第66話 XXXLサイズ
「色々と情報のすり合わせが必要だとは思うが……」
「師匠、私はこの国に協力する事を勧める」
「そっちでも色々あったんだな」
俺達に与えられた部屋に戻ってから、話し合いを始めてみた訳だが。
シャームがやけに協力姿勢を見せている。
という事で、本日あった事の報告を受けてみれば……なんというか、此方よりもしっかりと情報を掴んで来た様で。
「シャームは、ライルザッハ王子の話を全面的に信用しているという事だな?」
「あぁ、その通りだ。これが間違いだったなら、間抜けだと笑ってくれ……でも私は、彼は信用に価する男だと感じている」
「ふむ……」
顎髭を撫でながら考え込んでみるが、やはりこちらの国の情報が少なすぎる。
結局は王族の話くらいしから情報収集が出来ていないのだ。
人族排他主義の前王が居て、その思想に同調した奴らが居て。
前王が亡くなっても、反発派は未だに残っている。
今の王はソレを望んでいないと表明してみれば、反発が起きている状態。
その反対派、過剰な行動を取る連中に王族が直接手を下す形。
更には嫌がらせの様に王族周辺の人々を偽装工作までして傷付け、戦争を促して来る。
まぁ、あり得ない話ではない。
あまり気分の良い話ではないが。
“どうしても人族とは共存できない”と考えるなら、まずは当人達が関わらない努力をするべきだ。
それこそ驚く程同士が集まるなら、勝手に他所で獣人だけの村でも作れば良いだけな筈。
ソレをしないという事は詰まる話、自らの常識を押し付けているだけに過ぎない。
時代とは流れるモノであって、今の王様は人族さえも受け入れている。
お陰で経済も回っているし、自らの生活も確保されているだろうに。
そう言った面には目を向けず、ただただ排他する事に注力している連中が居るという事。
全く……迷惑な話だ。
一人、もしくは一つの団体で生きていける程の力を持っているのなら良いが。
他者の力を借りながら生活していると言うのに、気に入らないから出て行けと声を上げるのだから。
「嘘偽りが無いのであれば、手を貸すのは問題ないと思う。そこは私も同意だ、しかし……王命により我々が行動しているとなれば、そう簡単に判断する事は出来ない。分かるだろ?」
「それは……まぁ。確かな証拠が無いと、気軽に行動が起こせないのは分かるが……」
グラスを傾けるリリシアに対し、シャームは渋い顔を浮かべていた。
まぁ、両者共意見は分かる。
俺達の立場は非常に歪な状況にあるのだ。
だからこそ、下手な行動は起こせない。
何か間違いを犯せば、両国にとって邪魔な存在になりかねないのだから。
しかしシャームの、“信じる”行為を無下にはしたくない。
直接戦い、話し合い。
相手の意向を感じ取り、賛同できると感じた彼女の意思は間違いなく本物だろう。
コレでシャームを騙し取られてしまえば、俺達は笑い物だが。
だが“信じる”という行為そのものが出来なくなれば、国同士を繋ぐ事など出来ないだろう。
だからこそ、この話合いは平行線。
決断を先送りにして、ズルズルと長引くかと思われたのだが。
「スー、この場合はどうすれば良いのですか? やはり魔獣では特別な接し方、などなど。そういった物があるのでしょうか?」
「――、――」
「ごめんなさい、全然分かりませんわ」
「――グリフォ、こう。――、ねーる」
「あぁ、なるほど。羽があるから普通の抱き方だと嫌がられるんですね? 抱くと言うより前脚を引っ掛ける感じで腕に抱いて、膝に乗せる……わ、私もちょっとやってみて良いですか? モモちゃん、もう寝ちゃいました?」
「へーい、モモ。――――」
えらく緩い会話を繰り広げながら、視界の端ではスーとイリーゼ王女が戯れているのだ。
我ながらこの状態で良く情報共有に踏み切ったなとは思うが、この子……帰らないのだ。
「あっ……お? おぉ? スー、見て下さい……モモちゃんが何だか眠そうに目を閉じて……」
「イリーゼ。――、しー」
此方の話など知らんとばかりに、二人は小動物を構い続けている。
更には我々にさえ懐かなかったグリフォンを膝に乗せながら、どうやら寝付かせる事に成功した姫様は……非常に嬉しそうな表情で口を閉じている。
「んー! んー!?」
「しー」
「ん! んっ!」
口を閉じたまま、片手でガッツポーズを浮かべるイリーゼ王女。
凄いな、気難しいとされるグリフォン。
スーから手渡されたアグニ達ならまだ納得出来たが、まさかこの短期間で懐かせるとは。
