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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第2章 ちょっと丈夫になった辺境伯令嬢のやりたい事とやるべき事

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86、ジルベールさんのお土産

 メテオール祭は月が出ることもなく、たくさんの流星群を見ることができた。

 トマートのファシルとガレット・デ・ロアはとても好評だったよ。

 お店に出せるといいな。


 メテオール祭最終日の午後に厨房に行って、普通のマロングラッセが予定通り5日で完成しているか、精霊さんたちに尋ねみたの。

 精霊例さんたちはマロングラッセに顔を近づけて、スンスンしている。小さな手でピタピタと触れたり、離れて全体を眺めたりもしていた。


「いいよー」「できたー」「いいよー」


 よかった精霊さんの許可が出た・・・普通のマロングラッセがついに完成したよ。


 一緒に厨房に行ったソフィとユーゴ、マクサンスとジュスタン、それに今回はカジミールとニコラを入れた料理人4人とで、1個ずつ試食したの。

 1個ずつと言っても、アンとソフィ以外はお酒入りとお酒なしを半分ずつ食べたのだけれどね。

 マロングラッセは大小関係なく美味しかった。


 今日は製本業者から秋のメニュ表が完成したから、屋敷に届けると連絡が来ていた。

 午後に届くらしい。

 明日はノル兄様が王都に戻るから、パトリック叔父様に完成したメニュ表を見本として届けてもらうことにしたの。

 王都のメニュ表と同じ順番になるように確認してもらわないとね。


 昼食後にお父様とお母様、ノル兄様に普通のマロングラッセを食べてもらったの。もちろんシャル兄様にも、学院から帰って来たら1個だけ渡すつもりだよ。

 普通のマロングラッセはお父様とお母様から無事に許可をもらい、木箱に入れてお土産店で販売することになったの・・・よかった。


 ソフィに木箱の注文をするから、ポランに連絡をしてほしいと頼んだら「すぐに行きます」と言う返事がきたらしい。

 返事の通りすぐにやって来たよ・・・今は時間に余裕があるのかもしれない。


 ノル兄様立会いのもと、普通の大きさのマロングラッセの木箱を発注する。

 木箱は前回同様、お酒入りが金の布でお酒なしは銀の布を敷いてもらい、3個入り、5個入り、10個入りの3種類を頼んだ。

 一回目の納品は、3個入りと5個入りが100個ずつ、10個入りは80個で、これがノール本店分になる。

 王都分は設計図を買い取とって、王都の木工職人に頼む事になった。


 お父様が頭を痛めていたのは、あの高級感溢れた木箱入りの巨大マロングラッセ11個をどうするからしい。

 お父様とノル兄様が話し合った結果、特別品として王城にお酒入り3個、お酒なし1個を献上し、大領地の当主にはお酒入りを1個謹呈するらしい。

 ノル兄様が王都の屋敷で料理人に試食させたいとのことで各一個、北の屋敷でも各一個残すと言うことになった。

 大きすぎて販売価格が高くなりすぎるから、売り物にできないらしい。

 金や銀の布を敷いているから、陛下たちに献上しても見劣りはしないよね。

 やはり高級感漂う木箱にして良かったと思う。


「今回限りの特別品、高級マロングラッセですから、他言無用でお願いします。秋にお土産用として通常の大きさのマロングラッセが販売開始となります」というようなことを手紙に書いたとお父様がおっしゃっていた。

 もう幻の巨大マロングラッセとなるようだ。



 ノル兄様が王都に向われてから5日が経ち、今日は学院の6回目の試験日なの。


「アンジェルさん、おはようございます」


「おはよう、元気だった?」


「おはよう、ジルベールさん、コレットさん。元気だったよ」


 教室に入ると、ほぼ1ヵ月ぶりに会うジルベールさんとコレットさんが声をかけてくれた。


「アンジェルさんにいつもお世話になっているので、両親が少しですが良かったらどうぞと、豆を預かっています」


「お豆?」


「母の実家から送ってきたものですが、あまり出回ってはいないようです。野菜と一緒に煮て食べていました・・・口に合えばいいのですが。図書館の帰りに門のところで渡します」


「珍しいものをありがとうございます」


 ユーゴがいるところで渡してくれるのかな?

