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黎明前奏そのⅢ

 正義の在処―――をずっと探してきた。


 でも探しても探しても、見つからない深淵。


 私は別に自分がそうやって生まれたからこの役割に徹しているだけ、身の程を弁えて生きているだけなんだからさ。


 神童だったり。


 天才だったり。


 最強だったり。


 与えられたものを活用して、私の身の丈にあったレールを歩む人生。まあ、ほどほどに幸せでしょうね。そこに辿り着けない人たちがいて、でも私には才能があるからその人たちの前を歩かないといけない。でも。


 本当に私である必要あるのかな?


 ふとした疑問が出てきては消え、出てきては消えの繰り返し、そんなことしてたら私の器は溢れてしまいそう。やっぱり勘弁だわ。でも、やるしかないっていうのが本音。


 正義の味方っていうのは訊こえはいいかもしれないけどすごく、なんていうか―――どっと疲れる。正義の味方って要は善人が人助けをするような人のことを言うんでしょ。別に私そんな性格良くないし、志だけだったもっとマシな人いっぱいいるでしょ。


 やってられない―――って感じ。


 それでも与えられたならば、やるしかない。やるしかない。やってればきっと、人を助けていればきっと、そこにやり甲斐や生き甲斐を見いだせるはずだから。


 それでも人を助ける私の意義ってなに?


 私の正義の在処って―――何処にあるの?




※※※※※ ※※※※ ※※※ ※※ ※




「巫山戯(ふざけ)るのも大概にしろ!」


 怒号が屋敷に響き渡った。私の頭にも同様に響き渡る。頭が割れそうなくらいキンキンする。


「我が御園家(ごおんけ)は義を成し悪を粛す。そのために虚星の神の願望器が必要なんだ!この魔術戦争を勝ち残るために下げたくもない頭を下げお前に魔術師をあてがった!なのに―――」


 ああ、来る。もう止まらない。


「殺されているではないか!お前がいながら。神童がいながら。選ばれておきながら―――これで我が御園家には貴様だけだ。直(じき)に来る。アーキタイプか庵野が。」


「お父様、私は―――」


「黙れ!天才のお前がいくら足掻こうと―――化け物には勝てない!魔術戦争には冠位十二台頭が参加しているだぞッ……!お前が“ひとり”で奴に勝てるはずがないだろう!」


 冠位十二台頭。第十一席。リスト・ノート。人類を蝕む悪鬼。人類史において最も悪逆と非道を行い、己の罪科を人間に振りまく災厄。属するに当たるは人類悪。云えば吸血鬼。冠位十二台頭―――それは十二の神の使徒と形容されることが多い。外なる神の信仰者と呼ぶ者もいるがその存在には不確定な要素が多い。だが、一つ明らかに言えることは―――『冠位十二台頭に出逢ったのならば自害しろ』ということだ。それが魔術師の間での共通の認識。


 少なくとも現在の魔術戦争参加者全員がリスト・ノートに闘いを挑みやっと土俵に上がるといったところだろう。だが他の陣営が協力し合えばあるいは―――人類悪に特攻を持った狂騒を奏でる聖柄(ひじりづか)。それは庵野家が持つ宝剣。人間を舐めた奴の隙をつければ、致命の一撃となり得る。この戦争の一つの局面で必ず『リスト・ノート殺し』が出てくるだろう。


 まあ、怪物殺しに関与できず私は死ぬことになるだろう。


 私オンリーが加わるよりもたぶん、殺したほうがいいと判断されると思う。一人だもんね、仕方ない。これに理由はないと思う。仮に殺されずに『リスト・ノート殺し』をやり遂げたとしてもその後、まあ、次に私が殺されるだろう。


「明日にでもお前は殺される。感だが……アーキタイプだろうな。クソッ!クソッ!クソッ!」


 子どものように暴れる。


 子どものように地団駄を踏む。


 子どものように暴れた。


「クソッ……」


 そう言って襖(ふすま)を開いて、ギョッとこちらを睨み倒した後に襖は破壊されんとした勢いで締まり、襖と襖の両方のぶつかり合いにて生じた熾烈音が一度鳴るが、それからは何もなく―――嫌な静寂があるだけだった。


「………………」


 父である。―――怒髪天を衝くとはまさにこのことね。今に始まったことでもないけど。


 父がこんなことになったのは私のせいだ―――魔術戦争。それは血で血を洗う、己の願望を手に入れるための戦い。虚星の神の食卓とも、蠱毒とも形容される。魔術師同士の“殺し合い”だ。その戦いに私―――御園日鞠(みそのひまり)は選ばれた。


