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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第2章 ちょっと丈夫になった辺境伯令嬢のやりたい事とやるべき事

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92/92

92、お友だちとの楽しいおしゃべり

 今日は学院の試験の日。

 ジルベールさんやコレットさんと久しぶりに会うような気がする。

 シャル兄様との魔法訓練がお休みなったのもあるけど、ルージュのおかげで濃厚な日々を過ごしているせいかもしれない。

 試験が終わったら図書室で時間を潰して、昼食の時間が近くなったら食堂に行く。

 凄く楽しみ。お金も小袋に入れてポケットに入っている。

 準備万端だ。


 時間が少し早かったせいか、教室にはまだ誰も来ていなかった。

 いつものように扉側の一番前の席に座り、食堂にあったメニュ表を思い出していた。

 たしか学院の生徒以外の人は値段が2倍と書いてあったはず・・・大丈夫、学生証は持っている。

 あの時は下見だけして帰るつもりだったけど、龍騎士のマルスラン様とは知らずに、偶然出会っていた。

 アンがお金を持っていないと言ったら、ちょっと困ったような顔して「すまない・・・余計な事を言った」と謝られたのを思い出したよ。

 マルスラン様は紅茶が美味しいと言っていたから、今日は飲んでみようかな?

 お肉とスープをまとめて買うとパンが2個付きで銅貨7枚だったはず。

 食べきれるかな?他にも何かメニュがあるかもしれない。

 でも混んでいたら、いつまでも悩んでいると迷惑になるよね。

 メニュを選ぶのは難しい・・・ノール本店に来るお客様もメニュを見て注文するまで、こんなに悩んでいるのかな?


「アンジェルさん、おはようございます」


「アンジェルさん、おはよう。久ぶりね」


 試験が始まる前から昼食の事を考えていたら、ジルベールさんとコレットさんが一緒に教室に入って来た。


「おはよう」


「凄くまじめな顔で考え込んでいたみたいだけど、何かあった?」


「僕たち出できることがあれば、協力しますよ?」


「う、うん・・・大したことじゃないの」


 びっくりした・・・昼食のメニュの事で悩んでいたら、考え込んでいるような顔になっていたらしい。


「もしかして新しいお菓子でも考えていた?・・・そうそう、どら焼きと言うお菓子は凄く美味しかったわ」


「お口に合って良かった」


「アズキがお菓子の材料になっていて驚きました。それと・・・全部美味しくいただきました」


 コレットさんがどら焼きのお話だけだったから、ジルベールさんは美味しくいただいたとだけ言って、パンの話は詳しく言わなかったね。

 隠すことではないけど・・・わざわざ言うことでもないからね。

 これからはブーランジェリー・マシロ店で販売するし、いずれと騎士団でも販売になるはずだから、わりと買いやすくなると思うの。

 コレットさんも、護衛に買ってきてもらって食べたらいいよ。


「ジルベールさんのお口にも合って良かった・・・今日は初めて食堂で昼食をとるの」


「私たちも食堂だから一緒に食べましょう。初めてだと何を注文するか悩むでしょ?」


 そうだよね・・・それでさっき悩んでいたの。


「試験の終わる時間が3人とも違うから、図書室で待ち合わせするのはどうでしょう?」


「そうね、それがいいわ」


「ジルベール、コレットさんありがとう」


 待ち合わせ場所が決まったところでベルが鳴り、メルセンヌ先生が試験問題の束を抱えて入って来た。


 問題と解答用紙を取りに行って、後ろに用紙を渡してから周りを見たら、以前より人数が減っていることに気が付いた。

 空席が目立つ・・・いるのはアンを含めて13人くらいかな?

 90点以上を取ることが出来ず、王都の学院に行くことは叶わなかったのかもしれない。

 厳しいな・・・油断しないようにしよう。

 問題用紙を読んでいるうちに、昼食の事は忘れて集中できた。

 書き終えた回答用紙をもう一度見直しして先生に提出すると、メルセンヌ先生が微笑みながら前回受けたテストの回答用紙を渡してくれた。


「今回も満点で、1位ですよ」


「ありがとうございます」


 満点の結果にホッとして、いつものように最初に教室を出た。


 ジルベールさんとコレットさんを待つために図書室へいったけど、さすがにこの時間は誰もいないようだ。

 待つ時間はそれほど長くないから、薄い本を読んでいたらいいかな?

