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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第2章 ちょっと丈夫になった辺境伯令嬢のやりたい事とやるべき事

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85/94

85、メテオール祭で食べる幸運なおやつ

 大きいマロングラッセを入れる木箱が、注文した翌日の夕方に届いたの。

 あまりにも早くて驚いたよ。

 ポランは「大量発注に対応できるように職人を増やしました」と胸を張って答えていた。

 それに今回は数が少ないから、あっという間に出来上がったらしい。


「近いうちに、また違う形の木箱を注文することになると思うの」


「あ、ありがとうございます。あの・・・大量発注でしたら早めに連絡をお願いします。とにかく、が、頑張りますので・・・」


 職人を増やしても、大量発注は早めの連絡が必要らしい・・・背筋を伸ばして返事をしていたから大丈夫だよね。


 今回注文したのは縦20センチ横23センチの高級木箱で、13個作ってもらったの。

 お酒入りは黒っぽい木で、お酒なしは白っぽい木。

 中は光沢のある絹の布を敷いてあるの。

 金色の布はお酒入りで、銀色の布はお酒なしだよ。

 木箱には紫色のリボンをかけようと思う。

 ちょっと高級感を出してみたの。

 もし、高額すぎて売れなかったら、贈答品として使うのはどうだろうか?

 木箱は厨房に運んでもらい、マロングラッセを入れてソフィにリボンをかけてもらった。

 冷蔵室で保管したら1ヵ月くらいは保存出来るからね。


 冷蔵室で高級感を放っているマロングラッセの箱を料理人たちがあんぐりと口を開けて眺めている。

 保冷室や冷蔵室に誰かが行こうとすると「リボン付き木箱には、ぜ、絶対触ってはいけない。間違っても汚したり、落としたりしないように」と、コンスタンが必死に伝えていた。

 コンスタンが気にしているはマロングラッセが高級だからだろうか?それとも出来上がるのに8日間もかかった面倒なお菓子だからだろうか?

 どっちにしてもお父様が戻られたら、どうするか決まるから、それまでは我慢してね。


 その日の夜、秋のメニュになる絵の値段も入れ終わったと、バスチアンが知らせに来た。

 王都分のメニュ表は、明日の朝からコピーをしたいとシャル兄様に伝えてもらったら「今からでもいい」と言う返事か来たよ。

 アンはもう寝る時間だからと断ったけどね。

 体力のあり余ったシャル兄様の考えにはついていけそうもない・・・。


 翌朝、お母様とシャル兄様の3人で食事をした後、アンの部屋でコピーをするという話になった。


「コピー作業を見たかったのよ。急ぎの仕事が入ってしまって・・・残念だわ」


「冬もありますから、その時に見たらいいですよ、母上」


 残念だと言うお母様に次回もあると伝えている・・・シャル兄様は次回もやる気満々で何よりだ。

 冬のコピー作業は、シャル兄様一人でも大丈夫かもしれない。


 シャル兄様は「作業に差し支えない服に着替えてから、アンの部屋に行く」と言っていた。

「うん、待っているね」と言って食堂で別れたのに、部屋に戻る途中で後ろから「アン」と呼ばれ、驚いて振り返ると着替えたシャル兄様が立っていた。

 食べるのは早いと思っていたけど、着替えるも歩くのも早いらしい・・・凄く驚いたよ。


 部屋に戻ると、ソフィやユーゴ達がコピー用の紙やエタンが描いた絵も準備をしてくれた。

 すぐに取り掛かると、作業がどんどん進んでいく。

 ユーゴ達護衛もすっかり慣れたようで、前回よりも更に早くコピー作業を終わらせることができたよ。

 ユーゴがコピーした紙の色むらや色抜けがないか確認して、マクサンスとジュスタン、シャル兄様の護衛のアムールが同じ紙が重なったり、逆に抜けたりしていないか、裏返しや逆さまになっていないかも確認していた。

 あとは製本職人に委託して1冊の本のようにしてもらうのを待つだけになった。


 前回作った夏のメニュ表は出来上がったらすぐに王都に送ったけど、今回はノル兄様が帰ってくるから、また王都に戻る時に、ノル兄様の荷物と一緒に送るとバスチアンが言っていた。