 なぜ選ばれたのは私なのだろう。魔術師は私のほかにも沢山いる。それはもう腐るほど。私より強い魔術師なんて探せば―――まあ、いるにはいる。虚星の神が選んでいるんだから、質のいい魔力のほかに判断基準が分からないけど。力量だけなら現当主を超えている―――とかなんとか顔も知らない親戚とか、なんら関係のない外野がほざいたせいでお父様の私に対するあたりは強い。その親戚とか外野とかが私を早期に当主に推薦しているもんだからほんと―――お父様の気持ちもわかる。


 魔術師なんて才能がほとんどだ。そういうお父様は言うなれば凡才寄りなのだろう。それでもたゆまぬ努力で御三家の当主まで上り詰めたんだ。血を吐く努力も厭(いと)わない秀才だ。―――でも私が産まれた。才能があることがわかったのは5歳ほどの時だった。お父様の書斎に無断で入り込み、魔導書を読む。その時の私は単純にお父様が使っていた魔術が綺麗で、憧れて、自分もそんな魔法使いみたいに魔法を使ってみたい―――とか思っていた。まあ、まず魔法じゃなくて魔術だっての!……っていまなら5歳児の私に叱咤(しった)したくなるけど。


 それでだ。


 私は適当に開いたページの、たまたま目に入った呪文の一節を読み上げた。『幽体の剃刀』―――それがその時私が発動させた魔術だった。この魔術は術者の意思により自在に動き、かつ目に見えることのない剃刀状の刃を魔力によって作り出す『呪詛魔術』である。この魔術について正確に述べれば、術者が認識する対象に“剃刀で切りつけたような切傷を負わせる”という魔術だ。本来の能力ならばそこまでの惨事にはならなかったように思う。だが幼かった私は魔力の操作なんて覚えていなかった。出力最大、私の家は大きな屋敷で、庭もそこそこに大きかったのだが、その六割が崩壊した。当時はまだ幼く、魔力総量がそこまで多くなかった事が功を奏したからか、そのレベルで済んだのでまだ良かった方だろう。父が私の魔力の“起こり”を感知して、なおかつ近くにお母様がいてすぐに守ることができたから、幸い怪我人はいなかった。


 こんなのが近親で産まれたのなら嫌にもなる。私の父は間違えていない。当然の反応だ。……当然の。


 それからが天才としての私の人生。神童としての、鬼才な私としての、御園家当主代行の人生。魔術の勉強、勉強、勉強―――とにかく勉強。類稀な飲み込みだったらしい、基本から応用までものの6年ほどで、ほとんどの知識を吸収した。ついでの感覚で体術も習った。健康にもいいしね。


 それがダイジェスト版の私の生涯かしらね。


 我ながらすごいつまんない。


「―――はぁ」


 私は“家”へ帰っていた。半ば追い出されるかたちで家から出たので千鳥足で帰っている最中だ。(ずっと正座をしていたからというのもあるけど)本来の実家とは別の私の家。それはいろいろ理由付けされてはいるものの要は半ば強制的な別居だ。


 古びたアパートの一室。それが今の我が家。無駄に高く、無駄に景色が良い。コンクリートの色が嵩張って少し汚いけど、住むぶんには困らないからそんなでもない。


 階段を登る。無駄に高いからか、ここの登りは毎回体力を使う。こういう日には『ド』がつくほどの迷惑だ。灰色の階段と壁。それと少し土や砂利で汚れた地面。


 4階まで登り、自分の部屋の前まで行く。扉の目の前にたどり着いた。ポケットから鍵を取り出す。鍵穴に差し込み―――回す方ってどっちだっけ?ていうかこのくだり前もやってた気がするわ……。右に回したら違ったので左に鍵を回し自分の家へと帰った。


 「ただいま……」


 返事などは当然返ってこない。一人暮らしなのだから当然だ。虚空にただ消えていくだけの声だ。それでもやっぱり習慣というものは消えない。消えてくれない。逆に返ってきたらそれはそれで怖いけど。


