表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第2章 ちょっと丈夫になった辺境伯令嬢のやりたい事とやるべき事

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/94

94、山の麓の薬草

 今日はルージュと山の麓に行く日なの。

 飛行服は上下とも臙脂色で、上空は肌寒いからと深緑色の上着を着せられた。

 上着の胸のポケットには、赤いローズの刺繡がされている。

 ネージュとキリーの帽子は飛行服と同じ生地だから臙脂色。小さなつばの部分は上着と同じ深緑色になっていた。

 ハンチング帽と言う形だよ。

 帽子の右側にローズの刺繡があるけれど、ハンチング帽はどっちが前かすぐわかるから、目印としての刺繡はなくてもいいと思うの。

 ・・・もしかしたら、お揃いの刺繡が重要なのかもしれない。


 ハンチング帽はあまり深く被れないからキリーの眉模様が少し見えるの。

 もう、キリッとした眉は誰もが見慣れたと思うから、もう気にしなくてもいいよね?


 庭で待っていると、少し遅れてルージュがやって来た。

 アンの飛行服とネージュやキリーの帽子を見て「前のとは違うのね」と言っていた。

 何を着ていたのか覚えているらしい。

 飛行服は年に数回しか着ないのに、毎回違う服が用意されているの。

 1年の間に何枚作っているのかちょっと気になったよ。


「大きな入れ物と小瓶を用意して頂戴。小瓶は30本もあればいいわ」


 アンたちの服を見ていたと思っていたら、急にルージュが何やら言い始めた。


「小瓶?・・・準備する時間をもらえる?」


「大丈夫よ、アンジェル。少しぐらいなら待てるわ」


「今度から準備するものは、早めに行ってね」


「だから出発前に言ったのよ」


 精霊の時間感覚が違うとわかっていても、出発前に言うのは止めてほしいと思ってしまう。

 仕方なくソフィに伝え、急いで用意してもらうように頼んだ。



 ソフィは木箱を抱えた屋敷の護衛と一緒に戻ってきた。

 2つの木箱の中を覗くと、大きめの入れ物が1つと、カメリアの液体を入れた小瓶と同じような小瓶が沢山入っていた。

 この小瓶はどこにあったのだろう?そして今まで何に使っていたのかな?

 ・・・不思議だよね?


 これでようやく出発できるよ。

 今回はユーゴとマクサンスとジュスタン、それに屋敷の護衛が5人だと聞いている。

 護衛がいつもより一人多いのはなぜだろう?と思いながら、ふと空を見ると龍が3体飛んでいた。

 ジルベールさんと侍従を乗せた龍が2体と、コレットさんを乗せた龍のようだ。


「ミッテラン様たちが既に上空で待機していますから、すぐに出発します」


 ユーゴがそう言って、右手を上げると同時に飛び立った。

 続いてルージュを乗せたマクサンスが飛び立ち、次にアンを乗せたキリーと右横にいたネージュが飛び立った。

 アンの左にジュスタン、ネージュの右側に屋敷の護衛、後ろにも屋敷の護衛が付いてきているようだ。

 上空に行くと、ジルベールさんとコレットさんが手を振っていた。

 手を振り返すと、そのまま後ろに下がって行ったから、アンの後ろに着くのかな?


 敷地内はとても広いけど、空を飛ぶとあっという間に遠くまで行けちゃうよね。

 ちょっと飛んだだけでもうポムの木が見えてきた。

先日キリーが袋ごとポムを持って来たのも、この木のどれかだと思う。

 その先に救助犬の犬舎と訓練場などもある。

 ここを過ぎると屋敷を囲っている高い塀があり、そこを超え少し行くと山の麓になる。

 さらに奥へ進むと鉱山道があって、精霊樹はもっと山の上だ。

 精霊樹のあるところまでが北の大領地になると、地図を見て知ったのは最近だけどね。


「山の麓と言っても、屋敷の敷地内から少し出たところで、龍から降りていただきます」


 ユーゴが言った通り塀を超えたら、山に向かって長く続く道のところに、次々と龍が着地していく。

 もっと奥の方に行くのかと思っていたのに・・・振り向いたら塀が見える。

 もうちょっと乗っていたかった・・・残念だよ。


 山の麓はなだらかな所が多いけど、少し先に崖のようにそり立ったところもある。人が通れる道は綺麗にならされているけど、周りは木や草が鬱蒼と生い茂っていた。

 ・・・どれが薬草なのだろう?


