93、龍騎士たちが食べるパン
ルージュはいろいろな知識を持っているようだ。
ルージュ・ローズティーを作ってくれたり、カメリアの種を叩き潰し・・・ではなく、圧縮して出てきた液体でお肌や髪を整えたりすることを教えてくれた。
ドンッ!と潰すことで液体が出てくるらしいけど、人の力で出来るのだろうか?
圧縮する道具があるのなら、作れるかもしれない。
薬草を見たいから、山の麓に行きたいとも言っていた。
今度は何を作るのかな?
昨日のことは早速お母様に伝え、瓶に詰めた液体と容器に入ったクリームを渡したの。
お母様は「まぁ、ルージュが作ってくれたのね」とおっしゃって目をキラキラさせて瓶と容器を見つめていたよ。
お母様はきっと湯あみの時に、薄めた液体を全身くまなく浴びると思う。
そしてツルツルピカピカになったお母様が「カメリアの木をどんどん増やしたいわ」と、お父様にお願いしている姿が目に浮かんだよ。
お父様は「ああ、構わない」と嬉しそうに返事を絶対すると思う。
液体とクリームはいくつか手元に残していたから、ソフィとフォセットにも渡したの。
寝る前に手に塗っておくと、朝には指先まですべすべになっているはず。
上級精霊が作った超高級クリームだもの。
アンも湯あみの時にカメリアの液体を使ったら、髪がサラサラになったよ。
元々ツルツルなお肌だったからわかなかったけど、ソフィが「ピカピカになりましたね」と言っていた。
光沢が出たらしい。
今後カメリアの液体を屋敷内だけで使うのか、もっと広めていくのかはお父様とお母様とルージュで話し合うとおっしゃっていた。
ルージュがピカピカになる液体を作った日から5日が経ち「アレクサンドル様が、ようやくお話をする時間が作れたとおっしゃっております」とバスチアンが知らせに来てくれた。
お父様は騎士団との打ち合わせや、王都や王城への連絡など処理しなければならない事がたくさんあったらしい。
昼食後に執務室に行くと、お父様の髪とお肌がつやつやしていた。
お母様から超高級液体をもらって使ったようだ。
イヴァンまでつやつやしているよ・・・。
ユーゴ達護衛も昨日からつやつやしているから、そのうちにつやつやが当たり前になるのかも。
今度お父様が王城にいったら、リシェンヌ王妃に追及されそうだよね。
カメリアの液体とクリームを、もっとたくさん作ってほしいとルージュに頼んでおいた方がいいかもしれない。
それまでに液体やクリームの名前も考えておかないとね。
「お父様、お時間作っていただきありがとうございます」
「アンに伝えたいこともあったからな。先にこちらの話を伝える」
「はい」
「騎士団でのパンの販売だが、騎士団の大食堂の隣に厨房と販売所を作ることになった。厨房を先に作りパンを焼く窯も5つ作る予定だ。騎士団の料理人が1名移動し、新人を含めたパン職人3名と販売員4名を新たに雇い入れた」
「ついに販売されるのですね。いつから開始するのですか?」
「冬の1の月からになる。料理人を育成する屋敷の厨房が、今は使われていないから、そこで秋の2の月に1ヶ月ほどカジミールとコンスタンが交代で指導をする。秋の3の月から騎士団の部屋を一室借りて、作ったものを昼と夕方に販売員が売る。作ったパンを運ぶのは多少の手間になるが、早く販売してほしいと要望が多いので、前倒しをすることした。それと惣菜パンはもっと大き方がいいと言う意見もあり、今の倍の大きさで販売することになった」
「先に試食してもらってよかったですね」
「・・・そうだな。それからアンが希望をしていた温室だが、ノール本店にのみ建てることにした。雪が積もる前に完成させる。木を植えられるような大きな温室になるから、職人の手配に手間取ったが何とか目処は立った。王都は温室を作らなくても、新鮮な果物や野菜は手に入ると聞いているから、莫大な経費をかけてまで建てる必要はないと判断した」
