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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第2章 ちょっと丈夫になった辺境伯令嬢のやりたい事とやるべき事

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87、アンジェルのやりたいこと

 今日の午後も試食会だよ。

 昨日のように、護衛たちがお腹いっぱい食べる事はないと思いたい。

 あんこは食べ過ぎると胸焼けを起こすからね。


 昨日試食したヒヨコ豆と鶏肉のトマート煮は、今日の夕食に出してもらうの。

 お父様たちにも食べてもらって、冬のメニュにしてもいいか確認しないとね。

 トマート煮は、いつかできるお食事のお店にも出せるはず。

 あんこは食後でも食べられるからどちらのお店でも出せると思うの。

 今回はトマート煮とあんこの両方が冬のメニュになればいいよね。

 それと新しいパンの事もあるから・・・カジミールが王都に行く前に、試作品を作ってもらう予定なの。


 昼食を一緒に取っていたお母様に、少し休んでから厨房に行った方がいいと言われてしまった。

 最近はずっと忙しくしていたから、疲れが顔に出ていたらしい。

 多少疲れていても早めに眠れば、翌朝には元気になっていたと思っていた。

 最近は熱も出ていないし・・・かなり丈夫になったと思っていたの。



 ハッとして目が覚めた。

 いつの間にかソファーで眠っていたらしい。

 部屋に戻ってから、ソファーに腰かけて今日の料理の事を考えていたはずなのに・・・。

 座ってすぐに寝てしまうなんて・・・お母様がおっしゃった通り疲れていたみたい。

 少し眠ったおかげで、なんだかすっきりしたような気がした。


「そろそろ厨房に行こうかな?」


「今日は時間のかかる料理はありますか?お疲れのようですから、早めにお部屋へ戻るようにした方がよろしいと思います」


「大丈夫だよ、ソフィ。時間のかかるものは昨日から下準備するように伝えてあるから・・・試食したらすぐ部屋に戻るね」


「そのようにお願いします」


 お母様がおっしゃった通り、少し休んだからもう大丈夫かな?

 そろそろ厨房に行かないとね。


「今日は試食が終わったら、しっかり休んで下さいね」


 フォセットにまで言われてしまったよ。

 ユーゴ達護衛まで心配そうに見ている・・・そんなに疲れた顔をしているのかな?


「無理しないようにするから、大丈夫だよ」


 厨房に行ったら、カジミールたちは準備万端で待機していたよ。

 あんことパン生地が調理台の上にドンと上がっていた。


「アンジェル様、お待ちしていました」


 カジミールたちが目をキラキラさせているのに、台の上に置かれた黒い粒々のあんこを初めて見たソフィとフォセットは、不安そうにアンを見た。

 これは食べものですか?と・・・目が訴えているように見える。

 黒いけど美味しいよと、目で訴えてみたけど、アンとあんこを交互に見ているだけだったよ。


「食べたら美味しさがわかるよ・・・」


「・・・そうですか」


 見た目が悪いから警戒されても仕方ないよね・・・だから西の領地で広がらなかったのかも。

 ジルベールさんのお母様の実家は勇気のある人ばかりなのかもしれない。

 カジミールとコンスタンは、ソフィとフォセットの不安な顔を気にすることもなく、紙とペンを持ってじっと待っていた・・・早く始めないとね。


「今日はアンパンとどら焼きを作るの」


「アンパンですか?・・・もしかしてアンジェル様が考案して作ったパンだからアンパンというのでしょうか?」


 ロイクが微妙な突っ込みを入れてきた。


「あんこを入れるからアンパンというの」


「そ、そうでしたか。失礼しました」


 アンパンを知らない人のために、説明が必要になるだろうか?


