100、陛下への献上品と大領地の当主たちとの話し合い
アレクサンドル視点です。
途中から、王都に行った時の話になります。
食事を終えると、ステファニーとアン、それにシャルルも一緒にサロンに移動した。
そろそろシャルルにも、王城での話や大領地の事、それにアンの行動なども知っておいた方がいいだろう。
アンは、東側の畑で大豊作になった事の言い訳・・・ではなく説明をしていた。
ネージュが光魔法で育てたスィトロンは、すぐに食べられる物ではなかったため、大好物のフレーズを育ててしまい、ついでにペーシェとシャテニエも大きくなってしまったと言う。
しかも、フレーズはネージュとキリーが2日間で食べきったと・・・。
ネージュが食べたいものを光魔法で育てたが、魔力が強かったため周りにあったものまで育てたというのなら・・・魔法の制御がまだうまく出来ていないということか?
アンは、来春から王都の学院に通う予定だ。
王都にはキリーに乗って行く、当然ネージュもついてくる。
今までキリーとネージュは、辺境伯が所有する広大な敷地で自由に遊んでいた。
だが、王都の屋敷はそれほど広い敷地ではない。
光魔法を使って庭の木々を、大豊作にしてもらっては困る。
今のままでは、ネージュを連れて行くのは難しいとアンに伝えた。
ネージュにはしっかりとい言い聞かせてもらわなければならい。
キリーにも言い聞かせた方がいいだろう。
母親のようにネージュの世話をしていると、ユーゴから報告が上がっていたからな。
少しは言うことを聞くはずだと・・・思いたい。
冬まで様子を見てまた同じことを繰り返すのなら「ネージュは王都に連れて行けない」と伝えてもいいが・・・アンとキリーがいない間に、自由に動き回られても困る。
・・・厳しい制限をさせない方がいいのか、悩ましいところだ。
「アン、ネージュに魔法を使ってはいけないと言うのではなく、使う時と場所を理解させなさい」
「お父様やアンが許可を出した時だけ、使えるようにしたらいいですか?それだと・・・お父様やアンがいない時は使えないと言うことになります。行動の制限をさせるのではなく、自由に遊べて魔法もある程度使える場所を探すのはどうでしょう?」
「王都にそんな場所があると思うか?」
「えっと・・・王城の敷地は広そうです」
「王城・・・?大騒ぎになるのが目に見える。それにランメルト第二王子の目に留まらない方がいい」
「・・・確か、珍しいものを集めるのが趣味だったと・・・ごめんなさい、王城は危険でした・・・魔法を使う場所を制限するようにと、伝えてみます」
「そうしてくれ・・・もう少し成長すれば勝手に魔法を使ったりしないと思うが・・・」
魔法を使う場所を制限するなど、ネージュに理解ができるのか?
とにかく冬の間、様子を見るしかないな・・・。
ソフィがワゴンで何やら運んで来た。
これはパトリック義兄上のところで、少し食べたから知っている。
アンジェルは私たちが3週間留守にしている間に、ネージュの事だけではなくラスクとポテトチップ、そしてパイまで作っていた。
「お父様とお母様が王都に向われてすぐに作った、ラスクとポテトチップです」
「パトリック義兄上のところで少し食べた。アンがラウルに持たせたのだろう」
「はい、木箱にたくさん詰めてもらいました」
「どっちらも凄く食べやすくて、つい手が伸びでしまうのよね。アレクサンドル様とお兄様は、ヴァンブランとヴァンルージュの両方を用意して、食べていたわ」
「チーズ味のラスクとポテトチップはお酒のおつまみになってしまいました」
「ラウルは甘いラスクも美味しいと言っていたわ。エールを飲みながら食べるそうよ」
「・・・甘いラスクもおつまみになったのですか?」
今回は全部酒のつまみになったな。
シャルルが大人しいと思ったら、ポテトチップをモリモリ食べていた。
あれだけパイを食べていたのに、まだ食べられるのか?