 何の本を読もうかと本棚の前で迷い、ふとベル兄様が研究している海の生き物の本を読んでみたくなった。


「本に手は届きますか?」


 後ろから声をかけられ驚いて振り向くと、受付にいた司書さんだった。

 初めて図書室に来た時の背の高い踏み台代わりの・・・いや黒髪の人ではなかったけど、アンよりは背が高いから、本を取ってくれようとしたのかもしれない。


「こ、こんにちは。あの、海の本を」


「海の本?・・・海水の事?それとも生き物?」


「生き物です」


「生き物は隣の棚ですよ」


 そう言って隣の棚の上の段から3冊も取ってくれた。


「あまり時間がないから、薄い本が1冊あれば十分です。ありがとうございました」


「いえ、どういたしまして・・・試験はもう終わったのですか?」


「はい、午前の試験は終わりました」


「そう優秀ですね・・・読み終わったら、前と同じように受付に戻してくれればいいです」


 前回の事を覚えていたらしい。

 記憶力がいいと司書になれるのだろうか?


「お世話になりました」


「どういたしまして」


 司書さんはそう言って去っていったけど、名前を聞けなかったよ。

 今回も踏み台がいらなかったから、感謝をしておこう。


 『海の生き物』と書かれた本の最初に水龍の事が書かれていた。


『番になった水龍は交代で卵を温め、卵が孵ると食べ物も交代で取って来ては子龍に与える。

 子龍は成長が早く、2年くらいで成龍に近いくらい大きく育つ』


 水龍は2年で大きくなるの?・・・あの時に大怪我をしていた地龍も、水龍のように成長が早いのかな?

 またいつか会えるといいな。

 精霊樹に行く時は列を乱せないから、もし見かけたとしてもそばに行くことは出来ない。

 列など気にせず、自由に飛び回ってみたいな・・・。

 キリーに不満はないけど・・・東の丘でベル兄様と見た龍の美しさとあの速さが忘れられない・・・。

 アンは龍に選ばれるだろうか?・・・それ以前に龍舎にいけるのかな?