「私もアン様の作ったパンだから、アンパンと思ってしまいました」


 ユーゴの言葉にソフィとフォセットまで頷いている・・・アンパンと言う呼び方は駄目かもしれない・・・何て呼べばいいだろう。


「紛らわしい呼び方は変えた方がいいね。後で考えるから、とりあえずパンを作ってね。シャテニエのクリームを入れて作ったマロンパンと同じつくり方でいいの。アンパンと分かるように小豆を上に乗せた方がいいかな?」


「中が見えるように切り込みを入れるのはどうでしょう?」


「いいと思う。やり方はカジミールに任せるね。ジャムパンも同じように作れるよ。姫ポムやフレーズのジャムパンも美味しいと思うの」


「姫ポムのジャムがありますから、それも作りましょう。ロイク、ニコラと一緒に作ってください」


「わかりました」

「はいっ!」


 ロイクは普通に返事をしていたけど、ニコラが張り切って返事をしていた。

 パンも作れるようになったようだ・・・頑張っているね、二コラ。


「カジミールとコンスタンにどら焼きの作り方を説明するね。 材料は小麦粉、ウッフ、ノールシュクレ、はちみつ、油だよ」


 材料を紙に書き終えると、カジミールが頷いた。


「作り方は、最初にウッフを卵黄と卵白を分けて、卵黄にはちみつとノールシュクレと油を入れてホイッパーでよく混ぜるの。卵白の方はメレンゲにするけど、ノールシュクレを途中で数回に分けて入れてね。メレンゲが出来たら、混ぜた卵黄の方にメレンゲを数回に分けて入れるの。これでどら焼きの生地ができるよ」


「わかりました。メレンゲの固さはシフォンケーキと同じでよろしいですか?」


「うん、角ができるくらいの硬さでね。できた生地は大きなスプーンですくって、温めた鉄の板か、フライパンに丸くなるように流して、表面がぶつぶつしてきたらひっくり返すの。ホットケーキに似ているけど、どら焼きの皮はそこまで厚くしないからね。焼き上がったら濡れた布をかぶせて冷ましてね。皮が冷めたらあんこを挟んで出来上がりだよ。生クリームとアイスを添えてもいいかも」


「わかりました」


「あんこは作り置きできるけど、どら焼きの皮は作り置きできないから、その都度作らなくてはいけないの」


「クレープやケーキの生地は作り置きをしていませんので、問題はないです。では早速作ります」


 ロイクとニコラの方を見ると、薄く伸ばしたパン生地にあんこを入れて丸い形にしていた。

 5センチくらいの小さいアンパンだった。焼くともう少し大きくなるかな?・・・そうだ。


「ロイク、縦横高さが4センチくらいの四角いパンも作ってくれる?」


「四角ですか?・・・わかりました・・・焼くと上が少し山型になりますがよろしいですか?」


「うん。角食パンみたいな形だよね?」


「はい、そうです」


「ついでに、小豆入り角食パンも作って。今回はあんこにしたから、小豆が少し固まっているけど、角食パンは散らばっていた方がいいよね。次回は角食パン用に煮詰めすぎない小豆を使えば、小豆のグラデージョンにしたパンが作れそう」