そう思いながら、カフェアロンジェを飲んではポテトチップをつまんでいた。
ヴァンルージュが欲しいと思ったが・・・止めておこう。
・・・止まらなくなりそうだ。
「ジルベールさんがラスクとポテトチップを食べる時は戒めが必要だと言っていましたが、途中で戒めを忘れていたようです。コレットさんは食べ続ける流れを止められず、激流に乗っていました」
「・・・戒めと激流?」
なんだ、それは?・・・そう思いながらまた口に運んでしまった。
ハッとして気づいた時には、半分以上食べていた・・・これは確かに戒めが必要なようだ。
だが激流には流されていないはずだ・・・ポテトチップはまだ少し残っているからな。
「ポムドゥテールは来年から収穫量を増やしたほうがいいと思います」
アンがシャルの方をちらっと見て言っていた。
確かに・・・消費量が増えそうだ。
さて、どこの領地に伝えるか・・・今年中に検討しなければならないな。
アン、また仕事が増えたぞ。
それにしても・・・また、パイと一緒にラスクとポテトチップを陛下たちへ届けるのか・・・。
王城から帰ってきたばかりだ・・・次回は冬の終わりでいいだろう。
・・・あの時は本当に面倒だった。
しばらくは王城に行きたくないと思う程に・・・。
3週間前・・・・。
王都の屋敷に着き、翌日すぐに王城に向った。
既に手紙で献上品が2点あると知らせている。
1つは冬のメニュに使う生ハムで、原木ごと献上するため大きな木箱に入れていた。
2つ目は薬だ。特級薬が出来たことを説明しなければならない。
王城に着くと、いつもより広い部屋に案内された。
すぐにダルシアク宰相と文官らしきものがやって来て、ダルシアク宰相とは簡単な挨拶を交わしたが、文官は会釈だけして窓際に下がって行った。
近衛隊とともに、陛下と王妃がお見えになったが、その後ろには王城騎士団もいた。
近衛隊は陛下と王妃の左右につき、入り口近くには王城騎士団が数名立っていた。
おそらく、特級薬に関心があるのだろう。
近衛隊は白の制服に金の刺繡が施され、王城騎士団は黒の制服に金の刺繡が施されていてどちらも目立つ制服だ。
肩に金の肩章が付いているのが2名・・・団長たちまで来たらしい。
近衛隊のオスカー・ゴドフロワ団長と王城騎士団のゴーティエ・ベルナルド団長か。
陛下と王妃に挨拶をした後、ドフロワ団長、ベルナルド団長とも挨拶を終えて、イヴァンに木箱の蓋を開けるように伝えた。
木箱から献上品の生ハムの原木を出そうとしたら、 陛下の横にいたゴドフロワ団長と近衛隊員が陛下と王妃の前に立ちふさがり、王城騎士団とベルナルド団長が私たちの前に出てきた。
「何を持ち込んだ!魔獣の足か!」
ベルナルド団長が言うと、騎士団の一人が剣を抜き私に向けようとした。
その瞬間、イヴァンが両手を広げて私の前に立った。
私の前にイヴァン、左右に屋敷の護衛が構えている。
陛下と王妃に謁見する時は帯剣を許されない。
帯剣できるのは、近衛隊と王城騎士団だけだ。
こういう状況の時は、イヴァンたち護衛は素手で立ち向かうしかない。
それにしても・・・生ハムの原木が魔獣に見えたのか?
陛下と王妃も驚かれたようだ。
原木は豚の足がちょっと干からびたように見える。
初めて見た者は驚くとは思ったが、魔獣と勘違いするなど考えもしなかった。
王族を守る近衛隊や王城騎士団は魔獣を知らないのか?
