第93話 神殺し
「はぁ!? 何かタ〇リ神みたいなの出て来たけど!?」
夢で見た白い精霊状態のムムが出現し、妹と一緒に世界樹に触れろって言って来たので、その通りにしました。
結果、どっかで見たような鳥居と一緒に〇タリ神が出てきました。
いやおかしいでしょ、俺が召喚したみたいになっちゃったじゃん。
今ではグラベル達が必死に戦っているが、でっかくなったビルも一緒に戦っている為怪獣大戦争みたいになっておられる。
「ムム! アレ何とかならないの!? 前は余裕で勝てるぜって雰囲気で喋ってたよね!?」
『ごめんね、スー。精霊体なら間違いなく勝てる、本体が此方に具現化する事も予想していた。けどまさか、過去の肉体を残してあると思わなかった。あんなに醜い姿になってまで生き永らえているなんて、相当執念深い。身体の破壊は、ビルにお願いするしかない』
なんてこったい。
その一言で、さっきまでのセンチメンタルな感情はどっかへ吹っ飛んで行った。
とにかく今はあのタタ〇神を何とかしないと、帰る云々の話どころではない。
「……ムム、皆が怪我しても治す事って出来る?」
『治療と防御なら、任せて』
「うっし。雅、お前強いんだろ? ちょっと来い、チート貸してくれチート」
と言う事で妹の手を引っ張り、皆が戦っているその地へと足を向けた。
俺が行った所で何も出来ないし、足手まといになるのは目に見えているけども。
一つだけ出来る事があるとするならば、それは。
「仲介してやるから、頼むぜ? 雅」
ニッと口元を吊り上げ、妹へと振り返ってみれば。
意外な事に、真剣な表情で頷いてから長剣を抜き放った雅。
言葉は分からない筈なのに、俺の言いたい事は理解してくれたらしい。
だったら。
「ビル! こっち! 俺達の足になってくれ!」
叫び声を上げた瞬間、瞬間移動でもしたのかよって速度で目の前に現れるデカ猫様。
スッと目を細めながら、ビルは妹を睨んだかと思えば。
『小娘、戦えるんだろうな?』
「――――!」
『いいだろう、乗れ』
襟首を噛みつかれ、ヒョイっと背中に乗せられる妹。
何だか嬉しそうにビルの背中を撫でているけども、それどころじゃないからな?
「ビル! 俺も!」
『お前は大人しくしとけ、ムムの所に居ろ』
「……ありゃ?」
それだけ言ってビルが走り出したかと思えば、俺は急に突風に襲われて世界樹の元まで吹っ飛ばされた。
……そこは俺も乗せて、格好良く戦場を走り回ってくれる所じゃないのかよ。
『おかえり、スー』
「……ただいま、ムム」
という訳で、結局最後まで俺は後方で応援する事しか出来ないらしい。
――――
神獣と呼ばれる巨大猫の背中に乗りながら、猛スピードで駆け抜ける。
凄い凄い凄い。
こんな速さ、今まで味わった事が無い。
そして何より、今私普通に猫に触ってる!