 パトリック叔父様とフレデリク様がコピーする絵は、明日の午前中に届けると連絡も入れてあるという。 

 なんと手際のいいこと・・・。


 夕方、パトリック叔父様の護衛が屋敷にやって来たと、バスチアンが知らせてくれた。

 きっとお父様たちが戻られるという知らせだと思う。

 やっとお帰りになる。今回はノル兄様も一緒だから楽しみに待っていたの。

 急いでバスチアンの後を追うようにエントランスに行くと、お母様が護衛とお話をしていた。


「お母様!お父様が戻られるの?」


「ええ、兄の護衛がわざわざ知らせに来てくれたのよ。明日の夕方に戻られるそうよ」


「嬉しい、もちろんノル兄様も一緒ですよね?」


「一緒よ・・・アン、ラウルに会うのは初めてかしら?」


「パトリック叔父様のお屋敷で見かけました・・・こんにちは、アンジェル・テールヴィオレットです」


「こんにちは、パトリック・ペレトリー伯爵の護衛でラウル・ブクリェと申します。ラウルと呼んでください」


「ラウルさん、私もアンジェルと呼んでください」


「ありがとうございます、アンジェル様。私は護衛ですからさん付けは不要です」


「わかりました」


「ラウル、応接室にお茶を用意するわね」


 お母様が気軽に声をかけていた。パトリック叔父様の護衛だから顔見知りの護衛らしい。


「せっかくのお声がけありがたいのですが、パトリック様より手紙を預かっており、お返事を頂いて戻るように言付かっています」


「そう・・・わかったわ。急いで返事を書くから、その間にお茶を飲んで待っていて」


「・・・ステファニー様、口頭でも良かったのですが・・・ステファニー様にかないません。今回はお待ちします。ゆっくり書いてください」


「フフ、そうさせてもらうわね。今日は兄に手紙を書きたい気分なのよ」


 ラウルは困ったように笑っていた。

 お母様がラウルを応接室に案内をするようバスチアンに伝え、絵も木箱に入れて持たせえるように伝えていた。

 どうやらお母様の作戦勝ちみたい。わざと手紙の返事を書くと言って待たせたようだ。

 ラウルを休ませてあげたかったのですね、お母様。

 ・・・さすがです。


 お母様の許可をいただき、大きめの木箱にあの高級木箱入りマロングラッセを入れても運んでもらう事にしたの。

 木箱の中にはお酒入りとお酒なしのマロングラッセが1箱ずつ入っている。


「パトリック叔父さまへ


 マロングラッセといいます。黒い木箱に金の布がお酒入りで、白い木箱に銀の布がお酒なしです。特別な品物のため、外部への持ち出しは禁止です


                            アンジェルより」


 急いで書いた手紙は、高級木箱のリボンのところに挟んでおいたよ。


「ラウル、いつもありがとう。これもお願いね。それと荷物が増えちゃうけど・・・こっちの木箱にはクッキーとスコーンとペーシュのジャムも入っているの。ラウルとラウルの家族の分なの、食べてね」