「・・・気候が違うからですか?」
「それもあるが、小麦や果物などの荷は、東西と南の領地から王都までは宅急便を使えば1日で着くことが多い。馬車でも王都よりの領地であれば3日程で届くからだ。北の領地は王都からでも宅急便を使っても3日はかかるからな」
「距離ですか・・・」
「そういうことだ。この件は決定だ。いいな」
「・・・はい」
王都は駄目だったよ・・・。
「次にカメリアの種から抽出した液体とクリームの件だが、人の力で作る分には、好きにしていいとルージュから了承を得た。だが、製法と販売の権利は東の大領地に渡そうと思う。アンが魔法で目覚めさせたとはいえ、ルージュは元々東の領地にいたと言っていたからな」
「・・・個人で使う分は作ってもいいですか?」
「ルージュが好きにしていいと言っているのだから、屋敷内で使う分は問題ないだろう。そのことも東の領主には伝えておくつもりだ」
「わかりました。あの、ルージュが薬草を取りに山の麓に行きたいと言っていますが、一緒に行ってもいいですか?ジルベールさんとコレットさんも一緒です」
「屋敷の北側なら問題ないが、天気の良い日の午前中に行くようにしないさい。山の麓とは言え、気候が急に変わることもあるからな」
「はい、気を付けます。アンはキリーに乗るから、ルージュは護衛の龍に乗ってもらうつもりです」
「マクサンスかジュスタンが犠牲・・・コホン、乗せて行けばいいだろう・・・」
・・・犠牲って聞こえたよ。もしかしてお父様もルージュが苦手なのだろうか?
「ルージュに伝えておきます」
「あ、ああ・・・こちらの話は以上だが、アンの方で他に何かあるか?」
「あの、パンの販売ですが、学院の食堂にもお惣菜パンとお菓子パンを販売できないでしょうか?」
「学院の食堂は食事にかかる費用の一部を、各領地の寄付金で負担しているから、学生は安く買えるようになっている。庶民も通っている学院で、値段の高い惣菜パンと菓子パンが売れるとは思えないが」
「値段ですか・・・」
「それだけではない。パンは街のパン屋が卸しているから、相手の商売の妨げになるような事はしない方がいいのではないか?ブーランジェリー・マシロ店を始めてから、街のパン屋の売り上げが多少は下がっていると思うぞ」
「・・・はい」
「学院の食堂の料理は口に合わないのか?」
「いえ、食べられますが・・・パンだけはちょっと・・・」
「ならば街のパン屋の妨げにならず、もっと価格も下げられるような工夫が出来ないかカジミールに相談してみるのはどうだ?価格が下がるのであれば、学院と交渉してもいいが?・・・種類はあまり増やさないようにしなさい」
「材料についてはカジミールに相談してみますが、お惣菜パンも低価格で販売可能か検討してみたいです」
「・・・試作品が出来上がったら知らせなさい」
「ありがとうございます。それとポップコーンのことですが。前にお母様に反対された容器を作りたいのですが」
「容器?」
「ポップコーンを入れるバケツ型の容器です。あっという間に食べてしまうから、大きい容器があれば何度も継ぎ足さなくて済むのです」
「販売予定もないのに容器をわざわざ作る必要性を感じないが?」
「販売先・・・」
何かいい方法はないかな?・・・バケツで食べたい。
あっ、販売権だ・・・ルージュの液体を東に渡すなら、西はポップコーンを作ってもらって、王都に進出してもらえばいいかも。
「話は終わりか?」
「あの・・・先ほど東の領地にカメリアの液体の製造と販売権を譲渡すると言っていましたが、西の領地はどうされるのですか?同じように譲渡するものが必要では?西の領地は庶民が多いと聞いたことがあります。塩味のポップコーンは安価で売れます。キャラメル味やチョコ味は貴族にも売れます。お祭りに屋台でバケツ販売も出来ます。北の領地に関しては個人で作っていいということにしてはどうでしょうか?」
・・・バケツの容器が作れるよね?
