第87話 少女パーティの行く末
「ミー、しっかり答えなさい。今だけは焦って行動を起こさない、今朝の様な事は無し。そっちはグラベルさんが何とかしてくれたから、昨日の続き。ちゃんと考えて正直な言葉を紡ぐ事。良いわね?」
「でも今はこんな事してる場合じゃ――」
「ミー、私を良く見なさい。別にお説教しようとしている訳じゃない、私達はパーティでしょ? ちゃんと説明して欲しいと言っているの。パーティを脱退するのだって、冒険者なら良くある事。そこを責めている訳ではなく、理由と今後の事を教えて欲しいと言っているの」
彼女達のパーティリーダー、ワン・リーシェがミーに対して静かに告げる。
部外者である私が同席して良いのかと思ってしまうが、師匠は陛下達と会議中な上、リリシアはミーからあまり好かれていないという理由で、私が仲介と監視役に任命されたが……私如きでは、こういう話し合いの力になれると思わないんだが。
そんな不安な気持ちをどうにか抑えながら、話している彼女達を部屋の隅で観察していれば。
「だからっ! えっと……信じてくれないかもしれないけど、私は別の世界から来たの。お兄ちゃんが“こっち側”に来ちゃったから、連れ戻しに。それで、あのスーって子がお兄ちゃんで、それで……」
「えぇと、ミー大丈夫? 変なモノ食べた? あのスーって子、どう見ても女の子でしょ?」
「ニーナ、今は聞きなさい。貴女だって、ミーが言葉足らずなのは知っている筈よ?」
口を挟んだ斥候、ニーナに対してリーダーがピシャリと黙らせた。
確かにミーの言っている事は支離滅裂というか、信じられる内容では無い。
別の世界、あのスーが兄である。
正直、訳が分からない。
しかしながらスー自身が、ミーの事をやけに気にしていたのは事実だ。
最初は同じ顔をしているから気になっているだけなのかと思っていたが、今までの行動を見ているとそれ以上の何かがあるのかと思ってしまう程。
それがもしも、彼女の言う様に“異世界”では兄妹だったというのなら。
少しは理解出来る……様な気がする。
確信には至らない上、信じられる内容でない事は確かだが。
「それで? どうやって元の世界とやらに帰るの? ミーか、もしくはあのスーに特別な魔法が使えたりするの? 貴女のスキルは全て覚えてるけど、それらしいモノは無かったわよね?」
「ぜ、全部覚えてるんだ……私ですらあんまり覚えてないのに。えぇと、やり方に関しては正直私にも……でもエルフの子に通訳してもらって分かったのは、お兄ちゃんが住んでいる所に生えた世界樹の下へ行けば、何かある。みたいな事を言ってた……」
「貴女も全部理解している訳じゃないのね?」
「だ、だって! あのエルフお兄ちゃんと話せる時間物凄く短いの! だから要点だけ絞って話したんだと思うけど、それだけじゃ分からない事ばっかりで……でも私は一緒に帰る為に、お兄ちゃんの傍に居たい。見てて分かったけど、多分お兄ちゃんには私みたいな能力は無くて、だからきっと戦えない。帰る前に死んじゃったら元も子もないから、私が傍に――」
何やら焦った様につらつらと喋り始めるミーに対し、ワンは少しだけ困ったよう表情を浮かべた。
残るパーティメンバーに関しては溜息を溢し始めている。
あまり良くないな、この空気は。
少なくとも同格、同じ仲間だと判断しているからこそ“呆れる”という感想が浮かんでいるのかもしれないが。
今の光景を見て、私としては……。
「少しだけ、口を挟んで良いだろうか?」
「シャームさん? 何でしょう、貴女から見て何か気になる所でもありましたか?」
そう言う訳ではないのだが、何というか。
彼女に対しての接し方が、少々間違っている様に感じたのだ。
いや、本来は彼女達の方が正しい。
上も下も無い友人関係なら、これが普通。
しかしながら、年上として意見を言わせてもらうなら。
「ミー、ゆっくりで良い。一つずつ、私の質問に答えてくれないか?」