 生活感などない自分の部屋。これが本当に女子高生(ジェーケー)の部屋か?草臥(くたび)れた部屋ね。まるで社畜の部屋じゃない。今日は疲れたな。洗濯物溜まってるな。……今度でいっか。あっ、そうだ数学の課題があるんだ。明日までだったよなぁ……提出期限。ご飯食べたらやらなきゃ。はぁー、お腹すいた。ご飯なにかあったけ。冷蔵庫のなかは―――なにもない。冷凍食品すらないじゃない。作るのはめんどくさい。あー、カップ麺でいいや。担々麺で。えっと薬罐(やんかん)に水を入れて、コンロの火をつけて、強火でそのまま薬罐を置く。そうだ、沸くまで課題やっとこ。―――やば、内容忘れちゃった。復習し忘れたからなぁ。教科書どこだっけ。えーと、鞄の中に……あった。何ページだっけ、うー、あっそうそう191ページ。公式だ。とりあえず公式書いて、当てはめるだけね……。最後に代入するんだったわよね、そこは覚えてる。数学って小難しくてあまり好きじゃないのよね……。えーと、次も同じかな。当てはめるだけ。―――あっ、沸いてる。薬罐から湯気が出ていたのでコンロの火をとめる。それで、カップ麺に加薬をぶち込んでお湯を入れる。3分だから、課題やるにしても短すぎるし……適当にテレビでも見よ。―――あんま面白くないわね。最近の流行りって私何がいいのか分からないのよね。タピオカってミルクティーにカエルの卵みたいなもの入れただけでしょ。言うほど美味しいのか?あれ。あー、3分過ぎた。まあいいや。うん、美味い美味い。テレビ消そ。ポチッっとな。そうだ飲み物。麦茶ペットボトルであったわよね。冷蔵庫、冷蔵庫っと。よしあった。コップに入れてーと。って痛ッ!あーまだこの傷、痛むわね。―――っぷはー。喉渇いてるの忘れてたわ、ってどんだけ注意散漫なのよ、私。はあ、さっさとラーメンの残り食べちゃお。うん、美味い。あんま体に良くないけどスープも全部飲んじゃお。―――ふー、ごちそうさまでした。流し台(シンク)にぽいっとな。そういえば今日の分の洗い物まだしてないな……また今度でいいか。えーと課題ぃ、課題ぃーと。ほんと無駄に問題数あるの勘弁してほしいわ。佐藤先生が作るとだいたいこんなだから、誰か違う人をご所望したいわ。これじゃ佐藤先生アンチみたいだわ、私。そんなことより課題進めなきゃ。―――問18までなんとかいったわ……!あと少し、あと5問よ!このペースでなんとか進めていけば3時くらいには間に合うはずだわ!ちょっと、一区切りしようかな。根詰めすぎたし、いったん休憩。〇〇(なんとか)さんが言ってたけど5分休憩が勉強に良いらしい。私もそれに倣うとしますか。私の場合、何時間もぶっ続けだったわけだけど。ベランダでよ。夜風に当たれば頭も冴えてくるでしょ。……ふぅ。気持ちがいい。相変わらずここの景色、無駄にいいのよね。無駄に高い良いところって感じ。さてと―――もう人踏ん張りますかぁー。




※※※※※ ※※※※ ※※※ ※※ ※




 白い。


 目の縁というべきか、なんというか、例えるとユーチューブの動画が映し出されている画面全体の四角形を形作っている角に白いモヤがかかってるみたい。


 そう、これは記憶。厚く剥がれない、自戒の記憶。思い出したくもない、思い出さずにはいられない。己の脈動が証明する。あの時の絶望を。これほど己の運命を呪ったことはない。去れども―――


 これは破片(かけ)なのだから。


 ―――平家は星を見た、■■■は泥を見た。


「ひーまり!」


 そんなふうに声をかけるのは同じ魔術戦争の参加者にして、御園家陣営に所属する魔術師。アリス・メルト。使用する魔術は『溶解する女師(メルトリリス)』。特殊酸性の体液を分泌し、分泌した体液を自在に操る能力を秘めている。本人は自分で創っておきながら『この魔術ベタつくから嫌なのよね。せっかく仕立てた一張羅(いっちょうら)が台無しになっちゃう』とか抜かすクソバカアホマヌケではあるのだが、まあ話していて楽しいし、同年代ということもあって私の初めての友達ということになる。まあ、確かに一張羅と言い張っているのだからそれなりにいい服なのだろう。どことなく高そうな雰囲気―――私にはわからないけど。


「なによ、アリス」


「あそこの車でクレープ売られてるよ!食べようよぉー!」


「そのお金はいったい誰が出すのかしら?」


「えっと……それは。よろしくちょ☆」


「ざっけんじゃないわよ!銭ゲバ女ぁー!」


 アリス・メルトとかいう女。こいつは茶髪のツインテール。私、ツインテールってどうにも馬の手綱に見えてならないのよね。―――そう、私はこの銭ゲバに飛び掛かった。そして背後にモノの見事に回り込み、ヤツの手綱(ツインテール)を馬の手綱を引くように、それはもう可憐に髪の毛をぶち抜く勢いで引っ張った。―――というか2日前にもアイス奢ったじゃない……!まだお金返してもらってないし!