 ルージュが龍から降りようとして、マクサンスに手を差し出していた。

 マクサンスが首を傾げてルージュを見ている。

ルージュがさらに手を差しだすと、ハッとしたあと、差し出された手をマクサンスが慌てて受け止めていた。

 ・・・ルージュの手の方が大きく見えるのは気のせいではないと思う。


 マクサンスの手を借りて、ゆっくりと優雅に龍から降りてきたけど、ルージュの体はムキムキなのだから、飛び降りても怪我などしないと思うの。

 ・・・しぐさがどこかお上品なのは王族とかかわっていたからかも。


「アンジェル、薬草の採り方を教えるわね。ジルベールとコレットもちゃんと覚えるのよ」


「は、はい」

「わかりました」

「はい?」


 慌てて返事をしたら、ジルベールさんも当然のように返事をしていた。

 薬草を採るつもりでいるらしい。

 コレットさんは当然疑問形だったよ。

 コレットさんは薬草の見学ではなく、ルージュの見学に来ていると思う。

 アンだってルージュの付き添いのつもりだったよ。

 採り方を教えるって・・・出来るだろうか?

 ルージュは戸惑うコレットさんとアンの事を気にする様子もなく、羽をピコピコ動かしながら道の脇の鬱蒼としたところを進んでいく。


 龍はここに置いていくようだ。

 ルージュの後をユーゴが進み、その後をマクサンスとジュスタンに挟まれてアンが進む。

 少し離れたところでネージュは飛んでいるけど、キリーは歩いている。

 後ろを振り向いたら、ジルベールさんと侍従とコレットさんも護衛たちに挟まれて歩いていた。

 屋敷の護衛は周りを確認しながら、木の枝や足元の草を刈っている。


 少し歩いたら、ルージュが指をさした


「あれがルニエヴェルトよ。痛み止めになるの」


 ルージュの背よりも高いものもあり、思わず見上げてしまったよ。

 大きな葉は周りがギザギザしていて、一番上の葉はまだ丸まったままだった。


「アン様、これを使ってください」


 薬草を触ろうとしたら、ユーゴに手袋を渡された。

 素手では駄目だったらしい。

 ジルベールさんとコレットさんは手袋も持っているのだろうか?

 心配して二人の手元を見たら、いつの間にか手袋を装着していた・・・知らなかったのはアンだけだったらしい。


 ルージュよりも背の高い薬草が茂っている中で、ルージュは自分の肩ぐらいの高さの薬草を、片手で掴んでは根からズボッと引き抜いていった。

 アンとジルベールさんとコレットさんに1本ずつ渡してくれたけど、根こそぎ何本も抜いてもいいのだろうか?

 もしかして周りにもたくさん生えていたから、間引きのつもりで根から抜き抜いたのかな?

 1本もらったけど、アンの背丈の2倍はある薬草を持ったまま、歩き続けるのは辛い。

 こんなに長いものを持って・・・帰りはどうすればいいのだろう?

 次々と疑問が浮かんできて、困惑した顔のままルージュを見てしまった。


「それは見本よ。葉を1枚取ってその葉と同じものを根から引き抜きなさい。一人5本までよ。花が咲いているのは取っては駄目。いずれ種になってここに落ちるわ。来年もここに生えてくるから、毎年採り続けられるでしょ?それと伸びすぎたものは駄目よ」


「ルージュ様、この薬草は種から育つ1年草でしょうか?」


 ジルベールさんは自分の背より高い根付きの薬草を、杖のように持ったまま質問をしていた。


「根が生きていれば毎年出てくるけど、雪が降る場所では根が凍って死んでしまうのよ。ここは毎年種から芽が出て育っていると思うわ。根が細くて短いし、茎が柔らかいもの」


「薬になる部分は葉だけでしょうか?」


 ジルベールさんはなぜか真剣に質問していた。薬草を集めて使いたいのだろうか?


