第七十三話 休暇
今日は二話分更新予定です。
俺はずっと空を飛んでいた。
何時間経っただろう?
何日経っただろう?
何か月経っただろう?
何年経っただろうか?
考えて考えて考えて、答えは……出なかった。
行く所など……一つしか無かった。
「おかえり」
そこは何事も無かったようにいつも通りだった。
「お腹すいてない? お腹はすかないんだっけ?」
そして何時もよりちょっとだけ優しかった。
「どうしたの? 大丈夫?」
言葉が出なかった。
何を話して良いのか、分からなくて。
やっとの事で声を絞り出した。
「……寂しかった」
それはとても情けなくて。
「そんなの吹き飛ばしてあげる」
掛けられた声は頼もしくて。
「まずは説教よ!!!」
そして最後は怖かった。
◇◇◇
俺は家出して帰って来た子供のように、説教を受けていた。
床に正座しながら。
ドラゴンが正座など出来ないが気分は正座だった。
「まず何で陛下の前から逃げ出すの!?
分かりませんでも何でも良いから答えなさいよね!
そして何時まで経っても帰ってこない!
一体あれからどれだけ経ったと思ってるの!
しかも帰って来て第一声が寂しかった!?
ならさっさと帰って来なさいよ!
それにまずは心配させた謝罪でしょうが!
ごめんなさい、すいませんでした、もうしわけありません!
人の言葉が分かるのなら、これくらい出来るでしょう!」
「ごめん、なさい……」
「声が小さい!」
「ごめんなさい!!!」
俺が学園へと帰って来たのはあれから六か月後。
……半年である。
進級試験も終わり、シャルは既に五年生になっていた。
「はぁ、もう良いわ。
まずはお風呂ね、次は食事、その後は心配掛けた人に謝りに行くわよ」
帰って来たら今までの事が嘘みたいに安心してしまった。
俺は何を悩んでいたのだろうか。
◇◇◇
「心配掛けてすいませんでした!」
俺はこれを何十回も言う事になった。
「ファースト君、良く戻りましたね」
「おかえりなんだよー」
「おかえり……元気なの……」
「元気だったかい?」
「キュウ!」
「お帰りなさい」
「ペットには帰巣本能があるらしいからな」
「それにしては遅かったですわね」
「戻ったのですね」
「お帰りー」
「遅い帰宅だな」
「お、やっと戻ったか」
「結構馬鹿なのね」
「おかえり」
「心配していましたのよ」
「俺の計算より遅かったな」
「戻ったようだな」
「そうだな」
「何してたんだ?」
「どこ行ってたんです?」
「何にしても戻って来て良かったです」
俺は本当に何をしていたんだろう。
◇◇◇
「あー、疲れた!
もうこんな事しないでよね」
「本当にごめんなさい!」
「……感覚共有で居場所は分かっていたのよ。
ここ最近はいっつも近くの上空を飛んでて笑っちゃったわ」
「う……」
俺もシンパシーでシャルの事は何となく分かっていた。
でもその……分かっていても戻り辛くてさ。
「まぁ、私にも多少は責任があるからもう良いけどね」
そう俺が逃げ出した理由はシャルの言葉があったからだ。
「シャルは……俺が必要ないのか?」
「前にも言ったでしょう?
自分の道は自分で決める。
そこにファーストの力は必要ないわ」
それが俺にはショックだった。
「言葉の一部分だけを聞いて判断しない。
私には必要ないけど、ファーストには必要でしょう?
ドラゴンなんだから。
自分自身の力を否定してどうするのよ」
でも俺にはシャルが全てで、他に何も無かった。
「後はそうね、居ない間にあった事を伝えないとね?」
俺が逃げ出した後、陛下がとても心配していた事。
これはアインツ王国を襲うのでは? という事もあったのだろうが。
国中が警戒する中、レーレン先生が必死に弁明してくれた事。
きっと俺の事を本当の生徒だと思ってくれているのだろう事。
クラスメイト達が何かと俺の事を聞いて来た事。
表面上は何も無かった様にしていたがやっぱり心配していてくれた事。
長期休業中にブリッツと会った時、泣くほど心配していた事。
エルフの国も竜殺し(ドラゴンスレイヤー)はやり過ぎだったかと謝罪した事。
事情を知らないシャルの妹、クラハから手紙で会いたいときていた事。
学園職員達がせっかく俺専用の進級試験を用意したのにと残念がっていた事。
つまりこれでもかってほど、心配を掛けた事を延々と説明された。
シャルに許されても、他の人はどうか分からないって事を覚えておくように言われた。
そしてシャルは……。
「帰ってこなくても良かったと思っていたわ……。
喧嘩別れみたいでちょっとだけ残念だったけど!」
「ごめんなさい!」
やっぱり俺は謝る事しか出来なかった。
「で、ファーストが居ない間にいろいろ準備しておいたから」
「はい?」
「取り敢えず、冒険者ギルドから行ってみましょうか!」
そして俺が迷っても良いように、いや迷わないようにか。
シャルの手によって全てが準備されていた。