「べ、別に良いけど……アンタウチのパーティじゃないし、あんまり変な事聞かないでよ?」
「あぁ、分かった」
少々不安そうな様子を見せるミーの前に、膝を折って座り込んだ。
相手は椅子に座っているので、此方が多少見上げるような態勢になってしまったが……まぁ良いか。
「フィーというエルフの少女から聞いた話では、スーは君の家族という事で間違い無いんだな?」
「えぇそうよ、それに昨日一緒に御風呂に入った時本人からも聞いた! 絶対間違いない! だから――」
「ミー、落ち着け。大丈夫だから」
落ち着かせる為にも、一度彼女の言葉を遮った。
いっぺんに喋る必要はない、一つずつ思っている事を聞いてやれば良い。
「すまないが、正直信じられない所も多い。だが、君はスーと共に“元の世界”に帰りたい。その為に世界樹が必要、ココまでは間違いないな?」
「う、うん……」
「では、次だ。何故冒険者を辞めたいんだ?」
「それはっ! だって……急に出て行っちゃったら、皆に迷惑掛かるって分かってるから。だからせめて、ちゃんと辞めてからパーティを離れた方が良いのかなって。仕事って、すぐ辞めるんじゃなくて、しばらく残る期間があるって聞いたから。きっちり終わらせてから、帰るべきなのかなって……」
なんだ、意外と気真面目じゃないか。
冒険者のパーティなんて、所詮は寄せ集め。
自身の都合で、気に入らないから、様々な理由でフラッと居なくなる者だって多いと聞く。
だがしかし、この子は身勝手だと理解しながらも、一応筋を通そうとしている。
「それは自らの最大の目的の為に、申し訳なく思いながらもパーティを脱退したいと言う事で間違い無いな?」
「うん……これが私の目的だし。ほんと、皆にはいつもゴメンって思ってるけど。また迷惑かけちゃうけど、それでも私は……お兄ちゃんと一緒に居たい。だから、パーティを……抜けさせてくださいって」
ギュッと膝の上に置いた拳に力を入れながら、ミーは涙を溜めつつもそう言い切った。
ちゃんと言えたじゃないか、偉いえらい。
思わず彼女の頭に手を乗せてみれば、驚いた様な瞳を向けられてしまったが。
しまった。
顔が同じだからか、ついスーと接している時の癖が出てしまった。
「と、言うことだそうだ。ワン・リーシェ、君が一番聞きたかったのはコレだろう?」
振り返ってみれば、大きな溜息を溢している彼女の姿が。
残る二人も、ヤレヤレと首を振っていた。
「最初からそう言えば良いモノを……ありがとうございます、シャームさん。年下の扱いに慣れているんですね」
「まぁ、普段から相手しているからな」
そう言ってみれば、クスクスと小さな微笑みを溢してから。
彼女は再び真剣な瞳でミーの事を見つめて口を開いた。
「ミーの目的、お兄さんを探すって言うのは最初から知っている。その人を見つけたから、パーティを離れるっていうのも納得できる。まずはソコをしっかりと言葉にするべき、私達は仲間だけど全部察してあげる事は出来ない。例え察しがついたとしても、やはり本人からしっかりと説明されなければ納得が出来ない。だからこそ、貴女の口からその言葉が聞けて良かったわ」
「ごめん、なさい……」
「まぁ、いつもの事だからね。その上で、パーティリーダーとして宣言するわ」
誰しもゴクリと唾を呑み込み、彼女の次の言葉を待ってみれば。
「まず冒険者を辞める必要はない、そんな事をしたら身分証が無くなってしまうからね。次、ミーのパーティ脱退だけど。“認めない”わ」
「そんな!? だってさっき、パーティを離れるのは納得できるって!」
予想外の言葉にミーはガタッと席を揺らしながら立ち上がり、周囲の面々も驚いた顔をしている。
私だってその一人だ。
確かにミーの戦闘能力を見れば、パーティ全体の能力低下に繋がるだろう。
しかしながら、今までの事情を聴いて駄目だと言うとは思わなかった。
どうするつもりなのだろうか?