「礼には及びません。仕事ですからお気になさらず」


 帰りに、荷物も運んでくれるラウルに渡そうとしたけど、受け取ってくれない。


「待たせてしまったわね」


 困っていたらお母様が綺麗な封筒を持って戻って来た。


「では、私はこれで」


 ラウルは封筒を受け取るとすぐ帰ろうとお母様に会釈をした。

 ・・・お菓子は受け取ってもらえなかったよ。


「ラウル、これはブクリェ男爵夫人と子どもたちへ運んでほしいの」


「えっ?あっ、は、はい・・・その、お気遣いありがとうございます」


 恐縮しながらもやっと受け取ったよ。

 ラウルはお母様よりも3つ下の30歳で年も近いと聞いた・・・たぶんお母様には逆らえない特殊な魔法にかかっていると思う。

 ユーゴより少し上かなと思っていたら、11歳も上だった。

 ユーゴが老け・・・落ち着いて見えるのか、ラウルの見た目が若いのか・・・人の年齢はわからないと思ったよ。


 ラウルが木箱を龍に乗せて帰ったあと、お母様はパトリック叔父様がアンの事を心配していたと言って、手紙の1枚目だけを見せてくれた。


「親愛なるステファニーへ


 夏の夜明けは早く、庭の精霊たちのにぎやかな声で目覚めるようになりました。

 いままで想像さえしなかった、素敵な経験をしていますよ。

 ステファニーたちも同じでしょうけどね。


 昨日我が屋敷に到着されたアレクサンドル様は、明朝に屋敷へ向けて出発するとおっしゃっていますので、取り急ぎお知らせ致します。


 明日の午前中は、少し時間が出来ましたので、コピー作業をしたいと思います。

 せっかく、秋のメニュの絵を届けてくださると連絡を頂いていましたが、アレクサンドル様の到着を知らせに行ったラウルに、絵を持たせていただけませんか?

 お手数をおかけしますがよろしくお願いします。


 何かと心配ごとが重なっているようですが、カサンドラも心配しています。

 くれぐれも無理をしないようにしてください。


 アンジェル様は落ち着かれたでしょうか?

 何か手伝えることがあれば、遠慮なく言ってほしいと伝えてください。

 時間に余裕が出来たら、シャルル様とアンジェル様を連れて遊びに来てくれたら嬉しいです。

 新しい工場も増えましたから、二人を案内しますよ。

 美味しいソーセージと搾りたてのミルクもあります。

 気分転換に是非いらしてください。


                          パトリックより」


 パトリック叔父様も精霊樹での出来事を、お父様から聞いて心配してくれたようだ。

 工場が増えたということは、豚や「モウ?」と鳴く牛、それにウッフの数を2つまで数えられる鶏もいたけど、飼育数も増やしたのだろうか?

 また行ってみたいな。

 ・・・精霊樹の事は、もう大丈夫だとは言い切れないけど、今はやれる事を少しずつ進めて行こうと思っているの。

 お父様やお母様に心配をかけないように・・・心も、もっと強くなりたい。                   

 悶々と悩んでいても解決はしないもの・・・目の前の事を一つずつ片付けていけばいい。

 先ずは秋のメニュ作りがひと段落したよ。

 明日はお父様とノル兄様が帰っていらっしゃるから、メテオール祭の初日に食べるお菓子を作り始めよう。


 お父様がいつ戻っていらっしゃってもいいように、昨日のうちにパイ生地の作り方を書いてコンスタンに渡していたの。

 パイ生地は冬のメニュにも使う予定だよ。

 板状に伸ばしておけば冷凍保存もできる。作り置きも出来て便利だと思うの。

 ・・・明日は張り切って厨房に行こう。


「ソフィ、お願いがあるの」


「は、はい・・・何でしょうか?」


 構えるのはいつもの事だけど・・・もう慣れてくれてもいいと思うの。


「明日の午後から厨房に行くから、コンスタンにパイ生地と豚肉をハンバーグのように細かくしておくことと、アマンドをすり鉢か風魔法ですり潰しておいてと伝えてくれる?」


「はい、パイ生地と豚肉のパテにアマンドの粉の用意ですね。伝えてきます」


「・・・うん」


 ソフィが復唱すると、言葉が簡潔ですごく簡単に作れそうな気がする・・・。

 まぁいいか・・・。

 明日作るのはメテオール祭の夕食で食べるものと夜に食べるおやつだよ。

 扉に所にいるユーゴのところに行って、声をかけた。


「ユーゴ、明日はいる?」


「います。私とジュスタンの二人ですが、事と次第によっては3人になります」


 事と次第?・・・重大なことがあればと言うことだよね。


「明日の午前中はシャテニを収穫して、午後は厨房に行くの」


「マクサンスに伝えます。それとシャテニの収穫準備をしないといけませんが、またあの巨大・・・いえ、オオキイシャテニデスカ?」


 なぜ後半が棒読みなったの?それにマクサンスに伝えるということは、収穫と試食は護衛にとって重大な事らしい。


「今回は普通のシャテニにしたいの。お店で出す時に困るでしょ」


「そうですね。収穫は大変でしたが・・・あれはあれで食べごたえもあってよかったですが・・・ただ一般の人が買えそうもない高級感が漂っていました・・・美味しかったので、もっと気軽に食べられたら嬉しいのですが・・・」


