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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第2章 ちょっと丈夫になった辺境伯令嬢のやりたい事とやるべき事

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90、赤い花をつけた精霊


 今日はグー様のところに行くの。

 朝食を済ませて部屋に戻ると、オランジュ色の半袖の飛行服にボレロを着せられた。

 襟元と袖口に緑色の蔦の刺繡が施され、ボレロにも同様の刺繡がされている。

 足首まであるズボンは淡い黄緑色の無地で、靴は赤身のあるベージュに茶色の紐で結ばれている。

 ネージュとキリーの帽子は、アンの飛行服と同じ生地で作られているから、縁に同じ刺繡があるよ。

 頭部は丸く前の方に小さいツバがある帽子で、茉白はキャスケットと言っていた。

 少し深くかぶるとキリーの眉模様が上の方だけ隠れるの。

 眉が隠れるとやはり金色の目が可愛い。

 ネージュの金色の目ももちろん可愛いけどね。


 木箱に詰めた昼食のお惣菜パンを、護衛たちが龍の背に積んでいた。

 龍騎士たち全員分のパンだからかなり多い。

 カジミールたちが早朝から頑張って作ってくれたの。

 精霊樹に行ったら、魔力を増やすために種を植えて育てて、龍騎士団の人たちにはお惣菜パンの宣伝をするよ。


 シャル兄様も一緒に行きたいと言っていたけど「火龍のラーヴにようやく認められたのだから、しばらくはまめに世話するように」と、お父様から言われ許可が下りなかったらしい。

 早ければ冬の1の月には行けると言っていたけど、雪が降っていたら連れていけないとも言われていた。

「精霊樹へ行く日は晴れるように、今日から精霊に祈るのだ」と、シャル兄様が真顔で言っていたよ。

 でもさすがに精霊さんは天候まで操れないと思うの。


 出発の準備が整うまで、キリーに乗って待機していた。

 アンの横でネージュがパタパタとは翼を動かして、いつでも飛びたてるように浮いている・・・浮いたという言葉はネージュにとっては禁句だから、口に出して言わないようにしないとね。


 お父様が周りを見渡して、出発の準備が整ったのを確認すると、サッと片手を挙げた。


「出発する!」


 いつものようにお父様と護衛のイヴァンが先頭だ。

 続いてアンとネージュとマクサンスとジュスタンが飛び立つと、後ろでユーゴと屋敷の護衛たちが飛び立つ気配がした。

 騎士団の訓練所まで行くと、いつものように上空で龍騎士団と合流をする。

 アンを囲うような龍騎士たちの飛び方は変わらないようだ。

 もう寄り道するつもりはないのにね。


 龍騎士団の団長を含めた10名と合流して、ようやく精霊樹に着いた。

 お父様が屋敷で育てたオランジュとスィトロンを祭壇に祀ると、アンが精霊樹に魔力を注ぐ。

 精霊樹に紫色の大きな実がたくさんなると、お父様が実を取って祭壇に祀っていた。

 黒い実は混じっていないから、王都に運ぶ実はない。

 王都はテオドール第三王子が、以前から精霊樹シェーヌサクレに魔力を注いでいたらしく、年に1、2回程度だけど、リシェンヌ王妃も手伝っているらしい。


 北の精霊樹プラターヌをじっくりと見上げてみた。

 前回より大きく見えるのは、葉が広がっているからだろうか?

 木も幹も太くなったと思うのは、気のせいかな?

