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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第三章 現身
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第七十話 異常2

 戦線を維持するのはもう無理だった。

 周囲を囲まれ、それを突破してもまだ退路は断たれている。

 そして戦力を分散した事が悪かった。

 ……俺の力だけでは全員を守り切れない。

 敵を全て倒す事は可能だったが、味方をも巻き込んでしまう。


 そしてその限界が完全に超える時が来た。


「……まだゴブリンロードも倒していないのですが」


 キルシュが弱音を吐いていた。

 よりにもよって俺達の背後にはゴブリンキングが迫っていた。

 壁組の所へはホブゴブリンが向かっているのだろう。


「ここでゴブリンキングか……」

「ケーゼ様、如何なさいます?」

「ケーゼ様が守ってくれるはず!」


 ケーゼ達も分が悪いと考えていた。

 そして最後方にいたトートに魔の手が迫る。

 ゴブリンキングの持つ大きな棍棒のような物がトートを潰そうとしていた。


「キャー!」


 キャーってなんだよ、その悲鳴はまずいだろう……。

 だが安心しろ。

 王子様が助けてくれるさ。

 ゴブリンキングの一撃は……キルシュによって受け止められていた。


「……大丈夫かい?」

「キル、シュ、さん……?」


 そう聞いたキルシュの方は大丈夫では無かった。

 その重い一撃を受け止めたせいで、腕から血が流れ落ちていた。

 だがそんな事は構わずにゴブリンキングを押し返す。

 それはほんの少ししか押し返す事が出来なかったが、空かさずケーゼ達の援護が入る。


「「ウィンドウォール!」」


 風の刃で出来た壁は無理に押し通る者を容赦なく傷つける。

 ゴブリンキングは危険を冒さず、後方へと引いた。


 だがこれは一時しのぎだ。

 現状を打破するには弱い。

 そしてもう俺達には手が残されていなかった。


 俺達には……だが。

 今度こそ本物の白馬の王子様の登場だ。

 ……正確には騎竜に乗った暴君だったか?

 それは爆音と共にその場に現れた。


「はぁぁ!」


 ゴブリンキングに背後から強烈な一撃が入れられた。

 ゴブリンキングは辛うじてそれを耐えた。

 だがその巨体は地面に倒れる。


「まったくもう……皆が心配するから仕方なく(・・・・)助けに来てあげたわよ!」


 それは騎竜に跨ったシャルだった。

 そして後方からは同じクラスメイトの女性陣が続いていた。

 爆音はゴブリンキングの後方に待機していたホブゴブリン達を蹴散らした音だった。


「キルシュ、助けに来たんだよー」

「面倒だけど……危険だったから……」

「トイフェルはどこ? どこなの!?」

「ケーゼ様の事が気になりましてね」

「……皆が行くって言うし、私もね?」

「キュウ! キュウ!」


 ショコラ、マルメラ、アネモネ、メッサーそしてリーリエまでもこの場に救援へと駆けつけていた。

 使い魔のトルテも忘れてはいけないな。

 ま、俺はある程度近づいて来た時点で気付いていたんだがな。


 マルメラはすぐにキルシュに治癒魔術を掛ける。

 それにアネモネも続く、彼女も治癒属性らしい。

 その他の女性陣はゴブリンキングと対峙していた。


「こいつは私達が相手する。

 アンタ達はさっさとそっちのボスと雑魚を蹴散らして他の人達を助けなさい!」


 シャルが指示を飛ばす。

 そしてメッサーだけがケーゼの元へと近づいていた。


「取り敢えず軽く一撃、お見舞いしましょうか?」

「ふっ、そうしようか!」


 ケーゼとメッサーが魔力を貯め、魔術を放つ。


「「ファイアストーム!!!」」


 その炎の竜巻はゴブリンロードだけで無く、その遥か後方の雑魚ゴブリン達をもなぎ倒す。

 これで壁組達も少しは持ちこたえられるだろうか。


「ではケーゼ様、私はゴブリンキングの方を」

「うむ、俺は……ゴブリンロードがまだ生きているようだからな。

 此方を担当しよう」


 そうゴブリンロードはまだ生きていた。

 流石ボスと言った所か。


 さぁ、仕切り直しだ。

 第二ラウンドと行こうか!

