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神獣飼いの獣人少女 ~TSして猫耳生えた、猫としか会話出来ない。詰んでね?~  作者: くろぬか
4章

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第94話 終わってしまった


 光を纏ったその刃を、狐の首に叩き込んだ。

 “硬い”。

 正直、そんな感想が浮かんだ。

 特別なスキルを大量に持つ、ミーの魔法を纏ったこの剣ならどんな物だって切断できそうなのに。

 まるで岩でも斬ろうとしているのかという程、ゴリゴリと嫌な感触が掌に返ってくる。

 恐らく相手も、持てる全てを使って防御に徹しているのだろう。

 しかしながら刃は徐々に、相手の首に飲み込まれていく。

 斬れない事は無い、その筈だ。


「うぉぉぉぉぉ!」


「グラベル! そのまま踏ん張れ! 補助魔法を掛ける!」


 リリシアの声が聞えると同時に、腹の奥底から力がみなぎって来る。

 身体を強化する魔法の類を、まとめて付与してくれているんだろう。

 まさに出し惜しみなし。

 普段だったら身体に悪影響が出るからと、ここまでの強化はしてくれない。

 だが今だけは、俺の体が自壊してしまいそうな程強くなっている気がする。

 ここまで遠慮なく補助魔法を使われたのは、以前バステビュートを相手した時以来だ。

 刃は今まで以上に首の肉を切断していき、やがて骨に当たった感触が返って来た。


「師匠! 手を貸す!」


 すぐ近くまで急接近して来たシャームが飛び上がり、反対側から狐の頭を殴り付けた。

 スーに貰った黒い籠手に更に魔力を込めたのか、やけに禍々しい形に変化したソレ。

 アグニはあの籠手を“盾”と表現していたが、もしかしたら使い手によって効果が変わるのかもしれない。

 シャームの腕は、もはや凶器と言って間違いない程に攻撃的な見た目をしているのだから。


『ハッ、懐かしい光景だなぁオイ。それ結構痛ぇから、とっとと終わらせてやんな』


 バステビュートがそんな事を言い放った瞬間、光の刃の周りにアイツの風魔法まで纏わりついた。

 ゴリゴリと削る様に進んでいた刃が、先程よりもスッと相手の体に入っていく。

 本当に皆の力を借りている一手。

 ならば、今しかない。

 この一撃で終わらせるんだ。

 全身の筋肉を千切れんばかりに使い、身体に残る魔力も全て長剣に注ぎ込む。

 そして。


「うおぉぉぉぉ!」


 渾身の力で、刃を振り抜いた。

 もはや動ける状態に無かった狐の首は宙を舞い、ドサッと重い音を立てて降って来た。

 終わった、のか?

 誰もが荒い呼吸を繰り返しながら、地に落ちた首に視線を向けていれば。


『――――』


 白い精霊のムムが、再び詩を紡ぎ始めた。

 するとボロボロになった狐の身体は徐々に霧散し始め、光の粒に変わり天に帰っていく。

 これはもう、間違いなく。


「終わっ……た」


 思わずその場で尻餅をついて、安堵の息を吐き出してしまった。

 これで、スーを帰すのに邪魔な存在は居なくなった事になる。

 だからこそ、今一度彼女を抱きしめに走りたかったのだが。

 生憎と身体動かない、流石に酷使し過ぎた様だ。


「大丈夫か? グラベル」


「師匠、肩を」


 リリシアとシャームが両脇に入って来て、肩を貸してくれた。

 それで何とか立ち上がったが、随分とまぁ情けない姿。

 最後くらい、スーには恰好の良い姿を見せていたかったのだが。

 そんな事を思いながら、あの子に視線を向けたその時。


「グラベルさん! 後ろ!」


 少女達のパーティリーダー、ワン・リーシェから鋭い声が聞えて来た。

 俺達は皆完全に力を抜いていたので、「え?」なんて間抜けな声を上げながら振り返ったその先には。

 あの狐に纏わりついていた、黒いウネウネした物体が。

 一つ一つはミミズの様に蠢いているのに、それらが集合して蛇の様に鎌首をもたげている。

 コレは、不味い。

 まさか此方が本体? だとしたら、あの狐は?