「・・・アン、ポップコーンは無償で譲渡する理由がないだろう?アンが考えて作ったもので、精霊が作ったものではない。それに個人で食べるのなら今と同じだろう?なぜバケツにこだわる?」
「うっ・・・バケツを抱えて食べてみたかっただけです」
「・・・残念だな・・・却下だ」
「・・・はい」
・・・バケツは駄目だったよ。
「西の領地で要望があれば、製法と販売の権利を売ってもいいが、バケツ販売までは伝えるつもりないぞ」
「・・・はい」
お父様にポップコーンを入れるバケツ作りを却下されてしまった。
バケツの容器が却下され残念に思いっていたら、翌日から4日間も雨が続いた。
・・・まるでアンの心のようだよ。
ようやく晴れて庭に出ると、ジェローが仕事をしていた。
小ぶりの雨なら休まず作業をするらしいけど、最初の2日間は土砂降りのような雨だったから、さすがに作業は休んでいたらしい。
休みの間は、王都にいる長男のポランに手紙を書いたり、物置小屋の整理をしたりしたと、それなりに忙しかったらしい。
「物置小屋を片付けていたら突然ルージュ様がいらっしゃって、ルージュ・ローズティーを作ってくれました」
とても嬉しそうに教えてくれた。
「小屋に?」
「はい、とても良い香りで、美味しかったです」
ジェローが何かを思い出すように、目を細めている・・・なんだか幸せそうだ。
それにしても・・・物置小屋にもお茶の準備をする厨房があったとは知らなかった。
そういえばシャル兄様が畑を耕すようになってから、畑の横に立派な休憩小屋を作ってもらっていたよね。
物置小屋も、あの立派な小屋と同じなのかもしれない。
「明日、明後日も晴れますね」
ジェローが空を見上げて言っていた。
「ジェローは天気がわかるの?」
「2、3日先までならわかります。天候によって作業内容を多少変えたりしなければなりませんから」
「凄いね!北側の山の麓に行く予定なの。もう行っても大丈夫?」
「まだ、道がぬかるんでいるはずです。明後日なら大丈夫だと思いますが・・・」
「ありがとう、明後日ね」
すぐにジルベールさんとコレットさんに連絡しよう。
ジェローと別れて急いで部屋に戻り、二人に手紙を書いた。
「ソフィ、お願いがあるの」
「な、なんでしょうか?」
姿勢のいいソフィの背筋がさらに伸びた。
「手紙を学院の寮に届けるように手配してほしい。明後日は山の麓に行くからその連絡なの。それと明日の午後からカジミールのところに行くから、伝えておいてね」
「わかりました」
ソフィが手紙をもって出ていくと、すぐに扉の所にいるユーゴに明日と明後日の件を伝えた。
「明後日は午前中に山の麓に行くよ。アンはキリーに乗って行くから、ルージュはマクサンスかジュスタンが乗せるようにと伝えておいてね」
「それでしたら、マクサンスがいいです」
ユーゴがにっこり笑って言ったら、横に並んでいたジュスタンが横を向いて肩を揺らしていた。
「ジュスタン、どうしたの?」
「ルージュ様がマクサンスを気に入ったようです。昨日も仕事が終わって帰ろうとしていたマクサンスの横に来て、争うように歩いていましたから・・・クフッ」
口を押えていたけど、笑い声が漏れているよ。
それは気に入ったということになるのだろうか?
今日はマクサンスが休みで確認できないから、明後日の様子を見てルージュが何か言うようだったら、ジュスタンと交代してもいいよね。
明後日は山に行けると伝えるつもりだったけど、温室に行ってもルージュはいなかった。
庭に行ってみると、姫ポムの精霊さんやローズの精霊さんを肩に乗せて、庭をうろうろしていたよ。
何をしているのかな?