エスポワール王国の結界は、人を襲う魔獣が越えられないようになっている。
まして王城内に入り込めるわけがないだろう。
北の領地にいるソバージュカナールと言う魔獣は人を襲うことはない。
だから結界を超えてやってくる。
それに鳥型魔獣だから、原木の足とは形状が全く違う。
そのソバージュカナールを我々は美味いと言って食べているではないか。
「皆、落ち着きなさい。テールヴィオレット辺境伯から今回持ち込んだものは、既に手紙で知らされている。騎士団も下がりなさい」
「陛下、木箱の中に足らしきものが入っています。これが魔獣ではないと断言出来ますか?」
ダルシアク宰相の言葉に、陛下は首を横に振った。
「テールヴィオレット辺境伯、手間をかける。皆に説明を」
「はっ。警戒させたようだが、これは陛下への献上品で、生ハムの原木だ。肉の部分を薄く切ってそのまま食べる」
「なんと、このように干からびたような足をそのままで食べるだと!しかも火を通さずに・・・なんと危険な」
ダルシアク宰相がなおも食い下がってくる・・・驚くのも仕方ないが、もっと柔軟性を持たないと、親戚になった時にやっていけないぞ。
アンジェルに振り回される未来が見えるようだ。
「ダルシアク宰相、それにゴドフロワ団長とベルナルド団長。其方らは薬を確認するためにここへ来たのではないか?」
陛下が余計な口を挟むなと言っているのだろう。
「しかし、このようなものを持ちこむとは・・・我々は陛下と王妃を守るためにおります」
ゴドフロワ団長も不信感を拭えないようだ。
「仕方ない・・・アレクサンドル、料理人は連れてきているのだろう?」
「もちろんでございます」
「厨房に案内させる。試食の準備を頼む」
「畏まりました」
誰かが「試食だと?」と呟いていた。
食べればわかるが原木の見た目が悪い・・・食べないとわからないようだ。
「精霊と毒見係に確認させた方がより納得するだろう」
陛下の言葉に頷き、原木の入った木箱を私の護衛に持たせ、控えの間で待っているカジミールと一緒に厨房まで案内してもらうように伝えた。
精霊が問題ないと言った食べ物だとわかっていても、周りは納得しないのだろう。
国王とはなかなか面倒なものだ。
反論される可能性はあると思っていたから、カジミールとニコラを王城に同行させておいて正解だった。
アンが育てたペーシェとミュスカとポワールに保存魔法をかけて持参してある。
さすがにフレーズは持ってこなかった。
季節外れの物を出すと、また口うるさいやつが何か言いそうだからな。
しばらくすると、侍従が一口で食べられる大きさの、生ハムが乗った果物と生ハムのタルティーヌを運込んできた。
さぁ、堪能してもらおうではないか。
7~8人分は乗っていそうな大皿が2つ運ばれてきた。
一つは生ハムと果物。
もう一つは生ハムとチーズとラディロンのタルティーヌ。
毒見係は、生ハムの乗ったミュスカとタルティーヌを銀の皿に取り、生ハムをじっと見ている。
どこからかやって来た精霊は果物を食べたそうにしていたが、何も言わなかった。
ただ、じっと見ている・・・食べること止めないのだから、問題ないと言うことだ。
今は精霊も王族の毒見をしているらしいが、今回はダルシアク宰相やゴドフロワ団長、ベルナルド団長を納得させるための毒見係もいる。
毒見係が生ハムの乗ったミュスカを口に入れて咀嚼した後、口を押させて目を白黒させた。
ベルナルド団長が剣に手を置いた
「毒か!」
