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神獣飼いの獣人少女 ~TSして猫耳生えた、猫としか会話出来ない。詰んでね?~  作者: くろぬか
4章

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第82話 求めるモノ


「ふえぇぇい、まったりぃ」


『慣れて来たから良いけどよ……』


 本日の夜、俺はビルとムムと共に浴槽に浸かっていた。

 何でもまだお仕事の話が済んでいないらしいってのと、俺が叱りつけた妹がえらく大人しくなってしまった為、部屋に連れて来た。

 あぁいう時の妹を放置すると、後で面倒くさいのだ。

 ムスッとしたまま何時間も睨んで来るし、下手したら数日くらいは不機嫌が続く。

 こんな時は適当に構ってやって、一緒に映画を見たりゲームをして過ごした方が不機嫌期間は短く済むのだ。

 物凄く文句言われるけど。

 という訳で、現在俺達が案内されたお部屋には結構な人数がいる。

 この状況で、というか妹が居る前で「シャーム一緒に御風呂入ろー!」とは当然出来ない。

 兄の威厳という意味でも、その他諸々の意味でも。

 そんな理由で本日は小動物二匹とゆっくり入浴。

 たまには良いよね、バスタブに二匹も入れて良いってメイドさんから身振り手振りで許可貰ったし。


 「あったかいかー? お前等ー」


 胸に抱いたビルはものっ凄くダレた様子でお湯に浮かんでいるし、間に挟まる様にしてムムもしがみ付いている。

 スマンなムム、乗っかるモノが無くて。

 ずり落ちそうになったら、ビルにしがみ付いてくれ。


『どうでも良いけどよ、なんか魔力が強ぇ奴らも近くに居るからな。気を付けろよ?』


「エルフって事? 昼間に会った女の子もエルフだったし、親とか居るのかもねぇ」


 などと言いながら、お湯に浮かぶビルのお腹を撫でてみれば。

 ちょっとだけ鬱陶しそうにしながら身をよじらせた。


「ありゃ、嫌だった?」


『くすぐってぇ』


 どうやら嫌ではなかったらしく、後ろ足をピクピク動かしながらも大人しくワシャワシャされるビル。

 最近は活躍する場面も無かったからね、であれば小動物としてモフモフされれば良いさ。


「あ、そう言えばさぁ。ビルが俺と喋れるのって、フィーみたいにスキル使ってんの?」


『誰だソイツ』


「昼間のエルフっ子だってば……まぁ覚えてないだろうから、あえて名前出してなかったんだけど」


 相変らず周りにあまり興味が無い御様子のブサ猫に、呆れたため息を溢してから説明してみれば。

 ビルは「ふむ」とか言いながら小首を傾げた。

 声はおっさんなのに、行動は可愛いよねお前。


『俺の場合はスキルじゃねぇし、魔術の類でもねぇな。単純に、お前の言葉が分かる。ただそれだけだ』


「そんな事ってあるの?」


『普通は無い。条件を特定しようってんなら、考えられんのは恐らく一つだ。同じ“門”を通っているって事実。召喚だか何だか知らないが、お前もあの……なんて言ったら良いんだ? 古臭い赤い門を通っただろ? 俺はアレを通って転生してるからな』


「え~っと……あっ、鳥居かな? “こっち側”に来た時にあったヤツ」


 手で形を表現しようとした瞬間、二匹がお湯の中にずり落ちそうになった。

 ビルは慌ててバシャバシャしているし、ムムに関しては肩に上って来てプクプクと怒った声を上げている。

 ごめんて。


『名前は知らん、あんなのは他で見た事無いからな。お前が来た時にもあった、赤い門だ。普段は見えなくなっちまうみたいだから、良く分からねぇが……とにかく俺達は同じ場所を通って来た。だから言葉が通じるんじゃねぇか?』


「まぁ俺も転生みたいなもんだし、そう言う事なのかなぁ?」


『死んだのか?』


「わっかんない」


 そんな会話をしつつ、二匹をモフった。

 正直、分からない事だらけなのだ。

 “向こう側”で俺がどうなったのか、何故“こちら側”に来てしまったのか。

 本当に些細な出来事というか、俺にとっては鳥居をくぐった瞬間こんな事態になっていた訳だし。

 全てが謎だ。

 戻る方法が分からないから、こっちで何とか生活しているだけ。

 だとしても。

 もしも、もしも“向こう側”に戻れる手立てが見つかった場合。

 俺はどうするのだろうか?


