99、試験の重圧と来春のメニュの追加
お父様とお母様が王都に向われて8日が経った。
今日は学院の試験日。
もうネージュと一緒じゃないの。
以前のようにアンの魔力を持っていく時があるから、念の為聞いてみた。
「一緒に学院まで行く?」
「ピィピピ」
・・・行かないと即答だったよ。
学院でじっと待っているのは、退屈だよね。
最近はキリーと外にいることが多く、夜になってもネージュが戻ってこないことがあった。
心配で、ユーゴに探してもらったら、キリーと一緒に庭で寝ていたらしい。
ネージュは屋敷の中で大人しくしているより、キリーと一緒に外にいた方が楽しいのだと思うことにしたの。
寒い日はネージュにくっついて寝ると、暖かくてよく眠れた。
これからの季節はネージュがいないと寒い。
・・・でも、寒いだけじゃないの。
一人で寝るのはちょっとだけ寂しい。
庭にキリーとネージュが寝る小屋を作りたいと言ったら、お母様に無言で首を横に振られてしまった。
庭の景観が壊れるからだめだと、後からお父様が教えて下さった。
ネージュの成長を見ながら、厩舎を借りるかどうか検討したほうがいいだろうか?
もしキリーより大きくなったら、龍舎のほうがいいのかな?
ネージュに会いに行くと言って、龍舎を覗けるかもしれない。
あれ?ネージュがキリーより大きくなったら、ネージュにも乗れるよね?
確か「大きくなったら乗せてくれる?」と聞いたら、ネージュが「うん」と言った気がする。
先々の楽しみが増えたかも。
ネージュは学院に連れて行かないから、ソフィの同行も不要になった。
馬車にはユーゴと乗り込み、マクサンスとジュスタンと屋敷の護衛は馬でついてくる。
王都の学院に行く時も、こんなについてくるのだろうか?
お父様は相変わらずアンに過保護だよね。
「ユーゴ、今日は試験が終わったら、真っ直ぐ門に戻るね」
「わかりました」
屋敷に帰ったら考えたいことがあるから、帰りの寄り道はしないと決めていた。
今回で9回目の試験になる。
1つの間違いも許されない。
毎回満点を取ると決めたから、今回も慎重に受けないとね。
少し緊張しながら教室に入ると、ジルベールさんとコレットさんが既に来ていた。
「アンジェルさん、勉強会の時はたくさんご馳走になり、お土産までいただきありがとうございました」
ジルベールさんがお礼を言うと、コレットさんも一緒に軽く頭を下げていた。
ジルベールさんの護衛は、一人ずつ交代でヴァンルージュを飲みながらポテトチップを食べていたらしい・・・やはりお酒のおつまみになっていたよ。
年齢を問わず人気で何よりだ。
ポムドゥテールは来年から収穫量を増やすように、お父様に伝えておこう。
コレットさんは、寮に着いたらすぐにポテトチップを半分に分けたと胸を張って言っていた。
・・・無事に護衛も食べることが出来て、これも何よりだ。
ジルベールさんとコレットさんは、寮にいる時も一定量のお水を持ち上げる訓練を続けていて、以前よりこぼれなくなったと嬉しそうに話してくれた。
アンも頑張っていることを話そうと思ったら鐘が鳴ってしまい、メルセンヌ先生が試験の束を抱えて教室に入ってきた。
学科の試験の半分が魔法操作の問題だった。
周りの人には言えないけど、コピーをしたり植物を育てたり、それにお水まで持ち上げているのだから、難しくはなかった。
実技も操作系だったら、すぐ終わりそうだよ。
たぶんジルベールさんとコレットさんも学科は余裕で満点だと思う。
それでもアンの方が書き終えるのは早かったようだ。