毒見係が慌てて首を横に振り、飲み込んでいた。
「も、申し訳ございません。あまりの美味しさに声が出ませんでした。生ハムと言うのがミュスカとともに、口の中でとろけました」
「紛らわしいいことをするな!」
ベルナルド団長が吠えた。
思わず顔を横にそらし、肩が揺れないようにするのに必死だった。
・・・笑いをこらえるのがこんなに大変だったのは初めてだ。
「問題はありません」
毒見係が背筋を伸ばしてそう言うと、陛下やダルシアク宰相、ゴドフロワ団長も銀皿に取り分けられたポワールを食べて目を丸くしていた。
王妃はミュスカの方を先に食べたようだ。
毒見係と同じように口元に手を当てていたが、私の方を見て満足そうに頷いていた。
・・・美味しいという意味だろう。
陛下はミュスカとタルティーヌも食べ始めた。
食べた後、王妃と同じように私の顔を見た。
「美味しい、また食べたい」と言っている顔だ。
原木は1本献上するのだから、希望すれば毎日食べられる。
塩分が多いため1日に食べる量は、薄く切った生ハムは5枚程度と伝えておいた。
「5枚までなら、毎日食べてもいいのだな?」
取り敢えず頷いたが、ラム酒付のバターケーキを持参して食べてもらい「このケーキが食べ放題なのか?」と聞かれた、あの時の顔と同じだと思った。
陛下は美味い物には目がないからな。
「生ハムにはルージュから聞いた1年間有効な保存魔法が掛かっています」
小声で伝えると、陛下の眉が一瞬だけ動いたような気がした。
「風魔法と水魔法を使う手軽な操作です。この操作以外は知らないとルージュは言っていました」
「・・・そうか。手軽な操作方法も知っておきたいものだ」
「では後ほど、お伝えいたします」
「・・・今日の話が終わった後で、時間を取る」
「はい、さほどお手間は取らせません」
生ハムの魔獣騒ぎと試食がようやく終わった。
結局、騎士団のベルナルド団長は生ハムを口にすることはなかった。
こんなに美味いものを・・・意地を張ったせいで口にできなくなったのだろう。
食べなかったことを後悔すればいいとさえ思ってしまった。
私を脅すつもりだったとしても、王族の前で剣を抜くなど、王城騎士団の教育はどうなっているのだ。
部下の再教育を陛下に進言した方がいいだろう。
これでようやく2つ目の話が出来る。
陛下に上級精霊のルージュ・カメリアがアンの魔力で眠りから目覚めたことを改めて伝えた。
「アンジェルの魔力だけで・・・それはまた・・・しかし、力のある精霊が増えることは喜ばしいことだ」
アンの魔力量に驚かれていたが、ルージュがいることで我々にとって有効な情報が多い。
山の麓で採れた薬草で、ルージュが作った薬の件も報告し、薬の鑑定結果では非常に品質が高く、絶滅したと言われていたポリポーのキノコで作った薬は、特級薬と判定された事も伝えた。
「今後は、王城と騎士団に常備できるとよいのだが・・・」
「現在、エミール・ランベール伯爵が、薬師と共に薬が人の手で作成が可能か、調査と研究を進めている段階であり、完成後は速やかに報告いたします」
「期待している」
屋敷にあったのは、黄色い液体の痛み止め、ルニエヴェルトが7本。
黄緑色の解熱剤、フレアロスが9本。
透明の液体の万能薬、ポリポーが7本だった。
その中から陛下にはそれぞれ3本を献上した。
生ハムの原木で騒いでいた、ダルシアク宰相とベルナルド団長は特級薬の話に口を挟むことはなかった。
もしかして、ダルシアク宰相とベルナルド団長は生ハム効果か?