「ほぼ全部使えるけど、一番上の丸まった葉は使わない方がいいわ。切るとネバネバしているの」


「ネバネバですか?」


「そうよ。このネバネバは傷口につけると酷くしみるし、渋くて飲むこともできないと言われたのよ。丸まった葉は捨てて頂戴」


「そ、そうですか・・・ありがとうございます」


「どういたしまして、貴方は熱心ね。アンとコレットもちゃんと覚えるのよ。せっかくだから少し説明するわ」


「「は、はい」」


 コレットさんと二人で慌てて返事をした。

 ・・・あれ?なぜアンは薬草の勉強をしなければならないのだろう?

 たしか麓の案内だったはず。

 ジルベールさんとコレットさんは一緒に行きたいと言っていたけど、ジルベールさんは興味があったらしい・・・でもコレットさんは好奇心だけだよね?


「アンジェル、ぼんやりしないで、説明するわよ」


「・・・はい」


 もやもやしていたら、ぼんやりと言われてしまった。

 ルージュはアンたちに勉強をさせたいらしい・・・覚えられるのかな?

 ルニエヴェルトと言う背の高い薬草をさかさまにして、根の方をアンたちに見せてくれている。

 よく見えるようにしてくれたのかも知れないけど、みんな手元に1本ずつ持っているよ・・・そんな事を思いながら、ため息を飲み込んでルージュの持っているルニエヴェルトの根を見た。


「根や茎は乾燥させてから、煮だして飲むの。傷口を清める時にも使っていいのよ。お腹の痛い時にも飲んでもいいわ。新鮮な葉は揉んで傷に塗るの。茎や葉は伸びきっていない方が効き目も強いし、飲んでも苦みが少ないとフェリクスが言っていたわ」


 えっ?フェリクスが言った?・・・初代の王に飲ませて実験したの?


「アンジェル、フェリクスに直接飲ませるわけがないじゃない。患者が飲んだ結果を教えてくれたのよ」


 なんで思っていたことがわかったのだろう?・・・もしかして声に出ていた?

 ・・・口を閉じておかないと・・・。


 ルージュの説明が終わり、周りを見ればギザギザ葉っぱのルニエヴェルトはたくさん生えていた。

 あまり珍しい薬草ではないのかもしれない。

 背が高すぎないものをさがす・・・低すぎても駄目なのかな?

 あっ、ユーゴと同じ背丈くらいの薬草を見つけた。

 これを根から抜けばいいはず。

 掴んで引っ張ったけど・・・抜けない。

 ジルベールさんは抜いたルニエヴェルトを侍従に持たせていた。もう3本も抜いたらしい。

 コレットさんは「1本抜けた」と喜んでいる。

 頑張らないと・・・。

 何度も引っ張ったけど、抜けそうもない。

 ちらっとユーゴを見たら、小さなため息とともにアンの掴んでいるところの上を片手でつかんで上に持ち上げてくれた。

 すぐにズボッと抜けたよ・・・あんなに頑張ったのにおかしい・・・。

 マクサンスとジュスタンも2本ずつ抜いてくれたから、アンの分は終了らしい。


「アンジェルは違う薬草を取った方がいいわね」


 ルージュに呆れられてしまった。


「違う薬草も生えているの?」


「あそこにある肉厚な葉が見えるかしら?フレアロスと言って熱を下げるのよ。軽い火傷には皮を剝いて貼るの。お腹が痛い時には、小さく切って飲んでもいいけど、凄く苦いと言われたわね。これは1本採ったら十分ね。茎の下の方を切りなさい」


 ルージュは縁がトゲトゲした緑色の細長い葉をブチッとむしって渡してくれた。

 ・・・むしり取ることが出来るらしい。

 切ったところから汁がポトリと落ちた。

 瑞々しくて美味しそうに見えるけど、苦いと言っていたから味見をするのは止めておこう。

 緑色のトゲトゲは近くに数本生えていた。

 背の高いものでもアンの背丈くらいなので採りやすそうだ。

 根元の近くを切ってしまえばいいのかな?

