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神獣飼いの獣人少女 ~TSして猫耳生えた、猫としか会話出来ない。詰んでね?~  作者: くろぬか
4章

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第85話 大好き


 早朝、何やら城の中が騒がしくなっており目を覚ましてみれば。


「っ! 全員起きろ! スーとミーが居ない!」


 叫び声を上げると、皆が一斉に目を覚ました。

 誰しも周囲を見渡してから、すぐさま眠気を飛ばした御様子。


「チッ! あの娘、また何かやらかしたのか!? グラベル! すぐに出る!」


「スー! スーどこだ!?」


 リリシアとシャームが慌てた声を上げ始め、すぐさま準備を整えた所で。

 コンコンッと俺達の部屋の扉からノックの音が響いた。

 思わず警戒しながら、全員で扉に視線を向けてみれば。


「失礼いたします。アグニ陛下がお呼びですので、至急準備を……おや、もう出られそうですね。では、ご案内いたします」


 一人のメイドが顔を出し、静かにそう言い放ってから頭を下げた。

 これは、何がどうなっている?

 皆して顔を見合わせても、当然答えなど出る筈もなく。

 大人しく彼女の後へと続いてみれば、そこには。


「これはどういつおつもりですかな? 早朝に此方の巫女を襲撃するなど」


「いや、それに関しては――」


「誰が襲撃したってのよ! 私がぶっ飛ばしたのはそっちのクッソ弱い兵士達でしょう? もう一回一から鍛え直した方が良いんじゃないの!? 私達は、そっちの女の子に通訳を頼みに行ったの! その結果襲って来たんだから、返り討ちにして何が悪い訳!? 先に襲ってきたのはそっちでしょ! 問題になるならアンタらの方でしょうが!」


 地獄絵図が広がっていた。

 困り果てた様子のアグニを中心として、相手のエルフのトップ“サレイヤ”とミーが言い争っている。

 その周辺には、どうしたものかと困り顔を浮かべている兵士達とスーの姿が。

 もっと言うなら何やら満身創痍のエルフの兵士など色々居る訳だが、今は良いだろう。

 ミーの言葉が事実だとするなら、理由は明白なのだから。


「お話の途中失礼する、アグニ陛下。グラベル一行、ただいま到着いたしました」


「グラベル……待っていたぞ。もう俺には何が何だか……」


 声を掛けると、周囲の視線が一斉に此方を向いた。

 無理にでも胸を張り、堂々と彼等の元へと歩み寄ってみれば。


「グラベル様! コイツに言ってやって下さい! 先に手を出したのはエルフなのに、変な言いがかりを付けてくるんです!」


「ミー、落ち着け」


「昨日も見た顔だな、貴様は結局何だ? この娘の親か? 随分と面の皮が厚い様だな? 覚悟しておけ」


「私はこの子の保護者ではありません、とにかく落ち着いて……」


 コレは本当に、どうしたら良いんだ。

 俺も頭を抱えてしまいそうな程、両者共激昂している上に意見がぶつかり合っている御様子。

 頼むから状況の確認からさせてくれ……なんて、ため息を溢しそうになってしまった時。


「グラベル、――」


 スーが、金色のリンゴを差し出しながら俺の袖を引っ張って来た。

 なんだろう、何か伝えたい事があるようだが。


「――――、――」


「すまない、スー。それでは分からないんだ」


 しゃがみ込んで視線を合わせてみれば、彼女は困った様子でキョロキョロと視線を彷徨わせた。

 今までは割と意志がしっかりしていたというか、身振り手振りで伝えたい事をしっかり表現していたのだが。

 今回に関してはそれだけでは伝わらないのか、それとも本人の意志が固まっていないのか。

 やけに、もじもじとした様子が見受けられる。

 金色のリンゴ指さしてからミーを指さしてみたり、エルフ達を指さしてから首を傾げてみたり。

 これは、何が伝えたいんだ?