「それは面白そうですね。今日からまた小豆を煮れば、明日作れます」


「お父様たちには明後日食べてもらうつもりだから間に合うね」


「はい、問題ないです」


 カジミールとコンスタンも5センチくらいのどら焼きの皮を作っていた。

 お店で食べるのなら、小さくていいよね。アイスと生クリームを添えたらおしゃれだと思うの。

 これなら緑のお茶がなくてもいいような気がする。


 パンの焼ける匂いがしてきたころ、小さなどら焼きが出来上がっていた。

 今日はあんこ尽くしだから、ユーゴ達はお腹いっぱい食べなくてもいいよ。


「厨房の隣の部屋に移動しましょう」


 フォセットに声をかけられユーゴ達と移動したら、ソフィが食卓テーブルにナイフとフォークを並べていた。

 ロイクとニコラがワゴンで運んできたのは、白いお皿に綺麗に盛り付けた丸型と山型と平たい楕円形のパンだった。平たいパンはジャムパンかも。

 横には生クリームとアイスが乗っていた・・・ちゃんとデザートになっているよ。

 ・・・アンパンとジャムパンだけど。

 ソフィがティーポットをワゴンで運んできて、紅茶を入れてくれた。

 今日は夏摘み紅茶だって・・・アンの紅茶はミルクがたっぷりと入っているから凄く白っぽい紅茶なの。

 コンスタンが運んできたのは、お皿に小さなどら焼きが乗っている。これも生クリームとアイスが添えられていた。

 アンとソフィ以外はラムレーズン入りのアイスだって。

 あんこが甘いからキリッとした大人のアイスにしたらしい。

 みんなが席に着くのを確認していつもの声を掛ける。


「では試食会を始めるよ。オオォー」


「「オオォー」」


 今日もロイクとニコラが答えてくれた。


「いただきます」


「「「いただきます」」」


「いただき、ま、す?」


 カジミールとコンスタンとニコラの声だ。今日はみんなのノリがいい。

 ロイクがちょっと迷って最後の語尾が上がったけど、いいことにしよう。

 慣れたらちゃんと言えるようになるからね。


 ナイフとフォークでアンパンを切って最初はそのまま食べてみた。

 あれ?思ったほど甘くない。

 甘さ控えめの飽きの来ない味かも。生クリームをつけてちょうどいい感じ。

 アイスも合うね。

 みんなもナイフとフォークを持ってパンを切り始めたていた。

 黒っぽいあんこに抵抗があるのか、ソフィとフォセットがフォークの先に、ちょっとだけあんこを乗せて食べていたよ・・・食べると言うよりなめるという方が正しかも。

 あっ・・・普通に食べだした、口に合ったようで良かった。

 食べものは見た目じゃないよ・・・いや、見た目も大事だけど、とにかく味が一番大事だよ。

 姫ポムのジャムパンも美味しかった。

 ジャムが甘い分、こっちの生クリームは甘さが控えめになっていた。

 カジミールとコンスタンが甘さを考えて調節してくれたらしい・・・さすが、マジ優秀だね。


 ミルクがたっぷりと入った白い紅茶を飲んだら、次はどら焼きを食べる。

 どら焼きの皮には、はちみつとノールシュクレが入っているから、皮も少し甘い。

 お母様は喜んでくれそうだけど、お父様や兄様たちはあまり食べないかも。

 女性向けのデザートになりそうだ。


「どら焼きをお店で出せるなら、上にローズの焼き印を押してもいいよね」


「お店の商品と言う感じがして、よいと思います」


 フォセットが賛成してくれ、ソフィも頷いている。

 鍛冶職人のリアムに焼きごてを頼まないとね。


 ユーゴ達はアンパンとジャムパン、そしてどら焼きも食べたけど、紅茶を追加で頼んでいた。

 やはり甘かったのかな?

 ユーゴとジュスタンがアンパンだけまた食べると言った。

 あんこは平気らしい・・・。

 小豆はノールシュクレを入れなければ、塩茹でしてお酒のおつまみになると言っていたから、おつまみ感覚なのだろうか・・・それとも只の食いしん坊さんかな?

 ・・・小豆・・・そうだ、小豆だからそのまま呼べばいいよね。


「アンパンはアズキパンと呼ぶことにしたよ」


「そのままですね」


 ユーゴが余計なことを言っているけど、無視しておこう。


「決定だよ」


「わかりました」


 カジミールは納得してくれたらしい。

 コンスタンたちも頷いている。


 これで毎年小豆が確実に用意できれば、冬のメニュにできると思うの。

 明後日の夕食でお父様たちに食べてもらうけど、あえて夕食にしたのは、他にもお父様たちに食べてほしいものがあるからなの。


「カジミール、お願いがあるの」


 横でソフィがピシッと背筋を伸ばした・・・なぜソフィが反応するのかな?