「アンジェルさん?」


「えっ?・・・あっ、ジルベールさん、お疲れさまです」


「考え事ですか?試験前も考えていたようですが・・・何か悩みがあるのですか?」


「ううん、大丈夫。海の生き物の本を読んでいたら、南の領地にいる2番目の兄を思い出していたの・・・それに朝は、初めての食堂だから何を食べようか悩んでいただけ」


 龍に乗りたいとはまだ言えないからごまかしてしまった・・・食堂の事だけは本当の事だけどね。


「そうでしたか。初日は食堂のおすすめメニュを食べるのが間違いないです」


「そのおすすめにしてみようかな・・・紅茶も美味しいって聞いたけど」


「紅茶も美味しいです。でもお土産店で売っているフレーバーティーが一番好きです」


「そう言ってもらえると嬉しい。次の季節の紅茶も頑張って考えないとね」


「楽しみにしています」


「アンジェルさん、ジルベールさん、お待たせ」


 コレットさんが急ぎ足でやって来た。


「僕はそれほど待ってはいないですよ」


「私は本を読んでいたから、大丈夫」


「そう言ってもらえると助かるわ。しっかり見直しもしたから、今回も学科は自信があるの。絶対に満点よ」


「問題は実技ですね」


「あー・・・そうよね。魔力量は確実に伸びていると思うの。だって精霊の姿が見えたもの。会話は出来なかったけど、声も聞こえたわ」


「コレットさん、頑張りましたね。僕もようやく精霊の声が聞こえるようになりました。魔力が増えれば聞くことが出来ると・・・祖母の言った通りでした」


「二人ともおめでとう。私たちはこれからも魔力量は増やせるはずだから、まだまだ頑張ろうね」


 魔力量が一番大事だけど「それだけではないよ」と、言えなかった。

 何が必要なのかが、アンもよくわからないから・・・。


 お昼には少し早いけど、食堂に向った。

 食堂の入り口にメニュがあって、そこで選ぶらしいけど本日のおすすめメニュと書かれた紙が壁に貼られていた。


「今日のおすすめが2種類あるわね。鶏肉のバター焼き、野菜スープ、パン2個付と川魚の揚げ物、野菜スープ、パン2個付だって」


「川魚を食べたことがないの。今日はこれにしてみようかな」


「僕は鶏肉にします」


「私も鶏肉にするわ、それとミルクティー。アンジェルさんも食後の飲み物を一緒に頼んでおいた方がいいわよ」


「・・・私もミルクティーにする」


 ミルクがいっぱい入っているといいな。


「僕は秋摘み紅茶にします」


 ジルベールさんはストレートティーが飲めるらしい・・・味覚はアンたちより大人だったよ。


 川魚は臭みがなく、素揚げして甘酸っぱいソースがかかっていた。

 骨も綺麗に取られていたから食べやすい。

 少し濃い味付けのせいかスープが薄く感じる・・・先にスープを全部飲んでおけばよかったとちょっと後悔した。

 でも味付けの濃い川魚は少し硬いパンと交互に食べれば食も進む。

 いつもふわふわのパンを食べていたから、久しぶりに硬いパンを食べたよ。

 学院の食堂にもお惣菜パンを販売したいとお父様に言ってもいいかな?


 3人で食べる昼食の時間もあっという間に終わり、午後の実技はいつも一番目に受けて、問題なく終えるから終わるのも早い。

 実技の後も図書室でジルベールさんとコレットさんを待つ。そして恒例となった試験の結果を伝たえる。

 アンは今回の試験も満点で、ジルベールさんは学科が満点、実技が199点で満点まであと1点となった。

 順位は2位で変わらないけど、前回伸びなかった点数が2点上がっていた。


「あと1点が遠いです・・・ですが努力は裏切らないはずです。必ず満点を取って見せます」


 ジルベールさんはそう言って、握りこぶしを作っていた。

 頑張っていることをあまり顔に出さない穏やかな人だけど、実技の試験にも譲れないものがあるのかも。


 コレットは学科が満点、実技196点の合計396点、前回より1点上がり3位。

 コレットさんも前回は点数が伸びなかったけど、今回は1点上がっていた。


「満点まであと4点もあるけど、上がる確率はジルベールさんより高いのよね」


「そうなのですか?」


 謎の確率にジルベールさんは首を傾げながらコレットさんに返事をしていた。

 さすが前向きなコレットさんらしい、考え方だと思う。


「そういう考え方もいいよね」


 アンが笑いをこらえながら言ったら、ジルベールさんの肩が揺れだした。


「・・・プッ!・・・ハハハ」


 こらえきれなくなったジルベールさんが吹き出して笑い始めた。


「フフ…フフフ」


「アハハ・・・」


 アンもこらえきれず笑い出すと、コレットさんも笑い出した。

 3人で笑いだすから、司書さんが「ゴホン」と咳払いをしてこちらを睨んでいる。

「会話は禁止です」と入学式の日に言われていたけど、周りに人がいない時は話をしても注意されることはなかったけど、さすがに笑い声はまずかったらしい。

 思わず口を押えたけど、まだ笑いは止まりそうもなかったよ。

 入り口近くではなく、もっと奥の方に座っておけばよかったと思いながら、お友だちといるのは楽しいと思ってしまった。


 笑いがようやく収まり、精霊の話になった。


「寮から出たところに木や花壇があるのですが、精霊が木の陰からこちらをジッと見ていて、目が合いました。観察されているようです」


 ジルベールさんが精霊の声が聞こえるようになって、見られていることに気付いたと言っていた。

 コレットさんもよく目が合うと言う。


「精霊には隠し事が出来ないよね・・・先日精霊樹に行ったら上級精霊が出てきて・・・今は屋敷に滞在しているけど、すごく元気なの」


「えっ!上級精霊!」


 ジルベールさんは自分の声が大きいと思ったのか、慌てて口を押えて周りを見ていた。

 大丈夫。周りには誰もいないし、司書さんもこちらを見ていないよ。


「毎日屋敷の中や敷地内を観察したり誰かとおしゃべりしたりして、日が沈み始めると、木の中で眠ってしまう自由な精霊なの」


「是非会ってみたいです」


「私も!」


「それじゃぁ来週の金の日に屋敷に来る?」


「伺います」


「行くわ」


「昼食の用意もするから、お昼に来て」


「今回も・・・よろしいのですか?」


「ありがとう、嬉しいわ」


 恐縮するジルベールさんと大喜びするコレットさんがあまりにも対象的で笑いそうになってしまった。

 コレットさんは護衛を含めて2名だけど、ジルベールさんは侍従と護衛も含めると4人になるから遠慮しているのかな?