「ルージュ、ここいたの?」
「あら、アンジェルじゃないの。何か用かしら?」
「ようやく晴れたから、明後日の朝食後に薬草を見に行こうと思ったの」
「いいわね。行くわ」
「アンはキリーに乗るから、ルージュはマクサンスの龍に乗ってもらっていい?」
「マクサンス?・・・ああ・・・あたしを追い越したあの子ね・・・構わないわよ。でも帰りはこの子の龍に乗るわ」
小指を立てたまま、人差し指で示したのはジュスタンだった。
「えっ・・・私ですか?」
「そうよ、他に誰もいないじゃない」
ジュスタンの横にいるユーゴは、ルージュの目に映っていないのだろうか?
ユーゴは目線だけ斜め下を向いているから、ルージュと目を合わせないようにしているようだ。
護衛はちゃんと前を向いていないとだめだよ。
「・・・わかりました」
「良かったな、ジュスタン。ルージュ様からの直接のご指名だ。ありがたく思えよ」
「・・・は、い」
「いやだわ。ありがたく思えだなんて・・・照れるじゃない。そっちの貴方の龍にも次回乗ってあげるわ。喜びなさい」
「えっ・・・」
「ユーゴ先輩もご指名を頂けて良かったですね・・・クフッ」
ジュスタンが笑いをこらえながら言っていた。護衛たちが仲良しで何よりだよ。
「もう用はないかしら?なければジェローのところに行くわ。作業を手伝う約束をしているの・・・じゃあね」
あっという間に背中を向けて行ってしまった。
・・・大きな背中についている小さな羽が可愛らしくピコピコ動いているのを思わず見つめてしまったよ。
あの羽がアンの背中にも付いていたら、歩くのが楽になるかも・・・ちょっと羨ましい。
・・・でも、あおむけで寝たら羽は潰れるかな?寝返りの度にこすれたりしないのだろうか?
出し入れ出来るのなら、絶対便利だと思う。
茉白は小さい時に、大人になったら背中に羽が生えると信じていた。
背中の肩甲骨という少し飛び出たところから、羽が出てきて収納出来ると思っていたらしい。
そのころはまだ茉白のご両親が生きていて、「何歳になったら羽が出てくるの?」って聞いていた。
お父さんの顔がポカンとしていて、お母さんが凄く困った顔をしたのを見て、なぜ両親がそんな顔をしているのか不思議に思っている記憶だった。
茉白が思っていたように、アンの背中にも羽が出てきたらいいなと思う。
茉白の思考は面白くて可愛い。
可愛いは正義だと茉白の記憶にあったけど、でも可愛いだけじゃ駄目だよね。
期待に沿えない残念な結果をどう伝えるか・・・大人は悩むよね。
真実を語ると、幼少期の夢を壊してしまう。
「精霊になったら羽が生えるけど、精霊になるとお母さんたちとは暮らせなくなるのよ」
お母さんが茉白にそう言っていた。
お母さんも「精霊巫女物語」の本を読んだことがあったのだろうか?
茉白は病院の寝台で読んでいたよね。
「えっ!それなら羽はいらない」
茉白は早々に羽を諦めたのに・・・その数年後には一緒に暮らせなくなっていた。
・・・急に茉白の悲しい思い出がよみがえってしまったよ。
気持ちが少し重くなったまま部屋に戻った。
「しっかりしないと・・・羽の事は忘れて先ずはカジミールに相談だよ」
拳を握って気合を入れてみる。
学院のパンはどう工夫すれば受けいれてもらえるだろう?