いつものように答案用紙を提出すると、先月の答案用紙が戻って来た。
「今回も満点でした」
ホッとして、そっと息を吐いた。
「良かったです」
「毎回満点のアンジェルさんでも、緊張するのですね」
メルセンヌ先生が笑って言っていた。
「答案用紙が戻る度に緊張します。連続で満点を取り続けるためには、1つでも間違いがあってはならないですから」
「・・・アンジェルさんはよく頑張っています・・・それと王都の学院の説明書を渡します。まだ決定ではありませんが、先月受けた試験結果までで、規定を満たしている生徒に用紙を渡すことになっています。制服の用意もありますから、ご両親にも目を通してもらってください」
「わかりました」
メルセンヌ先生に軽く会釈をして教室を出た。
図書室に行って、いつものように本を読みながら時間を潰していたら、ジルベールさんが声をかけてきた。
「アンジェルさん、お待たせしました」
ジルベールさんは用紙を手に持ったまま、嬉しそうにやって来た。
王都の学院の説明書だよね。
「ジルベールさんもいつもより早いね」
そう声をかけたところで、コレットさんもやって来た。
「今日は前回より、凄く早く終わったわよ」
コレットさんも用紙を手に持ったままやって来た。
最初はいつものように前回受けた試験結果を教え合った。
ジルベールさんはアンと同じく、学科実技ともに満点。
連続満点を摂れたことを喜んでいるから、まだ満点を取り続ける重圧はなさそう。
コレットさんは学科が満点で、実技が199点。
先月より1点上がって合計399点・・・あと一点で満点になる。
コレットさんは魔力量が少し増え、制御もかなり楽に扱えるようになったと言っていた。
少し増えたと言っていたけど、凄く増えたと思う・・・努力しているはずなのに、大変だと愚痴ることもない。
魔力を増やすことを楽しんでいるように見えた。
「あと1点ですから、きっと満点が取れると思います」
「次回は満点取れそうだよね」
「二人ともありがとう。水の移動や制御の訓練を毎日頑張っているの・・・満点まであと1点・・・。午後の実技は気を引きしめないと・・・」
「僕も一定量の水を持ち上げる操作を何度も練習しています。制御もかなり必要としますから、凄くいい訓練だと思いました」
「そうよね・・・頑張るわ。アンジェルさんは学科実技ともに満点だったのでしょう。連続って凄いわよね・・・満点とっても次に連続と言う重圧があるのね」
コレットさんが珍しく遠い目をしていた
「3人で重圧を背負って王都を目指そうね」
にっこり笑って言ったら、ジルベールさんまで遠い目をしていたよ。
ジルベールさんには必要以上の重圧を与えてしまっただろうか?
お昼の時間になり、3人で食堂に向かうことにした。
散々迷って、結局前回食べて美味しかったお魚を、また頼んでしまった。
・・・食事の選択ができない自分がちょっと悲しい。
来月の冬の試験の時には、学院専用メニュが食べられるだろうか?
今度は迷わず選べるといいな。
ここの食堂に来るのもあと3回。おすすめメニュのお魚と学院専用メニュだけを食べて終わりそうだ。
昼食を終えて教室に向かう時、ジルベールさんとコレットさんに実技試験が終わったらまっすぐ帰ると伝えた。
午後の実技試験は前回の成績上位者から始めるから、いつもアンが最初に受ける。
実技は物質の移動操作だった。
物を移動させるだけの操作で、物体と言っても紙や布などを容器に入れるだけだ。
簡単すぎて一瞬で終わってしまった。
魔法担当のデュポア先生が目を丸くしている・・・もしかして難しい操作だったのだろうか?