 コレットさんには護衛が一人だけで、侍女は連れて来ていない。少なすぎるよね。

 アンが出かける時は、専属の護衛が3名と屋敷の護衛が4人ぐらいついてくるよ。

 もし、お友達のお屋敷に呼ばれたら、アンを含めて8人も行くことになる・・・気軽にはいけないかも。

 でも、よそのお屋敷へ訪問するようなお友達や知り合いはいない・・・心配することはないようだ。


「遠慮しないで来て・・・アンはそろそろ帰る時間だから、また屋敷で会うのを楽しみにしているね」


 そう声をかけ、図書室で二人と別れ学院を出た。


 金の日のお昼は何を用意しようかな?・・・ちょっと楽しみ。

 前から食べてみたかったパスタがいいかな。

 先ずは明日・・・厨房に行って試食会をしようと思う。

 そういえば乾燥したマイスが西の領地から届いたと聞いた。

 北の領地でも収穫時期を迎えると聞いていたから、収穫した後はマイスを包んでいる外側の葉・・・たしか苞葉(ほうよう)だったかな?その葉を取らないでほしいと伝えていたの。

 葉は取った時から鮮度が落ちると茉白のおばあちゃんが言っていた。

 だからスーパーと言う大きなお店で葉っぱを取らずに買ってきていたの。


「葉が付いたまま持って帰るのは重いし、家のごみが増えるよ」


 茉白が心配をして、おばあちゃんに声をかけていた。


苞葉(ほうよう)を取ってしまうと、トウモロコシのお甘みがなくなってしまうからね。茹でる時も苞葉(ほうよう)を数枚残して少ない水で蒸すようにすると、美味しいトウモロコシが出来るの。でも朝のもぎたてのものに限るけどね」


 おばあちゃんが言っていた・・・マイスは採れたての葉付きがいいらしい。


 ついでにマイスの摘果した小さい実も捨てるならほしいと頼んだの。

 これも茉白のおばあちゃんが家庭菜園を始めた時に、下から出てきたマイスの実を茹でて食べていたからなの。

 ヤングコーンと言っていたよ。

 それで、お父様からマイスを育てている領地に聞いてもらったの。

 マイスは最上段の1本だけを大きくするため、下段は摘果して捨てていたらし。

 食べられるからほしいとお願いしたら、凄く安く売ってくれたらしいの。

 来年もマイスとヤングコーンを優先して売りたいと、先方から申し出があって、お父様はすぐに契約を交わしたとおっしゃっていた。

 マイスを育てている領地では、捨てていたものを買い取ってくれたと、とても感謝されたらしい。

 さすがお父様・・・ヤングコーンを買って、恩を売ったようだ。

 届いたヤングコーンをカジミールたちに見せたら、凄く驚かれたけどサラダや炒め物、揚げ物などで食べても美味しいとわかってもらったよ。

 ノール本店や王都店でも秋の限定品として、サラダや食事クレープの添え物として使うことになったの。

 お父様は西の領地に伝えると言っていたけど、これも恩を売ることになればいいよね。

 そして新しいサラダやスープ、新しい味のパスタの試食会はユーゴ達にも喜ばれた。




 今日は楽しみにしていた金の日なの。

 ジルベールさんとコレットさんがほぼ同時にやって来た。

 一緒に来た侍従や護衛たちが心なしか嬉しそうに見える。

 簡単な挨拶を終えてすぐに食堂に向ったの。


「今日はノール本店にはないメニュにしてみたの」


「嬉しいわ。凄く楽しみにしていたの」


「僕も楽しみにしていました」


 席に着くと、フォセットがサラダを運んできた。

 茉白の世界にあったレタスに似た葉っぱとヤングコーンに蒸し鶏と茹でてくし形に切ったポムドゥテールだよ。


 ジルベールさんとコレットさんがヤングコーンを不思議そうに見ていたけど、ちゃんと食べていた。

 スープはマイススープ。採れたてのマイスは甘くて美味しいから、スープにしてもらったの。


 そして今日の主役はパスタだよ。

 燻製肉とウッフを使ったカルボナーラなの。

 パスタ単独ではお店で出せないから、屋敷で時々ナポリタンやミートソース味で食べていたけど、たまには赤い色以外も食べたいと思ったの。

 黄色のパスタも美味しいよね。


「カルボナーラというパスタなの。フォークでくるくる巻いて食べてね」


 コレットさんが苦戦しながらもフォークに巻いたカルボナーラを口入れて、目を丸くしていた。

 口を押えてアンを見てジルベールさんを見て、またカルボナーラを見てにっこり笑っていた。

 不審な動きをしているけど、また食べ始めたから美味しいということだよね?