 喧嘩をしていた二人までスーに視線を向ける中、彼女が必死に体で表現していると。


「妹さんを元の世界に帰す為、世界樹を使いたいと言っておりました。そして、説明の為に私に協力して欲しいと」


 昨日も見た、エルフの女の子。

 確か巫女と呼ばれていた彼女が、スッと手を上げてから言葉を紡いだ。


「そこの獣……じゃなかった。スガミヤビさんを元の場所に戻したいからと、通訳を頼まれました。“フィー”と申します、本名は違いますがフィーとお呼びください」


 と、いうことらしく。

 エルフの巫女様は静かに此方に頭を下げて来た。


「フィリアリス! どう言う事だ!? 貴様まさか、コイツ等が部屋に押し入った時にスキルを使ったのか!? 世界樹の情報を手に入れたのなら、何故私に報告しない!」


「アレは私の使える特技であり、能力です。一日の間に制限はありますが、全てを貴方の為に使うと誓約を交わした記憶はございません。生憎と、私はエルフも結構嫌いでして」


「小娘が……」


 険悪な雰囲気が広がって来た頃、ミーが彼の前に出て腰に差した剣の柄に手を当てた。


「言っておくけど、小賢しい真似をしたら斬るから。この子は私とお兄ちゃんの通訳なの、ここで死なれちゃ困る」


 どうやらミーの意思は固いらしく、立場というものを完全に無視して敵意を向けている。

 このままでは不味い、会合どころではなく殺し合いになってしまう。

 相手のエルフ族もかなり血の気の多い者達が多い以上、一刻の猶予もの無いのだろう。

 その証明とばかりに、相手のエルフ達は既に武器を抜き構え始めている。

 何はともあれ、まずはこの場を収めないと。


「そこまでだ! 両者とも落ち着――」


『うるっせぇな雑魚共が、スーが言いたい事があるって言ってんだ。黙って聞け』


 俺の声と合わせる様にして、低く、そして背筋が凍る様な声が室内に響いた。

 あり得ない、何故コイツが今ここに居るのか。

 しかもまた、誰にも気づかれず室内に潜り込んでいたとは。


「バステビュート!」


『叫ぶなよグラベル。前にも言っただろ、俺はスーの味方だ』


 突如として室内に現れた神獣。

 巨大な猫の魔獣であり、魔法と言語を理解する獣。

 俺達が神獣狩りの称号を貰った原因であり、スーを守っていると公言する蘇った天災。


「貴様、こんな場所まで現れて何が目的だ。スーだけ攫ってこの場を収めようというなら、俺達は――」


『んな事しねぇよ、あとスーから伝言だ。欲しいならリンゴやるから、エルフは落ち着けってよ』


「……は?」


『面倒クセェから、俺が通訳してやる。そっちのエルフの嬢ちゃんは、今日はもうネタ切れだろ?』


 面倒くさそうに呟くバステビュートは、やれやれとため息を溢しながらスーの後襟に噛みつき、仔猫を運ぶ時の様に持ち上げてからそのまま自らの懐に放り込んだ。

やはり、コイツがスーを守っているのは間違いなさそうだが。


『エルフの嬢ちゃん、お前はちょっと手を貸せ。毎度俺が通訳してやんのは面倒だし、スーもお前の事を気に入ってる。気軽にこの姿になると、周りがビビるんでな』


 何を言い出すかと思えば、急に周囲へ命令し始めるバステビュート。

 こんな言葉に従う訳がない、そう思っていたのだが。


「神獣様が、そう仰るのであれば」


 エルフの皆々様は、片膝を付きながら頭を下げていた。

 彼等の中で信仰の対象となっていたのか、それとも魔力をより感じられる彼等だからこそ既に敗北を認めたのかは分からないが。

 とにかく、皆揃って膝を付いた。

 俺達に関しては、困惑する他無かったが。


『んで、グラベル。ついでにリリシアとシャーム』


 スッと視線を向けて来た巨大な猫に、思わず背筋が冷えるが。


『お前等、神獣狩りじゃなくて“神殺し”になれ。そうすりゃ、スーの願いも妹の願いも叶う』


「スーの、願い?」


 言葉の分からない俺達には、スーの願い等聞いた事が無かった。

 何かを望み、そしてその為に生きるという目標があるのなら。

 是非とも聞いてみたい。

 というか、保護者を名乗っている以上聞かなければいけない。

 そう、思ったのだが。


『別れを覚悟しな。コイツの願いは、元の場所に戻る事だ』


 バステビュートは、そう言い放った。

 まぁ、それはそうだろう。

 故郷があるなら、家族が居るなら。