毎日一定量のお水を持ち上げて、小瓶に入れる操作をしていたせいか、何の苦労もなく動かしてしまったよ。
デュポア先生が笑いながら「合格です」と言った。
「ありがとうございます。では失礼します」とお礼を言って、いろいろ聞かれる前に教室を出た。
寄り道をせず門に向って歩いていたら、ユーゴが慌てて待合室から出てきたのが見えた。
「体調を崩されたのですか?試験は受けなかったのですか?」
門に着くなり顔を覗き込むようにして質問されてしまった。
「物質の移動だから、すぐ終わったの」
「あー・・・アン様なら目を瞑っても出来ますね」
笑いながら言っていた。
ユーゴが凄く心配したことで、ずっと熱を出していないことに気が付いた。
「ユーゴ、アンは凄く丈夫になったよね」
「凄くという程、頑丈ではありませんよ。ご令嬢の普通に近づきつつあると言う程度だと思います」
・・・普通に近づきつつある程度?それを丈夫とは言わないらしい。
屋敷に戻ってから、お店のメニュのことを考えていた。
春からフレーズを使った限定品が、また始まる。
このまま同じメニュを繰り返していこうと思っているけど、新しい商品も欲しいと思う。
ブーランジェリー・マシロ店のパンも新商品を作りたい。
定番品を増やすか、季節限定品を増やすか、考えようと思う。
秋の3の月の3週目の終わりに、東の畑に行ってオランジュとスィトロンをアン一人で育てた。
ネージュはキリーとどこかに行ってしまい、畑には来なかったの。
もうカナールたちも南に向かって飛び立っているはずだから、静かな湖で遊んでいるのかもしれない。
大きく育ったオランジュとスィトロンは、ユーゴ達と屋敷の護衛に収穫してもらい、ノール本店に届けるように頼んでおいた。
温室の完成が今月の末と聞いている。
収穫が遅くなると料理人の負担が増えるから、先に届けたほうがいいと思った。
冬の1の月に入ったら、温室で果物を植える予定だよ。
フレーズは少しだけ植えて、ペーシュとポワールは各1本、ミルティーユとオランジュとスィトロンは数本植えようと思う。
フレーズやペーシュなどの果物は時期になれば裏の畑で採れるけど、季節の最初の月にすぐ収穫が出来るかどうかわからない。
アンは来春から王都に行くから、魔法で早めに育てておくことが出来ない。
温室で早く育ったものを収穫して、使ってほしいと思ったの。
冬の月に入ったら、やることはたくさんありそうだ。
部屋でこれからの予定を考えていたら、バスチアンが来て「学院の食堂で、学院専用メニュが始まるそうです」と知らせてくれた。
今月の4の週から始まるらしい。
来月の試験の日はアンも食べられる・・・楽しみだよ。
今度は迷わず選べるといいな。
そう言えば、学院の食堂でいつどのメニュを出すのかは聞いていなかった。
アンが行く赤の日は、学院専用メニュになっているだろうか?
いろいろ考え事をしていたら、少し疲れてしまったよ。
少し休憩しようと思っていたら、またバスチアンが来て「ペレトリー伯爵の護衛が来ています」と知らせてくれた。
ラウルかな?
お土産を用意するように伝えて、急いでエントランスに行くとラウルがいた。
明日の夕方にお父様とお母様が屋敷に戻ると言う。
わざわざそれだけを知らせに毎回来てくれるから、ラウルにお茶を進めたけど、やはり断られてしまった。
せめてお土産だけは渡さないとね。
「パトリック伯父様とラウルの分だよ」
厨房から届いた木箱をユーゴが渡すと、恐縮しながらも受け取ってくれた。
今回は、お母様の逆らえない魔法がなくても大丈夫だった・・・良かった。
木箱には甘いラスクとチーズ味のラスクとポテトチップが入っている。
まじめなラウルも「戒めと激流」に翻弄されるかもしれない。
ジルベールさんとコレットさんの顔を思い出して、木箱を渡す時に笑いそうになってしまった。
たぶん、顔が緩んで口の端っこが動いたと思う・・・ラウルが一瞬アンの顔を見たもの。
「戒めと激流」は誰もが経験することだから、気にしないで食べてほしいと思う。
明日の夕方には、お父様たちがようやく帰っていらっしゃる。
今回も3週間と長かった。
もう作ってもいいよね・・・明日の昼食後には厨房に行こう。
「ソフィ、お願いがあるの」
「なんでしょうか?」
ソフィの背筋がさらに伸びた。
前よりは動揺をしなくなったけど、背筋がピンと伸びたから、まだ緊張はするみたい。
「明日、昼食後に厨房に行くから、冷凍したパイ生地と厚く切った姫ポムに、洋酒漬けのレザンとカネルを少し加えて、食感を残したコンポート作っておくことと、姫ポムを丸ごと使いたいから7個くらい用意してと、伝えてほしいの。それとお肉をひき肉にしておいてほしいの」
「冷凍パイ生地と、洋酒漬けしたレザンとカネルを入れて食感を残した姫ポムコンポート、それと姫ポム7個とひき肉ですね。ではすぐに伝えてまいります」
ソフィは慌てて紙に書き留めた文字を読み上げて、厨房に向ってくれた。
試食会にエタンも呼んで、絵を描いてもらおう。
来年から新しいメニュが出来る度に、エタンを王都へ呼ばなければならない。
エタンも1年間、王都に来たらいいのにね。
それともアンが季節ごとにグー様のところに行った時に、絵を描いてもらえばいいかな。
・・・これからそういったことも決めておかないといけない。
今日はいつものより昼食を控えめにして、すぐに厨房に向った。
夕食の時に、春から販売する予定の試作品を、お父様たちに食べてもらいたいの。
王都のお話も聞きたいけど、それは後でもいいよね。
「アンジェル様、お待ちしていました」
「今日は、お食事パイとおやつパイを作ってほしいの」
「パイ生地で食事とおやつの両方ですか・・・わかりました。コンポートやひき肉の用意ができています。それと姫ポムも7個用意しています」
「パイ生地は半解凍の方が使いやすいの」
「すでに用意してあります」
コンスタンもカジミール同様、まじ優秀だった。
パイ生地は半解凍で用意してあると言った・・・素晴らしい。
「作り方を説明するね。最初にミートパイの具材を作くるの。野菜はオニヨンとカロットとポムドゥテール。ポムドゥテールは7ミリ角に切って、オニヨンとカロットはみじん切りだよ」
「わかりました」
コンスタンが返事をした。ミートパイの担当するのかな?