 いつも途中で意識がなくなるから、じっくりと見たことがなかったけどね。


「来たか」


「は、はい」


 精霊樹をぼんやり眺めていたら、グー様が現れたよ・・・びっくりした。


「グー様、チョコレートを持ってきました」


「・・・罪の味だな、もらおう」


「あの、空いている土地にポワールやオランジュ、それにスィトロンを植えてもいいですか?」


「スィトロン以外は植えてもかまわぬ」


「スィトロンはだめですか?」


「・・・いらぬ」


「もしかして、グー様は酸っぱいのが苦手なのですか?」


「苦手では・・・ない。ただ、いらぬだけだ。ネージュも食べないはずだ」


「そうですね・・・そういえばキリーも食べませんでした」


「食べないものを植える必要はない」


「・・・ポワールとオランジュだけにします」


 無言で頷いたグー様が、心なしか口をすぼめたのは気のせいではないと思うの。

 グー様が言った通り、そのままでは酸っぱくて食べられないスィトロンを、ここに植えても意味はなかったよ。

 わざわざ収穫に来るのも大変だしね。


「精霊樹の周りから少し離れた木々にも、魔法をかけてもいいですか?育てたいのです」


「なぜ育てる必要がある?地に魔力が行き渡れば自然と大きく育つと、以前伝えたはずだが?」


「あの・・・アンの魔力をもっと増やしたいのです」


「増やす?・・・そうか・・・それなら好きにしていい」


 魔力を増やしたいと言ったら、あっさりいいと言ったよ。


「アンジェル、グノーム様と話は済んだのか?」


「お父様、先にお話をしてしまい失礼しました」


「それは構わないのだが・・・チョコを・・・早く渡して差し上げなさい」


 あっ・・・そうだった。

 グー様は手を伸ばしたままだったよ。

 なんだか・・・ちょっと可愛い。


「グー様、ごめんなさい。どうぞ今回も3種類です」


 グー様は頷いてチョコを受け取り、両腕でぎゅっと抱えていた。

 前回ベルリュンヌ様に食べられてしまったことが、かなり嫌だったのかもしれない。


「グノーム様、王族がシェーヌサクレの祭壇に、ベルリュンヌ様のチョコレートを祀ることになりました」


「・・・そうか・・・った」


 お父様が伝えると、そうかと言ったあとに呟くように「良かった」と聞こえたのは、気のせいではないと思うの。

 ベルリュンヌ様は勝手に人のもの・・・ではなく精霊さんのものを食べてしまう食いしん坊な精霊さんだからね。


「恐れ入りますが、ベルリュンヌ様にお会いする方法を教えて頂きたいのですが」


「私にもわからぬ。ベルリュンヌはさむいとあついが嫌いらしい。雪の時にここへ来ることはない」


「さようですか・・・」


 お父様がベルリュンヌ様の事を訪ねて下さっているけど、寒いのと熱いのが嫌い?

 熱いの?

 あっ・・・暑いのかな?・・・季節の事だね?

 そうだ、あの本!・・・本に書いてあった。


「お父様!本です。月の精霊ベルリュンヌの物語に季節の事が書いていました」


「季節?・・・季節か。確か春は東の精霊樹マロニエに降り立ち、水の精霊オンディーヌ様と湖上の散歩をする、だったな・・・」


「そうです。夏は北の精霊樹プラターヌに降り立ち、土の精霊グノーム様と龍たちを集めて楽しそうにおしゃべりをする、です」


「秋は西の精霊樹ティユールに降り立ち、風の精霊シルフェ様と一緒に風を起こして小麦畑の穂を揺らす・・・今回は西に現れるということか」


「冬は南の精霊樹オルムに降り立ち、火の精霊サラマンドル様と海岸を歩き、ときには水龍にも乗って海で遊ぶ。月の精霊、ベルリュンヌ様は夜にやって来る・・・お父様、夜です」


「では王都のシェーヌサクレはいつだ?」


「えっと・・・」


「ベルリュンヌは夜明けにレスプラオンデュール様とお会いしていたのだ」


「グノーム様、精霊巫女様から聞いたと言われている本には、ベルリュンヌ様は再び精霊樹シェーヌサクレに降り立ち、天が明るくなるのを待った。日の光が山の向こうから輝きだすと、精霊王レスプラオンデュール様は目覚められた。そう書かれていました」