『小娘! おかしな触り方してると振り落とすぞ!』
「ご、ごめん! えっと、ビル?」
確かお兄ちゃんはそう呼んでいた気がする。
と言う事で私もそれに倣ったのだが、何故か舌打ちを返されてしまった。
『アイツは魔法が通りづれぇみたいだ、俺の魔法でもウネウネを何本か吹っ飛ばす程度に収まっちまう』
「魔法の耐性が高いのかしら……任せて! 結構色々スキル持ってるから!」
『頼むぜ、英雄の卵なんだろ? せっかくなら今この場で、本物の“英雄”ってヤツになりな』
随分と格好良い台詞と共に、ビルがフシャァァと威嚇する声を上げれば。
ズドンズドンと空から稲妻が降って来て、どこかの映画に出てきそうな化け物を攻撃していく。
大きくなっても威嚇する時の声は猫のままなのはちょっと可愛いが、魔法の威力は全然可愛くない。
あんなモノを食らったら、大抵の生物は丸焦げになってしまうだろう。
それくらいの威力だと言うのに、黒い物体は未だ健在。
背中の方にあったウネウネが破損してボトボトと零れていくが、すぐさま周りから集まって来て剥がれた場所を塞いでしまう。
「このっ! 化け物め!」
グラベル様が魔力を纏った矢を、エルフの人が攻撃魔法を。
そして獣人の……シャームと言ったか、彼女が何やら注意を引きながらナイフを投げつけているが。
やはりどれも効果はいま一つの様だ。
「リーダー! 束縛と遅延の護符! タイミング合わせてありったけ使って!」
遠くでもう一人のエルフを守っているらしい仲間達に向かって大声を上げれば、皆は頷き返してくれた。
リーダーが大量の護符をホルダーから引っ張り出し、印を組み始める。
その間に斥候のニーナが、渡された護符を持って敵の周囲を駆けまわった。
更にはソレを走りながらばら撒いて行き、準備は完了。
敵が黒い触手を伸ばして攻撃してくるけど、そちらはフォールが大剣で切り落としている。
よし、なんとかなりそう。
「ビル! アイツに接近して! 跳ぶわ!」
『へーへー、わかったよ! ったく、足代わりにしやがって。アイツの妹じゃ無かったら蹴っ飛ばしてやるところだぜ』
魔法を連発しながら駆け巡っていたビルが急に角度を変え、相手に向かって突進し始める。
相変らずとんでもない速度。
でも私なら、持っているモノ全部使えばこの速度にだって対応出来るはずだ。
「“身体強化”、“限界突破”。そんでもって……“魔力分解”」
幾つものスキルを重ね掛けしてから、今度は手に持った長剣に魔力を纏わせていく。
相手を見る限り、魔法が効かない訳では無さそう。
どちらかと言えば魔力に対する抵抗力そのものが異常に高いか、分解しているみたいに見える。
もしくは防御魔法に長けているのか。
前者ならソレを越える高火力を叩き込む、後者なら“魔力分解”のスキルで攻撃が通る様になる筈。
ズルいと言われるかもしれないけど、どっちもいっぺんに試すのだ。
その為に後足りないモノは……。
「高火力の魔法! “光剣”! 六重展開!」
叫んだ瞬間剣に溜めた魔力が爆発し、長剣を包み込んで行く。
長く広い光の刃が長剣に纏わりつき、私の魔力をガンガン吸い上げていく訳だが。
今だけは、出し惜しみなしだ。
「リーダー!」
「捕縛札!」
掛け声と共に、そこら中に巻かれた護符が黒い物体に向かって飛び立った。
ベタベタと身体に張り付き、動きを封じていくが。
「ミー! 長くは保たないぞ!」
相手の体に張り付いた札が、ブスブスと音を立てて煙を上げ始めているではないか。
アイツ、やっぱ直接触るとヤバイっぽい。
フォールの大剣だって、触手を斬り落とす度に目に見えてボロボロになっていくし。
でも、今の私の剣なら。
「ビル! 跳ぶわ!」
『行ってこい! 妹!』
声を上げた瞬間神獣は更に速度を上げ、ココだというタイミングでビルの背中を蹴った。
束縛は緩くなり始めているものの、未だ動けないでいるウネウネの集合体。
なら、後は。
「そのキモイの、全部剥いであげるわ! “斬撃乱舞”!」
突進する速度をそのままに、私の最高火力を叩き込んだ。
私自身は、何倍にも膨れ上がった光の刃を一閃しただけだが。
“斬撃乱舞”というスキルによって、傷付けた対象に同じ威力の攻撃が何度も繰り返し降り注ぐ。
こちらはただでさえ普段切り札に使っている、“光剣”というスキルを六重に行使しているのだ。
ソイツを何十回と食らう事になれば、普通の生物なら肉片さえ残らないだろう。
“普通の生物なら”、だが。