「いいから金返せー!このオグリキャップ!」


「誰が馬面だッ―――て痛たたたたたたたた!?毛根抜ける、禿げる!ごめんなさいぃー!」


「はい、そこまでにしてください」


 そう言って仲裁に入るのは病的なまでに白い肌をした三白眼の男なのだが―――それはこの魔術戦争の参加者にして『天秤の刺客』の異名をもつ魔術師であり暗殺者、そして御園家陣営に所属する魔術師……いや、暗殺者か。


 秤十花(はかりじゅっか)。使用魔術『剣なき秤は無力(テミス)・秤なき剣は暴力(ユースティティア)』。効果や能力は本人の希望により、明かしたくないらしい。曰く『これを知られてしまったら、私の本来の仕事の方に差し障るので。大変無礼とは思いますが明かすことはできません』と言われてしまったので、深く聞くことはしなかった。あのクソバカアホマヌケよりもしっかりとした理由付けだ。


「クレープに関しては私も食べたいと感じていました。ここは私が奢るのでみんなで食べませんか?」


「うおぉー!秤さん太っ腹ぁー!」


「ちょっ、いいんですか。悪いですよ」


「気にしないでください。私が食べたいだけなので。それに皆(みな)で食べたほうが美味しいと相場が決まっています。日鞠さん、ここは遠慮せずに、私の顔を立ててくれたら嬉しいです」


「そうだよ、日鞠!ここは秤さんの顔を立てるべきだよ!」


「あんたは食べたいだけでしょうが!―――その、ごちそうになります」


 そんなこんな、秤さんに奢られることとなり、クレープをいただくこととなった。そんなことしてる暇あるのかな……?やっぱり本来の目的忘れてない?まあ途中まで私も忘れてたけど。


 本来、私たち御園陣営は原則三人で行動するよう当主から言われている。だからここ一週間ほどは学校を休んでいる。そんな私たちはこの東京のあらゆるところに結界を張り巡らせていた。結界を張ることでどこで敵と戦う事となっても自分たち有利に戦うことができるからだ。言うなれば準備だ。備えあれば憂いなしの精神で万全を期すべく東京を駆け回っていた。―――まあ、私たちの行動範囲内である文京区だけであるが。


「うんまぁーい!甘くておいしい!やっぱクレープと言ったらバナナにチョコソースよね!はんまぁーい!」


「黙って食べなさいよ。あとクレープと言ったらイチゴとカスタードクリームよ。異論は認めないわ」


「あぁーん?喧嘩は買うわよ?」


「えぇ、望むところよ?」


「なんで貴方方(あなたがた)は二言(ふたこと)目で喧嘩腰になるんですか……」


 それはさておき、閑話休題。


「さてお腹も膨れたところでそろそろ、本題に戻るわよ―――……戻ります」


「なんの話だっけ?」


「結界を張る話ですよ。というかさっきまでやってましたアレです。さすがにしっかりしてくださいアリスさん」


「ごべんなさい……」


 こいつ秤さんには聞き分け良いんだよな。私にもこのくらい可愛げがあればいいのに。いや、それはそれで気持ち悪い。


「ふふっ」


 ―――御園日鞠はそんな日常の間奏に過ぎないことで思わず笑みがこぼれた。本当にどうとでもないことだ。ほっぺにクリームがついた彼女の微笑みは幼童らしさを秘めていた。今まで溜めていた分を、まさに今吐き出しているように。


 それは罪のようにも感じ取れた。然(しか)しながら彼女の内にある衝動のようなものは留まらない。『今まで我慢してたのだからちょっとくらい―――』そんな気の持ちで辺りの警戒を多少ながら疎(おろそ)かにする。


 しかし仕方ない。


 どこまでいっても彼女は“十六歳の少女”なのだから。


「笑うなぁー!」


「あ、日鞠さんクリーム付いてますよ」


 鬱陶(うっとう)しく騒ぎ立てるアリスを傍らに無視しながら、秤は日鞠のほっぺに付いたクリーム取ろうとする。決して他意があるわけではない、ただ純然とした気持ちだ。


 ただ日鞠はその言葉と十花の最初の予備動作でどういうことをしてくるかは見て取れたので、速攻で自分で頬に付いたクリームを腕をデタラメに動かして拭き取り何でもないふうを装った。俗に言う照れ隠しであった。