 ユーゴが遠い目をして、語っていたよ。


「普通の大きさなら買えるよ・・・たぶんだけど」


「・・・そうだといいのですが」


 今度は寂しそうな顔をしているよ。

 ・・・普通のマロングラッセも試食会をした方がいいだろうか?


「と、とりあえず明日は3人ともいるのね」


「います!」


 きっぱりと返事をしたけど、マクサンスの休みを勝手に変更してもいいのかは、聞かないでおこう。



 今日はお母様とシャル兄様の3人で朝食を取り、その後すぐに、ユーゴとマクサンスとジュスタンの3人と屋敷の護衛3人で東側の畑に向った。

 前回は飛行服を着たけど、今回は着替えなくても大丈夫だとソフィに伝えたの。

 離れたところから魔法を操作して、後は見ているだけだから。

 もし何かあってもキリーとユーゴが守ってくれるからね。


 ネージュとキリーは一緒に畑に行くのだと思っていたのに、お空のお散歩に行ってしまった・・・羨ましい。

 あれ?・・・何かあったら守ってくれるキリーがいなくなってしまったよ

 ・・・ユーゴだけでもいいか・・・いや、護衛はマクサンスとジュスタンもいるから、きっと守ってくれるはず・・・たぶん。


 お空のお散歩・・・いいな。

 行きたい・・・行きたいけど、今日は忙しい・・・メテオール祭の時に食べるおやつを作らないと。

 夜のおやつを堂々と食べられる素敵な日だもの。頑張るよ。

 もちろん星を見ることも忘れてないからね。

 ・・・それに今年のメテオール祭に『リュン・ドゥ・フレーズ』はまだ出ないと思う。


 畑の奥にある数本のシャテニエの木から1本を選んで、普通のシャテニを収穫する。

 そして普通のマロングラッセを作ってもらうの。今度こそマロングラッセは5日で出来るはず。


 シャテニの木から少し離れて、真ん中の木に魔法を少しずつかけていく。

 魔法をかけたことで咲いていた花が枯れてイガになり、そのイガが大きくなっていく・・・イガの色が緑から黄色に変わり、イガが割れはじめる。

 割れたイガが次々と地面に落ちていった。

 ユーゴたちが長い棒で木の枝を揺すると、さらにイガが落ちてきた。

 イガの大きさは前回の3分の一くらいに見えるから、たぶん普通の大きさだと思う。

 ユーゴがイガから火ばさみで取ったシャテニを見せてくれた。

 アンの握りこぶしより少し大きい。元々大きいシャテニだから問題はないはず。

 だって火ばさみを使っているもの・・・普通のシャテニエに決まっている。


「収穫したら厨房に運んでね」


「わかりました」


 後は護衛たちに任せて、昼食をとるためソフィとユーゴの3人で、先に屋敷に戻った。

 食事の後は試食会をするから、たくさん食べないようにしないとね。

 ソフィも食事を少し控えると言っていたけど、ユーゴは普通に食べるらしい。


 食事を終えるころ、マクサンスとジュスタン、屋敷の護衛たちが戻って来た。

 マクサンスとジュスタンには、食事を終えたら厨房に行くように伝えると、嬉しそうに返事をしていた。食事はユーゴ同様普通に食べるようだ。


 厨房に行くと、コンスタンと副料理長のロイクが待っていた。

 コンスタンが「お待ちしておりました」と目をキラキラさせいる。

 ・・・カジミールと同じ目になっていたよ。


 頼んでいた、パイ生地と豚ひき肉、そしてアマンドの粉がテーブルに並んでいる。


「コンスタン、ロイク、今日はトマートのファシルを作るの」


「はい」


「ファ、シル?」


 コンスタンは慣れているから、すぐに返事をしているけど、ロイクは首を傾げている。


「ロイク、考えるな。作り始めても振り返るな。常識は捨てろ」


 ロイクがコンスタンの言葉にコクコクと首を縦に振っている。

 コンスタンがロイクに何やら不穏な言葉を投げかけているよ・・・常識まで捨てる必要があるのだろうか?