ミーと呼ばれていた彼女は、何というか。
懐かれていると言うよりかは、スーから渡されたから嫌でも一緒に居るという感じに思えなくも無いが。
そして最後の一匹に関しては、随分と安心した雰囲気でスピスピと寝息を溢しているではないか。
「よーし、よし。良い子良い子。あぁぁ……フカフカ……」
何やら緩い笑みを浮かべながら、スーから預かったグリフォンを撫で続けていた彼女だったが。
「どうせ皆起きてるよな!? ピザとかどうっすかね!? 酒飲んでるでしょ!? 食べようぜぃ!」
物凄いタイミングで王子がドデカい皿を片手に突入して来て、話し合いも癒し空間も終了した。
ズバンッ! と開かれた扉の音にグリフォンは飛び起き、匂いに釣られたらしい小動物達は集まっていく。
これではもう、難しい話を繰り広げるのは不可能だろう。
「お、お兄様ぁ……」
「え? あ、ごめん。もしかしてタイミング悪かった?」
「スーからグリフォンの抱き方を教えてもらって、さっきまで私の膝の上で眠っていたのですが……ピザで、目を覚ましましたわ」
「わ、悪い……が、アレだ! お前が餌付けしてやれば良い! なっ!? そうしよう!」
何やら言い争った様子も伺えるが、結局は丸く収まったらしい。
この兄妹は、本当に仲が良いのだな。
そんな風に感じる程、両者から愛を感じる。
「グラベル、私達も一度食べてからにしよう。せっかくの夜食だ、冷ましてしまっては勿体ない」
「ライル、すまない。取り皿はあるか? ここまで大きい物となると……流石にスーが溢してしまいそうだ」
「あいよぉ、待ってろシャーム! ガウム、タウラ! 全員分の取り皿とおかわりの酒を用意! あ、ちびっ子達にはジュース!」
「「了解です」」
そんな訳で、非常に緩い空気になった所でテーブルの上にはドデカいピザが姿を現した。
一切れ食べるだけでも随分と腹に溜まりそうだが……凄いなコレは。
アーラムの物より大きいかも知れない。
「俺の好きな物詰め合わせピザだ! 他に喰いたい物があれば言ってくれよ!? すぐ焼いて来るから!」
「お兄様は、これだけは得意ですからね……」
まさかとは思うが、王子の手作りなのか?
――――
何か、良く分からないけど。
ピザが来ましたぁぁぁ!
すっげぇ、マジでスゲェ。なにこれ!?
“向こう側”で注文するLサイズピザと比べ物にならない程の特大サイズ。
前の国でも凄かったが、今度のはテーブルその物がピザに埋め尽くされるかの様。
しゅ、しゅげぇぇ!
具材も盛り盛りだし、生地もしっかりとしている。
ちょこっと触れてみれば、フワフワしてるし表面はパリッとしているアレ。
あぁ、駄目になっちゃうヤツ! 絶対美味しいヤツ!
旨そう! 駄目だって! 夜にコレは駄目だって!
だって俺達御夕飯もしっかり頂いたのよ? 海鮮料理的なの頂いたのよ?
何かちょっと皆静かに食べていたので、俺も上品というものをイメージしてちょびちょび静かに食べていたのだが。
偉い人? お堅い人? まぁお金持ち的な食事をするなら、本来そんなもんだろう。
だがしかし、今この場には仲の良いメンツしか居ない。
つまり。
パーティータイムの始まりだ。
「ビル! 見て! ピザなのに海老のでっかいのが鎮座してる! 特盛大盛り贅沢シーフードピザだ!」
『寄越せ! 俺にも寄越せ! 今日ばかりは小動物だからどうとか言ったら、本気で怒るからな!?』
抱き上げたビルもとんでもなく興奮した様子を見せる上、周囲の小動物も……あぁ、そうか。
頭の上でムムが騒いでいるが、他の二匹は熊っ子にあげてしまったのか。
ちょっとだけ寂しさを覚えながら再びピザに目を向けてみれば。
「スー、――!」
熊青年がドデカい一切れを取って、満面の笑みで手渡して来るでは無いか。
コレはもう、喰うしかない。
夜にピザ。
それだけでも凄い背徳的だというのに。
彼が渡して来たドデカイ一切れに齧り付いてみれば。
「ん~~やばいっ! これ絶対癖になるって! 超旨い!」
巨大な海老を逃がさない為に二つ折りにした訳だが、それ以外にも色々と入っていた。
イカ、蟹、貝。
分かりやすい所で言えばその辺りが細かく刻まれ、他にも色々と入っている御様子で旨味がブワッと口の中に広がる。
切り身かって言う程大きな魚肉も良く焼きされており、モリモリ具材と特盛チーズ。
そして間違いなくたっぷりマヨが含まれている味わいが溜まらない。
もしかしたら料理した際の、切れ端みたいな具材をまとめて詰めこんでこのピザを作ったのだろうか?