 様々な疑問を浮かべながらも大した抵抗など出来ず、襲い掛かって来る“ソレ”を見つめていれば。


「魔力の塊……もはや呪いと言って良いのでしょうが。これなら、スーから貰った魔道具でどうにかなりますね。抵抗する術も無さそうですし」


 やけに落ち着いた声と共に、今にも俺達を飲み込みそうだった黒い蛇が後ろに引っ張られていった。

 何が起きた? そんな風に思う前に、蛇が引き込まれていく先に自然と視線が向く。

 そこには、いつかスーがアグニから貰った道具を構えているフィーの姿が。

 “吸引”

 そうとしか表現できない勢いで、化け物がどんどんと彼女の方へと吸い込まれていく。

 そしてそのまま、フィーにぶつかってしまうのではないかという所で。


「こうも都合の良い道具、人物が集まって来るのも……きっと運命なのでしょうね、本当にスーは“引き”が強い。眠りなさい、堕神の残滓」


 彼女の手にある、筒が真ん中で折れている様な見た目のあの道具。

 その先端から、ズゾゾゾッと音立てながら収納されていく黒い蛇。

 もはや抵抗出来ない程の勢いで、濁流が一点に飲み込まるかの様な不思議な光景。

 やがて全てを仕舞い終わったソレは、カチンッ! と音を立てて真っすぐの筒の状態に変形した。

 誰もが急すぎる事態について行けず、静かな空気が広がっている為。


「えぇと、フィー。今のは?」


 代表して、俺が声を上げてみた結果。


「コレはスーから頂いた魔道具。先日から魔導回路を調べて使い方を模索した結果、膨大な魔力を吸収、貯蔵出来る物だと判明しました。と言う事で、先程の“神様”の残滓を全て封印したという訳です」


「えぇと……」


「ご安心ください、神を殺したのはグラベルさんです。私はアレの残した“呪い”とも言える、魔力の残りカスを処理しただけ。今でも禍々しい気配を感じますから、浄化までには相当な時間が掛かるでしょう。サレイヤにはコレを土産として持ち帰り、今回の一件の終止符とさせて頂きます。お前が欲しがっていた物はこんな醜い物だったぞ、と」


 何やらとんでもない事を言いだした彼女は、涼しい顔で件の筒を懐に納めた。

 リリシアも「良く分からん」と言って解析を諦めた魔道具を、たった一日足らずで解明したのも凄いが。

 この落ち着き様が、何とも。

 それこそ“巫女”として育てられてきた影響なのかもしれない。


「とにかく、助かった。ありがとう、フィー」


「いいえ、私も僅かながらお力になれた様で何よりです。しかし、今は他にやる事があるのではありませんか? 最後の言葉を、私が記憶いたします。そして後ほど、皆様にお伝えしますから」


 そう言って彼女は、スッと世界樹を指さした。

 そして、その指をゆっくりとスーの方へと向ける。


「そう、だな……リリシア、シャーム。すまない、連れて行ってくれるか?」


 未だまともに歩ける状態ではなく、二人に肩を貸してもらったまま座り込んでいるスーの元へと向かった。

 隣に居るミーも鎧を脱ぎ始めており、平服を纏う二人は本当に双子の様。

 性格は、随分と違うみたいだが。


「スー、終わったよ。待たせたね。ミーも、ありがとう。剣は……その、折れてしまったが」


 先程の一撃により限界が来たのか、彼女から預かった長剣は根元からポッキリと折れてしまった。

 すまないと謝ってみれば、彼女は首を横に振り。


「“向こう側”は、武器の所持が禁止されていますから。最後にグラベル様のお役に立てて良かったです」


「いい加減その“様”というのを止めないか? 背中がムズ痒くなるんだ」


 ハハッと困った笑みを浮かべていれば、微笑みを浮かべたスーが俺の腹に抱き着いて来た。

 喜んで、くれているのだろうか?