「コンスタン、材料はトマート、豚のひき肉、オニヨン、チーズ、バター、生クリーム、塩、コショウだよ」


「用意は出来ています」


「作り方を先に説明するね。最初にトマートのヘタのところを大きめに切り落として、中身をくり抜いたらトマートを逆さにして水気をきるの。次に刻んだオニヨンと豚ひき肉に塩コショウをして、くり抜いたトマートに小さく切ったチーズと一緒に詰めて焼く。先ほど切り落としたヘタ付きのトマートも焼いておく」


「ここまでは大丈夫?」


「はい、問題ありません」


「は、はい」


「次に、くり抜いたトマートの中身とヴァンブランを鍋に入れて沸騰したら、バターと生クリーム、塩コショウを入れて焼きあがったトマートにかけるの。別で焼いていたヘタ付きトマートで蓋をして、刻んだペシルをかけて完成だよ」


「わかりました。やってみます」


 コンスタンは張り切って返事をした。ロイクも頷いているけど、書き留めた紙をチラチラ見てちょっと不安そう・・・大きな身体なのに気が弱いのかな?


「もう一つはパイ生地を使ったお菓子でメテオール祭の日に食べるの。二人が作業しやすいように、先に説明した方がいいよね?」


「そうしていただけると助かります」


「お菓子はガレット・デ・ロアと言うの。材料はパイ生地とウッフ、アマンド。アマンドのクリームを作るのに必要な材料はバター、ノールシュクレ、ウッフ、アマンドの粉。昨日のうちにパイ生地を作ってもらったのは一晩寝かせるためだよ」


「パイ生地は昨日作ったものを用意しています」


「先ずはアマンドのクリームの作り方を説明するね。大きめの入れ物にバターを白っぽくなるまで練り、ノールシュクレを加えて混ぜる。溶いたウッフを数回に分けて入れ、最後にアマンドの粉を入れて更に練る。アマンドのクリームを作るのはそんなに面倒ではないけど、粉にするのが大変だったでしょ?」


「私が担当して、粉砕しました」


 ロイクが胸を張って答えていたよ・・・粉砕って・・・。


「ロイクは風魔法が強いので、粉砕は得意なのです」


 なぜかコンスタンまで胸を張って答えていた。


「それは良かった。これからもたくさん作ってもらうから助かるよ」


「・・・たくさん」


 ロイクの呟きは聞こえなかったことにしょう。


「パイ生地は2枚いるの。四角く伸ばしたら2枚重ねて、22センチのシフォンケーキの型を生地の上に乗せて、その形通りに切ってね。切った丸い生地の1枚に縁を少し残してアマンドクリームを重心部分が少し高くなるように乗せて、クリームの上にアマンドを等間隔に一粒ずつ4つ乗せるの。残した縁の部分にウッフの黄身を塗ったら、残りのパイ生地を被せて縁を均等に押さえてから、冷蔵室で少し休める。その間に窯を温めておいてね。冷蔵室から取り出して、全体にウッフの黄身を塗ってから表面に模様を入れるの。葉の模様や花の模様もあるけど、今回は太陽の模様だよ。模様を入れたら、中心と周りに数か所に穴をあけて窯で焼くの。焼き色が付いたら細かくすりつぶしたノールシュクレを振りかけてもう一度焼き色がしっかりとつくまで焼いて完成だよ。葉の模様や花の模様、太陽の模様は紙に書いてあるから、後で見てね」


「22センチだと大きく切り分けたとしても6等分になりますが、アマンドはなぜ4粒しか入れないのでしょうか?」


「さすがコンスタン、いい質問だよ。本当は1粒だけ入れるらしいの。アマンドが入っていたガレット・デ・ロアを食べた人は、1年間幸運が続くと言うどこかの国のお話しだよ」


「どこかの国ですか?」


「うん、でも4つにしたら幸運な人が4倍増えるでしょう、幸せがいっぱいでいいかなって思ったの」


「それでしたら、6粒入れたらみんな幸運でいいような気がするのですが?」


「駄目・・・ロイク。世の中はそんなに甘くないの」


「ブ、ブフォッ」


 今後ろで吹き出したのはユーゴだと思う・・・何かおかしなことを言っただろうか?