 もしかしてアンが持てないほど重いのだろうか?・・・小さい豆だよね?

 あまり出回っていないということは珍しいお豆なのかもしれない。

 巨大にしなければ、魔力で育てて増やしもいいかも。

 どんな豆だろう・・・凄く気になる。

 詳しく聞こうと思ったら、先生がきてしまった・・・残念。



 豆の事は忘れて、集中したよ。

 今日も一番に解答用紙を提出して、いつものように前回の結果が渡された。

 今回も満点・・・良かった。

 毎回この瞬間が緊張するよ。


 すぐに教室を出て、門のところに向うとユーゴが待っていた。

 ユーゴと馬車までの僅かな距離を歩きながらも、豆の事が気になってしかたない。

 ・・・野菜と一緒に煮て食べていると言っていたよね?・・・それにあまり出回っていないと。

 凄く貴重なものだろうか?貴重なものなら、お父様に報告したほうがいいかな?

 作るか、増やすか・・・お豆を見てから決めたほうがいいよね?


「・・・うーん」


「アン様、唸っていますけど、試験でわからないところがあったのですか?満点を取るだけが全てではないですよ」


「試験は前回も満点で、今回もちゃんとできたから、満点だと思うよ・・・ところでアンは唸っていたの?」


「はい、しっかり唸っていました」


 声に出ていたらしい・・・気を付けないと・・・。


「ジルベールさんが領地に帰っていたから、お土産にお豆を持って来きてくれたの。帰りに渡してくれると言っていたけど、何のお豆か、ちょっと気になったの」


「豆でしたら西の領地で採れたものだと思います。西の領地でも、北寄りの地域で豆を育てていると聞いたことがあります」


「ジルベールさんのお母様の実家から送って来たお豆って言っていたよ。どんなお豆か、楽しみなの」


「とりあえず庭師のジェロー聞いてみてはどうでしょう?普段は花や果物の手入れをしていますが、王都から来た少年と野菜について話をしているところを、見かけたことがあります」