「お鍋に油と刻んだアイユを入れて、香りが立ったらひき肉を入れるの。お肉の色が変わってきたら野菜を入れて火が通るまで炒めてね。調味料はケチャップとソースと塩、コショウ。あれば香辛料も入れたいの。シナモンとナツメグじゃなくて・・・カネルとミュスカドゥはあるよね?」
「あります」
「クローブと言うのはある?」
「クローブとは何に使う香辛料ですか?」
「お肉の臭み消しになるの。強い香りもあるらしいの」
「ジローフルでしたら、肉の臭みを消します」
「ジローフル?それを試しに入れてみて」
「わかりました」
「具材は味を調えたら、冷ますの。冷ましている間に、パイ生地を薄く伸ばして15センチの大きさに切っておいてね」
パイ生地に具材を乗せて、その上にチーズを乗せる。
斜め半分に折って三角するから、中心より少しずらして具材を乗せることや、斜めに折ってから、縁を手で押さえて更にフォークで押し付ける。
三角になったパイの表面に切り目を入れ、溶き卵を塗ったら予熱した窯に入れて焼くと説明した。
アップルパイは2種類作ってもらう。
1つ目は小さいパイ。
わざわざ切る必要がないから、形を崩すことなくそのまま売れる。
1個売りはブーランジェリー・マシロ店でも販売しやすい。
これはそのままアップルパイと呼ぼうかな。
ロイクに、アップルパイは姫ポムのコンポートの水分を風魔法で飛ばしてからパイ生地で包むように言った。
表面に切り目を入れて溶き卵を塗るのは同じだけど、ミートパイと分けるために、アップルパイは半円の形にして表面に葉のような筋を入れてもらった。
コンポートにはレザンとカネルが入っているから、ただ甘いだけのおやつじゃないよ。
2つ目は丸ごとアップルパイ。
家族や親しい友人と分け合って食べるも楽しいと思うの。
お客様の前で、サクサクと切り分けて出すのもいいかな?
お土産店でも木箱に入れて販売してもいいよね。
前に作った高級マロングラッセの木箱の小さくしたものを、ポランに作ってもらおうかな?
でもあれは、金銀の布があるから高級感が出過ぎるよね・・・シフォンケーに使っている組み立て式の木箱がいいかも。
コンスタンとロイクがパイを作り終え、窯に入れたところで声を掛けた。
「丸ごとアップルパイの説明もしちゃうね」
「はい、おねがいします」
「・・・丸ごと」
ロイクの小さなお口から「丸ごと」と、声が漏れていた。
姫ポムはナイフとスプーンを使って、上から種のある所までくり抜き、バターは小さく切っておく。
パイ生地を伸ばしてから、姫ポムのくり抜いたところにノールシュクレと切ったバターを入れる。
姫ポムをパイ生地で包んでから、生地全体にフォークで穴を開け、溶き卵を塗る。
窯に入れて焼き色が付くまで焼くと、ざっくり説明をしたら、頷いた二人がすぐに作業を始めた。
7個の姫ポムがパイ生地に包まれ、コロンとした形になっていく・・・ちょっと可愛い。
これは二人用と思っていたけど、食後のデザートなら4人分になりそう。
アイスを添えてもいいけど、ハチミツとノースシュクレをかけるだけもいいかも。
丸ごとアップルパイ・・・名前はこれでいいよね?
