第79話 試合! 見たい!
なんか良く分からないけど、お仕事の邪魔だった様なので。
追い出された民たちは、プラプラと歩き回っていた訳なのだが。
「次郎さんアレ何? なんか体育館みたいな建物」
「あぁ、アレは修練場だよ。兵士とか騎士とか、いろんな人が稽古している場所だね。模擬戦とかも基本的にあそこでやってるよ?」
「行ってみたい!」
「相変わらず、好きだねぇスー」
という訳で、全力の身振り手振りでお姫様に伝えた結果。
無事修練場とやらにたどり着いた俺達。
凄い、とても体育館だ。
バスケ用のラインが引いてなかったり、校長とかが喋るステージは無いが。
それでも、見た目はほぼ体育館。
その中で幾人もの男達が剣を合わせていた。
「すげぇぇ、剣道の試合見ているみたい」
「剣道やってたの?」
「ううん、全然。俺身長低かったし、力も弱いから無理かなぁって」
「そう言う所だけはスッパリ諦めるよね、スーって」
次郎さんから若干呆れた視線を頂いてしまったが、でもこういうのを見るのは好きだ。
だって男の子だもの。
すんごい気迫で木刀をぶつけ合い、ガタイの良い男達がウオォォ! って感じに戦っている姿は心が躍る。
俺もいつか、あんな風に戦ってみたいものだ。
とは思うものの、未だに矢をぴゅーんと放物線を描きながら飛ばしているのだが。
情けない事この上ない。
でもでも、ここなら以前考えた欲望が実現できるのではないかと思ったのだ。
それは。
「次郎さん模擬戦しよ! ねぇ模擬戦しよ!」
「え、えぇ……? だってスーは、戦闘系のスキル一つも持ってないんでしょ?」
若干困った様な表情を浮かべる彼に対し、不敵に笑って見せた。
何たって此方には、シャームが居るのだから。
凄く見たい。
スピードタイプ同士の戦闘ってのもやはりロマンがあるが、次郎さんがどう戦うのか凄く興味がある。
「いでよ! シャーム! 次郎さんと勝負するんだ!」
「あ、そっちの人と戦うのか。だったら良いよ?」
という訳で、次郎さんからは許可を頂いた。
後はシャームに戦って貰う必要がある訳で。
「シャーム! 戦って! 俺の為に模擬戦して! 超見たいの!」
「わぁお、言葉が通じないのによく普通に生活できるなって思ってたけど。確かにそこまで全力で表現されたら伝わりそうだね」
些か引かれた反応が次郎さんから返されてしまったが、俺の言葉が分からないシャームに関しては首を傾げているではないか。
不味い、伝わっていない。
という訳で一旦彼女から離れ、ファイティングポーズを取ってシュッシュと拳を放って見せる。
そして、期待した瞳を彼女へと向けてみれば。
「スー、――?」
駄目だ、全然伝わっていない。
思わずため息を溢しながら項垂れていれば。
「スー、その人の使う武器はナイフで良いのかな? それとももう少し長い方が良い?」
「ナイフも使うけど、マチェットメインで使ってるね。って、次郎さんいつの間に準備したの」
振り返ってみれば、いくつかの木刀……短いけど木刀で良いのかな?
そんな物を持った彼が、スッとシャームに向かって得物を差し出していた。
そして彼女がソレを受け取れば。
「一戦、お願い致します」
静かに呟く次郎さんが頭を下げ、木剣を構えて腰を落とした。
ここでようやく理解したのか、シャームもお辞儀をしてから短い木剣を構える。
これは、もしかしてもしかするのだろうか?