「王都の少年?・・・もしかしてアルマン?野菜や薬草を育てたいと言っていたけど、今は屋敷の東側の畑やノール本店の裏の畑のお世話をしているらしいの」


「野菜や薬草にかなり詳しいとジェローが言っていました」


「アルマンのおじいさんも庭師だったから・・・とりあえずお豆の事は、図書館で調べてみる」


「わかりました。先ずはお昼をしっかり食べて、休憩してください」


「そうだった・・・午後も実技の試験があったね」


「・・・ほどほどにお願いします」


「・・・は、い」


 おとなしく馬車に乗り込みいつものようにネージュやソフィたちと昼食を取った。


 午後の実技試験もあっという間に終え、図書館でジルベールさんとコレットさんを待っている間、植物図鑑でお豆の事を調べることにしたよ。


『アズキは、株が成長しながら次々と花を咲かせていく。さやが細長く豆は赤色。食べる時はあくが強いので、最初のゆで汁は必ず捨てる。


 そら豆は空に向かって、さやが伸びる。さやの重みで下を向いたら収穫可能。豆は緑色。


 ヒヨコ豆はヒヨコの嘴のような突起がある。さやは丸みを帯びた四角で、さやには豆が1粒か2粒しか入っていない。茎葉が枯れてさやが薄茶色になったら収穫する。

 緑色のさやが残っていても実が入っていれば食べられる。雨に当たると枯れてしまう。


 インゲン豆は種類が多く、白、赤、黒、まだらなどがある。さやがカラカラに乾いたら収穫可能。収穫時期が遅れると豆が落ちてしまう。


 豆は寒い地域で育てることが多い。』


 時々サラダに入っている白色と黒色のお豆はインゲン豆と言うらしい。

 ジルベールさんがわざわざ届けてくれるお豆は、どんなお豆だろう。

 寒い地域で育つのなら、北の領地でも育つということだよね。

 アズキだったらいいな・・・アズキを育てたら、たくさんあんこが作れるよ。

 茉白の世界では小さい豆と書いてアズキと言うらしい。

 茉白のおばあちゃんが「あんこには煎茶が合うねー」と言いながら、あんこがたっぷりと入っている大福というものを食べて、緑色のお茶を飲んでいた

 緑色のお茶・・・東の領地にもないよね?


「アンジェルさん、お待たせしました・・・・調べものですか?まさか満点ではなかったとか?」


「ううん・・・あの、ジルベールさんのお土産のお豆が気になって・・・お豆の事を調べていたの」


「そうでしたか、失礼しました。アンジェルさんが満点以外などありえないですよね・・・」


「そんなことはないよ。油断は出来ないから、毎回緊張の連続だもの」


「連続は重圧がかかりますよね・・・」


「アンジェルさん、ジルベールさんお待たせー」


 相変わらず空気を軽くしてくれるコレットさんだよね。


「僕も来たばかりです」


「私は調べ物がちょうど終わったところ」


「よかった・・・今回の試験結果も、前回と同じ395点で3位だったの。なかなか点数が伸びないわ」


「僕も前回と同じ398点で2位です。実技も満点を取りたいのですが・・・もっと魔力を伸ばさないといけないようです」


「ここまで頑張ってきたら、4位にはなりたくないわ。あと3点は欲しいのよね」


「3点増えたら、僕と順位が並びますよ」


「同率2位でもいいわよ」


「次回はあと1点伸ばします」


「あら、私と一緒の2位は嫌なの?」


「いえ、その、嫌とかそういう問題ではなく・・・」


「フフフ、冗談よ」


「・・・コレットさん」


 ジルベールさんがあきれている。


「3人で頑張ろうね」


「そうね、アンジェルさんも満点を維持するために頑張っているものね」


「う、うん・・・・」


 今はお豆の事に気を取られているけどね。


「学科に関しては確認や復習することはないですか?」


「ええ、ないわよ。次回の予習もしてあるの」


「コレットさん、すごく頑張っているね」


「うん、領地に帰っても暇だったから、ずっと勉強していたのよ。でも牧草ロール以外の操作は思いつかなかったわ」


「僕も新しい操作は思いつかなかったですが、癒しの魔法の訓練はしていました」


「二人とも、勤勉だからこれからきっと伸びるよ」


「そうだと嬉しいわ。アンジェルさんはまた新しいお料理を考えたの?」


「うん、新しいお料理とおやつはメテオール祭の夜に家族と食べたの」


「それは今度お店で食べられるのでしょうか?」


 ジルベールさんも気になるらしい。


「まだ決まってないの。もしお店に出せたとしても冬になるよ」


「そうだったわね、まだ先だわ。まずは秋のメニュを食べなきゃ」


「そうでした、まずは秋のメニュです」


 二人で拳を作って話しているけど、もう予約はしたのだろうか?

