第2章 第11話 攻城戦
「馬鹿な奴らめ。これで黄金米とオルレアンが手に入ったわ。直ちに総攻撃に移るよう伝えよ」
旧帝国軍の陣地近くに蒔かれた黄金米は順調に育ち、五日後には枯れることなくたわわに実った。しかし……。
「店主様! 大変です」
副官のイリアスが血相を変えて駆け込んできた。
「兵士たちのほとんどが倒れています! 高熱と激しい下痢、腹痛で動けぬ者が続出。軍馬も半数以上が同じ症状で。今日の攻撃は中止すべきかと!」
「原因はなんだ! まさか毒か!?」
「アレン殿の調べでは、食料か水に何かが混入された可能性があるということです。現在、暗部が全力で調査中です」
「馬鹿な! 毒物の使用は大陸条約で固く禁じられているはずだ!」
ヴィクターは机を叩いたが、すぐに表情を変えた。
「いい機会だ。明日の一面に『オルレアンの非道なる毒攻撃』と大々的に載せろ。世論を味方につければ、こちらの正当性が増す」
「しかし店主様、まだ原因が特定できておりません。食糧庫にネズミの姿を見たという報告も……」
「構わん! 今は大義名分が欲しいんだ! 早く新鮮な水と食料を手配しろ!」
「は、はっ!」
――しかし、事態は悪化の一途をたどった。
一週間後。新しく運び入れた水も食料も効果はなく、十万の大軍のうち、まともに動ける者は三万を切っていた。そして、ついにヴィクター本人までもが激しい腹痛と下痢に襲われ、豪奢な寝台に伏せることになったのだ。
「くっ……! イリアス……これはどういうことだ……!」
「いくら新鮮な食糧を運び込んでも、黄金米以外のものを口にすると、例外なく腹を壊すようです。しかも、黄金米はすでに底を尽きかけていて……」
「なんだと!?」
「兵士たちが『黄金米以外は毒だ』という噂を本気で信じ込み、勝手に持ち出してしまったようです」
「ふざけるな……!」
ヴィクターは歯を食いしばった。ここまで来て、十万の大軍が崩壊するなど、誰が想像できただろうか。
「もう我慢の限界だ。今動ける者だけでいい! 今すぐ総攻撃に移れ! オルレアンを落とせばすべて解決する!」
ヴィクターの怒号が、病床に響き渡ったのだった。
◆
オルレアンの城壁の上。ジュリアを筆頭とする近衛騎士団一千名が、静かに敵の接近を待っていた。
「団長……本当に大丈夫でしょうか? いくら黄金米で体力が上がったとはいえ……」
「心配するな。竈の勇者様とマリン殿が立てた作戦だ。失敗するはずがない」
「でもなあ」
「こんなの聞いたことが無いよ」
やがて、旧帝国軍の総攻めを告げる太鼓と角笛の音が、平原に響き渡った。
城壁に取り付く敵軍を確認したジュリアが指揮棒を高々と掲げる。すると、それまで不安気だった兵士たちの顔が部隊の端々に至るまで一瞬で引き締まった。
「まだだ……もっと近づけ……」
「――放て!」
その瞬間。城壁の上から、大量のおにぎりが雨のように投げ落とされた。
「え……?」
「な、なんだこれは……!?」
敵兵たちは最初、呆然とした。しかし、次の瞬間――
「う、うわあああ! 黄金米のおにぎりだ!」
「俺にも! 俺にも寄こせ!」
「押すな! 蹴るな!」
飢えと病で弱り切っていた旧帝国軍の兵士たちは、我先にとおにぎりを奪い合い始めた。重い鎧を自ら脱ぎ捨て、武器を投げ捨て、泥まみれになって争奪戦を繰り広げたのだった。
◆
王宮前広場では俺の炊飯器の自動炊飯機能がフル回転し、炊飯器からあふれ出す黄金米をクレア以下、メイドたちが総出でおむすびを握っていた。
「勇者様、戦況はどうでしゅか?」
「順調だ。このまま押し返せるぞ。どんどん握ってくれ」
「ふぁい!」
マリンもメイドたちにまじっておにぎりを握っているのだが、こいつの場合、自分の口に入れることを優先している。まったくなんて奴だ。
やがて、城門前の城壁で指揮をとるジュリアが合図の旗を大きく振るのが見えた。
「よし。一旦握るのは終了だ。ハム太、おにぎりを全部城壁に持っていくぞ」
「了解っす!」
城壁から見下ろすと、敵は大混乱に陥っていた。
兵士たちは鎧を脱ぎ捨て、必死でおにぎりを求めている。
もはや攻城戦というよりさながら壮大な餅まきのような様相である。
俺はジュリアの横に立つと炊飯器の蓋を開けた。
「これで……トドメだ!」
俺は大きく息を吸い、声を張り上げた。
「いくぞおおおっ!」
「「「おおおおおーっ!!」」」
俺たちは、巨大おにぎりを敵陣目掛けて思いっきり投げ入れたのだった。




