。え、いや、これは……」
「まあ、改めて紹介するよ。俺の妹の珠莉だ。こっちの世界ではジュリアって呼ばれてるけどな」
俺の言葉にそれまでバツが悪そうにしていたマリンが身を乗り出してきた。
「ええ~っ! お二人は御兄妹なんですか~っ?!」
「そうだけど」
「どうして勇者様は今までお隠しになられていたのですかっ!」
「ていうか、マリンに言う必要なんてないだろうが」
「ご兄妹ならば一安心ですけど……はっ! まさか義理の御兄妹なんじゃ……」
「「違うわ!」」
マリンのあまりの言葉に、俺たちは兄妹でツッコミを入れてしまったのだった。




