第69話 報告会と緊急依頼
「つまり、一応は作戦の内だったと?」
「の、はずだったんですが……些か派手に暴れすぎるバカが一名……」
ギルドに訪れたミーのパーティを呼びつけた後、周りの面々には一旦距離を置いて頂いた上でお説教を始めた訳だが。
彼女達のリーダー、ワン・リーシェが今までの経緯を説明してくれた。
派手に動いて相手組織の目を引く、というのは以前から聞いていたが……なんでも逆に怪しげな内容の依頼をしようとする者が現れたそうだ。
彼女達が獣人嫌いだと判断した上で、どうせなら人族同士で仕事をしないか? その方が安心だろう? というとんでもないセールス文句で。
最初はそれこそ本当に獣人嫌いな奴らが声を掛けて来たのかと思い、あっさり断ったそうだが。
そこからはやけに彼女達に喧嘩を売って来る獣人が増加、その状態は現在も続行中という事らしい。
「はぁ」
「申し訳ありません、トラブルを起こすつもりではなかったのですが……しかし得られたモノもあります。むしろコレが無かったら、本当にミーが暴れているだけになってしまう所でした」
「その得たモノ、というのは?」
声を返してみれば、彼女は少しだけ周囲に視線を向けてから、此方に身を寄せて声を潜めた。
「その後も私達には同じ様な依頼を持ちかけて来る人族が多数存在しましたが、全て断りました。報酬が安いとか、身分も分らない奴の依頼は信用できないと言って。でもおかしいんですよ、人は変わっても皆言っている内容は同じ。しかも報酬を徐々に上げて来ている」
「ほぉ……つまり出所は一つであり、声を掛ける相手を変えているだけ。ちなみに内容は?」
「多国まで足を運び戦闘、もしくは物資を渡す仕事だと言っていました。ならば行商人に頼めというのと、試しに……私達の専門は魔物と魔獣、金額によっては人を殺す事だと言ってみたんです」
「おいおいおい」
それを周りに聞かれていたら、相当大問題な訳だが。
自らは暗殺者ですと名乗った様なモノ、当然冒険者の資格も剥奪されてしまう。
「すると、つい先ほどです。今度は貴族の方が出て来て、殺しの依頼を出したい事を遠回しに伝えられました。そして内容からするに……恐らくアーラムに向かい、誰かを害する事を依頼したかった様子です」
「つまり、以前城を襲った連中と同じ様に使いたかった訳だ。それは随分根幹に近付いて来たな」
「えぇ、そう判断して良いと思います。ちなみに断った場合安全は保障しないと、非常に遠回しな言い方をされたのですが……」
「何か問題が?」
随分と有力な情報を持ち帰ったと言うのに、彼女は非常に気まずそうな顔で視線を逸らしてから。
「最近の私の発言を聞いて学習したのでしょう。ウチのが“こんなチンケな金額で仕事が出来るか”と、貴族に向かって言い放ちまして……」
「……」
何か雲行きが怪しくなって来たぞ? 大丈夫か?
「相手は頬をピクピクさせながら、こんな招待状を差し出して来ました。そして帰り道ではまた襲撃紛いの絡まれ方をして……いつも通り、周囲から不満を買ってしまった状態です」
「……まぁ、うん。仕事をしっかりこなしてくれているのは十分伝わったよ。なんというか、すまない。汚れ役を押し付けてしまって、招待状を見せて貰っても良いか?」
「それくらいなら全く問題なかったのですが……派手にやり過ぎて、関係ない人まで巻き込む勢いで……もう。あ、招待状コレです、どうぞ」
なんかもう疲れ切った顔でグッタリしている彼女が、預かったと言う招待状を此方に差し出して来た。
余程忙しかったのか、未だ封がされた状態だ。
俺が開けてしまって良いのかと思ったりもするが、まぁ彼女達にとっては情報収集の為に受け取っただけの代物だからな。
別に構わないか。
何てこと思いながら封筒を開いてみれば。
「これは、また……」
「何と書かれていましたか? 私達もまだ確認していなくて」
覗き込んで来る彼女にも手紙の内容を見せてやれば、差出人を見て固まってしまった。
まぁ、気持ちは分かる。
仕事してもらいたいという内容に、目が飛び出そうな金額の最低保証。
状況によっては増額も検討する上に、その後の定期雇用なんて事が書かれていた訳だが……差出人が、侯爵様なのだ。
当然名前など知らないが、そういう位にあるという事が書かれている。
屋敷に招待されている以上、嘘偽りが無いという事なのだろう。
封蝋は無印だし、サインも普段使っているモノなのかも不明。
その為、証拠物品としては弱いのかもしれないが。
流石にいざ向かってみたら「こんな物は知らない」とは言われないだろう。
兵士でも連れて行かない限りは、だが。
コレが悪戯の類なら手紙を渡した貴族が責任を取らされるが、もしも通報してから向かおうものなら、知らぬ存ぜぬを無理やり押し通せる程度。
まさかこんな事に、国のトップに近い存在が関わっているとは。
思わずため息を溢しながら、テーブルに置かれたジョッキを手にして喉を湿らしていれば。
「良かった、まだギルドに居たか。師匠」
このタイミングで、王子と平服の兵士を連れたシャームが合流した。
今日は別行動だった為、報告は夜になるかと思っていたのだがこれは都合が良い。
「よく来たなシャーム、それに皆も。座ってくれ、報告する事が出来てしまった」
「そちらも進展があったのか。こっちも報告する事がある……が、何故ミーだけ床に正座しているんだ?」
「そっちは気にするな」
そんな訳で全員席に腰を下ろし、早速先程の手紙を王子に向かって差し出した。
それを受け取った彼は、内容を読むと同時に随分と狼狽えた様子を見せる。
「師匠、あれは?」
「今回の敵が分かったかもしれない、ソレが書かれている招待状だよ。何でもこの国の侯爵だそうだ」
「侯爵? ……どう言う事だ? 敵は“ダイアラス”という組織ではないのか? 攻撃的な“人族排他主義”のアジトを潰して聞き出した内容だと、相手は反社会勢力というか……その手の類だった筈なのだが」
まだ手紙に目を通していないシャームから、気になる名前が飛び出して来た。
聞いた事の無い名前ではあるものの、彼女は組織と言ったのだ。
つまり情報を共有したかった内容はソレなのだろう。
しかし、こちらの情報と食い違っている。
これは一体……どう言う事だ?