「ベルリュンヌは言っていた・・・あの時は天が明るくなるのを待ったと・・・」


「精霊巫女様の話をもとに書いたと言う本があります。グー様もベルリュンヌ様から聞いていたのですね?」


「本と言うのは知らぬが・・・ここに来ていたのは日が真上になり、明るい時間が長くなった時期だった。その時にレスプラオンデュール様の事を話していた」


「日が長いのは夏の月です、グノーム様」


「夏か・・・そうか」


「グー様、ベルリュンヌ様に会いたいのです。光属性を持つアンたちはこれからどうすればよいのかを知りたいのです」


「満月の夜にはどこかにいる」


「もし、リュン・ドゥ・フレーズが出たら、その後はどうすればよいのですか?」


「その時はシェーヌサクレにいなければならない。もう少し先の事だ。先ずは魔力だ・・・もういいだろう」


「グー様?・・・お父様、グー様が消えてしまいました」


 すぐにチョコを食べたかったのだろうか?


「今日はかなり聞けた方だろう。また冬に来ればいい。少しずつ聞き出してはいるが・・・来春以降からキリーに魔力を運ばせると言っていたが、この状態だとキリーでは用が足りないと思うぞ」


「・・・そうですね」


「グワ?」


 何?って、聞いているけど、今の話が聞こえていたのかな?・・・ずっとおとなしかったのにね。


「来春からはどうするか、後で考えなければならないな・・・少し早いが、昼食にするか。その後は種を蒔くのだろう?」


「蒔くのはポワールとオランジュです。スィトロンは断られてしまいました。食後のデザートになりますから先に育てていいですか?」


「そうだな・・・構わない」


「ユーゴ、ポワールとオランジュの種を蒔くから、ペーシュとミルティーユの反対側を耕してほしいの」


「わかりました」


 姫ポムの木の前方には、3か月前にお父様が護衛たちに指示してペーシュとミルティーユの種を蒔いていた。

 魔法をかけなくてもちゃんと芽を出し、少しだけ育っている。

 精霊樹の周りも魔力が濃いから、かなり成長は早い。それでもこのままでは来年まで実がならないと思うの。

 ユーゴ達が畑を耕して種を蒔いている間に、この木たちも成長させよう。


「ピッピ」


「ネージュもやりたいの?」


「ピッ」


「二人で一緒に魔法をかけると育ちすぎるから、ネージュはミルティーユに魔法をかけてくれる?一番手前の1本だけ実が熟すまで魔法をかけてね。ネージュとキリーのおやつになるよ」


「ピッ」


「アンはペーシュに魔法をかけるね」


 アンの膝ぐらいまで育っていた、ペーシュの木に魔法をかけて成長させ、花を咲かせたら、1本の木だけ丸くて赤い蕾が開き始めた。


「クッ!」


 思わず声が漏れてしまった。

 あの真っ赤な花をつけた木かな?・・・かなり魔力を持って行かれた。


「ピピピッ?」


「アン、どうした?」


「赤い花が咲く時に、他の木より魔力が必要だったようです」


「身体に負担はなかったか?」


「はい、大丈夫です。お父様」


「・・・あれはペーシュではないな」


「そうですね」


 他の木は薄い赤色の花が枯れて青い実がなったのに、真っ赤な花を咲かせた木は一部だけ枯れずに残っていた。

 枯れた花のところは4、5センチ位の実がなったけど、ペーシュのように大きくならずに、実が割れて中から種が2、3個見えている。


 花ビラが舞っていたけど、花の形のままボトリと落ちていくのもあった。

 地面に落ちた花を拾って手の平に乗せてみたら、ペーシュの花よりも大きくて、花びらも形も違っていた。

 もしかして・・・椿?

 茉白の家の庭で、冬に咲いていた花だよね。

 ペーシュの種に交じっていた?・・・でも混じるかな?

