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神獣飼いの獣人少女 ~TSして猫耳生えた、猫としか会話出来ない。詰んでね?~  作者: くろぬか
4章

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第84話 (やっと)動き出した、俺の物語


 叫んだ瞬間、周囲にあった我が家の景色は消し飛び真っ白い空間が広がった。

 何が起きたのかとか、今どうなっているのかと色々と思う所はあるのだが。

 それでも。


「さっきまでの余裕は何処行った訳? そんな慌てた顔しちゃってさ」


 相手が随分と焦った様子を見せた事に、思わず此方はニッと口元を吊り上げた。

 俺と“須賀旭”の間には、もう何の隔たりも無い。

 間違いなく同じ空間に居る、何故かそう確信する事が出来た。

 更には。


『急に起こされたかと思えば、また随分と面白い事になってるじゃねぇか。スー、今度は何だ?』


 巨大化した状態のビルが、のっそのっそと俺の隣に並んで来た。

 コイツが居れば既に百人力。

 頼もし過ぎる相棒にモフッと全身で突っ込んでみれば。


『私だけでも、良かったのに。やっぱりビルも呼ぶのね』


 反対側からは、白いお姉さん状態のムムも並んで来る。

 これはもう勝ちでしょ、負ける未来が見えない。

 攻撃特化のビルに、防御治療特化のムム。

 最強の矛と盾が揃っているのだ。


「んじゃ、言われた通り抗ってみるよ。“こっち側”で出会った最強の矛と盾に協力してもらって、お前から“須賀旭”って存在を取り戻す。所詮地べたを這う人間風情のやる事だし、ズルいなんて言わないっしょ? なぁ、神様?」


 もう何か、色々と状況が呑み込めていない訳だけど。

 それでも今の空気に合わせて不敵に笑って見せた。

 確かに凄そうな相手だし、俺だけじゃ逆立ちしたって敵わない事は目に見えてるけど。

 俺の姿形を使って好き勝手やってるコイツが気に入らない上、散々煽られたのだ。

 勝手に“須賀旭”に成り代わり、俺より上手い事人生を謳歌しているくせに妹を泣かせる馬鹿。

 だったらもう、喧嘩したって良いだろう。


「スー、一体何をどうしたらこんな面々を仲間に出来るんだい? 普通の、本当に平凡な身体能力しか無かった筈の君が。どうして神獣と精霊を従えている? ソイツ等は正真正銘、神様という存在に片足を突っ込んでいる存在だよ?」


 向こうとしてもビルとムムの存在は、随分と予想外だったらしく。

 冷や汗を流しながら此方を眺めていた。

 神様だと名乗るなら、“こっち側”の事情も見ておけ。

 俺の体使って、学生生活をエンジョイしてるんじゃねぇよ。


「知るか、俺には関係ないし。ビルもムムも仲間で、従えてなんかいないし」


 ニッと口元を思い切り吊り上げてから、ビシッと相手の事を指さして。


「行けビル! 全力攻撃だ!」


『いいのか?』


「いや、ここは恰好良く攻撃しようよ……何?」


 開戦! って感じの雰囲気だったのに、でっかいビルは首を傾げながら此方を覗き込んで来た。

 何が不安なの、いつもだったら手加減とかしながらすぐ攻撃してくれるじゃん。


『アイツ、お前と同じ匂いがするぞ。それに……なんだ。お前の雑な思考が流れ込んでくるが、アレお前の体なんだろ? 黒焦げにして問題ねぇのか?』


「……問題あるかも」


 今更ながら気が付いたというか、確かにその通りだ。

 というか俺の思考垂れ流されているのか、俺の夢だからって事?

 滅茶苦茶恥ずかしいじゃん。


「いや、え。どうすれば良いのコレ!? ビル、身体は傷付けない様にして相手を倒す魔法とか無いの!? 中身、中身だけやっつける感じで!」


『おっ前……難しい事言うな。魂だけ殺せってか? どうすりゃ良いんだよそんなの』


 ぬわぁぁぁ! 初手から詰んだ!

 仲間が揃ったのに攻撃コマンドが入力できないバグみたいな。

 駄目だコレ、攻略しようがない。

 思わず頭を抱えて、うがぁと吠えていたが。


『神だなんだと言っているけど、結局は他と干渉出来る力があるかどうか。大丈夫だよ、スー。“アレ”は正直私と大差ない、条件が揃えば同格……もしくはそれ以上になれるから、安心して』


 もう片方の相棒は随分と頼もしいお言葉を残してくれた。

 流石ムム! 見た目女神様!

 そんな訳で、期待の籠った眼差しをみると。


「たかが精霊如きが、大きく出たな」


『今だけは、勝ち誇ると良いよ。確かに今の状況で私は貴方に勝てない、でも条件が揃った時どうなるか。この子は既に、世界樹を手に入れたよ』


 鼻で笑う相手に対して、ムムは無表情ながらも自信満々で答えてみた結果。

 相手は見て分るくらいに口元をヒクつかせていた。

 え、何。

 世界樹ってそんなに凄いの? 金ぴかリンゴ生やす樹木じゃないの?