「―――ごほん!……続けます」


 とりあえず気を取り直しという感じで。


「結界を張る場所はあと一箇所です。これで少なくとも御園家周辺は張り終えます」


「そうだねぇ。さっさと張っちゃって。どっか遊び行こ」


「戦争してるのですから無理に決まってるでしょう?」


「圧が強いよ……秤さん……」


 そうして歩きながら、結界を張る箇所へと急ぐ。文京区の人気(ひとけ)のない住宅街だ。さっきまで晴天だったが雲が立ちこめて曇天となる。雨でも降るのかと日鞠は思った。天気予報はどうだったか―――


「急に暗くなったね」


「そうね。今日の天気予報どうだったかしら」


「すみません、私天気予報見ないんですよ」


「まぁー…いっか。それじゃ、術式を刻むから少し待ってて」


「―――ん?すみませんなにか変では……」


 疎かになっていた―――と前述したが日鞠は度重なる結界術の使用で少々疲弊していた。通常結界術は才能ある魔術師しか使えない。同様に『アリス・メルト』や『秤十花』は結界術を使うことはできない。なのでこれまでも日鞠がやることとなっていた。オールラウンダーな日鞠は結界術も使用できた。結界術は魔力を通すための回路を編むのが難しい。なので通常の魔術よりも疲労する。


 それでも献身的ともいえる熱で彼女は結界を展開しようとする。だが―――


「結界がもう既に張られている―――」


 アリスや秤と違い、いつも通りの日鞠ならば結界内に入った時点で気づけただろう。―――備えが疎かになっていた。自分自身をも。


「日鞠さんッ!」


 刹那、日鞠が言葉を言い終えるよりも先に秤がもう走っていた。猪突猛進の如くに日鞠を突き飛ばし、はね飛んだ日鞠は地べたへと転がる。


 ―――パキッ。


 ナイフのように鋭くソプラノのように高い、ガラガラに乾いたクラック音にも比類した破裂音が鳴り響いた。それはソニックムーブだ。とてつもない爆発音。音に奥行きがあったため何処からか遥かなる場所から撃たれたものだと感じる。それはスナイパーライフル。


 穿たれたのは魔術を被った明星(みょうじょう)。


 音速を超えた迅雷の如き霹靂の弾丸。


 それは仕方なくも、秤の脳髄を貫通し、血潮と脳味噌を撒き散らしながら、ほんの一瞬のうちに絶命した。彼の最期の光景は偶然にも日鞠の眼(まなこ)だった。早々に唖然とした、それでいて輝いていた聖剣のような煌めきを。


 ―――嗚呼、ごめんなさ………―――


「あ…ぁあぁぁぁああああぁああぁぁあぁ!」


「アリス!おちつ―――」


 二度目の刹那、電豪雷轟(でんごうらいごう)の鳴動が空気を空間を世界を欠片(かけ)にする音。破裂、苛烈、爆裂―――それを繰り返しながらナニカがこちらへと急接近する音だ。二人分の防御は間に合わない。即座に魔術を展開しなければ死ぬ。そうした瀬戸際の状況を突き付けられた日鞠の脳は既に思考を切り替えていた。魔術師の思考へと。


 ―――超高速の物体が此方(こっち)に向かって来ている。


 ―――アリスと私、二人分の魔術を展開するのにはもう間に合わない。


 ―――あらかじめ敷いておくべきだった!私のバカ野郎!


 ―――あ。


 ―――これはもう。


 ―――仕方な、い。




※※※ ※※ ※




 邂逅。相まみえたその姿は儚かった―――明らかな存在感があるはずだ、魔力量も馬鹿にならない、白群の色は太陽のような光球が迸(ほとばし)りながら遥か上空まで立ち込めている。だが薄い、儚く感じたのはそれだ。膜が薄い、触ればプチっと中身が溢れてしまいそう。


 艶(つや)のある白銀の髪、立ち込める魔力自らので靡いている。赤を基調とした装束に感情のない無機質な表情。藍色の瞳には萱草(かんぞう)の楕円が三の数刻まれている。


 それは神話のようでした。


 それは月経のようにブチッと、プチトマトを噛み潰したようなものだ。広がる傷んだ赤。深いスカーレッド。紙をビリビリに破る―――それはもうこれ以上ない最悪なさまで一刀両断。


 彼女の、アリスの身体は下半身の臍(へそ)のあたりから悪戯(いたすら)に断裂されて―――泣き別れで、亡き別れで、哭き別れだった。剥き出しになった肚(はら)の中は詰め詰めになった腑(わた)が雨のように舞う。赤い雨なんて初めてだ。―――臓物の雨なんて。