今食べているマシロパンは小麦粉 塩、ノールシュクレ、バター 、ウッフ、酵母、それにパンの表面がつやつやに焼けるように卵黄を塗っている。
美味しくなるための材料をふんだんに使っているから、できるだけ材料を減らして、安いパンを作らないといけない。
庶民の学生にも食べられるパンが出来ればいいな。
騎士団のパンの事もあるから、明日は普通のパン生地も用意してもらおう。
「ソフィ、お願いがあるの」
「は、はい」
さらに背筋を伸ばそうとしているソフィに、要件を伝えてもらうため厨房に行ってもらった。
今日はカジミールに低価格のパン相談をするの。それとは騎士団で販売する新しいパンも作ってもらう予定だよ。
いつもより軽めに昼食を済ませてから厨房に向った。
「アンジェル様、お待ちしておりました」
「待っていたわよ、アンジェル」
「ルージュもいたの?」
「そうよ。ここでお茶をふるまっていたのよ」
「温室のローズをたくさん使ったから、後で育てておいて頂戴。取り過ぎるとステファニーが怖い顔で驚くのよ」
・・・怖い顔・・・それ怒っている顔じゃないのかな?
「厨房の用事が終わったらすぐ行くね」
「仕方ないわね・・・なるべく早くしてね」
ルージュに気を遣わせるほど、お母様の驚くほど怖い顔は迫力があったようだ。
お母様が怒るとお父様でさえ、そっといなくなるもの。
「アンの分もあるわよ。さぁ飲んで」
「ありがとう。早速いただくね」
「ええ、どうぞ・・・貴方たちの分まで作ってなかったわ」
ユーゴ達護衛のことは忘れていたらしい。
「我々は護衛ですから、お気遣い無用です」
厨房で試食をする時は、護衛をしないで遠慮なく食べているのに、ユーゴがきりっと返事を返していた。
・・・ちょっとかっこいいかも。
奥の方にロイクがいた。
帽子を被っているから髪は見えないけど、心なしか眉が整って見える気がする。
この間、午後から休みを取って、髪と眉を整えると言っていたからね。
綺麗なロイクになっているかな?
言い過ぎてしまったロイクの事をちょっと気にしながら、ルージュ・ローズティーを一口飲んで一息ついた。
「カジミール、価格を抑えたパンを作らないといけないの。お惣菜パンも安くしたいの。お菓子パンはさすがに無理かもしれないけど・・・」
「どこまで価格を下げたいのでしょうか?」
「お店で出している価格の三分の一まで・・・」
「三分の一ですか・・・バターやミルク、ノールシュクレを減らすことでかなり価格は下がりますが、味や食感がかなり変わります」
「バターは使わないで、ミルクもぬるま湯に変更して。酵母とノースシュクレも半分の量で試作品を作ってほしいの・・・酵母やノールシュクレが少ないと発酵の進みが遅いかも・・・低温で一晩発酵させた方がいいと思うの。窯は温める時と焼くときも高温で一気に仕上げてくれる?」
「パサつくからでしょうか?」
「じっくり焼くと水分がなくなってパサつくかも」
「油を少し入れてもいいかもしれません。先ずはいろいろ試してみます。パンがうまく焼けましたら、そのパンに合わせた具材も低価格で作ってみましょう。例えば燻製肉を入れない焼きそばパンやナポリタンパン、それにポムドゥテールは価格が低いですから具材として入れてもいいかもしれません」
「ポムドゥテールもいいね。思いついたものをいくつか作ってみて」
「承りました。出来次第ご連絡します」
「それとは別に、今日は新しいパンを作ってほしいの」
カジミールとコンスタンの目がキラキラと輝きだしたよ。
ユーゴ達護衛も目がキラキラしている。
せっかく厨房に来たのだから、試食はしたいよね。
今日は太くて長いパンを焼いて、それを1、5センチくらいの厚さに切ってもらう。
切ったパンにたっぷりとチーズを乗せてコショウを振る。
その上に切ったパンを乗せてサンドウィッチのようにする。
チーズを挟んだパンは、溶いたウッフを全体に絡めてパン粉をしっかり付ける。
そして油で揚げる。
もう一つはたっぷりのチーズの中にソーセージを1本丸ごと入れた、ソーセージ入りチーズ揚げパン。
どっちも熱いうち内に食べると美味しいはず。騎士団のお店ではお昼と夕方に揚げたてを売るのもいいと思うの。
熱いうちはチーズが伸びて食べにくいから、ノール本店や王都店では出さないけど、ブーランジェリー・マシロ店と騎士団のお店でのみ販売しようと思っているの。
もう一つの揚げパンは茹でたポムドゥテールを潰したら、パン専用粉とミルクを混ぜ合わせて作るパン生地を使う。
茹でたポムドゥテールを入れるとモチモチになるらしいの。
チーズと小さく切った燻製肉にたっぷりとコショウを振ったら、モチモチのパン生地で包んで油で揚げる。
アンの分はコショウを控えめにしてもらうの。
もちもちの生地のパンは包んで揚げるから、チーズと燻製肉の包み揚げパンと呼ぶことにしよう。
そのまんまの名前だけど、わかりやすいよね?