 ユーゴにはアマンドの入らないガレットが当たればいい・・・そう思ったアンは、悪くないと思う。


「それでは早速始めます」


「う、うん。それと普通の大きさのシャテニが届いているでしょ?お酒入りとお酒なしのマロングラッセを作ってくれる?」


「わかりました」


「出来次第お知らせします」


 普通のマロングラッセも木箱に入れて、お土産店で販売しようと思っているの。

 3個入り、5個入り、10個入りがあればいいかな?

 金額は気軽ではないけど、気持ちだけ気軽なプレゼントには2個入りにして、可愛い袋に入れてもいいかも。

 木箱はすぐに発注しておこう・・・早めに注文しておけばポランが安心するよね。


 待っている間に、紅茶の用意もしてもらう。

 夏だけど今日は暖かい紅茶で、アマンド尽くしで行こうと思う。

 コンスタントとロイクは忙しそうだから、ユーゴにアマンドを砕いてもらい、ソフィにはカップ4杯分のお湯を沸かしてもらう。

 沸騰したお湯に茶葉を入れて、しばらく蒸らして濃い目の紅茶にしてもらう。そこに砕いたアマンドと温めたミルクを入れる。甘さは好みでノールシュクレやメイプルを入れればいいよね。

 アマンドミルクティーだよ。

 少し冷めても美味しいから、ガレット・デ・ロアが出来上がるころには飲みやすくなっているかな?


 先にトマートのファシルが、ワゴンで運ばれてきた。

 次にガレット・デ・ロアが丸ごと2つ運ばれてきたよ。

 コンスタンが目の前で6等分にしてくれた。

 ちょっとワクワクする。それぞれ好きなところを選んでお皿に取り分けてもらった。


「では今日も8人で試食会を始めるよ。オオォー」


「オオォー」


 ロイクが張り切って声を出して、太い腕と大きな拳を突き上げた。

 周りを見て誰も拳を突き上げていないことに気が付き、そのまま固まっている。


「試食会では拳を突き上げても大丈夫だよ・・・他の人はだんだん上げなくなったけど」


「は、はい・・・」


 これからはお料理以外もいろいろ学習したらいいよ。


「では、いただきます」


「「いただきます」」

「いた、だき、ます?」


 今日は二コラがいないけど、ソフィとフォセットが「いただきます」を言ってくれたよ・・・ちょっと嬉しい。

 ロイクも戸惑いながらも言ってくれたからよしとする。


 先にトマートのファシルを食べた。お肉とチーズは合うよね。トマートがさっぱりして美味しい。これはお母様も喜んでくれると思う。

 お店に出せるかな?


 マクサンスとジュスタンが「美味しいです。これは何個でも食べられそうですね」と言って嬉しそうにお口の中に運んでいく。なんかファシルが吸われていくように減っていく。トマートはたくさんあるからお腹いっぱい食べてもいいけどね。


 次にガレット・デ・ロアを食べる・・・アマンドが入っているかな?ちょっとドキドキする。


 カリッ、カリッ。


 右隣と向かいで同時に音がした。ソフィとユーゴだ。

 ソフィは嬉しそうに微笑みながら少しだけ下を向いた。

 ユーゴ、胸を張らなくてもいいよ。音で分かったから。

 ムー・・・ちょっと悔しいと思うのはなぜだろう。


 カリッ、カリッカリッ。


 周りで次々とアマンドを噛んでいる音がするよ・・・もしかしてもう5人も当たりなの?