 綺麗だから木はこのままにしておいてもいいよね。


 間違って椿を育ててしまったから、もう一回隣の木に魔法をかけ直すと、今度はペーシュがちゃんと実ったよ・・・よかった。

 近くにいた護衛に、食後のデザートにすると伝えて、ペーシュとミルティーユの収穫を頼んだ。


 土を耕していたユーゴが戻って来て、種まきも終えたと知らせてくれた。

 ポワールはネージュに魔法をかけてもらい、オランジュはアンが魔法をかけた。

 それぞれ1本だけ実が熟すまで育てたら、また護衛たちに収穫をしてもらう。

 屋敷の護衛と龍騎士団の人たちは収穫作業に慣れたのか、とても手際が良いよ。

 みんな器用で何よりだね。


「ユーゴ、祭壇に祀る分とみんなで食べる分以外は持ち帰るよ。あっ、龍もミルティーユ以外は食べるよね?」


「果物は喜んで食べます」


「龍にも食べさせてあげて、終わったら昼食にしよう」


「わかりました」


 護衛や龍騎士団の人たちは慣れた手つきで収穫を終えると、ユーゴ達は昼食をするための敷物を敷き、お父様の護衛のイヴァンや屋敷の護衛が、龍の背に付けていた木箱を降ろして運んでいる。

 龍騎士団の人たちも木箱を運ぶのを手伝い始めた。

 今日はお惣菜パンとお菓子パンを持って来たから、荷物が多いの。

 龍騎士団の人たちにもお昼はこちらで用意すると伝えていたから、200個近くは持って来たはず。

 余ったら後で誰かが食べるかな?


 龍騎士団の人たちが、どこからか太くて長い木を運んできた。

 精霊樹の山側の方で、倒れていたらしい・・・しかも5本もあったの?

 切り倒してはいないよね?

 風魔法を使って、でこぼこした部分を削り、火魔法で表面を焼いていた。

 軽く焼いておくと、木の中にいる虫がいなくなるらしい。

 ・・・それならしっかり焼いてほしいと思ってしまったよ。

 焦げくさくなるかと心配したけど、匂いは気になるほどではなかった。

「野営で木を食卓代わりにすることもありますから」と龍騎士団の人が言っていた。

 衛生面も気にかけているのかもしれない。

 ・・・もしかして、外でお肉の丸焼きとかするのかな?


 ・・・野営・・・行ってみたい。


「アン様?」


「えっ?・・・ど、どうしたの?ユーゴ」


「木箱からパンを出しますね」


「うん、お願い」


 びっくりした・・・野営に行きたいと思っていたことに、気づかれたかと思ったよ・・・思っただけだよ。行こうとしていないからね・・・今は・・・。


 お手製の木の食卓1本で、5人が並んで食事が出来そうだ。

 マクサンスとジュスタンが平らになった木の上に、次々とお惣菜パンとお菓子パンを並べ始めた。

 ユーゴとイヴァンはお茶担当らしい・・・火を起こして、お鍋でお湯まで沸かしていたよ。

 ・・・お鍋まで持って来ていたとは知らなかった。


 お鍋を見ていたら、ルイゾン・ジハァーウ団長と龍騎士団の人たちがやって来た。


「アンジェル様、私たち分の昼食も用意していただいていると、アレクサンドル様から伺いました」


「お惣菜パンとお菓子パンと言うのをたくさん持ってきました。遠慮なくお好きなものを食べてください」


「ありがとうございます。新しいパンと聞いておりましたが、オソウザイパンとお菓子パンと呼ぶのですね」


「おかずとパンが一緒になっているのがお惣菜パンで、おやつになるパンはお菓子パンと呼んでいます」


「おかずとおやつのパンとは面白い発想ですね。楽しみにしています」


 ジハァーウ団長がわざわざ挨拶に来てくれたようだ。

 今日持って来たのは、試食会で食べたお惣菜パン。

 焼きそばパン、ナポリタンパン、グラタンコロッケパン、ポテトコロッケパン、塩唐揚げパン、ソーセージパン、茹で卵と燻製肉とチーズパンの7種類で、お菓子パンはアズキパンと姫ポムのジャムパンの2種類。

 アズキ入り角食パンは持ってこなかったの。

 精霊樹でパンを焼いてバターを塗る事が出来ないのと、お惣菜パンの数が多いから、なくてもよいとお父様がおっしゃったの。

 たしかに、ひとり9個は食べきれないよね。

 好きなものだけ選んで食べてくれればいいかな?