 つられたように料理人たちも背筋を伸ばしていた・・・なぜだろう?

 まだ何も言っていないよ・・・?


「明後日の午後に作ってほしいものがあるから、材料を用意してね」


「わかりました」


「試食会をした後、夕食にお父様たちにお出ししてほしいの」


「心得ています」


 さすがカジミール・・・すべて心得ているらしい。

 明後日準備してもらうものは、パスタ生地とパン生地、パン粉とホワイトソース、豚ひき肉、茹でウッフ。

 小豆も角食パン用とアズキパン、それにどら焼き用のあんこも用意してくれると言った。


 部屋に戻ってから、今日作ってもらったパンとどら焼き、それに2日後に作るパンの事を、お父様とお母様にどう説明するかを考えないと。

 茉白・・・頑張るからね。

 でも、今日は疲れているから早く休もう。熱をだして日程を狂わせたくない・・・。



 ゆっくり過ごしたおかげで今日は元気だよ。

 午後から厨房に行き、カジミールたちにパンを作ってもらう。

 それとアズキ入り角食パンも。


 厨房に着くと、頼んでいた材料が台の上で並んでいた。


「カジミール、お惣菜パンを作ってほしいの」


「オソウザイパンとはどんなパンでしょう?」


「焼きそばパンにナポリタンパン、グラタンコロッケパン、ポテトコロッケパン、塩唐揚げパン、ソーセージパン、茹で卵と燻製肉とチーズのパンの事なの。そしてお菓子パンがアズキパンとジャムパン。秋に出すシャテニエのクリームパンもお菓子パンになるの。前回話していた、小豆いり角食パンも試食しようね」


 焼きそばパンとポテトコロッケパンは、茉白が大学と言うところに通い始めた頃、昼食でよく食べていたパンなの。

 焼きそばはパスタとは違うみたい・・・確か麺と言っていたけど、こちらにはないものだよね。

 ・・・ないものは仕方がない。

 パスタ生地を細切りにしてもらい、茹でてから、厚手の鍋に油を入れて焼いてもらった。

 豚肉とシューを炒め、焼いておいたパスタと混ぜ合わせ、トンカツに使ったソースとコショウで味を調える。青ノリと言うものがないから、ペルシをちらしてもらったの。

 見た目はちゃんと焼きそばだよ。

 焼きそばのままだとアサリのパスタのように、屋敷でしか食べられなくなるから、10センチくらいの長さのパンを焼いてもらって、パンの上部に縦長の切り目を入れ、そこに焼きそばを入れることにしたの。


 ナポリタンパンはソーセージとポワブロンとオニヨンを細切りにして茹でたパスタを入れて炒めて、ケチャップと塩コショウで味を調える。焼きそばと同じように縦に切り目を入れたところに、ナポリタンを入れる。

 最初はソーセージとオニヨンだけだったけど「ポワブロンも入れると色も綺麗です」とカジミールが言ったの。

 ポワブロンとはパブリカの事だった。

 黄色とオレンジ、赤や緑と色が鮮やかで炒めると少し甘くなる。

「少し濃い味付けにしています」と言っていた・・・パンと一緒に食べるから濃い味付けがいいらしい。


 グラタンコロッケは以前作ったエビグラタンとほぼ同じ作り方だけど、エビではなく燻製肉を入れてもらったの。

 いつ手に入るかわからないエビは、入れない方がいいと思った。

 グラタンはチーズを入れて容器に移してもらう。今回はコロッケにするから焼かずに、冷蔵庫で冷やす。

 冷えて少し固まったら、楕円の形にして小麦粉、溶いたウッフ、パン粉の順につけて、油で揚げる。

 切れ目を入れたパンに千切りシューとコロッケをいれる。


 ポテトコロッケはポムドゥテールを茹でてつぶしておく。オニヨンとひき肉を炒めてハンバーグを作る時に使ったナツメグ・・・ミュスカドゥだったよね。それと塩コショウで味を調える。