 そろそろ帰らないと、ネージュも待ちくたびれているかも。

 ネージュはもう学院までこなくてもいいかもしれない。

 もうお昼に魔力を渡さなくても、問題ないし、アンも熱を出すことがなくなっているものね。

 凄く丈夫になったと思う・・・屋敷に帰ったら、お父様に相談してみよう。


「護衛を待たせているから、そろそろ帰るね」


「アンジェルさん、門の所で待っていてください。寮から豆を持ってきます」


「うん、ありがとう」


「コレットさんも豆を食べますか?」


「ありがとう。でも今月は領地に戻らないで、ずっと寮にいるつもりだから・・・今回は遠慮しておくわ」


「わかりました」


 学院の玄関でいったん別れ、門の所でユーゴと待っていると、ジルベールさんがすぐにやって来た。

 侍従と護衛が袋を抱えていた。


「アンジェルさん、お待たせしました。アズキとヒヨコ豆です」


「小豆!」


「はい、アズキです。父たちが塩茹でしてお酒のつまみにして食べていました」


「塩茹で?」


「ノールシュ・・・お、お砂糖ではなく?」


「はい・・・食事の時にも食べますから」


 そうだった・・・野菜と一緒に煮ると言っていたよね。

 塩茹でをするとも知らなかった・・・ジルベールさんはあんこの事は知らないらしい・・・。

 あんこが作られていないのはお砂糖の値段が高いからかな。


「馬車まで運びます」


「助かります」


 ユーゴがジルベールさんの侍従にお礼を言っていた・・・自分で持つつもりはないらしい。

 ユーゴが声を掛けてから馬車の扉を開けると、外にアンとユーゴ以外の人がいたせいか、ソフィが驚いていた。


「ジルベールさん達が、お豆を運んでくれたの」


「そうでしたか」


 ユーゴがお豆の袋を受け取って、2袋とも座席の開いている所に置いていた。


「ピィ?」


 ネージュがなに?と聞いている・・・気になるよね?


「ジルベールさんからお豆をもらったの」


「ピィー」


 いいねと言っているけど、ネージュはお豆を食べるのだろうか?


「ジルベールさん、ありがとう。お豆を食べるのが楽しみ」


「喜んでもらえてよかったです。ではまた・・・」


 ジルベールさんと別れ、ユーゴとともに馬車に乗り込み屋敷に向けて出発した。


「ソフィ、屋敷に戻ったらカジミールに、ヒヨコ豆だけたっぷりの水に浸しておいてと伝えて、そして明日の午後から厨房に行くよ。小豆はすぐに食べられないから、明後日も厨房に行くことになるよ」


「わかりました」


「あっ、小豆とヒヨコ豆は後からも使いたいから、10粒ずつ取り分けておいてね」


「アン様、もしかして育てるのですか?」


「うん、ユーゴも甘いものが好きでしょ?増やすとたくさん食べられるよ」


「甘いものも好きですが・・・豆はさやから取り出すのが大変です」


 ユーゴの言葉に、ソフィが驚いたようにユーゴとアンの顔を交互に見た。

 大丈夫だよ、ソフィ。

 あの時はノールシュクレを作るのにラディの種取り職人になってもらったけど、今回はお豆だから、もうちょっと大きいよ。あれほど大変ではないと思うの。


 屋敷に戻ってから、小豆とヒヨコ豆をどこに植えるか考えた。

 東側の畑は木が多い・・・西側の畑にしようかな?

 ラディしか植えていないから、まだ植える余裕があったと思う。

 朝から畑に行けば、午後から厨房に行けるよね。


 ・・・そう言えばエリーとマリーにしばらく会っていない・・・元気かな?


「ソフィ、ユーゴに明日は午前中に西側の畑に行くと伝えてね。時間があれば帰りにエマキ池にも行きたいの」


「はい、伝えておきます」


 エリーとマリー、それに番や子どもたちも元気にしているかな?