 ネージュとキリーの分はペーシュとミルティーユ、ポワールとオランジュの全種類をユーゴが用意してくれていた。

 ソフィがいない時は、なぜかユーゴがやってくれるの。

 侍女・・・いや侍従としても使えそうだよ。

 ユーゴは器用だから、護衛の仕事を辞めても、すぐ新しい仕事が見つかりそうだ。


「アン様、ネージュとキリーの分はこちらに置きますね」


「うん、ユーゴは器用だね」


「護衛を引退しても侍従にはなりませんよ」


「う?うん・・・」


 なぜ思っていたことがわかったのだろう?・・・もしかして声に出ていただろうか?


「・・・声に出ていました」


「また?」


 思わず口を押えてしまった・・・悪口ではないから大丈夫だよね?


 お茶の用意も出来てみんながパンを食べ始めた。

 ユーゴとマクサンスとジュスタンが、騎士団の人にパンの名前を教えている・・・ユーゴ達は宣伝もできるらしい。

 護衛を辞めたら、ブーランジェリー・マシロ店でも働けるかもしれない。


 ネージュはペーシュを抱えて食べていた。

 キリーはポワールがいいらしい・・・食べさせなくても嘴の先で器用に挟んでは嘴の中に入れて食べている。

 もう食べさせなくても大丈夫らしい。

 ネージュとキリーもちゃんと学習しているようだ。

 ネージュがまだ子どもだとわかるけど、もしかしてキリーもまだ子どもなのかな?

 卵から孵ってから1年半・・・普通の鳥は成鳥のはずだけど・・・聖獣はどうなんだろう?

 見た目は成鳥にも見えるけど・・・


「キリーはまだ子どもなの?」


「グワッ?」


 なぜ?と逆に聞かれてしまった。


「卵から孵ってまだ2年たってないでしょ?」


「グッゥ」


 首を横に振られてしまった。


「大人なの?」


「グワッ?」


 期間がわからないのかな?

 変な質問をしちゃったかな?・・・とりあえずジャムパンを食べよう。


「そこにいるのはオワゾデュヴァンでしょう?若いけど一応成鳥だと思うわ」


 ジャムパンを口に入れたとたん、後ろから太くて低い声が聞こえた。

 驚いて振り向いたら、料理人のロイクのように、大きくて筋肉ムキムキの人が立っていた。

 お父様とジハァーウ団長、ユーゴ達護衛や龍騎士たち全員が飛び上がるように立ち上がり、剣を構えようとしてそのまま固まった。

 鮮やかな緑の髪は頭のてっぺんで一纏めにして真っ赤な椿の花をつけている。

 一纏めにした髪は馬のしっぽのように左右に揺れている。

 茉白はこの髪形をポニーテールと呼んでいたよね。


「あの・・・もしかして精霊さん?」


「ええ、そうよ。なんで出られたのかしら?」


「えっと、さっき成長させたカメリアの木から出てきたのでしょうか?」


「あの木はあたしの木よ・・・久しぶりに出てきたわ・・・貴女が育てくれたの?ずうっと眠っていたのよぉ・・・もう、ようやく出てこられたわ」


「良かった・・・?です?」


 思わず首を傾げてしまったよ。


「ほんと、良かったわ。で?ここはどこかしら?妹たちも呼びたいわ。貴女、まだ魔力はある?」


「妹さんですか?」


「そうよ。あたしは長女のルージュ・カメリアよ。よろしく!妹にブラン・カメリアとロザートル・カメリアがいるの。私たちはほぼ同時に生まれた姉妹なのよ。名前の通り、あたしの頭には赤いカメリアがついているでしょう?ブランは頭に白い花が2つついているのよ。ロザートルは桃色の花よ。花の色がまんま名前になっているの。面白みがないでしょう?まぁいいけどね・・・で、ここはどこかしら」