 ―――私がソレを認識するのは攻撃を受けたあとだった。天変地異にも似た斬撃を私は魔術を展開して防いだ。


 『石の剣(カリバーン)』。アーサー王伝説、彼(か)の黄金の剣、果てには選定の剣になぞってそう名付けた。贋作、模造品だ。


「………………………………」


 ―――私は見捨てた。


 ―――どう足掻いても二人分には間に合わなかった。


 ―――それでも私は自分を守った。


 ―――それをアリスにも使えたはずなのに。


 白亜の国(アルビオン)―――との激突。


 赤く染まった情景の間で相まみえた両者は魔力を研ぎ澄ませる。日鞠の黄金の魔力が渦を巻くように立ち込める。高潔な黄金色だ。それに対抗するのは白亜の国(アルビオン)。立ち込め続ける魔力は一層強まり続ける。


「あなた知らない奴ね。名前は?」


「―――蝋燭坂蘆花(ろうそくざかろか)」


 名の知れた魔術師であれば日鞠が知らないことはない。―――こんな破壊力を持つ魔術師が今の今まで隠れていた?魔術戦争が起こるまで?―――日鞠はさまざまな可能性に思考を広げる。だが結局、情報を知るには本人の口から聞けばよい。


「情報を喋る気はある?例えばお仲間の場所とか」


「ない」


「あ、そう」


 瞬きする間など到底なく、黄金の剣七つによる、言うなれば長距離自動追尾弾が穿たれた。雲が渦を巻き裂かれながら星々の煌めきを放つが如くに、青空と黄金が同居する。灰色の雲はそこらに散らばる。隕石群のように空を一閃に駆け抜けていく黄金の剣は遠く離れた結界内ギリギリの住宅マンションの一室に着弾する。


 天秤の刺客である秤十花を終わらせた弾丸―――その意趣返しのようなものだった。日鞠は現在、体力も魔力量も擦り減っている、だがしかし、魔力の意識が敏感になっている彼女の前では魔力の些細な起こりでも感じ取れてしまう。たとえ、それが遥か遠くのマンションであろうともだ。


「はい―――次(・)」


「………………………!」


「なによ。そんなに驚くことかしら」


「なぜ場所が―――」


「あなたのお仲間って魔力操作雑いでしょ。ビンビン洩れてたわよ」


「……………………」


 ―――ふざけるな。この住宅街からマンションの一室まで何メートル離れてると思っているんだ!


 ―――平塚が……殺られた……!


「あと、この結界ってたぶん誰の魔術でもないでしょ?現実を侵食して法則を自分たちの有利に働くようにする結界。おそらく神代なんかに創られた聖遺物とか使ったんじゃない?どう、当たり?」


 完全な事実であった。初手で殺し損ねたタイミングでもう勝機などなかった。


「―――ははッ、これが神(・)童(・)」


「これだから神童なのよ」


 解析能力・探知能力・考察能力・魔力総量・諸般魔術―――どれをとっても、どんな魔術師よりも圧倒的に潜在能力(ポテンシャル)が違う。これでもまだ彼女は魔術師としては発展途上なのだ。本当に末恐ろしいと思う。


「けれど今のあなたとやるのは草臥(くたび)れる」


「あなたって頭おめでたいのね―――私から逃げられると思ってる」


 日鞠は黄金の剣を既に展開し終えていた。天星のように、空を走る星のように剣を射出する。蘆花は眼前でそれを捉え―――避けた。そして途轍(とてつ)もない空気の上昇気流に似た風圧が巻き起こる。すでに彼女の姿はない。


 最後には木霊(こだま)のように消えた言葉が微かに響くだけだった。


「“白亜の国(アルビオン)”」


 その名を残して。


 消えていった。


 死体だけが残った住宅街。


 これが魔術戦争。


 ―――その序。


「………………………」


 日鞠は何かしようと動こうとすることはしなかった。ただ自分の周辺にある死体を見つめているだけだ。感情の籠った表情ではない、これが舞台上の道化であれば大根役者もいいところだ。―――仲間の死に涙一つ流さない、なんて薄情者なのだろうか。


 脳味噌と血潮を撒き散らされ、無残にも転がる躯(むくろ)はただただ光のない虚空を見つめるだけ―――逆に紙細工のように悪戯(いたずら)に下半身を引き裂かれた死骸は自身の循環する血液をひたすらに絞り続けている。その循環に終わりはない、最凶に広がった血の海に浮かぶ塵の粉末がそう告げているかのようだった。


 死人が転げたこの鉄臭い水溜まりに、ふと、一粒の雨粒が零れた。それは一滴、ニ滴と渦を巻いた空の上空から零れ落ちてきており、雨の哨戒は続く。―――ただ強まっていく。地面には砂に描いた絵が波に洗われるようにスカーレッドが色褪(いろあ)せていく―――幻惑の対価とでも言いたげに。