『アレは命を無から生み出す程の存在。そんな物を使って、世界に干渉すればどうなるか。そして“標的”を定めて魂を送り出せば、“中身”を追い出して挿げ替える事も出来る』


「所詮は低俗な精霊か、標的を定める事など普通は――」


『普通は出来ない。けど、私なら出来る。私は既に“世界樹の精霊”という位置付けにある。だから、もう一度言う。“今だけは”勝ち誇りなさい、古臭い神様』


 ムムの言葉と共に、徐々に視界が霞んで行く。

 結局どうなったのか、相手はこれからどうするのかも分からぬまま意識が遠くなっていく感覚に襲われた。


「ムム、早く……アイツを……」


『大丈夫、“戻れば”全てやり直せる。だから、今は帰りましょう? スー。わざわざ相手の用意した戦場で戦う必要はないわ。こっちに引きずり出してからなら、いくらでも対処出来るから』


 その言葉を最後に、プツリと意識が途切れるのであった。

 あぁ、ちくしょう。

 結局今は引くしかないって事なのか。

 せっかくなら捨て台詞の一つでも吐こうとしたのだが、重すぎる瞼が再び開いてくれる事は無かった。


 ――――


 目が覚めたと同時に、ガバッと上半身を起こした。

 周りを見回してみれば、いつもの面々がベッドに横になっている。

 一人だけ、何故か妹が毛布にくるまって同じ部屋の床に転がっていたが。

 でも、それどころじゃなくて。


「ビル、ムム。起きてる?」


『おうよ、誰かさんの夢にお呼ばれしたお陰で寝不足も良い所だ』


 欠伸をかますビルが布団の中からノソノソと姿を現し、ムムに関しては俺の服の中から這い出して来た。

 やはり、俺だけが見た夢という訳では無さそうだ。

 “向こう側”では俺と違う須賀旭が居て、今ものうのうと学生生活を楽しんでいる。

 妹がこちら側に来て居る以上、先程見た光景は過去のモノだったのか。

 もしくは妹も同じ様な存在が向こうに居るのか、それは分からないが。

 だが、初めて掴んだ“向こう側”の情報だった。

 相手は神様。

 しかもソイツが俺の身体を使って好き勝手やってやがる。

 ずっと“こっち側”に居ると決心したなら、まぁ勝手にやってくれって感じにはなる訳だが。


「そうもいかねぇよなぁ……」


 思い切り身体を伸ばしてから、床で寝ている妹を揺さぶってみた。

 しばらく揺すってみれば、ダルそうに瞼を開けるが。

 物凄く眠そうな顔してるし、なにを言ってるか分かんないけど多分文句の一つでも溢しているだろう不機嫌そうな声。

 それでも。


「おい、雅。あのエルフの女の子の所行くぞ。情報共有が大事だ」


「――、――――」


「言葉がわっかんないけど、早く準備しろ。お前だけでも、絶対戻してやるからな」


 未だ眠そうにしている妹を引っ張りだして、俺達は城の中を歩きはじめるのであった。


 ――――


「どういうおつもりですか? こんな朝早くに」


「知らないわよ、私はお兄ちゃ……じゃなかった、スーに頼まれただけ」


 最初違うエルフの部屋に突入してしまった為、物凄く警戒された上に怒鳴り散らされてしまった。

 尋ねただけなのに、事情を説明しても訳の分からない事を言って襲い掛かって来たので、とりあえず物理で黙らせてココまで案内させた訳だが。


「お兄ちゃん、これであってる? ジェスチャーだけだと良く分からなかったけど、エルフの女の子に会いたいって事で良いんだよね?」


 コソコソと話してみれば、隣に居るお兄ちゃんにニコッと微笑んでから頷いてくれた。

 いや、今は女の子な上に私と同じ顔だから色々と変な感じはするが。

 可愛いな、普通に可愛いな兄。

 絶対私がニコッとしても、そんなに柔らかい表情にならないだろう。


「それで、結局何なんですか? こんな早朝から叩き起こして、周りにウチの兵もゾロゾロ連れて。コレが問題になる行為だというくらい、貴女にも理解出来るでしょう?」


「あ、周りのエルフはただの道案内だからもう帰って良いわよ? ご苦労様、後はゆっくり寝て問題ないわ」


「私は貴女程自身の調子を狂わさず、周りに迷惑を掛ける人間を見た事がありません……いったいどんな教育を受けて育ってきたのか――」


「んな事どうでも良いから、通訳して。時間制限付きなんでしょ? 一分一秒が惜しいから無駄話は無し、いいわね?」


「全く良くないですが、何を言っているんですか?」


 正直、私にだって分からないのだ。

 兄が何を言いたいのか、何を伝えようとしているのか。

 実の妹だというのに、彼の言葉を聞くのに他人の手を借りなければいけないのはかなり癪だが。

 それでも。


「スーが、貴女に伝えたい事がある。もしくは私に伝えたい事がある、だから協力しなさい。どうせお城で無銭飲食を我が物顔で繰り返している居候でしょう? だったら少しくらい役に立ちなさいよ」


