黎明前奏『Unfinished fake」
『役者は全員揃ったようだね!」
この空間には女が一人いる。
四方は暗黒に包まれた世界だ。現実とは乖離した領域でありながら、世界の認識を歪めその場に存在するナニカなのだ。
『始まってすぐに死んじゃった子もいるけど……まぁ仕方ないよね!」
直ぐにテンションを巻き戻した女はただ純粋な腹黒い笑みを取りこぼす。
『さぁー!これから始まるんだぁよ!真の魔術戦争が!」
彼女は瞬間に手を高らかに上げショーの開演するマジシャンのように宣言する。―――と同時にこの暗黒の空間が映画劇場へと姿が変わる。まるでストーリーの始めからそうであったかのように平然とこの空間は存在していた。
劇場の明かりはすべて消灯した。まるでこれから映画でも始まらんとするようなのだが女はポップコーンとコーラを片手に劇場の中央の席に座り込み高みの見物といった様子で楽しもうとしているのが分かる。この女はマジに映画を見ようとしているらしい。
やがてプロジェクターから投影された映像がスクリーンへと映される。観客は一人しかいないのだが女はこれから始まらんとする物語に心を震わせているらしい。女はポップコーンを目一杯手でつかみ頬張る。
―――そして始まる。
映像に映るのは―――庵野桐星、リスト・ノート。この2名が料亭で会話をしている。
『桐星ちゃんの性格ほんっと最高!生粋の魔術師向きの魔術戦争ファイターだよ!」
冠位十二台頭。第十一席。リスト・ノート。人類の敵であり、絶望を与えし者。種族の頂点に座し、500年以上生きる吸血鬼。
『リストはアレかな……慢心するから途中で負けそうだなぁ?何分、今回はイレギュラーが多いし」
昔を思い出した口調で冷静の今後の展開を女は見据える。
その次に蝋燭坂蘆花が古ぼけた教会で十字架を眺めている映像に映し代わる。
『蘆花ちゃんはたまたま拾ったのに期待以上だよ!もしかして恋とかしたりして?……キャー!萌えちゃうよう!」
次に死屍累史郎が路地の闇を歩く姿が映し出される。
『あの泥は偽者のクセに無駄に誇り高くて性格に難有りっと……よし!てかコイツ、昔リストとなんかあったきがするなぁ?……覚えてないや!次々(つぎつぎ)!」
次に東京の繁華街にて煌びやかな服装の女性に手当たり次第に声をかける富騰風夜が映される。
『風夜くんは魔術の使い方にセンスを感じるよ!絶対に弱いのに頑張った努力が垣間見れて号泣しちゃう!」
次に月明かりに照らされた一室で写真を手に取り涙している日鞠の姿が映される。
『日鞠ちゃんだ!―――いやお姉ちゃんかな?うんうん、努力家で認められなくて、今はほぼ絶縁みたいな状態だっけ?アッハハ!可哀想!」
そしてしばらくの光は亡くなり、真っ暗闇の黒いスクリーンとなる。そして女はどうでもよいと言うように。
『早々に脱落した3名はもうアレの胃袋の中かな?敗者に相応しいエンディングだね!」
やがてスクリーンは再び映し出され、森の映像が映し出される。深く昏い森。とある深い山間部。だが映し出された映像は安定しなく、黒いモヤに包まれ、モザイク処理のされた映像のようだ。
『……アビィちゃん?ホムンクルスを作るって息巻いていたけど、なんか変なの呼び出しちゃったみたいだねぇ?……アハッ!アハハハッ!想定外だよ!イレギュラー大歓迎!最っ高!」
やがて歌劇場の舞台が空間に浮かび上がる。それは膿みのように湧き出てくる。今までいた映画劇場は深海の泡沫のようにあわやかに消えてしまった。
幕は開いているものの辺りは暗闇が支配しているのみで演劇の直前の静けさのようだ。
『さてさてさぁーて?この魔術戦争は15世紀から続く虚星の神による円卓にご馳走を並べる食事かぁーい。それを渾沌の泥で捻り潰して、粉にして、完膚なきまでにこの戦争の価値を潰す!うーん♪なんてロマンティック!」
残ったポップコーンを周囲へと撒き散らしながら乱舞するように女は踊り狂う。さながら悪魔に取り憑かれた異教徒のように。だがこの比喩はこの女を形容するのにはあまりに不適切だ。なぜなら女は悪魔そのものに近いのだから。
『サァて♪これは玉折の物語!この物語の主人公たちが壁へとぶつかりそれを乗り越えるさまを見てそれをわたしが―――」
スポットライトが女を照らす。白乳色のライトを正面で一身に浴びる女がいる。示し合わせたかのように両の腕を掲げ、舞台から嬉々として無観客の客席に告げる。
『破壊する!ッ……アッハハハ!」
女のその容貌は骰子次第と言ったらいいだろう。
冥界の女神のような純白の長髪でまつ毛まで真っ白で晶石のよう、まるで協調の取れていない白の群像劇だ。それから白皙の肌で連想されるは幽霊のようなこの世ならざるものだ。そしてその眼は透き通った硝子のように透明で、平たく言えば色素がないと言えてしまえた。そして女はリボンを髪飾りのように身につけているが、たれが少しばかり長い。そのリボンは黄金のような色をしていた。
長髪と共に地面につきそうなほどのワンピースもなびく。それはフェイクツーピース、つまり二枚に重ねられたと思わせる一枚着だ。
見る人が見ればコスプレのようにも、学校の制服にも見える一品であるがこの女はそれを可憐に着こなす。
『トゥットゥルー♪ さてさてさぁて……続き続きっと」
指をパチンと鳴らした刹那、空間が歪曲と収縮を経て先ほどの映画劇場へと早変わりする。
女は再び席に着き、ひょうひょうと愉しげに邪悪な薄ら笑いを浮かべながら、どこからが出したかも分からぬコーラを啜っていた。
『前のは録画分だったけど、これはリアルタイムだからねぇー!テンション上がるぅ!」
投影された映像を見て女は先ほどと同じような邪悪な笑みを――――
浮かべることはなかった。
笑みを消した無感情な表情で首を前のめりに画面を眺めて観測者は空虚に言葉をこぼした。
『―――この子、ナニモノ?」