 ジルベールさんも目を丸くしていた。


「チーズも入っているのでしょうか?とても美味しいです」


「カルボナーラの材料はアイユと燻製肉とチーズとウッフなの。お口に合って良かった」


 デザートはシャテニエのアイスクリームに形が崩れたマロングラッセを切って添えてもらった。

 マロングラッセは高価だから崩れたものも無駄なく使わなとね。

 飲み物はナッツミルクティーにしてみたの。

 食事の後はサロンに行って、冬からの定番品になるローズ・ルージュティーを飲む予定だよ。

 その匂いに誘われてルージュがやってくるといいな。

 それと久しぶりにポップコーンも食べるの。

 ローズ・ルージュティーに合うように、塩味とキャラメル味を用意したよ。


 食事が終わりサロンに行ったけど、ルージュはいなかった。

 またどこかに行っているのかな?

 ローズ・ルージュティーやポップコーンの匂いで戻ってこないかな?


 ソフィがローズ・ルージュティーの用意をしている間に、フォセットがポップコーンを運んできた。


「アンジェルさん、また新しいおやつなの?いびつな形だけどとてもいい匂いがするわ」


「これはポップコーンというの」


「ポップコーン・・・ですか?」


 今度はジルベールさんが首を傾げている。マイスには見えないよね。


「先ずは食べてみて。マイスを使ったおやつで、今日は塩味とキャラメル味を用意したの」


 ジルベールさんは塩味をそっとつまんで口に入れて咀嚼している。


「・・・美味しいです。これはちょっと癖になりそうです」


 コレットさんはキャラメル味をつまんで食べ始めた。またつまんで口入れている。

 次に塩味をつまんで食べ、またキャラメル味を食べる。

 ・・・5回は繰り返したと思う。


「・・・美味しい。困ったわ、止まらないの」


 大きな器に入れておいて良かった。食後でも結構食べられるよね。

 お母様には反対されたけど、やっぱりポップコーン用のバケツは作っておくべきだったと思う。

 もう一度お母様には伝えてみようかな?

 もし販売をするなら騎士団にはバケツがあった方がいいと思うの。

 マイスが十分確保出来るのなら、ポップコーンの販売を再度検討したい・・・これはお父様に相談しよう。


「お口に合って良かった。お土産に少しだけど持って帰ってね。今食べている塩味とキャラメル味の他にチョコ味とチーズ味も用意してあるから」


「えっ!いいの?嬉しい。寮生活で良かったわ。ポップコーンを独り占めできるわ」


 嬉しそうに独り占めと言いていたけど、護衛には分けてあげないのだろうか?