 これもコロッケにして油で揚げる

 切れ目を入れたパンに千切りシューとコロッケを入れて、カツサンドに使っていた茶色のソースをかける。


 塩唐揚げパンも千切りシューと大きめに切った揚げた塩唐揚げを入れて、タルタルソースをたっぷりとかける。


 ソーセージパンはソーセージを焼いて塩コショウで味を調え、千切りシューと一緒に挟み黄色くて辛いムータルドとケチャップをお好みでかける。

 茉白はホットドッグと呼んでいた。

 千切りシューではなく、刻んだオニヨンを入れたりもするらしいけど、茉白は生の玉ねぎを食べると、胃の調子が悪くなると言っていたから、入れなかったの。

 茉白のおばあちゃんが「犬みたいだね」と言って、笑いながら玉ねぎを取り除いてあげていたよ・・・犬はオニヨンを食べたりしないのにね。

 生の玉ねぎは大人の食べ物だとずっと思っていたけど、大人になっても食べられないこともあるらしい。


 茹で卵と燻製肉とチーズパンは茹でたウッフを縦に半分に切って軽く塩を振り、薄く切った燻製肉と一緒に挟んでマヨネーズとコショウをかけ、チーズをのせて焼くだけ。


 完成したお惣菜パン7品と小豆の角食パンで試食会を始めよう。

 いつものように「試食だよ。オオォー」の声掛けとともに「いただきます」を言って食べ始めた。


 種類が多いから、四半分に切ってもらったけど、ユーゴ達護衛は半分に切ったものを食べてもらう。

 今回はユーゴ達護衛の意見を聞きたいの。

 前回畑でシャテニエやお豆の収穫をしてくれた、屋敷の護衛たちにも食べてもらう予定なの。

 あとで運んでもらえばいいよね。


「ユーゴ、マクサンスとジュスタンもどう?普段のお食事の時に、お惣菜パンがあってもいいと思う?」


「もちろんです。どれもお腹にたまりますから、毎日食べたいです。訓練の後は腹が減るので、こういったパンが手軽に食べられると助かります」


 ユーゴの意見にマクサンスとジュスタン、それにロイクまで頷いていた。

 ロイクは訓練をしていないと思うけど、もしかして料理も重労働なのだろうか?・・・それならお腹がすくのかもしれない。


「すぐ食べられるという手軽さがいいと思います」


 カジミールも賛成のようだ。

 あれ?・・・グラタンコロッケパンはパンとホワイトソースと小さいファルファッレ・・・どれも小麦粉だと気が付いてしまった。

 小麦の3段重ね・・・。

 パンとパスタも小麦に小麦で、2段重ね・・・焼きそばパンも2段重ねだ。小麦ばかりだけど、美味しいからいいよね。


「アズキの角食パンは先日のアズキパンより食べやすいです。軽く焼いてバターを塗ってあるのがいいですね・・・朝から食べられます」


 ソフィは朝から甘いものがいける口らしい・・・アンもいけるけどね。


「今日の夕食にお父様たちにお出ししてね。切らないでそのままの形のものをお見せしたいから、切ったものと両方用意して」


「心得ています」


 アンのやりたい事をうまく伝えられるだろうか?