カジミールとコンスタンに材料と作り方を説明したら、コンスタンがポムドゥテールを洗って、茹でる用意を始めた。
今日はロイクとニコラは作業に参加しないようだ。
カジミールはパン専用粉を容器で測って大きな入れ物に入れていた。
ルージュが、人差し指をあごに当ててカジミールの横で、作業を見ているよ。
パンに興味があるのかな?
時々人差し指を顎に当てているけど、集中している時の癖なのかな?指を当てすぎて顎が二つに割れたのかもしれない。
カジミールは太くて長いパンを作るため、既に用意されていたパン生地を4つに切って成形し、表面に卵液を塗り始めた。
その作業が終わると、温めていた窯に成形したパン生地を入れていた。
ルージュが不思議そうに窯の中を覗いているけど、精霊は熱さを感じないのだろうか?
カジミールがぎょっとしている・・・驚くよね。熱くなった窯に顔を近づけて覗く人はいないと思う・・・覗いているのは人ではなく精霊だけど。
「ルージュ、熱くないの?」
「熱くないわよ」
・・・ルージュは熱に強いらしい。
「カジミールやコンスタンの邪魔にならないようにしてね」
「分かっているわよ。ちょっと興味があっただけよ・・・あらっ!膨らんできたわよ。面白いわね」
・・・ルージュはパンが焼けるのが面白いらしい。
お城にいた時は厨房に行かなかったのかな?
そろそろ太くて長いパンが焼きあがるから、取り出す時に邪魔になるよ。
でも、この大きなパンを全部切ったらいったい何個の揚げパンが出来るのだろう?
邪魔にならないようにルージュと隣の部屋で待っていたら、ロイクとニコラが揚げパンと包み揚げパンを運んできた。
試食会には参加するようだ・・・。
「ルージュも一緒に揚げパンと包み揚げパンを食べるでしょう?」
「あたしは果物と木の実以外は食べないわよ」
「ダイエットをしているの?」
「ダイエットって何?」
「太らないように気を付けることだよ」
茉白の先輩がダイエットをしているって言っていたもの。美味しいものを我慢して瘦せるのだと・・・。
「あたしの体に無駄なお肉なんてついていないわよ。だからダイエットとかいうは必要ないわ。精霊は魔力で育った自然の食べものを口にすれば十分なのよ」
「それじゃぁ、アンたちだけで食べるね」
「あたしはジェローのところに行くわ。明日は寝坊しないでね」
あの時お昼まで寝ていたのは、カメリアの木を育てて疲れていたからだよ。
「ムゥ・・・明日の朝、庭に集合だからね」
背を向けながらひらひらと手を振って行ってしまった。
・・・ルージュのお口は言いたい放題だけど、移動のたびに小さな羽がピコピコ動くのがちょっと可愛い。
「ルージュがいなくなったところで、試食会を始めるよ。オオォー」
「「オオォー」」
ロイクとニコラがいると盛り上がるね。
「いただきます!」
「「「「いただきます!」」」」
「・・・いただきます」
今度はロイクとニコラの他にカジミールとコンスタンも言ってくれた。
ソフィも小さな声で言っていたのが聞こえたよ。
アンとソフィとフォセットの揚げパンと包み揚げパンは小さく作ってくれていた。
早速、揚げパンから食べてみようかな?