『帰りたいか? スー』


「うーん、そうだねぇ。親も心配してるだろうし、帰りたいかも。でも妹までこっちに来てるとなるとなぁ……」


 色々、複雑なのだ。

 妹を放置して俺だけ帰った場合、どうなるのかとか。

 むしろ妹までこっちに来てしまっている訳だから、一人くらいは帰って親を安心させてやるべきだとか思ったりもするのだが。

 でもまずは、妹を帰す事を優先すべきなんだろうな。

 だって俺、兄貴だし。


『また余計な事考えてるな?』


「流石ビル、俺にはどうしようもない事考えてた」


『止めとけ止めとけ、どうせお前には何も出来ねぇよ』


「ひっでぇ、俺だって頑張ってるんだよ?」


『んな事知ってる。その上で、気負うなって言ってんだ。お前は弱いからな』


 やっぱりビルって、こういう時に恰好良い台詞吐くよね。

 俺が女だったらマジで惚れてるって。

 恰好良すぎるんよ、この猫。

 普段はブサ猫の癖に、お腹撫でられてゴロゴロ言ってるくせに。


「ビルはさぁ、俺が帰っちゃったら悲しい? 居なくなったら寂しいって思う?」


 何故、そんな言葉が零れたのか。

 こんな発言は、お互いに取って良くない。

 それは分かっているのに、それでも何気なく言ってしまった。

 どちらかが格好つけるか、意地を張らないと枷になってしまいそうな言葉だというのに。

 でも、コイツは。


『あぁ、悲しいし寂しいだろうな。なんたって俺の妹分だ、泣いちまう事もあるかもしれん。でも元の場所に戻って幸せにやれんなら、俺はソレで良い。長生きだからな、別れなんぞ星の数ほど経験してるさ。だから、お前はお前の幸せを優先しろ。残されるヤツの事なんぞ気にするな』


 ヘッ、とか言いながら。

 無駄に恰好つけた台詞を迷いなく溢すのであった。


「ビルゥゥ! お前は本当に恰好良いなぁ!? よしよしよし、存分にモフってやる!」


 御猫様に、グリグリと頬をくっ付けた。

 こんな台詞、俺だったら言えるだろうか?

 多分無理、間違いなく取り繕おうとする。

 そんでもって、もしかしたらビルだってそうなのかもしれない。

 それでもここまで言い切るのだ。

 俺達の事は良いから、お前はちゃんと帰れと。

 物語に登場する主人公だって、もう少し迷ったりする選択だろうに。

 コイツは、スパッと答えて見せた。

 俺の幸せを最優先にする一言を。

 やっば、ウチの猫イケメン過ぎ。


「ちなみに、もしも俺と同じところにビルも行けるとしたら……ビルはどうする?」


『お前は貧弱だからな、一緒に行ってやるよ。どうせ一度は終わった人生だ、二度目は妹分の為に使ったって良いだろ。お前が居ないなら特にやる事無いしな』


 何この猫、ホレる。

 思わずギューっと抱きしめて浴槽の中で足をバシャバシャしてみれば、ビルは少々鬱陶しそうな顔をして、ムムに関しては落ちそうになって怒っていた。

 ヤバいなこの世界の小動物、“向こう側”よりずっと愛着が湧くんだが。

 何てことを考えながら、一人お風呂場で騒いでいると。


「……――? ――――」


「へ?」


 何故かこの場に、現れてはいけない人物が登場したのであった。

 扉を開いて顔を覗かせた相手は……妹。

 風呂ですからね、当然素っ裸な訳でして。

 一応バスタオルを巻いてはいるが、以前だったら考えられない愚行な訳でして。


「なに、してんのお前?」


『一緒に入って良いかってよ、そう言ってんぞ』


「駄目に決まってんじゃん」


 残念な事に俺の言葉は伝わらず、妹はそのまま風呂場に侵入してくるのであった。

 うん、あれだね。

 今は女の子同士だし。

 事実が知れたら、ぶっ殺されそうだけど。

 そんな事を考えながらも、バスタオルを外して体を洗い始める妹の背中を眺めるのであった。

 なんつぅか、でっかくなったなぁ……すげぇ昔に一緒に風呂入ってた頃は、もっと小さかったのに。

 あぁいや、部位的な意味ではなく全体的な意味で。

 でもまて、部位的な意味でも俺の方が小さいのは何故だ。

 何か悔しいぞ? この身体は、俺が女だった場合こうなっていたと言うことか?

