閑話 ご主人様は真っ白2
人によっては好ましくない表現があるかもしれません。
この場面は飛ばしても問題ありません。
「ふぅ……やっぱり付けっ放しは辛いかな」
寮の部屋で一人になる時、それを外す事が出来る。
今だけはそれを外す事が出来るという訳だ。
僕はそれをいつも付けていた。
女の子になれるそれを。
この特殊な魔道具は器用に男性のそれを隠し、見た目も触っても分からなくする物だ。
何の為に作られたのか分からないが、実際それを使用している僕が言う事ではないのだろう。
僕は望んで付けている訳ではない。
ある事件で少しやり過ぎてしまった罰で付ける事になった。
暴君シャルさんの命令で。
そしてなぜか女の子を演じる事まで、いつの間に強制されていた。
「今までの僕が思い出せない。
……結構可愛いよね?」
鏡を見ながらそんな事を考える。
女の子を演じる上で身だしなみの確認をしていたらいつの間にかそれがその……当たり前になっていた。
鑑の前でちょっと可愛い仕草とかも練習する時がある。
……僕は変わってしまった。
それに気付いたのは最近だ。
僕は今まで女の子の事が好きだった。
演じる事では無く、その存在をだ。
男だから当たり前のはずだった。
気になっていた女の子は僕を癒してくれたマルメラさんだ。
彼女のお陰で僕は男のままでいられた。
でも最近それに疑問を持ってしまった。
もし、もしもだが癒されずに男と言う物を失っていたらどうなったのだろうと?
……僕は本当の女の子に慣れたのではないかと。
薄々は気付いていた。
初めは甘い考えの実力も無く、行動も起こせないその人を下に見ていた。
だがそれは間違いであると、一緒に行動するようになって分かった。
僕はいつの間にか憧れていた。
その純粋なそして真っ直ぐで一点の曇りも無く真っ白なその存在に。
憧れは尊敬になりそしていつの間にか……恋になっていた。
その存在は僕と同じ男の子だというのに。
……僕は狂ってしまったのだろうか?
この思いは日々募っていった。
そして僕の窮地を彼は体を張って助けてくれた。
一度は彼に酷い仕打ちをした事もあったのにだ。
もう想いは止められなかった。
◇◇◇
「トート、居るかい?
少し話をしたいんだが入っても良いかな?」
僕は飛び上がりそうになった。
その突然の訪問に、そして今も想っていた彼が来た事に。
「ど、どうぞ!」
「ああ、お邪魔するね」
彼が僕の部屋に来るのは珍しい。
それに来たとしても何時もショコラさんかマルメラさんが一緒だった。
「キルシュさん、今日は一体どのようなご用件で?」
彼の名前はキルシュ・アインツ。
周りで知っている者は少ないが、彼はこの国の王子だ。
王位継承権第一位のとても重要な存在。
彼と釣り合う人物はそうはいない。
でも僕は従妹だ。
位の上では釣り合わない訳では無い。
そんな馬鹿な事を考えてしまう。
その前に性別の問題があるだろうに。
そして僕は彼の名前を読んだだけで、舞い上がりそうになってしまう。
この気持ちは何と言えば良いのだろうか?
「その……トートが最近悩んでいるように見えてね。
……その姿が辛いのなら僕が相談に乗ろう。
何なら僕がシャルさんに交渉しても良い」
僕は確かに悩んでいた。
そしてその理由もこの姿についてだが、その内容は彼が思っている事とは違っていた。
彼は僕の肩をそっと支え、ベッドに座らせる。
寮の部屋には椅子が一つしか無かった。
落ち着いて話す為、一緒に座るとしたらベッドしかなかった。
だがどうしても違う事を意識してしまう。
僕は何も言えずに、ただされるがままだった。
それが彼には言葉に出せない程、辛く思い悩んでいると思ったのだろう。
「……そんなに辛かったのか。
そしてシャルさんが怖いんだね?
君が言ったとは僕はシャルさんには言わないよ。
言葉にしなくても良い……もし少しでも今の状態を変えたいなら、僕の手を握ってくれるかい?」
彼は僕の手をそっと握ってくれた。
後は握り返せばきっと彼はこの状態から助けてくれるのだろう。
でもそれは……僕の望みとは少し違っていた。
僕は彼の手を両手で握り、自分の胸へと引き込む。
そして勇気を振り絞って答えた。
「ち、違うんです!
僕は今の姿が気に入っています。
えと、その……僕はキルシュさんと……」
僕は何を言っているのだろうか?