 皆、帰る事を望む。

 我々は、スーが笑顔を向けてくれる事を良い様に解釈して満足していただけだ。

 例え、彼女がどれ程我慢していようが。

 耐えながら、どうにか生きていく為に笑顔を作っていたとしても。

 俺達は気づいてやれなかった愚か者という訳だ。

 そんな事を考えた瞬間、心の中に不安が生れた。


「バステビュート。頼む、スーに聞いてくれ。俺達は、駄目だったか? スーの親代わりにはなれなかったか? 俺達は本気だったんだ、ちゃんと家族になろうと必死になっていたんだ。もちろん元の家族が居るなら、そちらの方が良いだろう。でも、俺達は……駄目だったか?」


 グッと握りしめた掌が、震えていた。

 これだけは聞いてはいけない質問な気がして。

 もしも彼女に、“嫌だった”なんて言われてみろ。

 俺達は、もはや活力を失うかも知れない。

 それくらいに、スーに依存していたのだ。

 全てを投げ出し逃げていた俺達に、彼女は意味をくれた。

 過去を振り返る機会をくれた。

 だからこそ、今この時がある。

 森の中でズッコケたスーが心配だった。

 でもすぐに立ち上がって、獲物に向かって行った彼女に微笑みが零れた。

 よく失敗するし、危なっかしい事も多いが。

 それでも誰よりも大きな成果を残すスーが、自分で何か成し遂げた時よりも誇らしかった。

 いつの間にか、そう思える様になっていたのだ。

 自らの成果より、スーの成長が嬉しかった。

 きっとそれはリリシアも一緒だったのだろう。

 狩りから帰って来た時に“おかえり”と言ってくれる彼女の言葉が、スーが来てから何倍も暖かくなった。

 よく無事に帰って来た、怪我をせずに帰って来てくれてありがとう。

 そんな言葉が聞えてきそうなくらい、リリシアの“おかえり”は意味深くなっていたのだ。

 子供を持つ感覚、ソレを俺達は体験していたのだろう。

 シャームという姉代わりまで居て、彼女もまた俺達を家族の様に見てくれる。

 この環境が、とても居心地の良いモノに感じたんだ。

 だからこそ。


「バステビュート、教えてくれ。俺達は、正しい行いが出来たのだろうか?」


 俯きそうになりながら、そんな言葉を紡いでみれば。

 胸にスーを抱いた神獣は大きなため息を溢し。


『大好き、だとよ。それが答えって事で良いんじゃねぇか? あぁもうスー、暴れんな。別にグラベルをイジメてる訳じゃねぇよ! 大人しく待っとけ!』


 ワシャワシャとバステビュートの胸毛の中で暴れるスーだったが、コイツの言葉を聞いた瞬間に大人しくなって此方を見つめて来た。

 そして。


「グラベル、――」


 ニカッと、いつも通りの緩い笑みを浮かべるのであった。

 何故かソレが、別れの合図な気がして。

 俺達に向けてくれる最後の微笑みの様な感じがして、思わず目頭が熱くなった。


「バステビュート!」


『うぉっ!? なんだよ、お前まで急にデカい声上げるな』


 今では部屋の中で寝ころんでいる状態の神獣。

 更には胸毛に押し込む様にして、スーを抱えている訳だが。


「お前は、この状況をどう見ているんだ?」


『どうもこうもねぇ、元居た場所に帰してやるべきだ。ソレがコイツの幸せであり、コイツが望む“妹を帰してやりてぇ”って願いでもある。テメェも雄で、大人だろうが。だったらやる事は一つなんじゃねぇか? グラベル』


「あぁ、そうだな……」


 本来なら、コイツの言葉を鵜呑みにして良いのかとか。

 リリシアにもっと相談してから決めるべきなんじゃないのかとか。

 色々考える訳だが、今の俺にはそれしか答えが見つからなかった。

 振り返ってリリシアに視線を向けてみれば、ボロボロと涙を溢しながらも頷いている。

 だったら、そう言う事なのだろう。


「俺達は今回、スーを“元の場所”に戻す為に動く。ソレで良いんだな?」


『そうだな、ソレが最終目標だ。だが覚悟しておけよ? 今回の相手は、“神様”だからな』


「先程も言っていたが、どういうことだ?」


『だから言ったろ、“神殺し”になれって。お前がスーの親を自称するなら、きっちりと役割をこなせ、人間。お前は、コイツの為に神をぶっ殺せ』


 訳の分からない言葉と共に、バステビュートは身体を丸めスーを包み込むのであった。

 いや、流石に意味が分からない。

 というか、スー以外の情報をまともに聞けていないんだが?