 死を身近に感じさせる淡い鉄液は呆然としてる三流道化の足元を深紅に染め上げる。観る者が観れば、それは芸術ともとれるのかもしれない。目に何も映らない愚か者はどうしょうもない。


 ―――脚が崩れる。


 広がる深紅が愚か者の膝を、脚を、服を、裳を苦汁で浸す。ひたひたと雨音は止まない。この神童と持ち上げられた愚者は己が無力感で脱力している―――問う原罪。


 雨という灰の低コントラストにスカーレッドの陽気さは相容れない。『あの状況で私のできることは少なかった』と不甲斐なさを牽強付会(けんきょうふかい)する。持ち上げられたからといって、魔術師として成功が約束された神童だからといって、所詮は彼女も少女なのだ。


「ぁ………………………」


 ―――ひーまり!


 ―――日鞠さん。


「ぁーァあぁ゙ぁーーあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁあああぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁああァァぁ゙ーァああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁぁぁぁーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁあああぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁああァァぁ゙ーァああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁああァァぁ゙ーァああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁぁぁぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙ああーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあぁぁぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙あぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙ああーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあぁぁーーぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙ーーーあ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙ああーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁーーああああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁぁぁぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙ああーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁああああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁぁぁぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁあああぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁああァァぁ゙ーァああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁぁぁぁーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁあああぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁああァァぁ゙ーァああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁああァァぁ゙ーァああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁぁぁぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙ああーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあぁぁぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙あぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙ああーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあぁぁーーぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙ーーーあ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙ああーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁーーああああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁぁぁぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙ああーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁああああア゙ア゙ア゙ぁ゙アァ゙あ゙ァぁあぁぁぁぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァーァあぁ゙ぁーーあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁあああぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁああァァぁ゙ーァああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁぁぁぁーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁあああぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁああァァぁ゙ーァああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁああァァぁ゙ーァああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁぁぁぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙ああーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあぁぁぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙あぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙ああーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあぁぁーーぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙ーーーあ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙ああーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁーーああああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁぁぁぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙ああーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁああああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁぁぁぁあーァァぁ゙ァァぁ゙ァ゙ァあぁあァーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁあああぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁああァァぁ゙ーァああア゙ア゙ア゙アァ゙あ゙ァぁあぁぁぁぁーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあァ゙ァ゙あ゙あアァ゙ぁぁァ゙あ゙ァァ゙ァ゙ぁあああぁあァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ゙ア゙あ゙あーァ゙ぁあーあァァ゙ア゙アあアァ゙あ゙ーーァ゙ぁあぁァァぁ゙ーァああぁあァァぁァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァぁァァ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 幻惑の対価。


「………死ね」


 愚者の驕り。


「………死ねよ」


 破滅を問う原罪。


「………死ね」


 彼女を雨が浸す。それは詩人からみれば眼から涙を流すように観えただろう。だが、そうではない、“かわいそう”なんて生暖かいな言葉では形容できない。


「自分だけ!自分だけ!自分だけ!自分だけ!自分だけぇ!―――ァァァ゙ァァァァァァ゙ァ!」


 愚か者は地面に敷かれたコンクリートを何度も、何度も、何度も殴りつける。自戒のつもりなのだろうか、思い違いも甚だしい、己の身の程を知っての狼藉(ろうぜき)なのだろうか。


 肉は裂け、骨は軋み、それでも止めようとしない。これでは辺りの血肉が誰のものか分かったものではない。最後の最期でお仲間と交わりたいとでも思ったのだろうか。そちらの方がまだ幾分かマシというところだろう。


 愚かしい。


 叫ぶ少女を傍らに、コンクリートの端では赤く染まった二輪の白百合は今なお―――懸命に咲いているというのに。




※※※※※ ※※※※ ※※※ ※※ ※




 「……っあれ、私」


 ズキズキした痛みで目が覚めた。どうやら眠ってしまっていたらしい。


「はぁー最悪」


 まだ課題やり終えてないのに。


「寂しい」


 ふと棚の上に乗せた写真立てが目に映る。一枚の写真は大切に置かれていた。月明かりに照らされて、よく見える。日鞠は写真立てに歩み寄り、手に取り、眺め、その情景を思い出す。