しかし、大人しくなっても生ハムを分けられるほど量産はされてはいない。
食べたいのであれば、冬の月にシャルダン・デ・ローズに来店すればいいことだ。
ダルシアク宰相とはいずれ親戚になるが、店に関しては親戚も他人も関係ない。
ゴドフロワ団長は「薬草と薬の向上に、貢献いただき感謝する」と言った。
もう一つ、ルージュがカメリアの種で作った高級液体と高級クリームを各10個、陛下と王妃に献上した。
高級液体はカメリアセロム、高級クリームをカメリアヌリソンと呼んでいる事も伝え、使い方は侍従から、王妃の侍女に説明するように言ってある。
王族に献上するには数が少々足りないかもしれないが・・・あとは陛下たちでうまく分けてくれるだろう。
4日後に屋敷で大領地の当主たちが集まる時に、少しは渡さねばならないからな。
「これがアレクサンドルの髪や肌をつやつやにしたのね」
リシェンヌ王妃は高級液体と高級クリームの事は知っていたようだ・・・耳が早い。
「これもルージュが作ったものですが、今後は東の領地で作るよう依頼をする予定です」
「そう、量産されるのを楽しみにしているわ。可能であればルージュ・カメリア様に会ってみたいわね」
「いずれ東の領地に帰ると言っていました。冬の終わりに、アンと一緒に王都に来るかもしれません。その時はお知らせいたします」
「まぁ、アンにも会えるのね。楽しみにしているわ」
「私も楽しみにしていよう」
陛下も会いたいとおっしゃっていたが、全身筋肉の塊のような大柄な精霊に驚かれる可能性は高いだろう。
無事に生ハムの原木と、カメリアが作った薬やカメリアセロムとカメリアヌリソンを渡し終えた。
最後に別の部屋で陛下に会い、1年間だけ有効な保存魔法操作を伝えて、本日の陛下への献上と言う要件を終えた。
・・・今日は時間がかかった。
大領地の当主たちの集まりでは問題なく話が進んでくれることを、心から願った。
大領地の当主たちには、『騎士団のパンの試食会』と書いた招待状をステファニーが出してくれている。
本日の昼に、生ハムのサラダや北の領地の騎士団で販売さているパンを用意するつもりだ。
今日はダルシアク宰相や近衛隊と王城騎士団がいないから、速やかに話が進むと思う。
少し時間は早めだが、ステファニーと共にエントランスに向うと、もう馬車がやってきたようだ。
玄関で出ると、緑の地色に銀糸の領旗が見える。
東の大領地のオーベール侯爵だ。
馬車から降りてきたオーベール侯爵との挨拶を終える頃、黄色の地色に銀糸で麦の穂の領旗をはためかせた馬車がやって来た。
馬車から降りてきた、西の大領地のヴァンドール公爵とも挨拶を終えると、執事のスチュアートへ、二人を来客用の食堂に案内するよう伝えた。
それ程、間をおかずに南の大領地のフールージュ公爵もやって来た。
いつもベルトランが世話になっていることの礼を述べ、そのまま食堂に案内した。
「お忙しい中、試食会にお越しいただきありがとうございます。アンジェルが考案した生ハムと、北の騎士団で販売を開始しました、新しいパンを食べていただきます」
「生ハムとはどんな食べ物でしょうか?」
「フールージュ公爵、生ハムは火を通さずに特殊加工した豚肉のことです」
「生のまま食べると?」
ヴァンドール公爵にも驚かれてしまったが、王城でも言われたことだ。
「すでに陛下と王妃に献上し、試食をしていただきました」
「そうですか・・・生を・・・」
「さすがに毒見係が先に試食しましたが」
「・・・そうなりますね」
オーベール侯爵が気の毒そうに言った。
確かに面倒だったが、食べればわかる美味さだ。
「食後は、上級精霊ルージュ・カメリアのお話をさせていただきます」
「昔、私の領地にいたと言われている、カメリアの精霊ですか?」
オーベール侯爵が目を丸くして聞いてきた。
「北の精霊樹でアンジェルの魔力によって目覚めました。詳細は食後にお話しいたします」