 思わず壁側にいるコレットさんの護衛を見てしまったよ。ちょっと眉間にしわが寄ったのは気のせいではないと思う。

 護衛には袋に護衛分と書いて直接渡した方が良さそうだ・・・あとでソフィに伝えておこう。


「頂いてばかりで、申し訳ないのですが・・・嬉しいです」


 ジルベールさんは相変わらず恐縮していたけど、受け取ってくれるようだ。

 彼は心配ないはず・・・侍従と護衛に分けてあげると思う。


「そろそろルージュが来てくれるといいね」


「ぜひ会ってみたいです」


「私に見えるかしら?・・・不安だわ」


 二人とも期待と不安が入り混じったような顔をしていた。


 温室にはローズの他にも様々な花が咲いて華やかな雰囲気が漂っているけど、奥の方にカメリアの木がある。

 種が出来るまで魔法をかけて、ルージュの頭の花まで種になったと不満を言っていたけど、その翌日には花になっていた。

 成長が早くて良かったと思っていたら、木を指さして「補充しておいて頂戴」と言われてしまった。

 どうやらアンの魔力で育てたカメリアの木から、魔力を取ったらしい。

 仕方ないから花が咲くまで育てておいたよ。


「いい匂いがするわ」


 ルージュ・ローズティーの匂いにつられてやってきたと思ったら、ポップコーンを見ていた。


「ルージュも食べる?マイスをポップコーンにしたの」


「あら、マイスなの?こんないびつな形なのに?」


 そういいながらアンの容器から塩味とキャラメル味をひとつずつ取って掌に載せていた。

 マイスをつまむ指とピンと立った小指・・・ついそこに目が言ってしまう。

 ふとジルベールさんとコレットさんを見たら、ポップコーンをつまんだまま固まっていた。

 ムキムキなのに、髪はポニーテールでしかも赤いお花が付いている。

 短いランニングシャツの下はシックスパックのお腹だよ・・・精霊がそんな姿だとは誰も想像しないよね・・・驚くよね?


「ジルベールさん?コレットさんも・・・えっと上級精霊だよ」


「えっ?・・・は?・・・はい。お初にお目にかかります。ジルベール・ミッテランです」


「ルージュ・カメリアよ。貴方、かわいいわね」


「えっ・・・」


 ジルベールさんの耳が赤くなって、さらに固まってしまったよ。


「わ、私は・・・コココ、コレット・ルグランです」


「コココ・コレット?よろしく」


「し、失礼しました。コレット・ルグランです」


「あら、普通の名前だったのね。コココ・コレットの方が面白いのに」


 コレットさんも顔を赤くして固まってしまったよ。

 子どもには刺激の強い精霊のようだ。


「お友だちがルージュに会いたいって言っていたの」


「あら、嬉しいわ」


 そう言ってポップコーンを小さな口に入れていた。


「これ、いいわね」


「それはキャラメル味で、もう一つの方は塩味なの」


「あら、こっちも美味しいわね・・・ところでジルベールとコレットはなぜ私に会いたかったの?」


「あの・・・ようやく精霊の声が聞こえるようになったので、上級精霊に会ってみたいという興味本位でした・・・申し訳ありません」


 ジルベールさんが頭を下げると、コレットさんも頭を下げていた。

 二人とも興味本位だとわかっていたけど、ルージュに質問されるとは考えてなかったよ。


「謝らなくていいわよ。会いたいなんてめったに言われたことなかったから、ちょっと聞いてみたかっただけよ。気にしないで」


「「は、はい」」


「そうそう、アンジェル。山の麓に行きたいの」


「麓?」


「そっ。薬草を見たいの。以前は薬草で作った飲み薬も、フェリクスの側近に渡していたのよ。久しぶりに作ろうかと思ったの・・・暇だもの」


「初代王?」


「フェリクス?」


 ジルベールさんとコレットさんが驚いて聞き返していた?


「そうよ。王都にちょっとだけいたのよ」


 ルージュにとってはちょっとだけの時間だったらしい・・・人にとっては何十年もの年月だったと思うよ。


「屋敷の北側の奥が山だから、そこに行けるか、お父様に聞いてみるね」


「あの・・・僕も一緒に行ってもいいでしょうか?」


「私もいいですか?」


「構わないわよ。薬草に興味があるのかしら?」


「ルージュ・カメリア様、効能を詳しく知りたいです。乾燥による肌荒れはどんな薬草を使うと効果があるのでしょうか?秋から冬にかけて母の手が荒れて痛々しいのです。ひどく乾燥すると聞いていました」


 貴族は水仕事などほとんどしないと聞いているけど、ジルベールさんのお母様はお肌が弱いらしい。


「ルージュでいいわよ。肌荒れや髪のパサつきは、薬草もいいけどあたしの種の方が効くわ。肌はつるつる、髪はつやつやになるの。今作ってあげる。アンジェル、入れ物を用意して頂戴」


「入れ物?瓶がいい?それとも容器?」


「そうね・・・両方用意して。せっかくだからロイクやジェローの分も作ろうかしら」


 ジェローと仲良しになったのは知っていたけど、ロイクも気に入ったのだろうか?・・・あっ、もう一人分も頼まないと。


「ルージュ、お母様の分もお願い」


「あら、そうだったわ。それ絶対忘れちゃダメなやつね・・・それじゃぁ大きくて綺麗な器も2つも持って来て頂戴」


 絶対忘れちゃダメなやつって・・・ルージュはお母様の性格を知っているのかな?