 とにかくお父様たちにまず食べもらわないとね。




 夕食なのにお父様たちには見慣れないパンばかりが、食卓に並べられていた。

 今日作った7品のお惣菜パンと小豆の角食パンだよ。

 もちろんフォークとナイフもいつものように置かれている。

 お父様とお母様とシャル兄様が、パンだらけの食卓を見て困惑しているみたい。


 最初にスープとサラダが運ばれ、その後にテーブルに並んだ見慣れないパンと同じものが、四半分に切られお皿に乗って運ばれてきた。


「茶色ソースでからめてあるのが焼きそばパンです。赤いのがナポリタンパンで、奥の右側がグラタンコロッケパンで、左側がポテトコロッケパンです」


「ヤキソバパンとナポリタンパンといったか?それにコロッケと?・・・こんなにたくさんの種類を作ってどうしたのだ?」


「お父様、お食事の後でお話をさせていただきたいです」


「・・・何か考えたのだな?・・・いいだろう、後でしっかり聞かせてもらう」


「・・・はい」


「ヤキソバパンか?肉も入っていて美味い…ナポリタンパンに入っているポワブロンはいらないからソーセージがもっと入っているといいな」


「シャル兄様はポワブロンが嫌いなの?」


「た、食べられるぞ。嫌いではない。サラダなら食べるが、焼くとちょっと甘くなるのが気になるだけだ」


「そうね、シャルルは火を通したら甘くなる野菜が苦手だったわね。オニヨンもそうだったわね」


「でも残さず食べていますよ。母上」


「ええ、いつも感心していたわよ。きちんと食べるいい子だと思っていたわ」


「い、今もいい子です」


「そうね。今は努力を惜しまない、りっぱな子になったと思っているわ」


「・・・母上」


 シャル兄様は耳を赤くして下を向いてしまった。


「シャル兄様、褒められているよ」


「あ、ああ・・・」


 照れているのかな?もう何も言わなくなってしまった。

 黙々とコロッケパンを食べ始めていた。


 次に塩唐揚げパンとソーセージパンと茹で卵と燻製肉とチーズパン、そして小豆の角食パンがそれぞれ四半分に切って運ばれてきた。

 アズキパンは切っただけのと、さっと焼いてバターを塗ったものがあった。

 アンは試食をしたせいで、全部は食べられなかったよ。


「アン、これで全部かしら?これ以上は食べられないわ」


「お母様・・・次はお菓子パンのアズキパンとジャムパン。それとデザートのどら焼きがあります」


「そう・・・デザートなら少しは食べられると思うわ」


 お母様もデザートは別腹らしい。

 2日前に作った同じものが、白いお皿の乗っていてアイスと生クリームを添えてそれぞれの前に置かれていく。


「この中の黒いのは、お豆のようね」


「小豆と言います。そのお豆であんこを作ってもらったのです。あんこを入れたパンとあんこを挟んだどら焼きです。どら焼きがお店でだせるのでしたら、ローズの焼き印を押したいです」


「アズキパンとジャムパンは甘すぎないから、意外と食べられるわね。どら焼きは見た目が簡素だから焼き印があった方がいいわね」


 簡素・・・地味ってことかな?アイスと生クリームを添えても、白と茶色だけだったよ。

 いっそ赤いお皿でも使った方がいいだろうか?それともピンク色のお皿?


「さて、アン。今回は何を考えているのか聞かせてもらおうか?」


「えっ?えっと・・・どら焼きは簡素なので、赤いお皿やピンクのお皿が可愛いかなと考えていました」


「・・・どら焼きや皿の事ではない。この沢山のパンを作った理由は何かと聞いているのだが?」


「あっ・・・は、はい。パスタは王城と大領地の屋敷だけで、食べられるようになったと聞きました。そしてパスタを広めるとパン屋さんが潰れてしまうから、お店では出せないというのは理解できます。でもせっかく作った、グラタンやパスタをたくさんの人に食べてほしいです。パン屋さんが潰れず、パスタも使える方法を考えました。パンに挟んだらパン屋さんが売ることになります」


「確かにパン屋が売れば店は潰れない。だがどうやって国中のパン屋に指導するのだ?」


「一部の特定の料理人が指導するから、大変なことになるのです。今回みたいに大領地の料理人に指導して、大領地の料理人が自分たちの領地に広めたらいいと思うのです」


「アンが以前言っていた仕事の分散ということか・・・」


「はい・・・一気には無理でも、少しずつ広めていけばいいと思います。パン職人を育てて、最初は各領地の騎士団で販売するとか、パン職人が増えたらお店を構えているパン職人に指導していくなど、方法はあると思います」