 などと思いながら、妹の背中をジトーっと睨みつけるのであった。


 ――――


「あの、私も浴槽入って良い?」


 声をかけてみれば、浴槽の隅に身を寄せる彼女。

 腕に猫を抱いてるわ、肩にモモンガを乗せてるわやりたい放題の御様子だが。

 どうやら私が入るスペースを空けてくれたらしい。

 と言う事で、遠慮なくお湯に浸かってみれば。


「ね、猫ッ毛が浮いてる……これ後で怒られない?」


 猫は好きだ、というか小動物全般が好きだ。

 でも流石に、お風呂に動物の毛が浮いている状態を嬉しいとは思わない訳で。


「アンタ……普段からこういう状況な訳? マジで自由奔放ね」


 質問してみるものの、相手からは首を傾げられてしまう始末。

 まぁ、言葉が分からないのなら当然だろう。

 更には私が彼女の入浴に乱入して来た形だ、文句を言える立場では無いのは確か。

 だったらまぁ……最後にシャワーで洗い流せば良いか。

 そんな事を思いながら、お湯に浸かってジッと相手の事を見つめてみれば。

 何度見ても、やはり私と同じ顔に見える。

 雰囲気というか、見え方は随分と違うけど。

 私より、少しだけ幼く見える気がする。

 更に言うなら目尻とかちょっと垂れている上に、顔の輪郭も細いのに丸っこいというか……小顔な上に女の子らしいと言うのが一番近い表現かもしれない。

 とにかく、よく観察すれば私と違う点が幾つも見つかって来る。

 パッと見は一緒でも、細かい所は違うのだ。

 まさに双子の違う所を探す様な感覚で、ジロジロと彼女の顔を観察していれば。


「――、――――。雅」


 ポツリと、相手から何か言葉を貰ってしまった。

 でもこれで違和感そのものには確信を持てた。

 この子は、私の事をしっかりと“雅”と呼ぶ。

 他の人はミャービとか、言い辛いからと言ってミーと呼ぶ中。

 スーだけはしっかりと“雅”と発音するのだ。

 この便利なんだか不便なんだか良く分からない通訳機能を用いても、この子は間違いなく正しい発音で私の名前を呼んでいる。


「ねぇ、スー。須賀旭って言ってみて? すーがー、あーさーひー。分かった? 須賀旭ね?」


 そう言葉にしてみれば、彼女は一瞬不思議そうな顔を浮かべたが。

 胸に抱いた猫と、まるで会話しているかの様に何かを口にしてから。


「――、――――? 須賀旭、――」


 間違いなく、そう呟いたのだ。

 何を言っているのかは理解出来ない。

 でも、兄の名前の所だけはしっかりと発音していた。

 思わず身を寄せ、もう一度兄の名を口にした。


「須賀、旭。お兄ちゃんの名前。私は須賀、雅。言って、もう一回」


 相手は困った様な反応を示すが、猫に鳴かれた後は諦めた様にため息を溢し。


「須賀旭、――。須賀雅、――」


 兄の名を口にする時は自らに指先を向け、私の名前を口にする時は此方に人差し指を向けて来た。

 もしかしたらこういう発音に長けているだけで、何処かで兄の名前を聞いただけなのかも。

 そんな風に思っていたのだが。


「旭、――。雅、――」


 何度も何度も、相手は知らしめるかのように言って来るのだ。

 俺は旭で、お前は雅だろうと言わんばかりに。

 身振り手振りを含めながら、何度も何度も。

 つまり、コレは。


「……お兄、ちゃん? 本当にお兄ちゃん?」


 ポロポロと涙を溢しながら呟いてみれば、相手は困った様な表情を浮かべて。


「――。ビル、――」


「んなぁぁお」


「ん、――。旭、――旭」


 そう言ってから頷き、自らを指さして何度も旭という名前を繰り返すのであった。


「お兄ちゃん、本当にお兄ちゃんなんだよね? 嘘とかじゃなくて、本当に」


「――、旭」


 疲れたような顔を浮かべながら、相手が頷いた瞬間。

 思わず、抱き着いた。

 “向こう側”だったら、間違いなくこんな事出来なかっただろうが。

 でも今なら出来た。

 言い訳するなら、今は女同士な訳だし。

 昔も女の子みたいな見た目だったけど、今はもっと女の子だし。

 しかしそれ以上に、やっと探していた人を見つけ出したのだ。

 今以上の達成感を、私は味わった事が無い。


「大丈夫、ちゃんと私が連れて帰るから! お兄ちゃんも絶対連れて帰るから! 心配しなくて良いから!」


 相手を抱きしめたまま、とにかく叫んだ。

 目的の人物は見つけたのだ、だったら後は私がやる事をやるだけ。

 そうすれば二人揃って、“向こう側”に帰る事が出来る。

 “神様”との約束は、そう言うモノだったから。

 だからこそ私がしっかりやれば、お兄ちゃんは取り戻せる。


「任せて! 私がちゃんとするから! 今までお兄ちゃんに頼ってばっかりだったけど、今回は私に頼って! 絶対何とかするから!」


「――! ――――!」


 何やら腕の中でお兄ちゃんが叫んでいるが、とにかく力いっぱい抱きしめた。

 これ以上どこかに行ってしまわない様に、今後はずっと一緒に居られる様に。

 今はお互い素っ裸だ何て事は忘れて、抱きしめてしまった訳だが。


「フシャァァァ!」


 お兄ちゃんが抱いていた御猫様に、盛大に引っ掻かれてしまった。

 くそう、感動の再会だというのに……こんな時でも猫は可愛いからズルいと思うんだ。


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