 ……俺は何もしてないけどな。




◇◇◇




「それにしてもでかいんだよー」


 ゴブリンキングはロードよりも更に大きかった。

 人間の大人の三倍程はあるだろうか。


「前衛は私と……トルテで引き受けるわ」

「キュウ!」


 トルテが元気よく答える。


「みんなは後方から魔術で援護してよね!」

「「「了解!」」」


 シャルはトルテに跨り地面を駆ける。

 今まで騎竜など乗った事は無いはずなのに、それは洗練された動きに感じられた。

 迎え撃つゴブリンキングの一撃を回避し、木刀での一撃を入れる。


 その木刀は魔術で強化されている。

 その効果はゴブリンキングの持つ棍棒と同じで鈍器のような物だった。

 叩かれた物は粉砕される、そんな武器だ。

 ……魔術では無く、シャルの馬鹿力の効果かもしれないが。


 そこへトルテの突進力が加わる。

 その一撃は何をもってしても防げないと思うのだが、ゴブリンキングは吹き飛ばされるだけでそれを耐えてしまう。

 一応ダメージはあるようだが決め手にはならない。


 ゴブリンキングには追い打ちで魔術が放たれる。

 ショコラ、メッサー、リーリエ、三人が放つ炎の魔術。


「「「ファイアランス!!!」」」


 それは単純に足した以上の威力が出ていた。

 同属性による威力の強化がされているのだろう。


「GUOOOO!!!」


 ゴブリンキングの苦悶の声が聞こえる。

 いや、それは咆哮か?