「ブーランジェリー・マシロのパンも王族御用達の店になっているが、すでに店を構えていると、ブーランジェリー・マシロの名前を引き継げない店もあるのではないか?」


「ブーランジェリー・マシロの姉妹店と書いた看板をお店に下げてもらうのはどうでしょう?」


「姉妹店?」


「姉妹店として、ブーランジェリー・マシロの認定を受けたお店になれば、マシロパンの名前もそのまま使って売ることができると思うのです」


「アンはパンを広めたいということだな?パスタではないのだな?」


「・・・パスタも広めたいです。でももっと広めたいのは、マシロパンやお惣菜パン、お菓子パンを広めたいのです。茉白はパン屋さんになりたかったのです。だからアンがそのパンを広めたいと思いました」


「それはマシロがやりたかったことだろう?アンが本当にやりたいと思っているのか?」


「やりたいことは・・・他にあります。でも、パン屋さんもやりたいです。今はカジミールたち料理人に作ってもらっていますが、パン職人を育てて、たくさんの人に美味しいパンを食べてほしいと思うようになりました。新しいパンを作るのも、食べるのも楽しいです」


「そうか・・・だが、大領地まで動かしたいのであれば、それなりに時間はかかるぞ?」


「・・・はい」


「今は結界の事や精霊王の事で、王族や大領地の当主たちが忙しくしているのはわかっているな?」


「・・・はい」


「すべてに反対をするつもりはないが、すぐには無理だ。一先ず、龍騎士団内で販売可能かどうか騎士団側と話し合ってみる。王都に行った時に、パン職人の教育なども併せて王族や各大領地の当主とも話してくるが、早くても来年以降になるだろう。それとトマートのファシルとガレット・デ・ロアだが、冬から店で出してもいいが、ガレット・デ・ロアに入れるアマンドは全部に入れるように。ヒヨコ豆と鶏肉のトマート煮はシャルダン・デ・ローズでは出せない。旨いが豆の確保が難しいことと、煮ものは食事の店で出だす方がいいと判断した」


「わかりました」


 ガレット・デ・ロアもみんなが幸運になるようにすればいいらしい。

 ・・・少しは前進したよね。


「それから、北の精霊樹の魔力を注ぐのは神殿の者とアンにやってもらう。季節ごとにチョコを届ける時に注げばいいだろう。」


「はい・・・あの、精霊樹のところに畑を作ってもいいでしょうか?」


「畑?・・・精霊樹で?・・・なぜ畑を作りたいと思ったのだ?」


「食べ物がいろいろあった方が地龍たちにも喜んでもらえるかと・・・」


「・・・そ、それはグノーム様に尋ねなさい・・・それに来春からアンは、王都の学院に行くのだろう?年4回といえ北の領地に戻るのは大変だと思う。無理は出来ないのだから、ほどほどにしておきなさい」


「アンもそれを考えました。王都の学園に行っている間は、キリーに魔力を運んでもらうのはどうでしょう?」


「キリーにだと?」


「前にアンの溢れた魔力を吸い取って北の精霊樹に運んでいたと聞きました」


「確かにそうだな・・・キリーは北だけではなく、各精霊樹に・・・いや、と、とにかくそれも検討するか・・・仕方ないか・・・」


 お父様が仕方ないと言ったけど、キリーが運ぶということでいいのかな?