 秋になると南に渡ってしまうから・・・行ける時に見ておいた方がいいよね。



 今日は久しぶりに西側の畑に行くの。

 ネージュとキリーも一緒だよ。

 朝食を済ませるとすぐに飛行服に着替えた。

 ソフィが用意してくれた飛行服は、水色の生地で肘まである袖が膨らんでいて可愛い。

 確かパフスリーブとか提灯袖と言っていたと思う。

 生地は薄いピンクやクリーム色の小花模様で、ズボンはクリーム色の無地で7分丈。裾にスリットが入っていた。

 小花模様の服はさすがに刺繡をしてなかった・・・と思っていたら、ズボンのスリットの部分に水色の糸で縁取りがされていた。

 刺繡は必要らしい・・・。

 ネージュとキリーは山高帽と言うつばが反り返った帽子で、生地はアンと同じ小花模様だよ。つばの部分だけクリーム色になっていて、水色の糸でしっかりと縁取りをされている。

 庭で待っているキリーに帽子を被せたら出発だよ。


「グワァグワグ」


「ピィピィー」


 キリーが外に行こうと鳴くと、ネージュも行こうと返事をしていた。

 そして先に飛んで行ってしまった。

 楽しそうにしているからいいけど・・・。

 あれ?・・・西の畑に行くって知っているよね?

 アンとソフィは馬車で途中まで行き、ユーゴとマクサンスとジュスタン、そして屋敷の護衛3人も途中まで馬で行くの。

 ユーゴが馬車に乗らないのは、帰りに荷物が増えるからだって・・・荷物って豆だけどね。


 並木道のところで馬車を降りると右奥はラディ畑だ。

 今回は左奥の方に行って、空地に小豆10粒とヒヨコ豆10粒を植えるの。

 ジルベールさんにもらった分だけでは、みんなで食べるには少し足りない・・・。

 試食する人数が増えたからね。

 試食後は、もう一度同じものを作ってお父様たちが食べる。お店に出すようになればお店の料理人も試作品を作って、お店の従業員も少しだけど試食をする。

 そして王都店でも料理人が試作品を作るでしょ。

 経費はそれなりにかかるけど、種さえあればここで育てられるよ。

 仕入れるよりずっと安く済むから、必要経費が抑えられるの・・・これは大事なことだよね。


 ユーゴが耕した畑にマクサンスが畝を作っていた。ジュスタンが豆を蒔くらしい。

 種を蒔き終えたら、さっそく成長魔法をかける。

 すぐに芽が出て双葉になった。

 茎が伸びていくと同時に葉が増え、蕾を持ち始める。

 花が次々と咲いては枯れていき、そしてさやが出来る。


 植物図鑑に書いてあった通り、ヒヨコ豆はさやに1粒から2粒しか入っていないようだ。

 小豆はさやが細長く、5粒から8粒ほど入っているのがわかる。

 ヒヨコ豆は、粒が少し大きくさやが多い、みんなで食べるには十分だと思う。

 小豆は次々と花が咲かせては伸びていくから、先に熟したさやを一度手摘みしてもらって、再度成長魔法をかける。

 4度ほど繰り返すと全体が枯れてきたので、最後の収穫は株ごと引き抜いてもらった。


 ヒヨコ豆はさやが小さいから手摘みは大変そうだよ。


「これは一気に成長させて枯れたら、株ごと引き抜いて収穫した方がよさそうです」


 ユーゴがさやを見て判断したらしい。

 今回はソフィの他にもユーゴ達と屋敷の3人も、種取り職人に・・・ではなく豆取り職人になってもらった。


 豆を取り出す作業は、ユーゴとマクサンスとジュスタンとアンの組、屋敷の護衛3人とソフィの組に分かれた。

 ユーゴが少し不満そうにしている・・・アンでは役不足だと思っているのだろうか?

 ・・・確かに遅いかもしれない・・・ソフィと交代したほうがいいかな?