「ここはプラターヌがある北の精霊樹です」


「あら、やだっ!東の精霊樹マロニエじゃないのね。どうして北に出ちゃったのかしら?」


「たぶん、種がペーシュに混ざっていたのか、それとも風に飛ばされたとか?」


「あの大きな種が風で飛ぶわけがないじゃない・・・もしかして鳥かしら?野鳥がカメリアの花の蜜を吸うのよ。花を木からむしり取ってしまうことがあるの。それで運ばれたのかしら?・・・それにしても遠すぎるわ・・・そう言えば貴女の名前を聞いていなかったわね」


「えっと、ア、アンジェル・テールヴィオレットといいます」


「アンジェルね、よろしく。貴女が魔力で育ててくれたのね。お礼は言っておくわ。ありがと!」


「い、いえ・・・お、お気遣いなく」


 一方的にドンドン話をしてくる精霊さんだったよ。

 ペーシュを育てていたのに、間違って椿を育てたとは言えないよね。

 こんなムキムキ精霊さんが出てくるなんて・・・だから魔力がたくさん持っていかれたのかな?


 見れば見るほどロイクに似ている。

 体型が同じだよ・・・来ている服は違うけど・・・。

 ムキムキな身体に袖のない服を着ている。しかも丈がすごく短くてお腹が丸見えなの。

 ・・・茉白のおばあちゃんが言っていたランニングシャツに似ている。

 茉白はタンクトップと言っていたけどね。

 ランニングシャツが短いからお腹の筋肉が見えている。

 盛り上がったお腹の筋肉は6個に割れていた。これがシックスパックと言うやつだよね。

 それにしても・・・短いスカートをはいているから、ムキムキの太股がまる見えなの・・・ベルリュンヌ様の絵も丈の短い服だったから、精霊は短い服が当たり前なのだろうか?

 顔は大きいのにお口が小さいから、ますますロイクと被ってしまう。

 あっ・・・顎が割れている・・・ロイクと違うところを発見したよ。

 お話をする時の癖なのか、時々顔の横まで手を持ってきて、人差し指を伸ばすの。その時に小指がピンとたつから、ついそっちに目が行ってしまう。


「ルージュ?・・・ルージュ・カメリアではないか?」


「あらやだ!グノーム様じゃない。お久しぶりねー。元気だったぁ?」


「あ、ああ・・・変わりない」


「もう、すっかり大きくなっているじゃない・・・初めて会った時はこーんなに小さかったのに」


「そこまでは小さくなかった・・・腰まではあったはずだ」


 こーんなにって言って膝のところに手を持って行ったけど、そこまでではなかったらしい。

 また突然現れたグー様が、目をそらして拗ねているのがちょっと可愛い。

 それに精霊さんにも子どもの頃があったことに驚いたよ。

 ルージュ様の方がかなり年上らしいけど・・・何歳なのだろう?

 もしかして400歳とか500歳とか?


「他にも上級精霊はいるのかしら?久しぶりに会いたいわ」


「ここにはいない・・・他の場所はしらぬ」


「貴方、甘いに匂いがするわね。嗅いだことがない匂いね」


 グー様はサッと口に手をあてていた・・・チョコを食べていたのだと思う。

 それにしても、この暑苦しい精霊さんはとてもおしゃべりだと思っていたら、上級精霊だったよ。

 でも姉妹と言っていたよね?ムキムキな女性の精霊・・・?

 周りを見れば護衛たちがポカーンと口を開けて固まっていた。


 グー様とルージュ様のお話を黙って聞いていたら、お父様がアンの横にやって来て「料理人のロイクに似ているが・・・精霊だよな?」とボソッと聞いて来た。


 黙って頷いたよ・・・。


「お父様・・・お昼を食べてしまいましょうか」


「ああ・・・そうだな・・・」


「ユーゴ、みんなに気にしないで食べてと伝えて」


「・・・は、はい・・・」


 ユーゴも戸惑っているらしい。

 ルージュ様はこちらに背を向けてネージュやキリーに話しかけて、またグー様に話しかけてと、忙しそうだ。

 今気づいたけど・・・ルージュ様の背中に小さな羽があった。

 向こうが透けて見えるくらい薄くて、キラキラした羽はとても綺麗だけど・・・大きな身体に似合わない。

 ・・・あの羽で、飛べるのだろうか?

