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神獣飼いの獣人少女 ~TSして猫耳生えた、猫としか会話出来ない。詰んでね?~  作者: くろぬか
4章

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第83話 干渉


「それは何というか、良くない状況だな……」


 本日の昼間、スー達を遊びに出した後の報告を聞いて思わず頭を抱えてしまった。

 シャームとフォールの言う事には、あのエルフの少女と既に接触してしまっているとの事。

 それだけならまだしも、何でも金のリンゴを見られ、更には興味を示していたのだとか。

 これはもはや、世界樹の事など知らないなんて嘘は通せなくなった訳だ。

 早い所アグニにも報告して、情報の共有をしておかないと不味いな。

 下手をすればスーだけが目を付けられてしまうかもしれない。

 色々と考え込んでいたが、二人からは更に興味深い報告が。

 なんでも、彼女は特別なスキルを使ってスーと会話していたというのだ。


「それで、相手は何と? そしてスーは何を喋ったと言っていた?」


 ズイッと身を乗り出すリリシアだったが、シャームはペタリと耳を折り申し訳なさそうな表情を溢す。


「すまないリリシア、どうにもスーとジローに関しては友好的に話していた印象だったのだが……他の面々には終始警戒した様子で、ろくに会話出来なかった。なので相手にスーが何を言ったのかも、相手がどんな情報を得たのかも分からず仕舞いだ」


「それに関しては、ウチのミーが勝手な行動を取ったせいだ……本当にすまない。あろう事か、相手方に喧嘩を売ってしまった上に襲い掛かったんだ。向こうの態度も相当だったが……それでも、すまない」


 二人は何度も謝りながら、そんな報告を上げる。

 スーは此方の言葉が喋れない、がしかし。

 俺達の言葉をある程度理解している節はある。

 その為、世界樹に関しての情報を話してしまった可能性も捨てきれないという訳だ。


「こればかりはあのエルフの少女か、ジローに聞いてみないと分からないな。しかしジローもまた……」


「だな、そしてあの少女がサレイヤのジジィに報告してしまった場合……事態はもっと悪くなる。この国と交渉の必要もなくなり、次に足を向けるのは私達の暮す森という事だ。もしも育てたのがスーだと知れれば、また彼女が狙われる可能性すら出て来る」


 リリシアと共に、う~むと苦いため息を溢す。

 あのリンゴの情報は既にサレイヤ……エルフ達のリーダーに伝わっていると考えた方が良いだろう。

 しかし、どこまで察しているのか。

 ソレが分からない以上、アグニにも注意を促す他あるまい。


「とりあえず、俺達だけでは事態の整理もままならないな。不確定要素が多すぎる。一度アグニに此方の情報を提示して今後の方針を考え、必要であれば協力を仰ぐ。俺達が住む森が問題になる以上、この国は関係が無くなるが。しかし今後関わって来る面倒事となれば手を貸してくれるだろう、アイツなら」


 それだけ言って、本日の話し合いは終了。

 という結果になると思ったのだが。

 ズバンッ! と勢いよく風呂場の扉が開かれたかと思えば。


「皆! 私、冒険者辞める!」


 問題児が、声高々に宣言するのであった。


 ――――


「それで……えぇと? グラベル達の情報共有は正直助かる、こんな夜遅くにまですまない。明日まで問題を放置されなくて良かった……で、向こうの部屋は一体何を騒いでいるんだ?」