 入れ物をソフィに頼んだのに、なぜか盥を抱えたユーゴと一緒に戻って来た。

 ユーゴの後ろには、瓶や容器、それに机を持った屋敷の護衛が続いていたよ。

 ユーゴはマクサンスやジュスタンにここで護衛を頼み、自らソフィと一緒に動いたらしい・・・ソフィには親切だよね。


「水魔法をかけて綺麗にしてあります」


 ユーゴは盥のような器を机の上に置いて、その近くに立っていた。

 ・・・気になるらしい。


 ルージュが右手の人差し指と小指を立てて左右に振ると、カメリアの木から取った種が出てきて、コンコン、コンコンコンと音を立てながら盥に入ってたまっていった。

 みんなが興味津々で見入っている。


「フンヌッ!」


 ダンッ!


「フンヌッ!」


 ダンッ!


「フンヌッ!」


 ダンッ!


 今度は盥の上で小指を立てた左右の握り拳を、掛け声とともに上下に振り始める。

 3度繰り返すと、種はペッタンコになって油のような液体が出ていた。

 凄い・・・圧縮の魔法?

 今度は右の拳だけを振ると、液体だけがもう一つの盥に移動していった。


「こっちのかすは畑に撒いたらいいわよ。魔力が含まれているからいい肥料になるわ」


 魔法を操作しながら話をする余裕もあるようだ。

 液体が瓶に移動していく・・・魔法制御が繊細で一滴もこぼれていない。

 ・・・ユーゴたち護衛やジルベールさんが眼を見開いて驚いていた。

 瓶の口が細いからどうやって入れるのかと思っていたけど…こんな操作があったとは驚きだったよ。

 液体を動かす魔法を使っていた・・・物質を動かす風魔法は知っている。

 種を飛ばしたり雪合戦の時に投げた雪玉を加速させたりしたのを見ていたから・・・でも液体を瓶にいれるなんて。

 ・・・風魔法の応用だろうか?


「まぁこんなもんかしら?次は水分を飛ばしてこっちの容器に入れるわね」


 風魔法で水分を飛ばすと、クリーム状になっていった。

 盥の上で人差し指と小指を立てて、クルクル回したあと少しだけ上に動かすと、小さな塊が容器に入って綺麗に収まっていった。


「もう、ぼんやりしていないで、全部きっちりと蓋をして頂戴」


 ソフィとフォセットとコレットさんが慌てて蓋をしていき、ルージュは次々と塊を容器に入れていく。

 瓶は高さが20センチくらいだろうか、容器はアンの掌よりちょっと大きくて高さが2センチくらいだから、暫くは使えそうだ。

 ソフィとフォセットにも渡してあげたい。


「瓶の方のカメリア液は、このくらいの大きさの盥に入れたお湯や水に1滴でいいのよ。顔を洗った後や髪を洗った後に、ピタピタとつけたらいいのよ。お風呂はアンジェルが足を延ばせるくらいの大きさなら、3滴で十分よ」


 これくらいの盥と言っていたのは、いつも顔を洗う時の盥とほぼ同じ大きさだったような気がする。

 1滴でそんなにできるなら全身くまなくペタペタできそうだけど・・・お風呂に使うのはもっと薄めていいらしい。

 カメリアの種から取った液体は、化粧水や手に付けるクリーム、それと入浴剤にもなる原液だよね?

 ルージュはジルベールさんとコレットさんに瓶と容器をひとつずつ渡していた。


「「アリガトウゴザイマス」」


 魔法に驚いたのか、それとも直接渡されたことに驚いたのか、棒読みのようお礼を言って受け取っていた。


「後はアンジェルが分けて頂戴・・・そうそう山に行くことを忘れないでね」


 言いたいことだけ言って消えてしまった。


「・・・上級聖霊って凄いよね」


 ボソッと言ったらとジルベールさんとコレットさんがコクコク頷いていた。

 ユーゴが難しい顔をしているのは、魔法の事だろうか?

 精霊に負けまいと訓練に励みそうだ。

 ・・・以前、キリーと争っていたよね?

 次回の更新は5月15日「93、龍騎士たちが食べるパン」の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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