 そういえば・・・グー様の羽を見たことがないよね。

 飛ぶことができないから、他の大精霊たちと会えないのかも。


 ちょっと疲れた・・・とりあえず食べたら帰ろう。

 上級生精霊さんが出てくるほど、アンの魔力は増えているようだし、果物の木も植えたから、今日はこれでいい事にしよう。

 周りの木も成長させて帰りたかったけど、カメリアの木を成長させた時にかなり魔力を使ってしまった。

 今日はもう無理をしないことにしたよ。


 お惣菜パンとお菓子パンは、ほとんど残らなかったとユーゴが言っていた。

 ジハァーウ団長と龍騎士たちは全種類食べたらしい。

 もちろんイヴァンやユーゴ達も。

 お父様はお惣菜パンだけ全部食べたと言っていた。

 アンはお菓子パンだけ食べたよ。


「お父様、龍騎士たちの感想をあとで教えてもらえますか?今日は早めに帰りたいです」


「疲れた顔をしているな。すぐに帰ろう」


「今日は魔力をたくさん使いました」


「上級精霊が出てきたのだから、魔力が減るのは当たり前だ。キリーに乗れるか?私の龍に一緒に乗っても構わないぞ」


 龍に?・・・乗りたい・・・乗りたいけど、キリーはアンを乗せたがるよね?

 ・・・どうしよう。


「あらっ!貴方たち、片づけているの?どこに行くのかしら?」


「初めまして、アンジェルの父、アレクサンドル、テールヴィオレットです」


「テールヴィオレット?セルジュの子なの?髪の色が同じね」


「セルジュをご存じでしたか・・・セルジュは北の大領地の初代領主です。もう十数代も領主が交代し、今は私が領主をしております」


「・・・そう。随分と時が流れていたのね・・・ねぇアレクサンドル、あたしは姉妹に会いたいのよ。カメリアの木はあるかしら?ブランとロザートルの木よ」


「カメリア様・・・」


「ルージュでいいわよ」


「ルージュ様、白いカメリアと桃色のカメリアは北の大領地では咲いていないと思われます。東の領地にだけあると記憶しています・・・当屋敷に東の領地から来た庭師がいますから、確認してお知らせしましょう」


「調べてくれるのね。だったらアレクサンドルの屋敷にいけばいいわね」


「屋敷にいらっしゃった後は、またこちらまでお送りすればよろしいですか?」


「うーん、そうね。行ってから考ええるわ」


「さようですか・・・」


「ほら!そこのオワゾデュヴァン。あたしを乗せなさい」


「グワ?」


「何?じゃないわよ。さっさと行くわよ」


「グー」


 キリーがアンと呼んでいるけど、ルージュ様はキリーに乗る気満々だ。

 あの大きな身体を乗せて、キリーは飛べるのかな?


「ルージュ様、キリーは龍ほど身体が大きくないです。大丈夫でしょうか?」


「貴女、失礼ね。あたしは重くないわよ。精霊は軽いのよ」


「さようですか・・・」


 思わずお父様の言葉を真似てしまったよ。


「キリー、今回は乗せてあげてね。アンはお父様の龍に乗せてもらうから、心配しなくていいよ」


 今回は龍に乗れるよ・・・ちょっと嬉しいと思ってごめんね。

 それにルージュ様は軽いらしいよ。


「ピピピッ?」


 ネージュが大丈夫って心配しているけど、キリーは首を横に振っていた。


 ルージュ様がキリーを睨んだら、そっと視線をそらしていたよ。

 誰も逆らえないのかもしれない。

 グー様すら、もう消えていたもの・・・。

次回の更新は5月1日「91、上級精霊が屋敷にやって来た」の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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