「コレ、マジで最悪の事態かも。下手すりゃ人族とか獣人族とか関係ない話になってきてるぞ」
「どういう事だ? ライル」
やけに親し気な様子で、シャームが顔色の悪い彼を覗き込んでみれば。
「俺の予想でしかないけど……もしもこの両者。この招待状の差出人“アダマン侯爵”と、俺等が調べた“ダイアラス”の組織が協力関係にあった場合。種族関係の話は意味が無くなる」
どちらも俺達にとっては知らない名前なので、どう判断したら良いのか迷う所だが。
種族間の話ではないとなると、どういう目的になって来るのだろうか?
獣人の国、ガルバリンデ内で反乱でも起こそうとしているのか。
それともただただアーラムとの戦争を求めているのか。
色々と考えられるが……結局は当人達から話を聞いてみないと何とも言えない。
「まずアダマン侯爵。こっちは確かに、俺の爺さんの人族排他主義を支持してた貴族だ。そんでもってダイアラスの組織に関しては、トップと幹部連中が人族で構成されてるらしい。実際に調べないと分からないが、本当に協力関係なら大前提が崩れる。だがもしも侯爵に使われてるだけなら……この国の上位者が反社会勢力を囲っている事になる訳だ」
なるほど、確かにコレは良く分からなくなって来たな。
それこそ直接お話を聞きたい所だが、そういう連中が相手となればどうなることやら。
しかも片方は侯爵となると、陛下に頼んで間に入って貰った方が良さそうな雰囲気だ。
「だとすると一度王宮に戻って、陛下に報告した方が良さそうだな。我々だけで動くと後々面倒な事になりかねない」
「だな。ちょっと俺だけじゃ、行動を起こしても説得力に欠ける。父上に協力を仰いでから大きく動いた方が良い」
ライル王子と頷き合い、早速城へ向かおうと席を立ちあがってみれば。
「ライル……お前。実は結構頭が良いのか?」
「シャーム、今は結構真面目な話してる所……ていうか俺一応王子よ? 勉強とかさせられてんのよ?」
何やら気の抜けるやり取りを交わしている二人。
本当に、いつの間にやら仲良くなったみたいだ。
こんな状況だと言うのに、思わず頬が緩みそうな光景を見せつけられていたその時。
「グラベル! いるか!?」
ギルドの扉を勢いよく開け放ち、今度はリリシアが合流したではないか。
随分と慌てている様だが、あちらも何かあったのだろうか?
今日は護衛二人と一緒に、スーと王女の警護をしている筈だったのだが。
「リリシア、こっちだ。どうした?」
「グラベル! 緊急事態だ、スーが――」
「緊急! 緊急です! 大型魔獣との戦闘経験を持つ冒険者は至急集まって下さい! 低ランクの冒険者以外は強制参加です!」
慌てたリリシアの声を、ギルド受付嬢の大声が遮った。
今度は何だ……さっきから事態が連続して進み過ぎて、状況把握どころでは無いのだが。
大きなため息を溢しながら、声に耳を傾けてみれば。
「街中に突如魔獣が出現、周囲では見かけない大型! 形はネコ科、魔術を使う模様!」
続く受付嬢の言葉に、思わず舌打ちが零れた。
リリシアがここまで慌てているという事は、恐らくスー達に何かがあったのだろう。
だというのに、冒険者は強制参加の上に相手は魔術を使う大型魔獣。
何故こんなタイミングで……もはや除名覚悟で、ギルドの指示を無視するか?
なんてこと考えながら、動き出そうとしたその瞬間。
「詳細不明の個体ですが、過去の資料と照らし合わせた結果……かの森に住み付いていたという、“神獣”に近い魔獣の可能性があります!」
「「なんだと?」」
受付嬢の最後の言葉に、思わず俺達は脚を止めてしまうのであった。