「いけぇシャーム! 負けるなぁ! 次郎さんも頑張れー!」
「スー、――――」
「了解、頑張るよ」
両者は一言ずつ呟いた後、互いに距離を詰めるかの様に勢いよく踏み込むのであった。
今ここに、斥候対NINJAの試合が幕を開いた。
――――
スーの要望により修練場へと足を踏みこんだかと思えば。
何やらジローという王姉殿下の護衛から勝負を挑まれてしまった。
立場的に断る訳にもいかず、勝負を受けてみた訳だが……凄いな、コレは。
ライルザッハともまた違う、速度に重点を置いた攻め方。
更に言うなら。
「っ! 今度はこっちか!」
はっきり言おう、視界が役に立たない。
というか、邪魔だと思ってしまう程。
なんだコイツは。
視界では目の前に捉えているのに、音が別の方向から聞えるのだ。
まさに幻影。
私が見ているのは幻で、本体は別の場所から攻め込んで来る。
だが生憎私は獣人で、耳が良い。
ソレを頼りに、何とか相手の攻撃を防いではいるのだが。
なんとも、“妙な”戦い方をする相手だ。
とにかく裏をかき、相手を騙す事を得意としている様な。
元々が暗殺者だという話だから、こういう戦い方なのかもしれないが。
正直、戦いづらい。
しかし、泣き言を言っていられないくらいに強い。
「そっちだ!」
微かな音が聞えた瞬間踏み込み、先手を取ってみれば。
相手は驚いた様な表情を浮かべながら、数歩だけ下がってはっきりと姿を見せた。
やっと此方から攻撃出来た、それくらいにやり辛い相手。
でもこういう人間も今後現れるかもしれない。
正面からは戦わない、裏をかく様な戦い方。
似た戦術の相手が今後現れた時、言い訳や泣き言など言っていられないのだ。
だからこそ、今覚えろ。
彼は間違いなく強者であり、今までに戦った事の無い類の相手。
だったら……このチャンスを逃すな、私自身が強くなる為に。
今この瞬間に、彼から吸収できる技術は全て覚えろ。
「ジローと言ったな、私は嬉しいぞ。お前の様な相手と戦えて」
呟いてみれば、相手は不思議そうに首を傾げてしまったが。
そうだった、彼はスーと同じ言語を使うが私達とは言葉が通じない。
でも、それでも。
武器を交えている間は心が通じるというモノだ。
先程から、相手が恰好を付けて勝とうとしているのが分かる。
恐らく護衛対象の王姉殿下と、スーに対してだろう。
そういうモノが無ければ、すぐさま私など狩られていた筈。
だったら、こっちだって格好を付けさせてもらうまで。
コレは試合だ、“殺し合い”ではない。
ならば。
「来い、ジロー。私の実力の全てを使って、お前に抗ってやる」
多分、相手の方が格上だ。
しかしながら、情けなく負けるつもりは無い。
とにかく低く姿勢を落し、耳に集中して瞼を閉じた。
見るのは相手の位置を掴んでからで良い、事前情報は邪魔にしかならない。
そんな事を思って、身を低くしていれば。
ザッと、左の方で微かに踏み込む音が聞えた。
「そこだぁっ!」
獲物に食らい付く獣の如く、カッと瞼を開いてから飛びついてみれば。
間違いなく、ジローが居た。
また隠れていたか、もしくは幻影を使っていたのだろう。
随分と慌てた様子で、木剣を此方に向けて来るが。
「私の方が、速い!」
獲った、そう思ったのだが。
「ハ、ハハ……世界は広いな」
私の木剣を受け流し、流れる様な動作で此方の首筋に剣を当てるジロー。
これでも結構強くなったつもりでいたのだが、こうも呆気なく負けてしまうとは。
我ながら情けない上に、スーにも格好悪い所を見せてしまったな。
そんな事を思って、視線を下げた瞬間。
「シャーム! ――、――――!」
随分と喜んだ様子で、スーは拍手と共に何かの言葉を私にくれていた。
それは間違いなく、失望とか落胆と言った物ではなく。
明らかに賞賛していると分かる程の、笑顔。
嬉しそうな言葉、はしゃいでいるのが分かる楽しそうな声色。
更に言うなら。
「シャーム! ――れ、さーま?」
たどたどしい言葉と共に、笑顔のまま私を抱きしめてくれた。
そうか、スーは私に勝って欲しかった訳じゃない。
悪い意味ではなく、戦って欲しかっただけなのだろう。
私とジローの戦闘を、ただただ見たかっただけ。
そう、思えるのだが。
「せっかくなら、勝った所を見せたかったな……すまない、スー。負けてしまった」
「シャーム、おーっ、かれー!」
キャッキャとはしゃぐその子は、満足気に言葉を紡ぐのであった。