「ソフィの方が慣れているからユーゴ達に教えてあげて」


「わかりました」


 ソフィが返事をすると、ユーゴがしっかりと頷いていた。

 やはりアンよりソフィのほうがいいらしい・・・。

 ちょっとだけ悔しいから面倒そうなヒヨコ豆をユーゴ達の担当にしたよ。

 株からちまちまとさやを外したら、風魔法で乾燥させたあと、さやを壊すようにしてヒヨコ豆を取り出すように伝えた。

 ・・・・ソフィも大変だけど頑張ってね。


 アンと屋敷の護衛3人は小豆のさやを風魔法で乾燥させてから布に入れ、軽くトントンとさやを壊すように叩いて大きなさやを取り除いた後、底が網になった入れ物で、細かいごみを落として小豆だけを集めた。

 小豆の方は予定より早く終わりそうだ。


 ユーゴ達が株からさやをはずし終わったころ、アンたちは小豆を集め終っていた。

 屋敷の護衛はユーゴ達のぶんも手伝うらしい。

 前回も巨大シャテニの収穫をしてくれたのに、マロングラッセはまだ食べていないよね。

 今回は早々にあんこを食べさせてあげた方がいいかも・・・甘いけど。


 みんながまだ作業をしている間に、エリーとマリーに会いに行くと言ったら、「護衛の手が空いていませんので、まだ移動できかねます」とユーゴに言われてしまった。

 仕方がないから、残りの作業は屋敷の護衛に任せて、ユーゴ達を豆取り職人から開放することにしたよ。

 屋敷の護衛はまたしても、居残りになってしまった。

 ユーゴ達より先にあんこを食べさせてあげたい。

 そんなことを思いながら並木道の方に戻り、カナール邸と言う名の小屋に行くとネージュとキリーまでいたよ。

 エリーとマリーの一家はカナール亭から出たり入ったりしていたけど、とても窮屈そうだった。


「クワックワ、クワックワ、クワックワ、クワックワ」

「クワックワ、クワックワ、クワックワ、クワックワ」

「クワックワ、クワックワ、クワックワ、クワックワ」

「クワックワ、クワックワ、クワックワ、クワックワ」

「クワックワ、クワックワ、クワックワ、クワックワ」

「クワックワ、クワックワ、クワックワ、クワックワ」

「クワックワ、クワックワ、クワックワ、クワックワ」

「クワックワ、クワックワ、クワックワ、クワックワ」


 ・・・・カナール亭は増築が必要だろうか?


「グワッグワ、グワッグワ」


「ピピピィ」


 ・・・とてもにぎやかだよ。

 カナール亭の外でネージュとキリーまで何か言っているけど、なんだか楽しそうだ。

 秋にはエリーとマリーの一家は南に渡ってしまうから、今のうちに遊んでいるのかな?


「ユーゴ、カナール亭はそろそろリノベージョンをした方がいいかな?」


「リノ、ベーション?・・・それは何ですか?」


 茉白の家の改修をする工事の人が「リノベーション」と言っていたの。

 台所と居間をつなげて一部屋にして、居間の窓と茉白の部屋の窓を大きくしたら「庭の花が窓からも楽しめるようになった」とおばあちゃんが喜んでいた。


「改修工事かな?より機能的にするの。カナール亭が狭くなってしまったから」


「アン様、増築したいということですね?それは止めた方がいいです。カナールたちは狭いと感じたら、湖に行くはずです」


「ここでは駄目なの?」


「エリーとマリーが小屋に来るのは構いませんが、その子どもたちは別です。カナールたちが南に渡り、またこちらに戻って来たら、子どもたちも番を連れてくるはずです。その時は湖へ行った方がいいです。皆無事に戻ってくるかは分かりませんが、それでも卵を産んで育てば、すごい数になります。エリーとマリーはアン様が育てましたが、子どもたちは違います。自然の環境の中で育った方がいいのです」


「・・・そうだったね」


「野生の生き物は今ある環境の中で、ちゃんと生きていけます」


「うん・・・カナール亭はこのままにする」


「小屋はこのままでも十分です。来年もエリーとマリーは戻ってきますよ・・・きっと」


「・・・ユーゴ。小屋ではなくカナール亭と言ってね」


「アン様も以前は小屋と言っていましたが?」


「今から小屋呼び禁止。カナール亭と呼ぶの」


「はい、はい」


「ムー」


 ちょっと腹立たしいけど、ユーゴの言う通りだと思う。

 カナールのお母様にはもうならない・・・だから卵は拾わない。

 ・・・そう決めたの。


「クワックワ」


「クワックワ」


「エリー、マリー」


 鳴きながらアンのところにやって来て、頭をこすりつけてくる。


「フフフ、可愛い」


 頭を撫でてやると目を細めていた。


「また、秋には南に行くのでしょう?無事に帰ってきてね」


「クワックワ」


「クワックワ」


 返事だけはしっかりしてくれたけど、わかっているのかな?