「あちらはまた別の問題が発生したというか……」


「何故こうも忙しい時に、次から次へと……」


 アグニへ報告に向かった訳だが、二人して大きなため息を溢してしまった。

 ミーの急な宣言により、少女パーティは大騒ぎ所の話ではない。

 風呂から上がったかと思えば、急に冒険者を辞めると言い始め仲間達との話し合いが始まってしまった。

 パーティを誰かが脱退するのは珍しい事じゃない、むしろよくある事だ。

 しかし急に辞めるだ何だ言われてしまえば、色々と穴が出来る。

 だからこそ、ある程度仕事が落ち着く所までは在籍するのが普通なのだが。

 彼女の場合ソレ自体は了承しているものの、存在そのものが特別なのだ。

 ミーという“英雄の卵”が居るからこそ、国からこれだけ目を掛けられている。

 その本人がパーティを抜けたとなると、今後彼女達のパーティは国にとって特別では無くなるという事を意味する。

 ここまでなら、まだ普通の事……と言えるのかもしれないが。

 今の彼女達はかなり国の事情に関わってしまっている上、今回の問題にも噛んでしまっている。

 ミーが居なくなったのならハイさよなら、とはいかないのだ。


「本人の辞職理由は? 何か言っていたか? しかもパーティ脱退ではなく辞めるというのは」


「それが……兄を見つけたからと。本来の目的を達成する為に、そちらに注力したいそうだ」


「して、その兄は何処に?」


「……何度聞いても、スーだと言うんだ」


「……何を言っているんだ? スーは女の子だろう」


 こればかりは、信じられなくても仕方がない。

 俺だって未だに信じられないのだ。

 しかし彼女は必死に、それはもう必死に訴えかけてくるのだ。

 スーは自分の兄の生まれ変わり、もしくは仮の姿ではないかと。

 正直、コレには俺達も頭を抱える他無かった。


「気が触れた……という訳では無いのだな?」


「生憎といつもの彼女より冷静な様子だったよ……何がどうなっているのか。俺にも分からないが、とにかくミーはスーと共に過ごす事を熱望している」


「何をどうしたら、そういう結論になるんだ」


「分からん……」


 やはり二人して、大きな溜息を溢す他無かった。

 スーがまた何かやったというのなら分かるが、今回はそんな雰囲気はない。

 風呂から上がれば妙に疲れた様子で、早々にベッドに潜ってしまったし。

 あんなに疲れているスーを初めて見たと思える程、そそくさと寝床へ向かってしまったのだ。

 一体何が起きた。


「とりあえず、了解した。こちらは相手がある程度情報を知っていると思って対応し、そちらに面倒な話が行く様であれば俺に投げてくれ。その上で、あの森に踏み込もうとするなら俺の方で説得を試みて、無理ならお前達に護衛も付ける。安心しろ、お前達の邪魔にならない者を選別するさ。そうしておけば、色々と後で言い訳も立つというものだ」


「すまない、本当に。戻って来てからアグニには迷惑ばかり掛けるな」


「いいや、そんな事は無い。俺も助かっているよ、英雄殿」


 そんな会話をしながら、二人揃って酒の入ったグラスを傾けた。

 やれやれ……本当に今後どうなることやら。

 何事もなく終わってくれるのが一番なのだが、昼間のエルフの民を見るとそうもいかないのだろう。

 知る限り一番長寿の種族が世界の事を重んじるのは分かるが……それでもやはり、納得できない部分は多くあるというもの。

 そして、何より。


「他者を軽んじる者に、他者の運命を握らせるのは俺も賛同しかねるからな」


「ハハッ、コレは耳が痛い。昔は俺も似たようなモノだったからな。しかし今は同意見だ、我が国を持って誠意ある行動を示していくさ」


 二人揃って、グラスに注がれた酒を一気に飲み干すのであった。

 あぁくそ、旨い酒だと言うのに。

 こうも心配事ばかりでは酔える気がしないな。


 ――――


 夢を見た。

 “向こう側”の世界で普通に生きていた人生の夢。

 “こっち側”に来ないで、普通に進学したり友達と遊んだり。

 そんな、普通の夢を見た。

 学校帰りにハンバーガーショップに寄ったり、皆と談笑したり。

 まさに順風満帆。

 これぞ高校生活と言える毎日を送っていた筈なのに。

 家に帰ると、妹から見た事も無い程険しい視線を向けられるのだ。

 まるで、憎しみでも籠っているかのような。


「ただいま、雅。どうした? そんな怖い顔して」


 何故か、口が勝手に動いた。

 ヘラヘラ笑いながら、最適解とも言える言葉を勝手に紡いだ。

 何だコレ、なんかおかしい。

 俺は雅に対して、こんな風にヘラヘラ接した事など無いはずだ。


「黙れ、お前はお兄ちゃんじゃない」


 非常に不機嫌そうな顔のまま、雅はドスドスと足音を立てて部屋へと戻っていく。

 その後ろ姿を見送ってから。


「相変わらず、獣みたいに察知する能力が鋭いな……雅は。やはりアイツは“向こう”に送らないと不味いか」


 俺は、何を言っているのだろう?

 全く意味の分からない言葉を紡ぎながら、玄関脇の鏡へと視線をやってみれば。

 そこには、間違いなく俺の顔が映っていた。

 その筈なのに。

 なんだろう、物凄く気持ち悪い。

 俺と同じ顔、同じ声。

 だというのに。

 なんだよ、その自信に満ち溢れたような顔は。

 俺はそんな顔しないぞ、間違いなくそんなニヤケ面はしない。

 普段からあんまり自信が無くて、情けないけど見た目も男らしいとは言えなかった。

 だからこそ、どこかで一歩引いていたのだ。

 女子みたいな顔も、髪質だってそれっぽくて。

 無理に短髪にしようものなら、全然似合わなくて。

 だからこそ、今の状態になった筈だ。

 全部妥協だったのだ。

 妥協の末に、俺という人間が出来上がった。

 友達からも女っぽいなんて言われて、妹が選んだ私服を着れば女子と間違われる事だってあったくらいだ。

 それ以降、アイツの服選びのセンスは二度と信用しないと心に決めた。

 そんな人生を送って来た俺の筈なのに……何故お前は、そんなに自信満々な表情を浮かべている?