このままではきっと、この子は黙って出て行ってしまう。
そんな事になれば、パーティ内に亀裂を残したまま別れを味わう事になる気がするのだが……。
なんて考えていれば、彼女は大きなため息を溢しながら。
「最後まで話を聞きなさい。悪い癖よ、ミー」
「でも……じゃぁどうしたら……」
「私達も行くわ」
「え?」
「世界樹の下へは私達も行くわ、同じパーティメンバーなら今回の事情に首を突っ込む事が出来るでしょう? だから脱退なんて許さないわ」
ワン・リーシェの言葉に皆が戸惑い、どうしたものかと視線を右往左往させているが。
あぁ、なるほど。
真面目なフリをしながらも、彼女もまた素直じゃない人物の様だ。
「まだ一つミーが報告してない事があるでしょ? 今朝貴女が暴れた時、神獣が現れたそうじゃない」
「あっ。まだソレ、説明してなかったっけ……」
「全く……」
チョイチョイと彼女が指を床に向けた瞬間、ミーは物凄い速度で床に正座した。
何だろう、このまさにお説教ですという空気は。
しかもミーの反応速度も尋常じゃなかった。
普段どれだけ説教を貰っているんだコイツは……。
「陛下が気を利かせて下さって、此方にも簡単に教えてくれたのよ。パーティの仲間が関わっている事だからって。それにミーが脱退すれば私達は国にとって重要なパーティではなくなるから、それとなく今後を考えておくように伝えて下さったわ」
「なっ!? 私が抜けただけでそんな事ある訳――」
「あるのよ、私達が特別扱いされているのは“英雄の卵”であるミーがメンバーに居たから。でもそこは今重要じゃない、元の立ち位置に戻るだけなんだから自然な事。私が言っているのは、神獣の件よ。正確に言えば、神獣が語った内容について」
語る彼女に対して、ミーは不思議そうな顔を浮かべている訳だが。
なんとなく、ワン・リーシェの言いたい事が分かって来た気がする。
だってあの神獣は、とんでもない事をサラッと言い放っていたのだから。
「グラベルさんに対し、“神殺し”をしろって言ったんでしょう? それはつまり、戦闘が間違いなく発生すると言う事。その時にミーが戦える状況なのかどうか分からない上に、ウチのメンバーのお守りまで彼等にお願いする事は出来ないわ」
「え、えと……」
「ハッキリ言うわね、私達も一緒に戦うって言ってるの。やっとお兄さんを見つけて、故郷に帰れる可能性を見つけたんでしょ? だったら私達にも、最後の最後までミーに付き合わせなさいって言ってるのよ。それが貴女と本当のお別れになるかもしれないのなら、余計に。私はこんな中途半端に仲間を放り出すリーダーになりたくないわ」
そう言い切った瞬間、ミーはポロポロと涙を溢し始めた。
なんだか、安心してしまった。
今までじゃじゃ馬扱いされている所しか見ていなかったが、ちゃんと信頼されているんじゃないか。
しっかりとした仲間になれていたんじゃないか。
どこかスーと姿を重ねてしまい、今の状況に思わず安堵の息が零れてしまう。
「……いいの? だって私、そのまま居なくなっちゃうかもしれないし。それに、今までだって迷惑しか掛けてないし」
「ミーの我儘なんて私等にとっては今更だってば、もう慣れましたー。というか自覚あったなら直しなさいよ、相変わらずお馬鹿だねぇ」
「全く、普段の騒がしいのは何処に行ったんだ? 何処に行っても一緒に戦って来た仲なんだ。ちょっと神様をぶっ殺すから手を貸して、くらい言ってみたらどうなんだ? ミー」
軽い調子の斥候と大剣使いの少女も、笑いながらミーの背中を叩いている。
そして、全員がリーダーへと視線を向けてみれば。
「私達は仲間でしょ、だったら最後まで一緒にいましょう? 故郷に帰ってからも思い出せるくらい良い仲間だったって、最後まで記憶に刻みつけてあげるんだから」
そう言って、彼女は優しく微笑んでからミーの事を抱きしめていた。
皆からの言葉を貰ったミーは、声を押し殺すかのようにしてグズグズと泣き始めた。
良いパーティじゃないか。
私がこの子達くらいの時には、随分と周りを嫌っていた。
だからこそ、こういう経験はした事が無い。
同じように尖った性格をしているというのに、ミーにはしっかりと居場所が出来ていた。
正直、羨ましいと思ってしまったが。
同時に、微笑ましくもある光景だった。
「良かったな、お前達」
誰にも聞こえない様にして、気配を殺しながら部屋を後にした。
これ以上私はこの部屋に居るべきではない、後は仲間達だけで過ごすべきだ。
なんて事を考えながら、私達に与えられた部屋へと足を向けるのであった。
あぁ、なんだろう。
今無性にスーを可愛がりたい気分だ。