 エリーとマリーだけに付いている足輪には紫色の石がはめ込まれている。

 この2羽だけは特別にとお父様がつけてくれたの。

 エリーとマリーをギュッと抱きしめて「またね」と言って小屋・・・じゃなくて、カナール亭を離れた。


 屋敷に戻り着替えてから昼食を取り、少し休憩してから厨房に向かった。


「アンジェル様、お待ちしていました」


 カジミールが目をキラキラさせて待っていてくれた。

 前回はカジミールとニコラがいない間に、トマートのファシルとガレット・デ・ロア、そして巨大マロングラッセを作っていたからね。


「今日はお豆の料理なの」


「アズキとヒヨコ豆が届いていました。ヒヨコ豆は水に浸しています」


「ヒヨコ豆の料理は今日作ってもらうけど、小豆は時間がかかるから、今日は完成しないの。明日の午後にまた来るね」


「わかりました。今は新しい料理を作る担当が4人おります。忙しい日でもアンジェル様のための時間を作れるようになりました」


 料理人が4人、そこにソフィとフォセットとユーゴ達護衛の3人・・・試食会も遂に10人になってしまった。

 季節のメニュの時はエタンも入るから、その時は11人になる。

 料理人は何人いても歓迎だけど、試食会に4人は多いと思う・・・でもカジミールとニコラが王都に行ってしまうと、コンスタンとロイクだけになってしまうから、やはり4人はいるということだよね。


「今日も張り切って作ろうね」


「はい、よろしくお願いします」


「今日はヒヨコ豆と鶏肉のトマート煮だよ。それと小豆はノールシュクレを入れてあんこを作るの」


 ヒヨコ豆はチリコンカンやキーマカレーに入れて作ってみたいけど、カレー粉がないから作れない・・・残念だよ。


「先にトマート煮の作り方を説明するね。ヒヨコ豆は茹でておく。次にアイユと小さく切った鶏肉を炒め、みじん切りにしたオニヨンを入れて更に炒めるの。そこにコンソメスープにトマートと茹でたヒヨコ豆をいれてワイン・・・じゃなくて赤いお酒も入れるの」


「ヴァンルージュですね」


「うん、それも少し入れて煮て、塩コショウで味を調えてヒヨコ豆と鶏肉のトマート煮が完成だよ」


 白ワインではなく赤ワインにしたのは、これから秋を迎え冬になるから。

 寒い時はスッキリと仕上がる白ワインより、コクが深くなる赤ワインの方がいいと、茉白がネットと言うもので調べていたの。


「先にヒヨコ豆を茹でておきます」


 すぐにロイクが鍋に水を入れ始めると、その横でニコラが水に浸しておいたヒヨコ豆をそこが網になった入れ物にうつして水を切っている。


「ヒヨコ豆を煮ている間に、小豆で作るあんこの説明をするね」


「アズキがあんこと言う食べものになるのですか?」


 カジミールが質問すると、コンスタンが紙とペンを用意していた。


「うん、あんこはおやつになるの。先ずは小豆を軽く水洗いして、大きめの鍋に水を入れて、少し強い火で煮るの。小豆が水から出ないようにしてね、皮が破れちゃうから。沸騰したらさし水と言ってお水を入れて、もうちょっとだけ煮る。あとは蓋をして蒸らすの。少しの時間蒸らしたら、ゆで汁を捨てるの。煮た小豆は軽く洗って鍋に戻し、水を入れてまた煮る。沸騰したら蓋をして、弱い火でコトコト煮るの。小豆が柔らかくなるまでアクを取りながら煮て、柔らかくなったらノールシュクレを数回に分けて入れ、水分がなくなる前に少しだけ塩を入れるの。水分を飛ばすときは焦がさないように気を付ける事。ここまでがあんこの作り方だよ。冷凍できるから作り置きもできるの」


