第88話 美味しいは強い
翌日もまた、朝からエルフっ子フィーとの面接が始まった。
何と今日はフィーと二人きりの部屋を用意して頂いて、周りに人は居ない。
凄いVIP待遇ですなぁ、とは思うが。
今現状何か伝えられる事とかあるかなぁ……いくら考えても、あんまり思いつかないんだけど。
なんて、ちょっとだけ不安になりながら二人で対面の席に着いてみれば。
『これで、聞こえていらっしゃいますか?』
「あ、うん、大丈夫。おはよう、フィー」
『はい、おはようございます。スー』
二人して緩い笑みを溢してから、さてお話をと意気込んだみたが。
『何か早急に誰かへ伝えたいお言葉はありますか? 時間が少ないので、可能な限り簡潔に……』
「いやぁそれがさ、俺の方もまだ詳しい事聞いてなくてさ。困ったよね」
申し訳ないとばかりにペコッと頭を下げると、彼女は何故か少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
何だろう、もしかして向こうから聞きたい事とかあるのかな。
『では私の方から少しお話してよろしいですか? 此方の状況も、色々とお話しておきたいですし』
「お、それは助かる! フィーの事も教えて教えて」
本日のトークネタは向こうから提供してくれるらしく、意気揚々と身を乗り出してみると。
『では端的に。エルフ族はろくなものではありません、そんな奴等が狙っているのが世界樹。そしてその手掛かりとなるのが神獣であり、貴女という訳です』
そういう系の話かぁ、もうちょっと雑談するのかと思ったんだけど。
でもまぁ口を挟まずに聞いていれば、エルフに対しての愚痴が結構零れて来る。
どうせろくなことに事にならないから、協力するべきじゃないとか凄い事も言っているんだけど。
「フィーは、エルフが嫌いなの?」
『正直、好きではありません。まだ十数年しか生きていないですが、彼等の悪い所ばかり見てきましたから。こういう立場だと、余計に……』
少しだけ悲しそうな顔をして、視線を逸らしてしまう彼女。
嫌悪している様子は伺えるのに、排他的になり切れないというか。
そんな曖昧な雰囲気。
やはり自分もエルフだからこそ、どうしたら良いのか分からないって感じなんだろうか?
まるで友達と喧嘩した時の妹みたいだ。
物凄く文句言うし、あんな奴嫌いだとか叫ぶ癖に、どこか寂しそうな顔をしている。
そう言う時は、色々吐き出させて落ち着いてから話を聞いてやるってのが大体だった訳だが。
彼女の場合、妹程愚痴タイムは長くない様なので。
「俺は好きだけどなぁ、エルフ。女の人は綺麗で、男の人は格好良いとか超羨ましい」
『見てくれだけですよ、実際中身は……』
「俺がちゃんと知ってるエルフ、って良いのかな? 良く知ってるのはリリシアだけだし、ちゃんと話した事があるのはフィーだけだからさ。二人だけ見てると、エルフの人って優しいなぁって感想になっちゃうんだよね」
そう言ってみれば、彼女はポカンとした顔を浮かべながらジッと此方を見つめて来た。
やっぱエルフは美人だよね、子供でも可愛いって言うより綺麗って感想になるんだから。
なんて思って、ニヘッと顔を緩めてみると。
『優しい、ですか? 私が?』
「だってほら、こっちからエルフの事情とか聞き出そうとする前に、フィーは色々と警告してくれてる訳でしょ? ここに気を付けて、こんな事を企ててるぞーって。それって、俺の事心配してくれてる訳で。会ってから間もないけど、良い友達が出来たなって思ってるよ?」
『友達、ですか? 私達は』
あ、やべ。
何だかんだニコニコしながら話してくれたからって、一気に距離を詰めすぎたかな。
いかんいかん、幼子体型になってから他人との距離の詰め方がバグって来ている。
一回お喋りしたらお友達、みたいな。
流石に思考まで子供になってしまっては、相手も迷惑だろう。
「あぁ~その。ごめん、図々しいよね。あはは……話してて楽しかったからさ」
『い、いえ! 図々しくないです! 私もスーと話していると楽しいです! 同世代とお喋りする事も無いですし、私は我儘なので……その、お喋りして楽しいって思ってくれたのなら、幸いです』
「あ、ホント? なら良かった、一安心」
どうやら嫌われた訳では無いらしく、ふぅと胸を撫でおろしていれば。
何だか、フィーが机から身を乗り出して俺の事を見つめて来るんだが。
え、何。
やっぱり何処かおかしかっただろうか?
『スーは、不思議です。何故でしょう? 普段なら他人を警戒ばかりしている私でも、すんなりとお喋りする事が出来る。いつの間にか警戒を解いて、貴女と同じ様に笑顔になってしまう』
それって、緊張感が無いって言われてます?