スキルの連発と魔力の使い過ぎで、私の体にもマジで死ぬんじゃないかって負担が掛かってしまい、流石にもう一発と言われても厳しい。
これで、仕留められれば良かったのだが。
「ま、そう上手くいかないわよね……神様相手じゃ」
相手の黒いグネグネだけは力尽きたか、ボトボトと零れていく。
まるで身体から泥を洗い流すかのように、それらが剥がれ落ちた中から現れたのは……灰色のデカい狐。
でも体中に傷跡が残っており、肉が削ぎ落ちている個所も見受けられる。
まるで死体だ。
あれで生きていると言われても、正直信じられない。
でもソイツは、間違いなく白濁した瞳を私に向けた。
「チッ! こんだけやって外側剥いだだけって……リーダー! 遅延! その間に皆で一斉攻撃して!」
「分かっている! ミーは早く離れろ!」
ウチのリーダーが声を上げれば、残った札が再び相手の体に張り付き、目に見えて相手の動きが遅くなっていく。
そして他の皆も遠距離攻撃を繰り出していくが……効いている、間違いなく効いてるのに倒し切れない。
肉が千切れ、もはや凝固してるんじゃないかって程の血液をまき散らしながら。
相手は未だに此方を睨み、動いていた。
『いい加減に沈め!』
ビルが雷撃と暴風の魔法を放ち、相手の胴体が千切れた。
でも、止まらない。
「こ、これ以上は限界だ! 護符の効果が切れる! ミー! 早く逃げろ!」
ボフッ! と、ちょっと間抜けな音を立てて護符が燃え尽きた瞬間。
ゾンビ狐は上半身だけしか残ってないのに、物凄い速度で此方に這って来た。
コレはヤバイ、逃げなきゃ間違いなく食われる。
だというのに。
「あ、ハハハ……流石に限界突破の六重掛けはマズったかぁ……」
脚が、動かないのだ。
上半身はまだ少し動くので、長剣を杖みたいにして何とか立って居るが。
ソレが精一杯だった。
ガクガクと膝は震え、力を抜けばそのまま倒れ込んでしまいそう。
この状況で回避って、無理でしょ。
なんて、諦めた瞬間。
「――! 雅!」
その声と共に、隣から抱き着かれ倒れ込んだ。
何が起きたのかと視線を動かしてみれば、そこに居たのは。
「なっ、バッ! 馬鹿兄貴! 何してんのよ!? お兄ちゃんまでこっち来ちゃったら意味無いでしょ!」
猫耳の生えた私と同じ顔をした兄が、私を守るかのように抱きすくめている。
もしかしたら飛びついて私ごと回避しようとしたのかもしれないけど、多分身体能力が低かったのだろう。
今の私鎧着てるし、武器だって持ってるし。
つまり、その場で二人してベシャッと倒れ込んだだけ。
先程までだったら私だけ食われる程度で済んだのに、今では兄妹揃ってあの世行きの危機が迫ってしまった。
そんな事をしている間にも、相手はバタバタと前脚を動かしながら迫って来る。
これはもう、諦めるしか――
「んな事出来る訳無いでしょうが! “光剣”!」
相手に向かって、再び光の剣を向けた。
あの勢いのまま突進してくれれば、もしかしたら勝手に突き刺さるかも。
などと甘い期待を胸に抱いたのだが。
「ちょっ、嘘でしょ!?」
残っているのは半身だというのに、前脚だけで飛び上がり上空から襲って来た。
不味い不味い不味い。
例え突き刺さっても、あの大きさのモノに押しつぶされたら間違いなく死ぬ。
もはや頭が真っ白になって、何も考えずとにかく切っ先を相手に向けていれば。
『相っ変わらず、世話の焼ける!』
「二人共伏せていろ!」
今にも墜落してきそうな狐に、皆の攻撃がぶち当たり空中で横に吹っ飛ばされた。
何とか生き残った。
そんな感想を残している私の目の前を神獣が通り過ぎ、それに続いたのが。
「グラベル様! コレ使ってください!」
走り抜ける彼に向かって、未だ“光剣”が残留している長剣を投げ渡した。
あまり長くは保たないだろうが、絶対に必要になる筈だ。
「助かる!」
危な気なく剣を受け取り、彼はビルの攻撃に続いて光の剣を振り上げた。
地に伏せた灰色の狐が魔法を放つが、その全てを光剣で斬り伏せる。
貰いモノの力で粋がっていた私とは違う、本物の剣士。
スキルと魔法のごり押ししか出来なかった私とはまるで別物の、本物の戦闘。
相手の攻撃さえも叩き落し、確実に反撃を入れていく。
そして剣に魔力を込めたのか、より一層光が増したその刃。
「終わりだ」
その一言と共に、彼は狐の首に刃を叩き込んだ。
今度こそ、終わり。
間違いなく勝った、そう確信した。
だってあの人は……“神殺し”になると言っていたのだから。