焼き上がるのを待っていたら、エタンがやって来た。
「試食会に呼んでいただき、ありがとうございます」
「どういたしまして。春のメニュに追加する予定なの。食べたら描いてもらうから、遠慮しないで食べてね」
「美味しさが伝わるように頑張って描きます」
嬉しそうに頑張ると言ったエタンが、なんだか頼もしくなったような気がした。
小麦とバターの焼けた香りが漂っている。
焼き上がったミートパイとアップルパイがワゴンで運ばれて来たよ。
そろそろ試食会を始めてもいいかな?
少し迷っていたら「食べている間に、丸ごとのほうも焼けます」とコンスタンが教えてくれた。
丸ごと・・・短縮されていた。通じるからいいとしよう。
まずは恒例の掛け声だよ。
「今日も試食会を始めるよ。オオォー!」
「「「オオォー」」」
コンスタンとロイクとエタンが拳を顔の横まで上げて、アンの掛け声に答えた。
ユーゴとマクサンスとジュスタンも拳を作ってくれた。
ソフィとフォセットも拳を作っている。
厨房でだけ許された掛け声と拳。
そしてまた、にっこり笑って再び声を出す。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
「「「いただきます」」」
「「いただきます」」
全員の声が揃った。
それぞれがフォークとナイフを持つ。
どちらから食べようかと迷うことはない。
みんながミートパイから食べ始める。
甘いおやつは後だよ。
サクサクと音がした。
口の中でお肉の旨味と野菜の甘みが広がる・・・美味しい。
ソフィとフォセットがお口に手を当てて、お互いに目を合わせている。
同じ動作をしているのが、ちょっと面白かった。
「美味しいですね」
ソフィが言うとフォセットが頷き、ユーゴまで微笑んで頷いていた。
ユーゴのあの甘い顔を始めてみたような気がする・・・間違ってアップルパイを先に食べたのかな?
・・・いや、半円のアップルパイはまだお皿の上でしっかり形を残している。
・・・そんなにミートパイが美味しかったのだろうか?
もしかしたらユーゴには量が少ないかも。
野菜サラダとパンやソーセージを添えてもいいかな?
そうだ・・・。
「ユーゴ。量が足りないよね?食事として食べるならソーセージパイも作って組み合わせてもいいかも」
「いいですね。あとパンと組み合わせてもいいと思います」
「うん。パイとパンと飲み物の組み合わせもいいよね」
ミートパイはお食事パイセットにしよう。
フォセットが用意してくれた、ミルクティーを一口飲んで、今度はアップルパイを食べてみる。
パイのサクッとした食感と姫ポムの食感もいい。
小さくても、食べ応えがありそう。
それでも、後から感じるレザンのすっきりした甘みと酸味とカネルの香りが、また姫ポムを食べたいと思わせる。
うん・・・美味しい。
これは・・・食べ過ぎるかも。
「レザンとカネルが入っているせいか、飽きずに食べられます。何個でも食べられそうです」
マクサンスが言ったらジュスタンも頷いていた。
二人はアンと同じ感想らしい・・・思うままに食べたら、太りそうだよね。
「そろそろ丸ごとを持ってきます」
ロイクが席を立ち厨房に向った。
コンスタンとロイクは「丸ごと」と呼ぶことにしたようだ。
ロイクが押して来たワゴンには、丸ごとアップルパイが5個とハチミツとノールシュクレの入った容器が乗っていた。
二人で1個食べるのかな?