後はアレか、お前常にヘラヘラしてるな、みたいな。
確かに“こちら側”に来てからは、かなり表情筋が緩まった気がするけど。
アハハ、と困った笑みを溢してみれば。
相手はスッと右手を差し出して来た。
『私と、お友達になって下さいますか?』
どこか緊張した様子で、しかも真剣な表情を作りながら。
フィーはグッと唇に力を入れて、そんな事を言い始めた。
なるほど、アレか。
この子は結構キッチリしたいタイプというか、しっかりと言葉にしないと不安になる性格なのかもしれない。
であれば、此方が恥ずかしがっていたら会話が進まなくなってしまう。
男子たるもの、女の子に恥をかかせる訳にも行くまいさ。
と言う事、グワシッと彼女の右手を両手でお迎えした。
「ういさ、これでちゃんと友達って事で。よろしく、フィー」
『はい、よろしくお願いします。スー』
何だか物凄く嬉しそうな表情で、ちょっと目に涙とか溜めながら喜んでくれているんだけど。
同世代と喋る事が少ないとも言っていたので、もしかして友達居なかったりするのだろうか?
またはエルフの子供が少ないとか?
両方ともありそうだが、そこまで聞き出すのは無粋ってもんだろう。
「あ、そうだ。友好の証として、って言うのもおかしいかも知れないけど。コレあげる、美味しいよ?」
食べて食べてと、相手の掌に金リンゴを乗せて見ると。
『あ、あの……これって』
物凄くプルプルし始めるフィー。
まぁ確かに、急に金ぴかリンゴ渡されても困るよね。
食えるか怪しい見た目してるし。
「ウチの畑に生えて来た木に実るの。たまに口の中がペカーッと光るけど、害は無いから。何かその木が世界樹っぽいんだけど……あ、そうするとエルフの人達の所に持って帰ると不味いのかな? それじゃ今食べちゃおっか、皆には内緒ね?」
今一度金リンゴを回収してから、バッグに入っていたナイフを取り出し簡単に切り分ける。
早速一欠片、彼女に向かって差し出してみれば。
『い、良いのでしょうか……こんな貴重なモノ』
「いっぱいあるから平気だよ?」
そう答えてみれば、彼女は恐る恐る俺が差し出したリンゴに齧りついた。
今更だけど、差し出した物に対して女の子が口で御迎えに来るってちょっとドキドキするよね。
などと下らない事を考えていれば。
『ん!? 凄い、美味しいです!』
「でしょ? もっと食べ……ぷっ、アハハ! フィー“当たり”だよソレ」
『えと、どう言う事でしょう?』
首を傾げる彼女に対し、部屋にあった鏡を指さしてみれば。
『プッ、アハハ! たまに光るって、こう言う事なんですね。口の中から魔法の一つでも飛び出して来そうです』
見事なまでに、彼女の口内がペカーッ! と輝いていた。
グラベルが凄い顔しながら口内フラッシュしていたのも面白かったが、可愛い子が口から七色サイリウムしているのも中々面白いな。
パーティーの時とかやったら人気者になれそう。
『こんなに笑ったの、何だか凄く久し振りです。スー、私は貴女と出会えて――』
言葉の途中で、フィーの言葉が分からなくなってしまった。
恐らく本日の使用制限が来たのだろう。
もうちょっと話していたかったのだが、こればかりは仕方がない。
アハハと困った様に笑って見せれば。
「――、――――」
なにやら本日の彼女は非常に寂しそうな顔して、俺に分からない言葉を紡いでいる。
ビルも居るけど……アイツ、窓辺で昼寝してやがる。
こういう時こそ御猫通訳が必要だと言うのに。
という訳で、俺も一口リンゴを齧り。
「しゅぅちゅらすとぅらぁー!」
オーバーリアクションな事この上ないが、全身で表現しながらこちらの世界の“美味しい”を叫んだ。
そんでもって、もう一個どうぞとばかりに切り分けたリンゴを彼女に差し出してみれば。
パクッと、今度は先程より良い勢いで食い付いたかと思えば。
「シュ、シュゥチュラストゥラァー!」
フィーも俺と同じ様に、大袈裟な動きと共にそう叫ぶのであった。
うんうん、やっぱり“美味しい”さえ言えれば何とかコミュニケーションは取れるモノだ。
実際そんな訳ないけども、それでも先程の様な悲しそうな顔は浮かべていない。
ニカッと笑えば、相手からも笑顔が返って来る。
これなら、また明日までお喋りは我慢してくれる筈。
なんてことを思いながら、残る金リンゴを二人で平らげるのであった。
『ふあぁ……うっさ。何言ってんだ? お前等』
うっさいぞブサ猫、この流れはもう何度もやった。




