第86話 行動方針
「なぁビル、皆が代わる代わる俺に付いて来るんだけど」
『勝手に部屋出て問題起こしたからな、見張ってんじゃねぇの? 後はアレだ、お前が愛嬌振り撒いたから』
「く、くそ……同世代の友達の部屋に行ったくらいなのに。それにお前が急に巨大化しちまったから、何とか誤魔化そうと全力で媚び売った筈が、まさか裏目に出るとは」
という訳で、現状俺は三人の内一人にはずっと監視されていた。
何処に行くにしても着いて来るし、まるで初期お姫様が三人に増えたかの様。
まぁ良いんだけどさ、朝の事怒ってる訳じゃないなら。
普段からシャームはずっと傍に居るし、もう慣れたけども。
因みに妹はパーティメンバーに無理矢理自室に連れていかれ、現在お説教を受けているらしい。
「にしても……結局何をどうすりゃ良いんだろうねぇ。ムムは任せろって言ってたけど、あの木を使うとか全然想像つかないわ」
『ま、その辺は必要な時が来れば教えてくれるだろ。精霊なんてのは、その時にならないと教えてくれないもんさ』
疲れた声を上げるビルが、俺の膝の上に飛び乗って来た。
リリシアが淹れてくれたお茶を頂きながら、まったりゆったりしているのだが。
やはり何処か落ち着かない様子で、チラチラと此方を観察してくる。
うーむ、参ったねこりゃ。
今グラベルはお仕事の為別室に、シャームに関しては何故か妹達の部屋へと足を運んでいる。
いやはや、何だか街に来るといつも皆忙しいね。
流石は有名っぽい冒険者集団。
俺も早く森に戻ってムムがこれから何するのかとか、色々聞きたい所なのだが。
とは言えお仕事を勝手に中断させる訳にもいかず、こうして大人しくしているという訳だ。
ビルも皆に姿を見せちゃったわけだし、もうデカいままで良いんじゃないかとも言ったのだが。
『嫌だね、建物の中でデカくなるのは窮屈で疲れるんだ。どうせ時間もある、通訳はあのチビエルフにやって貰え』
だ、そうで。
コイツなら時間制限とか無さそうだし、永続通訳になるかと思ったんだけど。
やはり面倒くさいのか、首を縦には振ってくれなかった。
こう言う気分屋な所は、本当に御猫様だな。
「でも次に通訳してもらった時、何喋ったら良いんかなぁ。ムムも結局教えてくれないし、もう言っておく事もないんだよね。フィーと喋ってる間は、向こうも他の人と喋れないみたいだし、提示できる内容って何かあるかぁ?」
『それこそ知らん』
俺が兄貴だって内容は妹には伝えたし、帰る術があるかもって事も伝えてもらった。
後は何? 雑談するにしても、フィーとしか話せない上に制限時間付き。
作戦会議の一つでもしたい所なのだが、やはりこの一方通行な感じが何ともやりにくい。
というか物凄く適当な内容を話して皆に伝えてもらうとか、そうお手軽に使って良いモノでも無さそうだしなぁ。
意外や意外。
今まで言葉が通じないのが非常に困っていた気がするのだが、いざ話せる手段が出来ても話す事が無い。
いったい俺は、どこにトークセンスを置いて来てしまったのか。
「ま、何はともあれ明日までに考えれば良いか」
という訳で今はリリシアのお茶と、メイドさんが持って来てくれたお菓子を満喫するのであった。
――――
「それで、結局エルフの民は我々に協力するという事でよろしいのか?」
「我々が協力するのはお前達ではなく神獣様だ、履き違えるな。そしてあの少女が金色のリンゴを持っていたとなれば、世界樹の在処も分かる。好都合というものだろう」
「そんな企てをして、神獣の怒りを買ったらどうなると思っている? 我が国としては、貴方方の勝手を許す訳にはいかない。おかしな真似をしない様、此方からも兵を出させてもらう」
先程から、会議室の中で同じようなやり取りが繰り返されている。
サレイヤはスーに、というかバステビュートに協力する姿勢を見せているが、はやり魂胆は変わらないらしく。
世界樹を見つけた後、エルフ族で管理するつもりの様だ。
そこに神獣が暮しているかもしれないとなると、彼等にとっては好都合なんだとか。