なんて、緩い空気になり始めた頃。
「ふーん……面白いスキル使ってるのね、だとしたら私の専門かも」
スーと同じ顔をした少女、ミーがそんな事を言い放ちながら木剣を掴んで近寄って来た。
現状私の腕の中にはスーが居るので、同じ顔の二人の態度の違いに少々違和感を覚えてしまうが。
「狼の人、ちょっと退いて貰って良い? 私も、そっちの人と戦ってみたい」
「ミー、何度も言うが勝手な行動はトラブルを招く。今はリーダーの指示を仰げないんだぞ」
彼女の仲間であるタンクがそんな声を放つが、ミーと呼ばれる少女は鋭い視線をジローに向けながら木剣を構え。
「私も、相手して貰って良いですか? こういうタイプと戦った事ないんで、練習させてください。私、お兄ちゃんと一緒に帰る為には、“英雄”にならないといけないらしいんで」
そんな言葉を放ちながら彼女が敵意を放てば、会場内の温度が下がったのではないかと思う程ゾッと背筋が冷えた。
私どころか、そこら辺に居た兵士達だって試合を止めて彼女に視線を向けるくらいに。
これまであまり意識しなかったが、やはり強いのだろう。
今までは抜けた姿しか見て来なかったが、戦闘において彼女は間違いなく強者。
そう肌で感じられる程、ビリビリと“危険な空気”が感じ取れた。
「――、――――」
ジローの方も覚悟決めたのか、短剣を構えて腰を落とした瞬間。
「行きますね」
ダンッ! と音がしたと共に、地面が砕けた。
踏み込み、であってると思うのだが。
たったそれだけで、床が砕けたのだ。
「っ!」
「へぇ、流石。一撃目は防ぐんだ?」
気が付いた時にはミーはジローに接近しており、剣を振り下ろしていた。
ガツンッ! と良い音がしたが、どうやらジローは彼女の一撃を受け流したらしく。
「それじゃこれなら……って、もう幻影」
つまらなそうに呟いた彼女が木剣を横薙ぎに振るえば、ジローの姿が搔き消えた。
先程同様、姿を隠す事を優先したらしい。
こうなってしまえば、聴覚で相手を探す他――
「“自動防御”、“検知”、“可視化”」
ボソボソと呟く彼女が、目にも見えぬ速さで長剣を動かし相手の攻撃を防いでいく。
まるで腕だけが勝手に防御をしているかの様な、少々気味の悪い動きだったが。
そして、スッと眼差しを向けた先には。
「スキル同士での戦いなら、対処出来そうですね。どうも、勉強になりました」
冷たい言葉を放つその先に、先程私が敗北した筈のジローが驚愕の表情を浮かべて構えていた。
恐らく自らが使える全ての物を使ったのだろう。
私の時と同様、“隠れる”事に全力を注いだ筈。
だと言うのに呆気なく防がれた上に、発見されてしまった。
この場合はスキルによって“看破”されたと言った方が良いのかもしれないが。
「正面戦闘でこれ以上特技が無いなら、もう良いです。ありがとうございました。多分、貴方では私に勝てないので」
まるで煽る様な台詞。
周りから聞けば反感を持たれそうなソレだったが、全くの事実なのだろう。
近くにいる私は、特に両者の気配を感じられる。
だからこそ分かるのだ、“格が違う”と。
このまま続ければ、間違いないジローが負け――
「ミヤビ! ――! ――――!」
「ちょ、え!? なに!? なにすんのよ!」
腕に抱いていたスーが急に怒り出し、バッグの中身を必死に放り投げていた。
それはもう、プンプンと怒っているかの御様子で。
彼女の私物から、保存食として取っておいたのか……あの金リンゴまで飛んで行く。
多分私が抱えていなかったら、物を投げて止めるのではなく直接ポコポコと殴りに行きそうな勢いだ。
「――! ――――!」
「だからアンタの言葉は分かんないんだって! ちょっ、コイツ! 止めなさいよ! なんでバッグから松ぼっくりとか出て来るのよ! 幼稚園児か!」
もはや幼子の喧嘩の様になって来てしまった頃、会場にクスクスと笑い声が響いた。
特別大きな笑い声を上げている訳でもないのに、妙に耳に残る声。
その声の主に視線を向けてみれば。
「なんだか、随分愉快な方がいらっしゃいますね? それに、妙な物を投げつけていた様に見えます。不思議ですね、それは非常に貴重な物だった気がするのですが」
耳の長い少女……エルフ、で良いのだと思うが。
そんな彼女がやけに楽しそうな視線を、此方に向け放っているのであった。
彼女は、いったい何だ?