それくらいに、色々な物が入っている気がする。
でも悪くないと言うか、凄く良い。
“向こう側”で言えば考えられない程のデカい生地の上に、好き放題具材を放り込んだ感じだ。
食べれば食べる程味が変わる。
多少のクセはあろうとも全てチーズが呑み込み、その“クセ”をアクセントに変えていく。
うんまい、スゲェうんまいぞコレ。
『スー! 俺等にも!』
膝の上に暴れているビルと、頭の上のムムも声を上げながら抗議してくる。
はいはい今あげますってば、なんて事を思いながらピザの上から海老だの何だのを失敬し、小動物達に分け与えていれば。
「――、――」
隣の席では、イリーゼがグリフォンと兎に餌をやっていた。
兎は何か色々あって完全に向こうのペットになった様だが、グリフォンは今の所変化なし。
だというのに、大人しく餌を貰っている所を見ると問題は無いのだろう。
さらば、ウチの非常食達。
お前の事は喰ってみたかったが、仕方ないね。
大きく育ちなさい。
『スー、海老。もっとくれ』
「えぇー? ビル海老ばっかり食べるじゃん、俺にも食べさせてよ」
『うぅむ……じゃぁ、そうだな。他に旨そうなヤツくれ』
ちょっと意地悪しただけなのに、少し言うとすぐ引き下がる利口な御猫様。
本人曰く、俺の兄貴分って認識があるらしいのでこういう感じになっているのかもしれないが。
それでもこれだけ聞き訳が良い小動物って凄いよね。
「ごめんごめん、海老もいっぱいあるから食べて良いよ? でもこっちの蟹も美味しそう、でっかい脚をそのまま並べた感じ。どっち食べる?」
『蟹くれ、海老はお前が食って良いぞ』
「はいはい、ありがとね? でも本当にいっぱいあるから海老も食べて良いよ」
そんな会話をしながら膝の上のブサ猫に蟹を与え、頭上から接近して来たモモンガは皿に落ちた具材を勝手に奪っていく。
机に乗ったら怒られると理解しているのか、俺の腕を伝って頑張っている御様子だが。
「おかしいな、ムムの中身はかなり理性的だった気がしたんだけど。もしかしてあの女神様? 精霊さん? 結構食い意地が凄いのかな……」
『まだそんな事言ってんのか』
「ビル、そろそろ信じて。ムム、怪我治す。凄い、あと綺麗なお姉さん宿してる」
『海老食って良い?』
「はい、どうぞ。食べて良いから聞いて?」
ご機嫌なブサ猫はその後も海産物を食いまくり、食い意地の張ったモモンガは頑張ってプルプルしながら皿に手を伸ばし、俺はとりあえず特大ピザを堪能する事にした。
だってビルが聞いてくれないし、油断するとムムがテーブルに上りそうだし。
まだまだピザはとんでもない量があるが、乗っている具材が場所によって違う為、色々食べてみたいでは無いか。
そんな訳で様々の場所からピザを取ろうとすれば、イリーゼの後ろに付いている護衛さん達がすぐさま取ってくれる。
何だか向こうの国で、メイドさん達にお世話されていた時みたいだ。
夕食の時とかにも周囲に人がいっぱい居たから、案外ココも王城だったりするのだろうか?
いやでも俺が見てた異世界漫画とかでは、王様じゃなくても偉い人の所にはメイドさん居たしなぁ……。
『どした?』
「ん、ここは結局どこなんだろうなぁって。かなり広いし、お城みたいじゃん?」
『城だぞ?』
「ふぅん、そっか」
『蟹も旨いな、もう一回くれ』
「あ、うん」
ビルに蟹の脚を差し出しながら、思考が停止した。
待って、ここ王城なの?
だとしたら周りで一緒にご飯食べている人たちって、また王族?
イリーゼ、お姫様だったりするの?
ライルザッハは王子だったり……いや、それはないか。
多分護衛か何かだ、シャームとも戦ってたし。
「ビル、もう一回確認。ここって、この国のお城?」
『ん? あぁそうだぞ。ピザってヤツのまま喰ってみて良いか? 熱いか?』
「あ、冷ますね。小っちゃくすれば多分平気」
とりあえず、良く分からないけど。
今は難しい事を考えるのを止めよう。
ピザ食べて、歯磨きして。
明日もうちょっと落ち着いてから考えよう。
そう結論付けてから、その後は特大ピザを思う存分味わうのであった。