 「切るものが欲しい」と言ったら、ユーゴが刃のギザギザしたナイフを貸してくれた。

 早速、茎にナイフを押し付ける。


 ギコギコ、ギコ、ギコギコギコ、ギコ、ギコ

 ギコギコ、ギコギコ、ギコギコ、ギコギコギコギコ、ギコ


 ・・・疲れた。


「グー」

「ピー」


 黙ってついてきたキリーとネージュが、アンと呼んでいる。


「今ね、このトゲトゲの葉の茎を切っているから、ちょっと忙しいの」


「グワ?」


 キリーは不思議そうにトゲトゲの葉を見て、なに?と聞いていた。


 ギコギコ、ギコ、ギ、ギ、ギコ、ギコギコ、ギコ

 ギコギコ、ギコ、ギコ、ギコギコ、ギギ、ギ、ギコ、ギコ


「グワワァグ?」

「ピピピッ?」


 大丈夫?と、聞かれたけど大丈夫じゃないよ。

 ギコギコと音はしているけど、ほとんど切れていないの。ナイフが切れないのか、アンの力がないのか・・・切れた様子がない。


「ピッピ」


「ネージュがやるの?」


「ピッ」


 バッシュ!


「あっ・・・切れた」


 風魔法で切ればよかったのか・・・風魔法で草を刈っていたからこれも切れるとネージュはわかっていたらしい。

 ネージュの方が賢かったようだ・・・がっくりと肩を落としてユーゴにギザギザナイフを返したよ。

 ユーゴも教えてくれればいいのに・・・悔しくてちょっと睨んだら、目をそらされてしまった。


 ジルベールさんとコレットさんも風魔法で切っていたらしく、すぐに採取できていたようだ。

 疲れた・・・今日はもう見学だけでいいと思う。

 ルージュが行きたいと言ったのだから、アンは薬草を採らなくてもてもいいよね?


「アンジェル、ここからが本番よ」


「えっ!本番?」


 ルージュが奥に少し進むと木の前で止まった。


「地に魔力が満ちて来たら生えてくる木があるのよ。もう少し魔力がいるわね。アンジェルはこの木に魔力を注いで頂戴」


「はい?」


「ジルベール、貴方も光魔法使えるでしょう?あの木に注いで頂戴」


「はい!」


 ジルベールさんは張り切って返事をしていた。

 真剣に木を見つめているように見える。

 この木は何の木だろう思っているよ・・・気になるよね。


 ジルベールさんに「光魔法が使えるでしょ?」と、言ったルージュは、魔力の属性がわかるのだろうか?

 それに地に魔力が満ちて来たら生えてくる木があるなんて驚き・・・それもお薬だよね?


 ルージュの言われた通り、木に魔力を注いで行くと、木に咲いていた花が枯れてどんぐりのような実がなった。

 この実がお薬になるのかな?・・・そう思って実を見ながら魔力を注いでいった。


「アンジェルはもういいわ。ジルベールはもう少しね。結構大きくなってきているわ」


「・・・は、はい」


 ジルベールさんは額にうっすら汗がにじんできていた。

 大丈夫だろうか?


「ジルベール、もう十分よ。貴方も魔力が多いのね。大人でも大変なのによく頑張ったわ。作った薬を貴方にも1本贈るわ。ご褒美よ」


「ありがとうございます・・・ところでこの木は何に効く薬なのでしょうか?」


 ジルベールさんは魔力が多いと褒められて嬉しそうだった。魔力を増やす訓練を頑張っていたものね。

 そしていい質問をしてくれたよ。


「それは後でまとめて説明するから、楽しみにしていて頂戴。思ったよりいいものが出来そうよ」


「・・・はい」


 あきらめたのか、ジルベールさんはそれ以上の質問をすることはなかった。

 頷いてにっこり笑ったルージュは、コレットさんの方を見た。

 コレットさんの背筋が伸びたような気がする。珍しく緊張したのかな?