「“こっち”は俺が貰うから、お前は“そっち”で上手くやれよ」


 鏡を見つめていた俺が、急にそんな事を言い始めた。

 ニッと口元を吊り上げながら。


「好きだろ? ファンジー。だったら良いじゃないか、願ったり叶ったりだ。俺はお前の代わりにこっちで上手くやって、お前は新しい命で新しい世界で楽しく暮す。誰も不幸にならない、素晴らしいと思わないか?」


 ソイツは言葉を続けながら、鏡に向かって笑いかけた。

 いや、“コイツ”は俺に向かって話しかけている。

 俺の体を、存在を使って。

 俺に成り代わって、“俺”に対して話しかけている。


『ざけんな』


「おやおや、その姿はお気に召さなかったか?」


 鏡に映る俺の瞳のその先。

 そこには、猫耳を生やした妹似の少女が映っていた。

 コレが、今の俺。

 何にも出来なくて、周りに頼ってばかりの俺。

 そうだったとしても。


『妹をあのまま放っておくんじゃねぇよ。後で面倒な事になるぞ』


「何とでもなるって。それに今見ている光景だって“過去のもの”だ、俺にとって時間はあまり関係が無いからね。しかし今更干渉してくるって事は、そっちで妹と何かしら繋がりを持ったのかな?」


『訳わかんねぇよ、お前。それに誰に対してもヘラヘラヘラヘラと。情けない態度取りやがって、それでも男かよ』


「君、自分の見た目を理解してるかい? コレが最善だよ。こんな見た目のまま堂々とした所で、周りの反感を買うばかりだ。だったら、順応して周囲の人間を仲間にする方が合理的だ」


 あぁ、なるほど。

 コイツはやっぱり俺であって俺ではないらしい。

 だったら妹が完全拒否するのも分かる。

 アイツ、見ず知らずの他人が自分の領域に入って来るのマジで嫌いだからな。


『お前は俺にはなれないよ』


「君になる必要は無いんだよ、俺は俺として生きる。君は君として“異世界”で生きる。ソレで良いじゃないか」


『良い訳あるか、馬鹿野郎が』


 思わず相手の胸倉を掴もうとしてみたが、手を伸ばしてもガッと鏡に掌がぶつかった。

 今がどういう状況かも分からない上に、自身の立ち位置が曖昧過ぎる。

 俺は鏡に映る俺を見ているのか、それとも鏡の中から“俺”という存在を別の角度から見ているのか。

 もっと言うなら今現状の自分が須賀旭なのか、それともスーなのかも分からない。

 それでも、鏡に向かって拳を叩きつけた。


『そんな適当な事するなら、須賀旭は任せられねぇな』


「へぇ……? 意外とやるみたいだね? “そっち”で特別な能力でも持ったかい? まさかココまで干渉してくるとは」


 鏡の向こうの相手は、少々意外そうな雰囲気で眉を顰めながら俺の事を観察して来た。

 このニヤケ顔がムカつく、俺の顔だけど。

 でも腹立つ。

 余裕ぶって、自信満々で。

 何より俺よりずっと男っぽい雰囲気が妙に癇に障る。

 例え外見に恵まれなくとも、こうすれば“それなり”に見えるんだと提示された様で、すげぇ腹立つ。

 でも、それでも。


『妹泣かして、ヘラヘラしてんじゃねぇ。兄貴名乗ってんならしっかりやれよ』


 ガツンと、思い切り目の前の鏡に拳をぶつけてみれば。

 普通に痛いし、鏡も割れて拳に刺さってるし。

 ダラダラと流れる血と痛みを我慢しながら、ジッと相手を睨んでいると。


「これでも、妹の願いを叶えてあげた神様なんだけどねぇ? 少しくらい感謝して欲しいくらいだよ。君に会いたいって煩いから、送り出してあげたんだよ?」


『違うだろ、間違いなくお前にとって雅が邪魔だっただけだ。だから“こっち側”に送り付けた、妹まで巻き込みやがって……』


 ギリッと奥歯を噛みしめ舌打ちを溢してみれば、相手は逆に口元を吊り上げた。

 それはもう、強者の雰囲気って奴なのだろう。

 絶対に負けない事が分かっているからこそ、此方を煽って来る雰囲気で。


「なら、抗ってみなよ。“スー”。俺はこっちでやっていくからさ、取り戻したいなら実力で俺を引き戻してみな? まぁ所詮そこらの地面を這うだけの人間風情に、そんな事が出来ると思わないけど」


 ケラケラと笑う相手に対し、どうする事も出来ず睨み続けていると。


『スー、呼んで。貴方が呼んでくれるなら、私達も干渉出来るから』


 ふと、ムムに宿ったあの女の人の声が聞えた。

 いや、本人もムムって呼んで良いって言ってたんだっけ。

 それに“私達”と言ったんだ。

 だったら。


「ビル! ムム! 助けてくれ! 俺はここだ!」


 情けないかもしれないけど、全力で助けを求める声を上げるのであった。

 いつだって助けてくれた、二匹の仲間達に向かって。


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