「塩ではなく、ノールシュクレなのですね。シャテニのクリームも冷凍できると聞いていましたが、作り置きできるのは助かります。急にいらっしゃったお客様にもお出しできますね」


「うん、あんこは凍らないから、いつでも食べ放題になるかも」


「そうだといいですが、アズキやヒヨコ豆は、あまり出回っていないと聞きましたが・・・」


「そうみたい・・・でも冬のメニュにしたいと思っているの。小豆は確保するから大丈夫だよ。明日の午後はパン生地も用意しておいてね」


「材料さえ確保できるのでしたら、ぜひ作らせてください」


 コンスタンがヒヨコ豆と鶏肉のトマート煮の材料の用意を始めた。今回もコンスタンが作るようだ・・・カジミールは監督かな?


 ヒヨコ豆と鶏肉のトマート煮が出来るまで、新しいパンの事を考えていた。

 明日はあんこを使うものだけ作り、他のパンは日を改めてカジミールと話をしよう。


「お待たせしました」


 ヒヨコ豆と鶏肉のトマート煮が完成したようだ。

 コンスタンがワゴンで運んできた。その後ろでもう一台のワゴンを押しているロイクは、パンを運んできたらしい。

 ユーゴ達にはトマート煮だけでは足りないからかな?

 それぞれの前にトマート煮が置かれ、マシロパンとクルミパンが山盛りになった大きな籠が、3箇所に置かれた。


 ソフィがミュスカの皮を使った、ミュスカティーを入れる準備をしている。

 お店ではミュスカの皮を剝いて実をカップに入れる。後からスプーンですくって食べる事も出来るよ。

 でもお土産店で販売するのは、皮を風魔法で乾燥させ茶葉に入れる予定なの。

 ジャムやピューレも、皮を取り除くから、その皮もミュスカティーにすれば、お土産店では価格を下げて販売出来るよ。

 今回はその試飲なの。

 香りと味に問題がなければ、お土産店で木箱入りのミュスカティーが予定通り販売できるよ。


「では、試食会を始めるよ。オオォー」


「「オオォー」」


 今日はニコラとロイクが声を上げ、拳を顔の横まで上げていた。

 ロイクも学習したらしい。


「いただきます」


「いただきます」


 今回もニコラが一緒に食べる前の挨拶をしてくれた。

 早速お肉から食べてみる。

 鶏肉とトマートの相性がよく、お豆の食感がしっかりあるから、かなり食べ応えがある。

 ユーゴ達護衛とロイクはトマート煮とパンを交互に食べている。

 パンまで食べてしまうと夕食が入らなくなりそう・・・。

 香りにつられてミュスカティーを飲んだ。

 味もしっかりついている・・・この甘い香りが癖になそう。

 お土産店で販売するのは問題なさそうだね。

 


「アン様、食が凄く進みます。鶏肉も柔らかく、豆の食感もいいです」


 ユーゴは満足しているらしい。


「酸味と甘みと塩味そしてパン。また酸味と甘みと塩味そしてパンと繰り返すので、いくらでも食べてしまいそうです」


 マクサンスはパンを何個食べたのだろう?目の前にあったパンがなくなっていたよ。


「不思議ですね。飽きないです」


 ジュスタンも・・・?

 試食会はいつからお腹いっぱい食べる会になったのだろう?

 次回の更新は4月3日「87、アンジェルのやりたいこと」の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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