崇め奉り、手元に置いてしまおうと考えているのかもしれないが……正直、今のアイツを飼いならせるのはスーだけだろう。
だからこそ悪い結果にならぬ様、アグニが食い下がっている状況。
もしも彼等がスーを森から追い出す、または傷つける様な真似をすれば恐らくバステビュートが暴れる事になる。
それは、以前恐れられていた頃のアイツに逆戻りする結果になる可能性が高い。
そうはならずスーの事も取り入れようとしているとしても、良い結果は見込めない。
リリシアの話通りであれば森は広がり、この国さえも呑み込んでしまうというのだから。
なので結局のところ、此方は彼の要望を聞き入れる事は出来ないという事態。
もっというなら、人の家がある場所を勝手に管理しないで頂きたいというのもあるが。
「すまないが二人共、口を挟ませてもらうぞ。バステビュートが協力を求めたのは、フィーと名乗ったエルフの少女だけだ。あまり周りがアレコレと主張した所で、良い結果にはならない筈だ。だが彼女はエルフの巫女だという、間違いなく重要人物なのだろう。今話し合うべきは、神獣の要望通り彼女を協力させるか否か。その後の話ばかりに気を取られていては、全てを失いかねないと思うのだが?」
アイツが要望を出したのはエルフ全員の協力ではなく、フィーという少女に対してのみ。
大勢でゾロゾロと森の中へ踏み込み、いちいち問題が起きていれば反感を買う恐れもある。
しかも今回は“神殺し”なんて御大層な事を言ってのけているのだ。
正直、全員でついて来られても邪魔になる可能性の方が高い。
「ふんっ、結局貴様は何なのだ。人族の分際で神獣様に馴れ馴れしく話していたな? 不敬極まりない。神獣とは世界のバランスを保つ為に神の御使いと言われている、それに対してお前は――」
「そちらこそ、あまり不敬な態度を取らない方が良い。彼は以前この近隣を荒らしていた神獣を討伐した英雄だ。更には今現在、神獣に守られている少女の保護者でもある。おかしな態度ばかり取っていては、それこそ神獣もヘソを曲げてしまうかも知れないぞ?」
何やら勝ち誇った顔でアグニがそんな事を言い放つが、相手は驚愕の表情を浮かべてから俺の事を睨んで来た。
「神獣を討伐しただと? 何という愚かな事を……そんな罪人の子供に、何故新たな神獣は心を許したのだ……」
バステビュートの事はあまり詳しくないのか、昔と今の神獣は別物だと思っている様だが。
しかし此方が情報を出してばかりだと、不利になってしまう。
だが彼の敵意が俺に向いた事で、世界樹やら神獣をどうするかという話からは逸れ始めている。
このまま上手い事言い包めて、早い所俺達は帰ってしまった方が良いのかもしれない。
最悪エルフの巫女は諦めたとしても、俺達だけになればバステビュートも姿を現してくれる可能性もある。
そうすれば、アイツが言葉の橋渡しになってくれる筈。
そこさえ可能にすれば、後はさっさと神殺しとやらを済ませて……それからは。
それからは……スーが、居なくなってしまうのか。
ならばもう、あの場所に未練はない。
世界樹を切り倒し、争いの火種を消し去ってしまえば、エルフも諦める事だろう。
「とにかく、ヤツの機嫌を損ねない為にも大人数の参加は認められない。そちらはフィーという少女をどう動かすのか仲間内で相談するのが先決だろう。アグニに関しては、彼女を此方で預かる場合の保証人になってもらいたい。もしも連れて行くのなら、その間彼等は城に滞在する事になるだろうからな」
「そうだな、グラベル。此方も“色々と”準備しておくよ。何かあったら報告してくれ」
「チッ、勝手に話を進めおって。まぁ良い、まずは巫女を同行させ神獣の機嫌を取るとするか。だが後日また、世界樹の話は続けさせてもらう。そちらの詳しい情報をまだ聞かせてもらっていないからな」
とりあえず本日話し合いは終了する兆しを見せたが、果たしてどうなるか。
些か相手が簡単に引きすぎている様にも伺えるので、向こうも何か仕掛けて来る可能性は大いにあるだろう。
思わずため息を溢してから、俺達は会議室を後にするのであった。