 残りは3つだ・・・恐る恐る口に運ぶ。


 カリッ。


「あっ、当たったよ」


 カリッ、カリッ。


「えっ?全員あたったの?」


 みんなが首を縦に振っている。凄い確率だよね。

 ・・・全員に当たるのは、みんなの運がいいということだろうか?

 アマンドの数は要検討かな?


「生地がサクッとして、中のアマンドクリームも美味しいです。それにアマンドのあたり付きと言うのが楽しいですね」


「うん、みんなにアマンドが入っていてよかったかも。頑張っているみんなが幸運でよかった」


「そうですね。みんなに当たって良かったです」


 ソフィが嬉しそうに微笑んで、フォセットが頷いていた。


 せっかくのメテオール祭だから、みんなにアマンドが当たるようにしてもいいかも・・・楽しく過ごしたいよね。

 ロイクには「世の中はそんなに甘くないの」と言ったけど、取り消すよ・・・。

 メテオール祭の夜に、屋敷の3階のテラスで流星群を眺めながら家族で楽しく食べるおやつだものね。




 お父様が戻られたと聞いてすぐにエントランスに向った。


「お父様、ノル兄様、お帰りなさい」


「ああ、今戻った。変わりはないか?」


「はい、変わりなく過ごしていました。お父様はお顔が小さくなられましたね」


 頬が少しこけてやつれているとは言えなかったよ・・・お母様が一緒ではなかったから大変だったのだと一目でわかってしまった。


「アン、ただいま。王都では忙しかったのだから、父上の頬がこけても仕方ないのだよ」


 こけたとは口に出して言っていないのに・・・そう言うノル兄様も頬が少しこけていて、やせたような気がする。


「大変だったのですね。ノル兄様もお顔が小さくなっているよ?」


「・・・そうだね」


 お父様とノル兄様が遠い目をしていた。


「アン、今日は時間がないから、明日の夕食後に話をしよう」


「わかりました。明後日はメテオール祭ですから、夕食と夜のおやつを楽しみにして下さいね」


「美味しいものを作ってくれると言っていたな。楽しみにしている」


「私も久しぶりにアンと一緒に食べるのを楽しみにしているよ」


「アンもお父様とノル兄様が一緒でうれしいです」



  一晩ゆっくりと休んだお父様は、頬が少し戻ったような気がした。

  良かった・・・疲れが少しだけ取れたのかもしれない。


 お父様は昨日おっしゃった通り、夕食後に時間を取って下さった。

 サロンでお話をすることになり、お母様やノル兄様と移動することになったけど、シャル兄様は「することがあるので、部屋に戻ります」と言った。

 珍しく忙しいらしい・・・。


 早速、ベル兄様からの贈り物の話になり、ベル兄様から王都に届いた魚介類はパトリック叔父様の屋敷に運んだと言っていた。

 すぐに魚介類の新しい料理をカジミールに作らせたとおっしゃった。

 驚きながらも、とても美味しいと喜んでくれたらしい。

 でも、シャルダン・デ・ローズで扱うのは、暫く見送った方がいいと、お父様と同じ意見だった。

 ・・・食事の慣習が変わるからだよね。


 魚介類の食事が終わりサロンで話をしている時に、パトリック叔父様の護衛が戻って来て、手紙と木箱をパトリック叔父様が受け取ったと言っていた。

 そのお話の後、お父様はすごく遠い目をしていた。

 何があったのだろう?


 王都での、陛下と大領地の当主たちとの話し合いは問題なく進み、新しい料理は王族と大領地の当主たちの屋敷でのみ食べると決め、翌々日には王都の屋敷に城の料理人や各領地の料理人が集まり、カジミールが3日間かけて魚介類とパスタの料理を指導したとおっしゃっていた。

 料理人たちはホワイトソースやパン粉、パスタなど驚くことばかりで、かなり戸惑いがあったらしい。

 それでも3日間の指導はとても興味深かったから、定期的に勉強会を開催してほしいという要望もあったと言っていた。

 あとは料理人たちで各領地の特産品を使って、違う味も作ってもいいと伝えたと聞いている。

 いろいろ便宜を図ってもらうためだとお父様は言っていたけど、これは恩を売るどころではなく、こちらの要望が多すぎたと言う事だろうか?