 きっとそうなのだろう。

 何たって、やっと元の世界に帰れるのだから。


「スー、今まで本当にありがとう。向こうの世界でも、元気でな?」


 声を掛けてみれば、彼女は俺の腹にグリグリと顔を押し付けて来る。

 何か言葉を紡いでいるが……相変わらず、俺達には分からなかった。


「怪我には気を付けるんだぞ? ただでさえスーはトラブルに巻き込まれやすいんだ。可能なら私も付いて行きたい所だが、そういう訳にもいかないみたいだからな」


 リリシアが声を上げると、今度は彼女にガシッとしがみ付くスー。


「――、――――。リリシア」


「ははっ、こういう時の言葉ぐらい理解してやりたかったのだが。すまない、至らない母代わりで」


 皆揃って膝を折り、スーと視線を合わせてみるが。

 彼女は俯いたまま顔を見せてくれない。


「どうした、スー。そんなに俯いていては顔が見えないぞ。お前は全身を使って、私達に想いを伝えていたんだろう? なら、顔を見せてくれ」


 シャームが語り掛ければ、スーはゆっくりと顔を上げ俺達の事を見まわした。

 可愛らしい大きな瞳に大粒の涙を溜めながら、まるで泣くのを我慢しているみたいに。


「大丈夫だ、スー。大丈夫。お前は元の世界で幸せになれ、そうすれば……私達も幸せだ」


「シャーム……――、――」


「ほんと、リリシアの言う通りだ。こういう時くらいは、スーが何て言ってくれているのか聞きたかった」


 二人もまた抱き合い、肩を震わせる。

 我慢の限界が来たのか、スーは嗚咽を溢し始めてしまったが。

 逆にシャームに関しては意地でも泣かないつもりの様で、グッと堪えてはいるものの目尻に涙が浮かんでいた。

 このままでは、皆揃って同じような顔になってしまうだろう。

 そんな事になれば、きっとこの子は迷ってしまう。

 だから、俺が言葉を紡ぐべきだ。

 促してやるべきだ。

 スーが、ちゃんと元の場所へと戻れる様に。

 それはこの子がウチに来てから、最初に願った想いなのだから。


「さぁ、そろそろ行こう。あまり精霊を待たせても良くないからね」


 待たせた所で、怒り出す様な精霊ではないだろうが。

 事実白い精霊は、世界樹の元で柔らかく微笑んでいる。


「グラベル、――」


 再び俺に抱き着いて来たスーが、身体を震わせながら声を紡いだ。

 あぁ、本当に。

 最後くらいは、彼女の言葉を理解してやりたかった。

 でも、それは叶わぬ願い。

 だからこそ、ギシギシ言っている身体を無理やり動かしてでも、娘の事を抱き返した。


「ありがとう、スー。本当に楽しかった、お前が来てからずっと。毎日が本当に楽しかった」


 行かないでくれ。


「元の世界に行っても、風邪なんか引かない様にな? こっちで風邪を引いた事はなかったから大丈夫かもしれないが、怪我しそうな事は多かったんだ。そっちは本当に気を付けるんだぞ?」


 ずっと俺達の傍に居てくれ。


「大丈夫だ、俺達はスーの幸せを……“こっち側”で願っているから。だから」


 今まで、本当にありがとう。


「元気でな、スー。……お別れだ」


 頬を一筋、涙が零れ落ちてしまった。

 泣かないと決めていた筈なのに、この子を不安にさせないと心に決めた筈なのに。

 それでも。


「ありがとう、お前は自慢の娘だ」


 胸に抱いた我が子が、大声を上げて泣き始めてしまった。

 あぁくそ、辛いな。

 こんなにも苦しくて、悲しくて。

 誰もが皆涙を溢しているというのに。

 この子の幸せを願うなら、送り出さなければいけない。

 愛する本当の両親が居て、世界を越えて迎えに来る程の妹が居て。

 ちゃんと、帰るべき場所があるのだから。

 だったら俺達は、その暖かい場所へと送り届けるのが仕事だ。

 これまで味わって来た幸せは、この子がくれた贈り物。

 ソレを独占するような真似をしちゃいけない。

 俺達は、彼女が一時羽を休めた小枝の様な存在なのだから。


「ありがとう、スー。大好きだ」


 しばらくの間俺達は四人揃って抱き締め合い、子供の様にわんわんと泣き叫ぶのであった。


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