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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第三章 現身
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第七十一話 判断


 今年もまたあの遠征の時期がやって来た。

 碌な思い出が無い遠征だったが、今年は例年と違い多少気が楽だった。

 対戦相手が下級生の三年生だったからだ。

 去年の時点で上級生を圧倒していた。

 まさか下級生に負ける事や苦戦する事すら考えられなかった。

 場所も去年と同じだ。

 道中も見知った物で楽勝だろう。


「毎年何かしら起こる遠征です。

 油断しないようお願いしますね」


 そんな生徒達の気分を察してかレーレン先生は釘を刺して来た。


「今年はエルフの国からは数名だけの来賓だと聞いています。

 他にも様々な方の来賓があると聞いています。

 ……あまり良い印象では無いと思いますが、失礼のないように」


 先生は明らかに此方を見ながら言っていた。

 俺は何もしない……多分。

 贈られた刀、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)に付いて文句を言いたかったが我慢しよう。

 それにまた国王陛下とやらが来るんじゃないだろうな?

 また面倒な事をやらされそうなので、勘弁して欲しいが。




◇◇◇




 遠征地まではまさにピクニックと言った感じだった。

 これが授業である事も忘れてしまうほど楽勝だった。

 だがそれも遠征地に着くと一変した。


 大規模な軍が今回の遠征地に待機していた。

 これから戦争でもするのでは無いかと思える位だ。

 そして……五本の剣が描かれた旗がそこには見えた。

 ライフィー共和国の旗だった。

 その軍が少しだけだが今回の遠征に参加しているようだった。

 その他の大規模な軍は万が一に備えてという訳か。


「私も今知らされたのですが、今回の遠征にはライフィー共和国も参加します。

 停戦協定が結ばれ、これから少しずつ歩み寄っていくのが理想なのですが……。

 その始まりに深く関わったこの遠征を利用したのでしょう」


 ライフィー共和国がこの遠征に参加し、両国が友好的である事を知らしめる。

 確かに宣伝には打って付けかもしれない。


「私達はライフィー共和国と直接戦った訳ではありません。

 しかしそんな簡単に割り切れる事では無いのです。

 もし今回の遠征に少しでも不満があるのなら参加を辞退しても一向に構いません。

 辞退しても何の不利益も無いと約束します」


 確かにこの仕打ちは酷い物だと思う。

 しかし辞退を申し出る者は誰もいなかった。


「……今で無くても構いません。

 訓練途中でも構いません。

 何かあればいつでも私に言いなさい。

 今度は必ず君達を守って見せます!」


 一番割り切れてないのは……先生なのかもしれない。




◇◇◇




「今年は正規軍が多く参加されているようですね。

 私もエルフの軍を率いて来た方が良かったでしょうか?」

「いやいや、ローゼ殿。

 ただの警備の為の軍じゃよ。

 遠征自体には参加せんよ」


 来賓にはやはりお茶目な陛下が来ていたようだ。

 そしてシャルと戦ったあのエルフのローゼも来ているようだ。

 だがローゼだけで今回はエルフの軍は来ていないようだが。


「我々はまだまだ信用されていないという事ですかな?」


 そして見慣れぬ男が一人。

 多分ライフィー共和国の者だろう。


「ミュルベ殿、それは誤解じゃ。

 まだ協定を結んで日が浅い。

 民達が不安にならないよう安心させる為の物じゃ」

「陛下の仰る通りです。

 未だ民達は戦争を恐れています。

 我々軍人がただ立っているだけでも民達は安心するのですよ」


 陛下がミュルベの言った事を否定する。

 そして俺の良く見知った人物、エレクトがそれを補足した。


 ミュルベと呼ばれた者も本気で言った訳では無いのだろう。

 いや色々と探りを入れているだけか。

 まったく外交と言う物は好きになれないな。

 そこではお互いがお互いを探り合っていた。


『ファースト、どう?』

『あー、また陛下とエルフのローゼが来てるみたいだわ。

 あとはライフィー共和国の大使か何かだろうと思うけど、ミュルベって奴がいる。

 そしてエレクトも来てるね。

 ……結構危うい均衡なのかもしれないな』

『また面倒な事になりそうね』

『お腹痛いって言って休む?

 それともこんなのは嫌だーって言ってみる?

 先生は反対しないと思うよ』


 ずる休みだが今回はそれが最善にも思えた。

 ……半分くらいは本当だしな。

 こんな遠征、授業とはいえ納得できない。


『そんな事出来ないわ。

 もしライフィー共和国の軍と模擬戦闘になった時に参加出来ないじゃない!』


 それが無いとは言い切れなかった。

 去年、エルフの軍と模擬戦闘がいきなり組まれた事があったからだ。


『戦いたいの?』

『……訓練に事故は付き物だわ』


 ヤル気だ。

 そうだよな、誰だって簡単には割り切れないよな。

 今回だけはこんな事を考えているのはシャルだけでは無いと言える。

 ……今回だけはね。




◇◇◇




「貴方からセカンド、サード、フォース、フィフスね!」


 シャルが順番に名前を付けていく。

 もう見慣れた光景だった。


「はい、分かりました!