「貴女だけは、絶対に好きになれそうにありません……」


「安心して、私もアンタの事嫌いだから」


 そんな訳で、だだっ広い城の中からエルフの少女の部屋を見つけ出した私達。

 更に言うなら、これでお兄ちゃんの言葉を聞く事が出来る。

 やっとだ、“こちら側”に来てから随分と時間が掛かってしまった。

 この待ちに待った機会に邪魔など入らない様、周りのエルフの兵達には“さっさと帰れ”と睨みつけてみたのだが。


「――、雅」


「えと、ごめん。止めろって言ってるのかな、分かった」


 敵意を露わにした瞬間、お兄ちゃんから睨まれてしまった。

 これ以上私が口を挟んでも良い事は無いだろう。

 後はエルフっ子に通訳してもらって、お兄ちゃんの意思を聞く。

 そしてその通りに動けば、万事解決な筈だ。

 いつだって兄は、私に最善の答えをくれるのだから。

 決めたのだ、“こちら側”に来た時に。

 もう一度会えたら、ちゃんと謝る。

 今までゴメンって、我儘ばかり言ってごめんさいって。

 もっと言うなら、世界で一番信用しているのはお兄ちゃんだと、しっかりと言葉にすると決めていたのだ。

 あの訳の分からない兄の偽物が登場して、家の雰囲気はガラリと変わった。

 接客が得意な店員が、常に家の中に居る感じ。

 あんなの、落ち着く訳がない。

 私は店でも店員に話しかけられるの嫌だし、更に言うならソイツがお兄ちゃんの皮を被っていると思うと怖気が走る。

 だからこそ、私は神様とやらに祈ったのだ。

 私の家族を返してくれと、あんな偽物要らないって。

 ひたすらに祈り続けた結果、私は“こちら側”に来ることが出来た。


「私が協力する義理があるとでも? そもそもなんですか、人に頼み事をする礼儀作法も習わなかったのですか? コレだから人族なんて――」


「おい、私の話なんてどうでも良いんだよ。いつまでもブツブツ文句言ってないで、さっさと通訳して。それとも何? 全員揃って私とやり合う? 別に良いわよ、正面切っての勝負なら負ける気がしないし」


「とんでもない人ですね……スーに協力するだけなら、喜んでお受けした所ですが……」


 いつまでもタラタラと言葉を残す相手に思わずイラッと来てしまい、剣に手を掛けながら敵意を向けてみると。

 エルフの女の子はあまり戦闘に慣れていないのか、ヒッと短い声を洩らした。

 その声と同時に、隣にいたお兄ちゃんが私の腕にしがみ付いて来る。


「雅!」


「でも……だってコイツが」


「雅、――」


 止めろって、そう言っているのだろう。

 お兄ちゃんは私が他者に迷惑を掛ける事を一番嫌っていたから。

 道案内をお願いしたエルフ達にも、ずっとペコペコしていたくらいだ。


「分かったわよ……でも、通訳してよね? それすら出来ないっていうなら、正直私にとってエルフなんて価値ないし。異世界の事情なんか知らない、私は私の都合の為に“こっち側”に来たんだから」


「……本当に、言語を理解する野獣の様ですね貴女は」


「その野獣でも理解出来ない言語があるから、朝早くから嫌いなアンタの所に顔見せてるのよ」


「貴女……頭に綿でも詰まっているのではないですか? ほんっと、嫌いです」


「私もよ、お高く留まった耳長娘。人族が何だかんだと、馬鹿じゃないの? 古っ臭い差別概念ばっかりで、ネットに上げたら大炎上待った無しよアンタ」


「さっきから訳の分からない事を……」


 此方をジトッと睨みながら、彼女は喉に手を当て発声練習みたいな真似を繰り返す。

 早く、早く。

 いつまで繰り返せば気が済むんだという程に、「あーあーあー」と声を上げながら彼女は喉の調子を確かめ。

 やがて、というかやっと。


「――――、――」


「――」


 始まった。

 コイツとお兄ちゃんの会話が。

 私が“神様”とやらから受け取ったクエストは三つ。

 他者を凌駕する程の実力を身に着け、英雄と呼ばれる事。

 兄を見つけ、クエスト完了時には傍に居る事。

 そして三つ目。

 “神様”を殺す事。

 まだ一つもクリアできていないが、それでも二つ目の半分はクリアした。

 だったらコレは、目標に近付く第一歩と考えて間違いない筈。

 そんな風に思っていれば。


「――? ――――」


「――」


 二人の間に、何やら不穏な空気が流れ始めたでは無いか。

 一体何を話している?

 是非とも教えて欲しい所だけど、ココで口を挟めば相手の“制限時間”が来てしまうかも知れない。

 だからこそ、グッと唇に力を入れて堪えてみれば。


「ふぅ……」


 エルフの少女が、大きな溜息を吐きながら此方に視線を向けた。

 どうだった、何を言っていた?

 色々と聞きたい事があり過ぎて、言葉に詰まったまま相手を見つめて見れば。


「貴女だけは、絶対に元の世界に戻すから安心しろ。そう言っております」


「……は?」


 予想とは違うその言葉に、思わず呆然としてしまったのであった。


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