「今年の秋と冬はアンが精霊樹に行きますから」


「ああ、そうしてほしい・・・私からは以上だが、アンの方で他に伝えたいことはあるか?」


「アズキパンとどら焼きは冬限定品でお店に出してもいいですか?」


「それは構わないが、あまり出回っていないアズキの確保はできるのか?」


「今年の冬の分は、畑で収穫しますから大丈夫です。お豆は西の領地の北側で作っていると聞いています。来年からは西の領地の小豆の収穫量を増やしてもらえないでしょうか」


「そうだな・・・西の領主に打診をして・・・いや・・・種はあるのか?」


「えっ?ありますけど」


「アズキとヒヨコ豆は来年から、用意できればいいのだな?」


「・・・はい」


「少し時間がほしい」


「わかりました・・・あの、どら焼きに押すローズの焼き印ですが、焼きごてを鍛冶職人のリアムに頼んでもいいですか?」


「それは私の方で手配するわ。王都店分とノール本店分で各2本ずつあればいいわね」


「はい、お母様。お願いします。それから普通の大きさのマロングラッセの試食は明日、お願いします」


「そうね。今日はもうお腹に入らないから、明日の方がいいわ。アレクサンドル様もそれでよろしいですか?」


「ああ、構わない」


「普通のマロングラッセの木箱は3個入り、5個入り、10個入りの3種類を頼んであります。金色と銀色の布を敷いてもらうのは一緒です」


「高級感を出すのは変わらないのね」


「はい、ノールシュクレを大量に使いますから。2個入りは袋で販売する予定です。金色と銀色の袋が欲しいです。木箱にかけるリボンと袋に結ぶリボンは紫色でお願いします。木箱用のリボンと2個入りの袋、それに袋用のリボンの数は、発注書を書いてバスチアンに渡します」


「わかったわ」


「あの大きなマロングラッセはまた食べられるのか?」


「シャル兄様、マロングラッセを気に入ってくれたみたいだけど、あの大きいマロングラッセはもう作らないの。でもまだ1箱残っているから、明日みんなで食べよう」


「そうか!楽しみにしている」


 シャル兄様が嬉しそうにしていた。

 あの巨大マロングラッセを美味しいと言って食べていたけど、高級感が溢れていたせいか、遠慮してたくさん食べなかったよね。

 最後の1個はたくさん食べていいよ。

 でも・・・マロングラッセは小さくても高いよ?


 新しいパンとどら焼きの試食と報告は終わった。

 これからブーランジェリー・マシロ店が少しでも増えればいいと思っているの。

 それにパスタも・・・どちらも食べてもらえたらいいと思う。

 あとは庶民が気軽に食べられる、低価格のパンが作れたらいいな。



 翌日にカジミールとニコラは龍の宅急便で王都に向った。 

 秋のメニュを王都店に教えに行ったの。


 その4日後にコンスタンがノール本店に向かった。

 さらにその翌日に、木工職人のポランがマロングラッセの木箱をノール本店に届けたと連絡が来ていた。

 同じに日に、マロングラッセの2個入り用の袋とリボンもノール本店に届いたと、バスチアンが知らせてくれた。

 これで秋の準備はほぼ終えたことになる。


 秋に入ったら冬の準備を少しずつ始めようと考えながら自室でのんびりと午後のお茶を飲んでいたら、少し顔色が悪いフォセットがやって来た。


「アンジェル様、シャルル様が龍舎でお倒れになったと、アレクサンドル様のところに知らせが来たそうです」


「シャル兄様が?龍舎で?・・・ユーゴ!す、すぐに龍舎に行かないと」


「アン様、落ち着いてください。アン様は龍舎に行けません。アレクサンドル様が向かわれるはずです。戻られてからお尋ねになった方がいいです」


「でも、ユーゴ・・・元気で丈夫なシャル兄様が倒れたって」


「龍舎で倒れたということは、魔力が減りすぎたのかもしれません」


「そうなの?シャル兄様が倒れるほど?」


「すぐに戻ってくるはずです。待ちましょう」


「・・・うん」


 ・・・ここで待つしかなかった。

 次回の更新は4月10日「88、シャルルが願っていたこと」の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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