ロイクがパイを上からサクッと半分に切ると、パイの中の姫ポムが見えた。
姫ポムの香りがしてきたよ。
丸ごと焼いたから姫ポムの香りとバターの香りが漂う。
・・・美味しそう。
お腹はだいぶ膨れているけど、おやつは別腹だからまだ食べられるはず。
そう思っていたのに、ロイクがさらに半分にしてしまった。
アンの前に置かれた丸ごとアップルパイは、四分の一になっていた。
ロイクはアンのお腹の大きさを知っているらしい。
またミルクティーを一口飲んでから、ナイフとフォークで食べる。
姫ポムの味と香りが強い。
さっき食べたアップルパイも美味しかったけど、これはもっとすっきりした姫ポムの甘みと酸味がある。
ハチミツの甘さもいいね。
横にいるソフィとフォセットのお皿を見たら、同じく四分の一だった。
さすがにパイ3個は多かったらしい。
目の前でサクサクと音をたてながら切り分けて、お皿に盛りつけるのを見ていたら、ちょっとわくわくした。
やっぱりお店でも、お客様の前で切り分けてもらおう。
エタンが真剣にパイを見つめていた。
絵は中が見えるように切り分けた状態を描きたいと言う。
初めての食べる物は中が見える方が安心すると、エタンが言っていた。
未知の世界の物ように言っている。
取り敢えずソーセージパイは後で作ってもらって、描いてもらうことにしよう。
切り分けた丸ごとアップルパイの残りは、ユーゴとマクサンスとジュスタンのお腹に収まり、今日も無事に試食会を終えた。
夕方、シャル兄様と一緒にエントランスでお父様とお母様を待っていたけど、戻ってきたのは来たのはお母様だけだった。
「おかえりなさい、母上」
「おかえりなさい、お母様」
「ただいま、シャルルとアンが元気そうで安心したわ」
「私たちは問題ありませんが・・・父上と一緒ではなかったのですか?」
「騎士団に行かれたわ。夕食までには戻るそうよ」
「夕食はご一緒出来るのですね。よかったです。春にお店で出そうと思っているパイを用意しています」
「パイ?アンはまた新しいメニュを作ったの?そう・・・夕食を楽しみにしているわね」
「母上、私も楽しみにしているのです」
なぜかお母様は戸惑っているように見えたけど、シャル兄様は嬉しそうだった。
少し前に試食会を終えたばかりなのに、パイを作ったことをもう知っていたよ。
そう言えば以前、毎日厨房に行っていると聞いたような気がする。
ロイクから聞いたのかな?
「カジミールとニコラも、無事に戻って来たわよ」
お母様が何かを思い出したようにおっしゃった・・・無事に戻って来た?
「お母様、カジミールたちに何かあったのですか?」
「心配はいらないわ。ただ忙しかっただけよ・・・詳しい話はお父様がすると思うわ・・・着替えてくるわね」
・・・何があったのだろう?
ただ忙しかっただけなら、凄く疲れているかもしれない。
それでも今日は、コンスタンからパイの話を聞くと思う。
カジミールは目をキラキラさせて、話を聞いているような気がする。
コンスタンが、夕食までにソーセージパイを作ると言っていたから、王都から戻ったばかりのカジミールとニコラは、休むことなくパイを作っていそうだ。
明日からしばらく休めるといいね。
日が落ち始め、食堂に行くとシャル兄様がいた。
「シャル兄様はいつも早いね」
「いつもではないぞ。今日はちょっと早かっただけだ」
新しいメニュがある時は必ず早く来ている。
待ちきれないのかな?
食卓を挟んでシャル兄様の斜め向かいの席に座り、少ししたらお父様とお母様がいらっしゃった。
シャル兄様と一緒に立ち上がると、少し疲れた顔のお父様と目が合った。
「おかえりなさい、父上」
「おかえりなさい、お父様」
「ああ、ようやく戻った。二人は変わりなかったか?」
「今日も龍舎に行ってきました。ラーヴはペーシュやポワールをよく食べます」
「果物が好きな龍は多いからな」
「あの、果物以外では何を食べるのですか?アンも知っておいた方がいいですか?」
むしろ知っておきたい・・・10歳になったら、龍に選ばれるのだから。
「龍について詳しく学ぶのは、龍に認められた後だから・・・アンは学ぶ機会はないぞ」
「ないのですか?」
機会がない・・・そんな。
・・・いや、諦めちゃ駄目。
何か方法があるはず、まだ10歳まで1年以上ある。
まずは龍舎に行く方法だよ・・・。
「まぁ、知っていても問題はない・・・龍は魔力の含まれているものは、だいたい何でも食べるが、人と同じで好き嫌いもある。焼きシャテニエが好きな龍もいたな」
「生ではなく焼いたものですか?」
この間焼いたばかりだったよ。誰かが龍舎に持っていったのかな?
「私の友人の龍が焼きシャテニを食べると言っていました」
「シャルの友人も龍に認められたのだったな・・・しかし、シャテニの時期は過ぎているはずだが・・・」
「先日、シャテニエがたくさん実ったのです。東の畑でアンが護衛たちと焼きました」
ううぅ・・・シャル兄様はおしゃべりだよ。
もしかして火魔法を使ったのは駄目だった?