 ―――確か、みんなで初めて遊んだときの……。


 ―――アリスって、顔丸いから全然馬面じゃないわね、売り言葉に買い言葉だったから何言ったかも覚えてない。


 ―――秤さんには迷惑ばかり掛けたわ。アリスと私の保護者って感じですごく頼れて、そのせいか私たちも思う存分喧嘩して、やっぱり迷惑かけて。


「……………………」


 写真にポタッと水滴が落ちる。


 表情を変えず彼女は泣いていた。


 涙が溢れ落ちる時には悲しい音を奏でていた。


 涙が落ちるたびに「もういないんだな」と実感してしまう。


 彼女はだから静かに静かに泣いた。


 ある日の思い出を思い出して。


 憧憬(しょうけい)の想い出を想いながら。


 去れども、それは。


 この夜に芽吹く、運命の夜に至るまでの前奏だ。







話数を増すごとに文字数が増えている気がする……。

とまぁ、作者の諸事情なんかは台所にでも置いといて、黎明前奏そのⅢはどうでしたでしょうか?黎明前奏はあと一幕あるので楽しみに―――といいたいところですが、正直黎明前奏Ⅳにいたっては御三家以外の陣営の話なんですよね、それで何が言いたいといえば、この四つの話の中にまだ主人公は出てきてないのですね。

いや、僕自身はこの物語の語り手たち、ひいては魔術戦争参加者の全員が主人公と思っているという限りなのですが、あくまでメインの主人公はまだ出てないよ、ということを伝えたい次第でした。書いてて楽しいのがいけないですね。僕が書いてて一番楽しかったのは『リスト・ノート』でした。化け物の思考や嗜好を書くのが好きなのかな?と思いましたが証明するには至っていません。僕が僕のこと一番わかってないんでね。


というわけで亡くなってしまった。『アリス・メルト』と『秤十花』について語りたいと思います。主に魔術のことについて。厨二病なんで捗りますネ。すごく。だからこそこの場で消化したいと思います。


・アリス・メルト

『溶解する女師 (メルトリリス)』という魔術を使います。身体から特殊な酸性の体液を分泌(毒性を帯びているが自身は効かない。毒蛇が自分の毒で死なないのと一緒)それを自由自在に操ることができる。有効射程距離は最大15m弱ほど。体液は酸性の毒なんで、体内に入れば間違いなく死にます。長くとも15分ほどで死に至ります。血清もいちおう作れますが、材料がアリスの血液とさまざまな魔術的な材料に加えて、医学と魔学の両方の知識を用いて作られるので大量に作るのはまず無理。射程内だと味方を巻き込んだりすることがあるので集団戦には不向き。そんなアリスの魔力量は通常の魔術師の1.4倍ほど、平均よりちょい高くらいですね。彼女は中距離特化の魔術師ですね。それでも日鞠が遠距離から高火力の剣をぶん投げていれば全然余裕で負けますけど。育っていけば有望な魔術師になったでしょう。死んだけど。そんなアリス・メルトの魔術の元ネタというか参考にしたのはボカロ曲でもある『メルト』です。



・秤十花

『剣なき秤は無力・秤なき剣は暴力 (テミスユースティティア)』という魔術を使います。この魔術は発動すると片手に天秤が現れます。そこから射程距離10m以内に入り、一分間その距離をキープし続けることで発動します。その効果は対象の魔力と自身の魔力をちょうど半分に、公平に分けるという能力です。この魔術は雑魚向けではないですが魔術師における圧倒的強者と渡り合うことができます。あとはその魔力をどう使うかは十花次第ですが、基本的にこいつは身体強化に魔力を使います。対人戦に向いてるんですよね、暗殺者のくせに。ですがまぁ、デメリットは発動条件ですね。前述で強者と渡り合えるとか言ってますが、そんな強い奴と戦ってる最中に常に10mを保つって、ぶっちゃけ難しいですよね。まぁ一分なんで頑張れなくもないと思います。そんなジャイアントキリングを狙える魔術です。プラスで秤に関しては魔術の素養や魔力量なんかは明らかに日鞠のほうが有利ですが、なんでもありの殺し合いだと7割くらい秤が勝ちます。やっぱりどうしても経験の差が出ますね。まあ、時間が経って日鞠が魔術師として成長してしまえば、秤が勝てる見込みはほぼ潰えますけど。魔術の元ネタというか参考にしたのは呪術廻戦に登場する日車寛見の使う領域展開である『誅服賜死』です。


ちなみにちょっとした小話でアリスは日鞠にアイス買ってもらって金を返してもらってないみたいな話があったと思いますが、当然アリスは死んでしまったので日鞠はお金を返してもらっていません。

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