「さぁ、次はコレットよ」


「えっ!」


「えっ!じゃないわよ。アンジェルとジルベールが頑張ったのよ。貴女も頑張りなさい」


「・・・わ、私は光魔法を使うことはできません」


 コレットさんは手をぎゅっと握って答えていた。


「光はもういらないわ、次は風よ。貴女は得意かしら?」


「は、はい。風魔法は得意です」


「得意と言ったわね・・・それじゃぁ、期待しているわ。この木とあの木の上の方にこぶが見えるでしょう。あのこぶの根本を切り落として頂戴。途中で切り落としたりしないでね。これはとても貴重なポリポーと言うキノコなのよ」


 あのこぶがキノコ?・・・どう見ても固そうな木のこぶにしか見えなかった。

 あれ?どんぐりみたいなあの実はどうなるのかな?


「ルージュ、木の実は使わないの?」


「いやーね。あれはどう見たって食べられる物には見えないでしょう。せいぜい小動物が食べるぐらいじゃない?」


 食べられない木の実だったよ・・・こぶならこぶと教えてくれればいいのに。

 ちょっと口を尖らせてこぶを見ていたら、コレットさんが深呼吸をしているのが聞こえた。

 根元を狙って切ってと言われていたけど、今まで何かを狙って切ったことはあるのだろうか?

 ルージュは「途中で切り落としたりしないでね」と言っていた・・・大丈夫かな?

 コレットさんが集中している。

 もう声はかけない方が良さそうだ。

 頑張って・・・思わず心の中で応援してしまった。


「行きます!」


 ズサッ!・・・ゴトン。


 ズサッ!・・・ゴトン。


「フー・・・上手く切れたでしょうか?」


 パチパチパチパチ


 コレットさんの護衛がうんうんと言うように頷いて、拍手をしていた。

 凄くうれしそうだよ。

 コレットさんもニコニコして、護衛に握り拳を振り上げていた。


 パチパチパチパチ 


 パチパチパチパチ

 パチパチパチパチ

 パチパチパチパチ


 アンも思わず拍手をしたら、みんなもつられて拍手をしだした。

 木の方を見ると綺麗に切られているように見える。

 さすがジルベールさんが風刃牧草ロールと名付けただけあったよ。

 今回は風刃キノコ切り?・・・いや風刃ポリポー切りかな?


 ルージュは落ちて転がったポリポーを拾って、切り口をうっとりと撫でている。


「切り口が凄く綺麗ね。なんて素敵なの」


「は、はい・・・ありがとうございます?」


 コレットさんはルージュのうっとりとした顔を見て、困惑しながらお礼を言っていた。

 ・・・風魔法を褒めたのか、切り口の美しさに、ただうっとりとしただけなのか・・・よくわからないよね。


「早速、作るわね。ポリポーは1つあればいいかしら。ルニエヴェルトは1本で十分ね。フレアロスは葉が5枚もあればいいわね」


 ルージュが薬草を手にもって、独り事を言いながら分量を決めている・・・どんなお薬を作るのかな?


「コレット、キノコを1つだけ細かく切ってくれる?ジルベールは最初に採ったルニエヴェルトの丸まった葉を取ってから、すべて刻んで頂戴。アンジェルはフレアロスの葉を茎から外して小さく切っておきなさい。茎は使わないわよ」


 3人でコクコクと頷きながら、風魔法で刻んだり、切ったりした。

 アンも風魔法をちゃんと使ったよ。

 刃のギザギザしたナイフを使っても、うまく切れないと学んだからね。


 ルージュはジルベールさんが刻んだルニエヴェルトを、大きな容器に入れるように言った。

 刻んだルニエヴェルトが容器に入ると、ルージュは人差し指と小指を立てた。

 人差し指の先から水がドボドボと出てきたけど、小指からは水は出ていない。

 小指をわざわざ立てる必要はあったのだろうか?