 そんな事を思いながら、神獣に視線を向けてみれば。


『ビビるな、グラベル。お前は無謀で無茶で、どうしようもない事例に剣一本で立ち向かった人間だろうが。だからこそ、俺を殺した“英雄”なんだ。だったら胸を張って、今度は娘を助けて見せろ。コイツはとっくに、お前達の事を家族と認識してるぞ』


 その言葉に、覚悟は決まった。

 相手が何であろうが、自らが年老いていようが関係ない。

 スーの為に、神を斬る。

 ただそれだけだ。

 愛する娘の為に、父親がやってやれる事は少ない。

 だが戦う事なら出来る。

 なら、やれ。

 スーの為に、神様を殺せ。

 娘の幸せを願うなら、容易い事だろう。

 子供以上の存在などあるものか、だったら全てを賭けてでも成し遂げろ。

 ソイツが、スー()の邪魔をするなら。


「覚悟を決めたよ、バステビュート。俺は、神殺しを決行する」


『そうかい、んじゃ頑張んな。精々俺に助けてくれって泣きつかねぇだけの実力を示してくれる事を祈るが……無理だろうな。お前等が死ねばスーが悲しむ、だから少しくらいは手を貸してやるよ』


 そんな事を言いながら、バステビュートは暴風に飲まれて消えて行った。

 抱かれていたスーは大丈夫なのか慌ててしまったが、風はすぐに止み、ポカンとした表情を浮かべるスーだけが立って居た。


「スー、大丈夫だ。俺が、お前の願いを叶えてやるからな? だから、その暁には……」


 彼女を抱きしめ、グッと涙を我慢した。

 コレは言って良い台詞なのか、ずっと考えていたのだが。


「俺の事を、“父”と認めてくれるか? お前を育てていく覚悟をして、愛している俺を。スーは、お父さんと呼んでくれるかい?」


 コレだけは、言ってはいけない台詞だった。

 もしかしたら彼女には愛する本当の両親が居て、引き離されただけかもしれない。

 だからこそ、俺にはそう呼ばれる資格はない。

 そう、思っていたのだが。

 この子が俺達の元を去ってしまうかもしれないと聞いた後では、感情を押さえられなかった。


「すまない、スー。俺の我儘だ、無理しなくて良い。でも、そう思って欲しかった。俺達が君の親だと感じてくれる程、愛したかった」


 ギュッと抱きしめた、彼女の細い身体。

 最初出会った時より、少しだけ筋肉が付いただろうか?

 前よりも元気に動き回っている事から、俺達は多少でも役に立てただろうか?

 そんな事ばかりを考え、昔を思い出せば涙が零れそうになる。


「お、とーさ、グラベル。おかぁ……さ、リリシア」


 その言葉が聞えた瞬間、思わずバッと彼女の顔を覗き込んだ。


「あ、がとう。だい、き」


 ニカッと微笑みながら、スーはいつもの微笑みを溢すのであった。

 あぁ、神様。

 私はアナタに感謝しつつも、どうやらアナタを殺さないといけないみたいです。

 しかし、やはり感謝します。

 この子を私達と出会わせてくれた事。

 人族とエルフの夫婦の元に、獣人の子供を向かわせてくれた事。

 色々な問題がありながらも、周りの人々と和解出来た事。

 その全てに感謝して、貴方を殺します。

 私は、神より娘が大事だから。


「スー、俺も……お前が大好きだ」


「私もだ、本当の娘の様に想っているぞ。大好きだ、スー。私はお前の事が大好きだ」


 駆け寄って来たリリシアと共にスーを抱きしめ、静かに涙を溢した。

 いずれ目の前から消えてしまうかもしれないこの小さな体に、幸あらん事を。

 だがその幸せを奪う神様が居るのなら、全力で鉄槌を下そう。

 今この瞬間、俺は“神殺し”になる決意を固めたのであった。


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