ユーゴのお許しが出たからいいと思っていた・・・それに焼きシャテニは美味しかったよ。
「そうだな・・・たくさん実ったらしいな・・・他の果物もたくさん実って食べきれない分は、龍舎に持ち込まれたそうだ。騎士団から礼状が来ていた」
「えっと・・・た、たくさん実りました」
龍舎って騎士団の龍もいるの?・・・知らなかったよ。
実った果物はどうしたのかと、ちょっとだけ思ったけど・・・もう忘れていたよ。
ネージュにはもう一度、注意した方がいいかな?
お父様に叱られるかとドキドキしていたら、食事が運ばれてきた。
よかった・・・お話はこれで終わるはず。
最初に生ハム入りサラダとスープ。
アンのお腹はまだパイで満たされているから、サラダとスープも小さなお皿とカップだった。
「何度食べても美味いな」
「ええ、王都でも何度か食べましたが、とろけるお肉は初めてですわ」
お父様とお母様は王都でも生ハムを食べていたらしい…しかも何度も。
シャル兄様は生ハムだけ先に食べていたよ。
レチュやラディロンと一緒に食べたらいいのに。
美味しいけど、追加は出来ないはずだから味わって食べてね。
次に運ばれて来たのは、お食事パイ。
ミートパイの隣にはもう一つパイがあり、両端からソーセージがはみ出していた。
ソーセージパイだ。
アン以外のお皿には三角のミートパイと細長いソーセージパイが乗っていた。
シャル兄様の前に置かれている籠には、レーズンパンやコーンパン、燻製肉とコショウパンが入っていた。
パイだけでは足りないとコンスタンたちはわかっているようだ。
「三角がミートパイで、細長いのがソーセージパイです」
頷いたお父様がミートパイをナイフで切ると、サクッと音がしていた。
「・・・美味いな」
お父様が味わって食べていた。
「このサクサクした生地がいいわね。中のお肉は香辛料が効いて、美味しいわ」
「あっという間に口の中でなくなります」
お父様とお母様は美味しいとおっしゃったけど、シャル兄様はお口の中でなくなると言った・・・飲んでいるのだろうか?
アンのお皿には小さなソーセージパイが乗っている。
サクッ、パリッと音がした。
ソーセージパイを切ると二つの音がする・・・この音まで美味しそうに感じた。
・・・うん、美味しい。
これはシャル兄様が絶対好きな味だよ。
シャル兄様の方を見ると・・・もう食べ終わっていたらしく、侍従にもうひとつほしいと頼んでいた。
やっぱり飲んでいたのだろうか?
お父様とお母様がお食事パイを食べ終わったころ、アップルパイと丸ごとアップルパイが運ばれてきた。
「あら、まん丸で可愛いわね」
「どちらも姫ポムを使っていますが、味が少し違います。小さい半円はアップルパイで、丸いのは丸ごとアップルパイと言います。丸ごとアップルパイは二人以上で、切り分けて食べてもいいと思っています。お店ではお客様の前で切り分けて、お好みでハチミツとノールシュクレをかけて食べてもらってもいいと考えました」
今日はお母様の侍女が慎重に切り分けていた。
お父様とシャル兄様の分は半分に切り分け、お母様は四分の一に切り分けたものを食べてもらった。
アンはもうお腹いっぱいで食べられないから、ミルクティーだけ飲んで、切り分けて残った四分の三はシャル兄様がハチミツをかけて食べきっていた。
シャル兄様の前あった籠のパンも、いつの間にかなくなっていたよ。
「パイは春から出す予定でいいだろう。客の前で切り分ける丸ごとのパイも令嬢や子どもが喜びそうだな」
「ありがとうございます。パイの絵はエタンに描いてもらっています」
「そうか。では食べ終わったらサロンに移動して、果物が季節に関係なく大豊作になった話を聞こうか」
「あっ・・・は、い」
・・・お父様は忘れていなかったらしい。
お母様は微笑み、シャル兄様は追加したアップルパイを食べることで、忙しそうだった。
次回の更新は7月3日「100、陛下への献上品と大領地の当主たちとの話し合い」の予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