 どちらにしても、いつか各領地に行って特産品の料理を食べてみたいと思ってしまった。


 陛下が便宜を図ってくれたのは、精霊樹用のチョコレートの購入費は国予算としくれた事と、アンが王都の学院に行ったら大神殿にある精霊巫女様の日記を読めるように、許可を出してくださるとおっしゃった事だった。

 チョコレートは高いから、国が費用を負担してくれるのは嬉しいよね。

 そして何よりうれしいのは、日記が読めることだよ。

 新たな精霊王を迎える方法がわかるかもしれない。

 ベルリュンヌ様のことも書かれているかもしれない。

 テオドール王子も、ベルリュンヌ様に会えたら光属性を持つ者は何をすればよいか、聞いて下さると言う。

 各領地の精霊樹は神殿関係者や光属性を持つ令嬢や令息が行くことになり、アンも北の精霊樹に行くことになった。

 でも、来春から王都の学院に行く予定だけど、その間はどうするのだろう?

 それにお父様が前回精霊樹に行った時の事を、とても気にされていた。


「アンだけが留守番をして、お父様に何かあったとしたら、アンは一生後悔したと思います。一緒に行って良かったです。そしてこれからも一緒に行くつもりです。でも王都に行っている間、精霊樹の事はどうすればいいでしょうか?」


 お父様に訪ねてみた後に・・・キリーに運んでもらえばいいかもと思ってしまった。

 以前アンの魔力を運んでいたよね?




 ◇   ◇   ◇




 今年のメテオール祭も雨が降ることなく、美しい流星群を見ることができた。

 今夜も月は出ていない、リュン・デ・ローズではないことにホッとする。

 不安が先延ばしされているだけなのに、今はまだアンジェルが無理をしないで済むと安堵していた。

 アンジェルにはまだやるべきことがあるというのに「穏やかな日々が続くように」と流れる星々に願わずにはいられなかった。


「もう夜も遅いから、アンジェルはそろそろ休んだ方がいいわ」


 空の星に願っていたら、ステファニーがアンジェルに声をかけていた。


「はい、部屋に戻ります」


「ガレット・デ・ロアは美味かったぞ」


「お父様のお口に合って良かったです。おやすみなさい」


「おやすみ」


「おやすみなさい、良い夢を」


「アン、おやすみ」


「お母様、ノル兄様もおやすみなさい」


「私も部屋に戻る、途中まで一緒に行くぞ」


 アンジェルは嬉しそうに頷いて、シャルルと一緒に部屋へと戻って行った。


 今日食べたトマートのファシルとガレット・デ・ロアも美味かった。

 選んだガレット・デ・ロアの一切れに、アマンドの粒が入っていれば幸運なのだと言っていたが、全員に入れたらしい。

「みんな、幸運なるの」そう言ってアンジェルが笑った。


 その笑顔を見てもまだ心が痛かった。

 ・・・傷つけてしまったと思っていたが、精霊樹に行った事に後悔はないと言い、これからも行くと言い切っていた。

 アンジェルはいつの間にか強くなっていた・・・安堵ともに嬉しさと寂しさが入り混じる。

 今年のメテオール祭も穏やかに過ごせてよかった。

 来年はベルトランも揃って再び穏やかなメテオール祭を迎えたいものだ。


 トマートのファシルとガレット・デ・ロアは店で出せそうだが、これから話し合をしなければならないことが他にもある。

 先ずは高級感に溢れた木箱入りの巨大なマロングラッセだ。

 パトリック義兄上のところで見たときは、義兄上とともに頭を抱えた・・・どうやったらあんなに大きくなるのだ?

 酒入りは美味かった、確かに美味かったが・・・あの大きさはないだろう・・・。

 私が留守にしている間くらいは、静かに過ごしてほしいと願うのは難しいことなのだろうか?

 次回の更新は3月27日「86、ジルベールさんのお土産」の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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