 今回は宜しくお願いします!」


 だが兵士達はとても素直だった。

 ……去年の噂話を聞いているようだった。

 その内容は今年の四年生はとても強いと言った感じだった。

 俺の事は伝わっていないようだ。

 結構みんな律儀に緘口令とか守るのね。

 ……当たり前の事だったか?


 そして作戦会議だ。

 シャル達を指揮する五年生なのだが……。


「あ、あの今回は指揮を取らせて貰う事になりま……」


 誰も話を聞いていない。

 今の五年生はシャル達には嫌われているからな。

 しかも多分すべての能力において四年生の方が高い。

 中隊の編成だけ報告して、指揮官と副官の名前も聞かずに解散となった。


 中隊の編成は去年と同じだ。

 タッセ達、ケーゼ達、トイフェル達、キルシュ達に分かれた。

 キルシュは中隊長をシャルに譲りたかったようだがな。


「指揮は私が取ってあげるわよ?

 責任はキルシュが取るって事で」

「それが嫌だったんだよ……」


 可哀想な奴である。

 そして俺とトルテ、使い魔の参加は禁止された。

 これは仕方のない事だろう。


 だがなぜか俺達はクラス対抗の模擬戦闘には参加せず、補助要員の様な事ばかりしていた。

 一応四年生達に配慮したという事だろうか?


 クラス対抗戦は順当にAクラスが全勝し、その他の順位もクラス順通りだった。


「何かと噂の多い四年生は模擬戦闘に参加しないのですかな。

 ……なんでしたら我が国の軍がお相手いたしましょうか?

 ただの訓練です。

 何の問題ありませんでしょう?」


 ミュルベが挑発的な言葉を陛下に投げかける。

 敗戦国という意識はあるのだろうか?

 あるいはライフィー共和国の軍の強さを見せつける必要があるのか。

 今回の遠征参加はこれが目的だったのだろうか?


 それに問題あるに決まってる。

 勝っても負けてもアインツ王国には良い事など無い。

 此方が勝ったとしてもライフィー共和国の現状は何も変わらない。

 だが此方が負けた場合はライフィー共和国にはまだ戦う力があると思わせる事が出来るかもしれない。


 そしてミュルベは勝つつもりでいるはずだ。

 今後の外交関係や交渉事で少しでも優位性を取り戻したいのだろう。


「いやまだ模擬戦闘は終わっておらんのじゃ。

 これからが本番での。

 ……そろそろ担当教師の協議が終わるはずじゃ」


 そしてその場にはレーレン先生が説明に現れた。


「四年生の担任のレーレンです。

 協議の結果を報告します。

 四年生は遠距離魔術および物理による遠距離攻撃を禁止します。

 その状態で三年生との模擬戦闘を行います」

「妥当な所じゃの」


 ハンデ戦かよ!

 これまでは三年生の実力を測る為の物だったのか。


「三年生は本物の矢の使用を許可します。

 また指揮をする五年生には魔力砲(マジックキャノン)の使用を許可しました。

 ただし実弾を使用しない純粋な魔力だけでの使用になります」

「なにっ!?」


 驚きの声を上げたのはミュルベだった。

 ……魔力砲を耐えられる事を陛下もエレクトも知っているようだった。

 本当にどこから知ったんだよ。

 ローゼはそれとは別に四年生の魔力からその事を察したのかもしれない。


「ま、まぁ魔力砲の一門くらいならそれ程の影響ではないか」

「五年生は指揮官と副官の二名います。

 それに……」

「二門だったとしても、それほど変わらんだろう!」


 ミュルベが先生の発言に食って掛かる。

 動揺しているのだろうか?

 それともたかが一教師だと見下しているのか。


「それに三年生全員との対戦です。

 戦力は魔術師百名、兵士四百名、魔力砲十門になります」

「「「なっ!」」」


 これにはこの場に居る全員が驚いていた。

 ふざけている。

 配慮も何もあったものでは無い。

 いやこれは先生から生徒達への信頼と受け取るべきか?




◇◇◇




「軍学校で魔力砲が撃たれたら諦めろって習ったんだけど……」

「「「だよな……」」」


 四年生に付いた兵士達はこの世の終わりみたいな顔をしていた。


「俺達が何をしたって言うんだ……」


 指揮官と副官の五年生も同じ顔をしていた。


 眼前には五倍の人数、そして遠目でも分かる大きな魔力砲が確認出来る。

 まぁ俺が感覚共有(シンパシー)でシャルの目線から感じた事だけどな。

 俺はトルテと離れた場所で待機だからね。


「指揮官は……駄目ね。

 中隊長同士ではどうするつもりか、何か言ってた?」


 シャルがキルシュに何か作戦があるのか聞いていた。


「魔力砲の集中攻撃を受けるよりは、ばらけた方が良いのでは? ってくらいかな」


 人数で負けている方が分散する。

 先日の迷宮とは違い相手の人数は分かっている。

 圧倒的な実力差があれば可能だろうか。


「それで良いんじゃない?

 私の小隊は……百人くらい相手出来るでしょう?」

「「「えええ!?」」」


 小隊員の悲鳴が聞こえてくる。

 シンパシーを使うまでも無く、遠く離れた俺の所までな。

 

 結局、中隊ごとにバラバラに攻め込む事になった。

 ……シャルだけはたった五人で突っ込むけどね!


 そしてそれは……何の勝算も無い訳では無かった。




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