アンジェルが精霊樹の地を畑代わりにして果物を育てていたら、間違えてカメリアの木が育った、などとは言えない。
「そのような事になっていたのですか。ええ、是非伺います」
オーベール侯爵は驚き、フールージュ公爵は片眉が上がり、ヴァンドール公爵はポカンとしていた。
領主たちが驚くのは仕方ない・・・私も驚いたからな。
侍従たちがワゴンでサラダを運んで来た。
ヤングコーンやラディロン、オニヨン、レチェなどが入った野菜サラダとミュスカとポワール、オランジュが入った果物のサラダ。
どちらにも生ハムが乗っている。
「サラダの上に乗っているのが、生ハムです。塩味がありますから、多く乗せていませんが、どうぞお召し上がりください」
「これが生の肉なのですか?」
フールージュ公爵が不思議そうに聞いてきた。
「最初は塩漬けにすると聞いています」
「おや?口の中で溶けるようになくなりました。臭みがなく食べやすいです。これはかなり手間がかかっているのではないでしょうか?」
一口食べた後、じっと生ハムを見ていた。
「通常は1年以上かけて作るらしいです。今回は魔法を使って製造期間を速めています。店では冬から提供します」
「何か月もかけて作った貴重な食べものでは、量産は難しいと言うことかな?」
そこに気づくとは、さすがヴァンドール公爵だ。
「今の段階ではまだ難しいでしょう」
次に運ばれてきたのは、マイススープと生ハム入りタルティーヌだ。
マイススープは学院専用メニュについているが、今回はオニヨンとバターとミルクを入れて濃厚な味にしていると聞いている。
「マイスを使っているようだな」
「さすが、マイスを生産している西の大領地ですね。おっしゃる通りマイスで作ったスープです。」
「マイスの甘みとコクがありますね」
フールージュ公爵が言えば、あとの二人も頷いていた。
当主たちのスープ皿が空になったと言うことは、味に満足したと言うことだろう。
「ポップコーンの次はヤングコーン、そしてマイススープとは・・・よく次々と考えつくものだと感心する。来年度のマイスの収穫はさらに増やしたほうがよさそうだな」
「そうしていただけると有り難いです」
交渉せずと理解している・・・さすが大領地の当主だ。
王城でのやり取りとは大違いだ。
先日の王城で生ハムの原木を見せた時に、魔物と勘違いされたことや毒見係が無言になったことで、毒入りと疑われそうになった話だなどを伝え、生ハムの原木を見せた。
当主たちは「これはまた何とも・・・」と言ったきり、無言になってしまった。
それでも帰りに生ハムを少し土産として持ち帰れること伝えると、なぜか喜ばれた。
薄く切った生ハムとチーズとヴァンブランの組み合わせはなかなか癖になるが、1日に食べるのは5枚程度に抑えた方がいいと伝え、更に1年間有効な保存魔法がかかっていることも伝えた。
保存魔法と言う言葉で反応したのが、元王弟で、現在南の大領地の当主フールージュ公爵だった。
「1年だけ有効ですか?」
「ルージュ・カメリアからそのように教わりました・・・これ以上期間を伸ばす魔法は知らないそうです。生ハムの原木1本を店で使えば、1年どころか半年もしないうちに食べきると思いますが、安全のためにも必要だと思っています」
「・・・確かにそうですね」
フールージュ公爵はそれ以上おっしゃらなかった。
王族の一部のみが知る保存魔法の操作を知らなかったとしても、保存魔法が存在していることは、知っていたのかもしれない。
「せっかくですから、当主の皆様にも、後ほど保存魔法の操作をお伝えします」
「それは我々に伝えても、問題がないのでしょうか?」
「秘匿することではないようです」
「では、教えを乞うとしましょう」
やはりフールージュ公爵は操作を知らないようだ。
「氷の次は上級精霊と保存・・・北の領地は次々と、話題に事欠かないようだ」
「ヴァンドール公爵、今日は魔法だけではなく食べ物でも驚くと思いますよ」
「ああ、だから今日、呼ばれたのであろう」