 入れ物の半分くらいまで水が溜まると、人差し指をクルクル動かしだした。

 風魔法だと思う・・・ルニエヴェルトと水が混ざっていく。

 今度は拳を作って大きく上下に振った。


「フンヌッ!」


 ダンッ!


「フンヌッ!」


 ダンッ!


「これでいいわね。小瓶を10本並べて頂戴」


「は、はい」


 護衛たちが慌てて土魔法で地面を均して、木箱から小瓶を取り出して地面に並べ始めた。

 今回、叩き潰す・・・ではなく圧縮は2回でいいらしい。

 お薬の瓶を地面に並べていいのだろうか?と言う疑問を飲み込んで、ルージュの魔法をじっと見つめる。

 初めてフンヌッ!とダンッ!を見た時は驚いたけど、力強い魔法も使えるようになりたいとちょっとだけ思ってしまった。


「次々と入れていくから、すぐに蓋をするのよ」


 ペッタンコになった薬草から、水分だけを人差し指で移動させ、小瓶に入れていく。

 護衛は小瓶に黄色っぽい液体が入ると、すぐに蓋をしていった。

 あっという間に、10本の小瓶にルニエヴェルトの液体が収まっていた。


「ルージュの操作は凄いね」


「当り前じゃない。アンジェルもできるようになりなさい」


「えっ!アンもするの?」


「何を言っているの。あなた達3人は見ていたでしょう?必要になったら作りなさい」


「必要な時?・・・ところでルージュ、このルニエヴェルトはどんな時に使うの?」


「さっき説明したでしょう?痛み止めよ」


「・・・そうだった」


「もう、しっかりして頂戴。じゃぁ次はフレアロスよ」


 ユーゴがすぐに大きな容器を水魔法で洗ってルージュの前に置いていた。


「あら、貴方。気が利くわね。貴方にもあとで1本あげるわね」


「恐れ入ります」


 フレアロスのお薬は受け取るらしい・・・ルージュが満足そうに頷いていた。


「アンジェル、切ったフレアロスを入れて頂戴」


「は、はい」


 言われるままにフレアロスを入れると、さっきと同じように指先から水を出して、人差し指を入れ物の上でクルクルしている。


「フンヌッ!」


 ダンッ!


「フンヌッ!」


 ダンッ!


 今回もフンヌッ!とダンッ!は2回でいいらしい。


 護衛も慣れてきたのか、すぐに小瓶が並べられた。

 10本の小瓶にほんのり黄緑色掛かった液体が収まると、ルージュは大きくて太い指で小瓶をつまんで、ユーゴに渡していた。

 ユーゴはお礼を言って、両手で受け取っていたよ。


「さぁ、最後よ。今度はコレットが入れて頂戴」


 ユーゴはポリポーの木の根元にフレアロスの搾りかすを捨てて、大きな入れ物を洗っていた。

 さっきもポリポーのところに捨てていたけど、肥料になるのかも。

 カメリアの種も、搾りかすはいい肥料になるとルージュが言いていたもの。

 しかもポリポーにだけ搾りかすをかけているよ。

 光魔法で育てているこぶ・・・ではなく、キノコだから?


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 ユーゴが綺麗にした容器を置くと、コレットさんがお礼を言っていた。

 刻んだポリポーを全部入れ終わると、ルージュが水を入れたあと何度も何度も人差し指をクルクルさせていた。

 キノコと言っても木のように硬いから、時間がかかるのかもしれない。


「フンヌッ!」


 ダンッ!


「フンヌッ!」


 ダンッ!


「フンヌッ!」


 ダンッ!


「フンヌッ!」


 ダンッ!


「フーッ・・・これでいいわ」


 今度はもう小瓶が並べられていた。

 ルージュがさっと指を動かすと、透明な液体が小瓶に入っていった。

「フンヌッ!」とダンッ!が2回だと思って小瓶を並べたようだったけど、ポリポーは4回だったよ。

 ・・・硬いからかな?