紙に包まれた揚げパンを掴んで、かじってみる・・・チーズがトロットお口に入って来たけど・・・の、伸びる・・・。
引っ張ってもどんどん伸びる・・・ど、どうしよう。
お口とパンの間で、伸びて垂れたチーズを吸うようにもぐもぐと食べても、パンの中のチーズがついてきてまた伸びる。
何とか嚙み切ったけど、お口の中はチーズでいっぱいになった。
「・・・美味しいけど、食べるのが大変・・・」
「これは美味しいですね。ソーセージ入りは最強です・・・えっとアン様、伸びる前に嚙み切るといいですよ。」
教えてくれたユーゴの方を見たら、きれいに食べていた。ソーセージ入りもう食べ終わったらしい・・・でも最強って?・・・もしかしてもっと手強い食べにくさなのだろうか?
「ソーセージ入りは嚙み切れないの?」
「いえ、問題なく嚙み切れました」
「最強って言っていたから。食べにくいのかと思ったの」
「・・・そういう意味ではありません。手軽に食べられる美味しいパンです」
「・・・」
ソーセージ入りの揚げパンを食べているから返事が出来なかったよ・・・お口の中はチーズとソーセージでいっぱいなの。
とりあえず頷いていておいたよ。
「騎士団での販売は問題ないようですが、ブーランジェリー・マシロ店ではもう少しパンを小さくして、チーズを減らした方がよさそうですね」
「そのほうがいいと思う」
カジミールの提案にホッとした・・・食べるたびにお口の中がチーズでいっぱいになると、飲み込むまでに時間がかかりすぎちゃうもの。
ようやく揚げパンを食べ終えて、次にチーズと燻製肉の包み揚げパンを食べる。
パン生地はモチモチしているけど、皮が薄いから問題はなかった。
中のチーズは燻製肉がたくさん入っているせいか、少し伸びただけで、お口の中でいっぱいになることはなかったよ。
・・・よかった。
燻製肉の味がパンにも染み込んでかなり美味しい。
ユーゴたちも黙々と食べているから問題はなさそうだ。
食べ終わったユーゴがお茶を飲んで、カップを見つめているよ・・・どうしたのかな?
「あの・・・意見を言ってもよろしいでしょうか?」
「うん、そのための試食会だもの。思ったことは教えて」
「そうでした・・・もし可能でしたら、騎士団で販売する惣菜パン、菓子パン、揚げパンすべて、もう少し大きくしてほしいです」
ユーゴの意見に、マクサンスとジュスタンも頷いていた。
最初にそうでしたって言っていたよね?
もしかして試食会ではなく、お腹いっぱい食べる会だと思っていたのかな?
・・・意見を言ってくれたから、今回は許すけど・・・。
「騎士は一度に食べる量が多いですからね」
「カジミールの言った通り、この大きさでは物足りないのです」
「お父様が騎士団の要望でパンは今の大きさの倍にすると言っていたの」
「20センチくらいの大きさで、中の具材も増やしてもらえるのであれば問題ないです」
「カジミール、ユーゴの意見通り、お父様にお出しする時は20センチの大きさで具材も倍にして。でも、お母様にはアンが食べたのよりもっと小さくしてね」
「心得ております。先ずは最初に焼くパンの大きさを2種類作ることにしましょう」
これで騎士団とブーランジェリー・マシロ店のパンの追加が決まったかな?
あとは学院のパンだよね。
次回の更新は5月22日「94、山の麓の薬草」の予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