頷くと「失礼します」と言う声とともに、たくさんのパンが運ばれてきた。
惣菜パンは7種類
焼きそばパン
ナポリタンパン
グラタンコロッケパン
ポテトコロッケパン
塩唐揚げパン
ソーセージパン
茹で卵と燻製肉とチーズパン
菓子パンが3種類
オランジとチョコのパン
アズキパン
姫ポムジャムのパン
揚げパンも3種類
チーズ揚げパン
ソーセージ入りチーズ揚げパン
チーズと燻製肉の包み揚げパン
13種類全てを用意した。
当主たちには、全部食べられるように、小さく切って出してある。
「食卓中央に置かれたパンは、北の騎士団で販売している実際の大きさです」
「今まで見たことのないパンですが、大きいですね」
「騎士たちが食べるパンですから、大きく作ってあります。フールージュ公爵の領地には騎士団の他に海軍もありますから、需要は高いと思います」
「西は騎士団だけだが人数は多い」
「東もそれなりの人数はいます」
「南が一番多いと思いますよ」
「各騎士団や海軍で食べていただきたいパンです。まずは召し上がって下さい。惣菜パンが7種類、菓子パンが3種類、揚げパンが3種類です」
「ソウザイパンですか?」
「おかずとパンが一緒になったものを惣菜パンと呼んでいます。菓子パンはジャムやチョコ、アンコと言う甘い豆などが入っています。ただ、アンコとチョコは今のところ冬の限定です。季節で中身を変えるかもしれません。揚げパンは名前の通り油で揚げています」
パンはいろいろな種類をしっかり食べてもらい、その後カフェアロンジェや紅茶を飲みながら、話し合った。
各領地の騎士団と南は海軍も含めて、是非とも販売したいと言う話になった。
更にルージュの話もし、カメリアの種で高級液体と高級クリームを作った事を伝えると、「やけに艶がいいと、ずっと気になっていた」と当主たちが声を揃えて言っていた。
私の髪や肌はつやつやになっているからだろう。
カメリアヌリソンとカメリアセロムを各3個ずつ渡し、使用方法も伝えると、妻に手土産が出来たと各領主にとても喜ばれた。
今回は当主宛の招待状を出していたため、王都まで一緒に来ていた夫人たちに凄くがっかりされたらしい。
せっかく王都まで来ているのだからと言われ、シャルダン・デ・ローズに行く約束をさせられたらしい。
「次回から夫人同伴での招待状が届くことを期待しています」
フールージュ公爵が言うと、ヴァンドール公爵とオーベール侯爵もしっかり頷いていた。
次回があるかわからないが、一先ず「善処します』とだけ答えておいた。
カメリアヌリソンとカメリアセロムの件は、ルージュがもともと東の領地の精霊で、いずれ領地に帰ると言ったため、東の大領地で作ってはどうかと提案したところ、オーベール侯爵は二つ返事で了承した。
北の領地では個人の分だけは作ることと、ステファニーが高級液体をカメリアセロム、高級クリームをカメリアヌリソンと名前を付け、陛下と王妃にも伝えているため、東の大領地で販売する時も、その名前を使用することになった。
次回会う時は皆つやつやになっているだろう。
それと、麓で採れた薬草を使ってルージュが作った薬の事を伝え、現在、人の手で作れるように研究中であることも伝えた。
特級薬のポリポーと上級薬のルニエヴェルトとフレアロスをそれぞれ1本ずつ各領地に渡し、効能についても話したが、万能薬があることに驚かれた。
西の大領地のヴァンドール公爵には、ヤングコーンはサラダの他に炒め物にも使えると教え、来年から本格的に販売を開始してはどうかと提案をした。
シャルダン・デ・ローズ王都店では、西の領地からヤングコーンを買うことになっているが、もちろん特別価格だ。
ポップコーンも作って販売をしたいと願われたため、製造に関する権利の契約をすることになり、5日後に改めて屋敷に来てもらうことになった。
南の大領地はベルトランが魚介類をアンに贈ることで、冷凍保存が可能とわかり、各領地との取引が始まっている。