頭が茹で上がってしまい、意識が朦朧としてきた。
そしてこの状況だ。
ベッドの上に二人きり、手も繋いでいる。
夢にまで見た状態に僕は少し興奮してしまっているようだ。
……いったい何を口走ってしまったのか。
「そ、そうか。その済まない。
僕は何か勘違いをしていたようだね……。
それでその……見えそうなんだが……」
彼は上を向いて視線をそらす。
僕は興奮していた。
その……体が反応していたと言えば良いのか……大きくなっていたようだ。
そして今はそれを隠すマジックアイテムを付けていない。
大きくなったそれのせいでスカートが捲れ上がり、白い太ももがあらわになっていた。
そして僕が必要かどうか迷う物が、スカート越しに存在を主張していた。
「えっ? きゃっ!」
慌てて彼の手を放しスカートを押さえるがもう遅い。
絶対に気付かれた。
今度は恥ずかしさで顔が赤くなる。
僕はもうどうして良いのか分からなくて。
……泣き出してしまっていた。
「ぁ……ぃゃ……」
もう最悪だった。
少し前に戻りたい、もうこれで全てが終わってしまう。
僕にはそうとしか思えなかった。
……彼がそっと肩を抱いてくれるまでは。
先程と同じそれは優しい手つきだった。
だがそれは少しだけ震えていたようにも思えた。
「そのままじっとして聞いてくれるかい?
泣く事なんてないんだよ、それにそんなに恥ずかしがる事も無い。
……僕も似たような物さ」
「ぇ……?」
「その恥ずかしながらトートが女の子にしか見えなくてね。
僕もトートと同じような感じになっている。
……でもやっぱり恥ずかしいね。
だからこっちを見ないで欲しい。
僕も見ないから……ね?」
こんな恥ずかしい事を自分から言うなんて……。
それに僕が女の子にしか見えないって。
それって僕に反応してくれたって……こと?
でもやっぱり僕は恥ずかしくて。
でもそれはお互い様って事が分かって。
またさっきまでの様に嬉しいなって思えた。
それからどれくらいの間そうしていたんだろう?
どちらからという訳でも無く、お互いが顔を見合わせた。
その顔はとっても素敵で僕はもう戻れないって事が分かった。
「……悩んでいた事は解決しました」
「……それは良かったよ。
僕は余計なお世話だったようだけどね」
「そんな事ありません!」
僕は彼の胸に飛び込んでいた。
そして上目づかいで見上げる。
少しあざとかったかな?
僕はもう迷わない、行けるとこまで行く。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか彼の行動は変わらない。
そっと僕を両手で包み込み、何も言わずに頭を撫でてくれた。
僕はもうそれだけで狂ってしまうくらい嬉しかった。
彼はずっと僕を撫でてくれた。
僕は安心してしまい、いつの間にか眠ってしまった。
でも彼はずっと僕を撫でてくれていた。
僕が目覚めるまでずっと。
◇◇◇
「ふぁぁ……、んー……、きゃっ!
……え、あ、すいません!
眠っちゃったみたいで、本当にすいません」
「ははは、気にしなくて良いんだよ」
僕は彼の膝の上で眠っていたようだ。
この状況で眠ってしまった事は、一生の不覚だったかもしれない。
「え、あの次は僕の膝の上にその、どうぞ!」
「トート、落ち着いて。
もう遅い時間だ、僕はこれで失礼するよ。
今日は話せて良かったよ」
「は、はい! また何時でも来てください!
いや、あの……今度は僕から伺っても良いでしょうか?」
「ああ、何時でも来ると良いよ」
彼が僕の部屋を出る。
見送りに部屋の外へ出るとそこには二人の女の子が寝ていた。
僕と彼の時間を覗き見でもしていたのだろうか?
「ショコラとマルメラか。
こんな所で眠る事はないだろうに……」
彼が二人を起こそうとするが起きない。
……あれは寝たふりだ、なんてあざとい!
「二人は……持てないな」
彼がそう呟いた事が聞こえたが、僕は違う事を思ってしまう。
僕の入る隙間はもう無いのだろうか……。
そんな事を考えてしまう。
「……仕方ないな」
彼は風の魔法で二人を包み込み、浮かび上がらせる。
そんな単純な事が今は嬉しかった。
彼ならきっと僕も包み込んでくれると。
「トート、ではまたね」
彼は二人を運びながら行ってしまった。
名残惜しかった。
でも僕の部屋にはまだ彼の存在が、匂いが残っている気がしてた。
たったそれだけの事でも僕は満たされた。
僕はもう戻れない。
僕はもう戻らない。
僕は……進むだけだ。