「ルージュ、これで終わりだよね?」


「そうね、小瓶がないから、残った薬草は屋敷に戻ってから作ればいいわ。薬草がいい感じに育っていたわね。それにポリポーも2つ採れたのは、嬉しい誤算と言うところかしら?」


「誤算?」


「そうよ。ポリポーの木がある程度育っていたから、2人の魔力をキノコに注げたもの。もし木が未熟だったらジルベールに木を育てさせて、アンジェルにキノコを育てさせようと思っていたのよ」


「土地の魔力が増えているということ?」


「さっき、そう言ったでしょ」


 護衛や龍騎士団が土地を耕した成果だろうか?

 お父様が聞いたら喜びそうだよ。


「ところで、ポリポーは何のお薬なの?」


「上級薬に決まっているじゃない。精霊の地に渡りそうになるほどの大怪我の時に使うのよ。何のために光魔法まで使ってポリポーを育てたと思っているの・・・今回の薬なら手足の指くらいは生えてくるかもしれないわね。凄くいい出来だもの・・・これが若返りの薬だったら、フェリクスに飲ませたかったわ・・・そんな薬があるわけないけど・・・残念ね」


「・・・上級薬?」


 ユーゴが呟いた。

 お父様・・・ルージュが上級薬と言いました。そんなお薬は今まであったのですか?

 ・・・王族への報告案件ですか?


 ルージュはフェリクス陛下の事を思い出していたのか・・・寂しそうな顔をしていた。

 初代王とは、とても仲良しだったのかもしれない。長生きする精霊は何度も人を見送ったのだろうか?

 そのあとも、いい出会いは出来たのだろうか?


「ルージュ・・・ルージュに出会えて良かった。ありがと」


 ルージュが偶然とはいえ、北の精霊樹の地に出てきたのだから、ここでもいい出会いがあればいいと思ってしまった。


「どういたしまして。これは薬草を刻んだあなた達に1本ずつ贈るわ」


 ルージュが太い指でつまんだルニエヴェルトとポリポーの小瓶をジルベールとコレットさん、そしてアンにも渡してくれた。


「「「ありがとうございます」」」


 残り小瓶はマクサンスとジュスタンが慎重に木箱に詰めていた。

 光魔法で育てたポリポーと言う、木のこぶのようなキノコがいるという事。

 そしてルージュのような凄い圧縮ができる魔法と、ペッタンコになった薬草から液体を抜き出す魔法。

 さらに小瓶に液体を移動させる魔法が使える事。

 こんな凄い魔法操作・・・誰が出来ると言うのだろう?


「ルージュ様、時間をください。訓練してできるようになりたいと思います」


「ジルベールはやるのね」


「はい」


「貴方ならできるわ。これからもっと身体が大きくなるから、まだまだ魔力が増えるわよ。ポリポーをたくさん作れるわね。貴方の光魔法は薬草と相性がいいのよ。期待しているわ」


「ありがとうございます」


 ジルベールさんは感激したのか、頬を赤くしてお礼を言っていた。


「あの・・・わ、私は光魔法が使えません・・・でも、液体を移動させる魔法は習得したいです。できれば圧縮も・・・」


「コレットはそれでいいわ。風魔法が得意と言ったじゃない。あなたももっと魔力量が増やせるから、圧縮も可能よ」


「はい!が、が、頑張ります!」


 コレットさんが握りこぶしを作って宣言した。

 ルージュはニコニコして頷いている・・・満足したらしい。


「アンジェルもやるのかしら?」


「は、はい!ポリポーを育てます!」


 思わず宣言してしまった。育てるのは得意だから大丈夫なはず・・・たぶん。


「アンジェルはそれ以外に、液体を小瓶に移動させる魔法も覚えないさい。いいわね」


「・・・はい」


 ・・・それも覚えなくては駄目らしい。

 ジルベールさんとコレットさんと3人で訓練をしなくてはならなくなったよ。


 麓に薬草を見たいと言ったルージュだったけど、お薬のための作業までするとは思ってなかった。


 ユーゴが木箱をじっと見ていた。

 お父様・・・なんだか大変なことになったような気がします。

 次回の更新は5月29日「95、薬草とお薬」の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