今回は新たな取引がなくてもいいとおっしゃっていた。
漁獲数の調査と、魚介類の冷凍発送で忙しいらしい。
惣菜パンと菓子パンと揚げパンは騎士団と海軍で販売したいと希望されたことで、各領地の料理人と騎士団や海軍のパン職人が、王都の屋敷で作り方の研修をする事となった。
南の領地から5名、西の領地から3名、東の領地から3名の派遣を検討しているらしい。
冬の月から研修を始めるとしても、総勢11名となれば王都の屋敷と北の屋敷からそれぞれ指導が出来る料理人を選出しなければならない。
総料理長のカジミールと北の屋敷の料理長のコンスタント、それと王都の屋敷の料理長のリシュに頼むことになりそうだ。
最後にアンジェルが、ブーランジェリー・マシロ店監修と言う名目で、価格の低い学院専用メニュを開発し、北の学院の食堂で食べられることになったことも伝えた。
但し、街のパン屋に影響がないよう、仕入れ先のパンを使っていると説明をしたところ、各領地でも学院の食事の内容と価格の確認をすると言う。
各領地がするのであれば、王都の学院の食堂メニュも検討したほうがいいのではないかと言う話になった・・・また王城に行くのか?
この件はダルシアク宰相にも話を通さなければならないのだろうか?
もしかして、近衛隊や騎士団にも騎士のパンがいるのだろうか?・・・いや、絶対いると言うだろう。
王城に行きは決定だな・・・。
まだ時間はある。
次回集まる時に学院のメニュについてと、各学院の関係者や料理人についても話し合うことになるだろう。
試食会とは異なるため、夫人たちは来ないと思いたい。
各領地との話し合いは終わったが、明日は大神殿にある孤児院の面談にも、いかなければならない。
料理人を希望している子どもは2名、店で働きたいと言う子どもが2名いる。
孤児たちの中で、神殿に置き去りにされたり、路地に捨てられていたりした赤子は元々の身元が不明だ。
前回採用した4名のうち、ニコラ以外の3名は親もしくは祖父の名と職業を知っている。
王都の滞在期間でどれだけ身元が確認できるのか・・・希望者は可能な限り全員雇いたいと思う。
料理人と店の従業員はまだまだ人数を増やしたい。
特に料理人の確保はアンジェルが喜びそうだ。
4日後に王城に行くと、陛下となぜかテオドール第三王子も参加されていた。
そして・・・やはりダルシアク宰相はいた。
近衛隊と騎士団の団長を含む数名も当然とばかりに参加を希望され、大勢での試食会を催した。
騎士たちのパンの販売は近衛隊と騎士団から強い希望があり、パン職人が4名も屋敷に派遣されることになった。
ついでとばかりに王城からも料理人が2名来ると言う・・・王城はいらないだろうとは言えなかった。
そのため、各領地の料理人11名を含めて総勢17名にも膨れてしまった。
素人を扱うわけではないから、なんとかなると思いたい。
その翌日に、西に大領地のヴァンドール公爵と夫人が来て、ポップコーンの製造、販売の権利を売り、ポップコーンの味は塩味とキャラメル味、チョコ味、チーズ味の4種類を作って食べてもらった。
もちろん土産も子どもたちへと言ってポップコーン4種類を渡した。
さらにその2日後には、孤児院の子どもたち4名を雇うと決め、今回は王都の屋敷で研修をし、研修後は王都店勤務とした。
ノール本店より王都店の方が各領地から人が訪れるため、来客数が多いからだ。
王都での怒涛の日々が終わり、ようや北の屋敷に帰ることが出来た。
今回はステファニーが表に出ることは少なかったが、細かい準備をすべてやってくれたお陰で、確実に事を運ぶことが出来た。
さて、宝石商を呼んで、ステファニーに好きなものを選ばせてやろう。
次回の更新は7月10日「101、シャル兄様とジルベールさんも精霊樹へ」の予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