 炎に包まれながらもその巨体は動き出し、シャル達へ向かってくる。


「……これは倒し甲斐があるわね」


 シャルはそうつぶやいた。

 どうも簡単には倒せそうになかった。




◇◇◇




「此方も負けていられない。

 ガーベル、一気に畳みかけるぞ!」

「はい!」


 ケーゼとガーベルが風の魔術を放つ。


「「ウィンドアロー!!!」」


 それは威力では無く、手数での勝負だった。


「「ウィンドアロー!!!」」


 ゴブリンロードは全く動けない。

 両手で自身の頭部を覆うような形で守るだけだった。


「「ウィンドアロー!!!」」


 尚も攻撃は続く。

 ゴブリンロードは地面に膝を付き、完全に動かなくなってしまった。


「……止めは僕が刺そうか」


 傷が癒えたばかりのキルシュが前へ出てくる。


「ここはお二人に任せて、今は傷を癒しましょう?」


 それをレッフェルが諌めた。


「代わりに……僕が止めを刺します」


 それはトートだった。

 スカートの中、太ももに付けたホルスターからトートの専用武器、銃を取り出す。


「赤字覚悟の魔石弾。

 ……本気の攻撃を見せてあげます!」


 トートは銃にマガジンの様な物をセットする。

 実際マガジンなのだが、その中身は魔石を加工した物だ。

 今までは自分の魔力で魔術を放つ補助道具として使用していた。

 シャルのアイスソードの様なものだ。

 だが今回は違った。

 実際に魔石弾を放つ。

 魔石弾と言っても魔石を放つ訳では無く特殊な鉱石を放つみたいだが。


 ゴブリンロードは風の魔術が止むとまた動き出していた。

 なんという耐久力だろうか。

 空かさずまたケーゼとガーベルが風の矢を放つが止まらない。

 もうこの攻撃には慣れたとでも言うのか。


 そしてトートが銃を撃った。


「これで最後にしましょう」


 トートの放った銃弾はゴブリンロードの腕にめり込む。

 めり込むと言うよりはえぐる、いや削ぐと言った方が良いか。

 その小さな弾とは比較にならないダメージが与えられる。

 何度も放たれる銃弾でゴブリンロードの腕はだんだん細く小さくなっていく様に感じられた。

 物理的に肉が削がれているのだ。


 そしてトートはマガジンを素早く交換する。

 リロードだ。

 これが銃のマジックアイテムとしての一番の特徴。

 魔力の補充が一瞬で終わらせる事が出来るのだ。

 そしてまた銃弾が放たれる。

 肉を貫き、えぐり、そして削ぐ。

 ゴブリンロードの腕は千切れ落ちてしまい、その顔を守る物は無くなった。

 そしてこれが最後のリロードになるのだろう。


「……さようなら」


 ゴブリンロードの頭が腕と同じように削がれて行き……最後には弾け飛んだ。


「流石にもう動かぬか」

「美味しい所を取られてしまいましたね」

「凄いです」


 ケーゼ、ガーベル、レッフェルが感想を述べていた。


「僕の代わり所か、僕以上の働きだよ」


 最後にキルシュがトートを褒めると何故かとても嬉しそうだった。

 ……変なフラグ立ってないよな?

 此方はこれで終わりだったようだ。

 三十階のボスみたく、頭が再生(リロード)なんて無いよな?




◇◇◇




「向こうは倒したみたいね。

 こっちも負けてられないわね!」


 ゴブリンキングはもっと酷い。

 炎を纏ったまま暴れまわっていた。

 シャルとトルテの突撃でなんとか押し返している感じだった。

 一体何時になったら燃え尽きるのか予想も出来ない。


「少しだけ動きを止めてくれる?」


 シャルが他の女性陣に指示を出す。

 女性陣はそれに答える代りに魔術を放っていた。


「「「ファイアウォール!!!」」」


 敵からの攻撃を防ぐのに使う事が多いウォールで敵自体を囲んでしまった。

 それは複数の魔術師が居たからこそ出来た事だろう。


「ファースト、刀を出しなさい!」


 シャルは一気に止めを刺すつもりだった。

 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)と呼ばれる刀を使って。

 俺は指示通りドラゴンスレイヤーをマジックボックスから取り出しシャルへと渡す。


「もう見上げるのは疲れたわ。

 ……トルテ、行くわよ!」


 シャルが駆ける。

 それに合わせるようにゴブリンキングは炎の中からゆっくりと現れた。

 その皮膚は焼け爛れ見るも無残な状態になっているが動き自体に支障はないようだ。

 炎から出ると徐々にその歩みを早め、勢いよくシャルと衝突する。


 シャルとゴブリンキングが交差した。


 ゴブリンキングの腕が地面へと落ちる。

 ……勝ったのはシャルだ。


 そして遅れて胴体が……地面へと落ちる。

 体が真っ二つになっていた。

 そしてシャルはゆっくりとゴブリンキングの死骸に近づいた。


「ああ、やっぱり上から見下ろす方が良いわね」


 そしてもう動かなくなったその肉の塊を更にバラバラにしていく。


「これでトルテから降りても見下ろせるわ。

 まったく頭が高いのよ!

 己の立場を知りなさいよね!」


 いやゴブリンにそれは無理だろう……。

 これで決着。

 あとは雑魚を相手にしていた壁組を助ければ終わりか。


「お、やっぱ来てたのか。

 あの炎と風の魔術を見て察したぜ!」


 救援に向かおうとした矢先、トイフェル達がそこへ合流して来た。

 どうやら雑魚も倒し切ったようだ。


「途中からゴブリン共の統率が乱れてな。

 逃げ出すゴブリン共も多くいて、それで何とかなったんだよ」


 ボスを足止めしていたからだろうか?


「いやー、予想以上の敵の数で焦ったわ。

 まー何にしても今回はこれで終わりだな。

 さくっと魔石を回収して戻ろーぜ」

「……まだよ!」

「「「えっ?」」」


 もう魔石を回収して終わりじゃないのか?

 それを止めたのは……シャルだった。


「逃げたゴブリンを追撃するわよ!

 魔物(モンスター)は全て殲滅!

 魔石は全回収!!!」

「いやもう流石にこれだけ倒せば十分……」

「……誰に助けて貰ったと思っているの?」 


 シャルは脅しの言葉をかけると同時にドラゴンスレイヤーを軽く振って見せる。

 ……それは強迫です。


「……お前ら追撃だ。

 殺される前に殺すしかねーぞ!」


 それはモンスターに殺されるという意味ではないのだろう。


「前にモンスターが居なくなった理由がやっと分かったぜ……」


 トイフェルは毎回貧乏くじばかり引いている気がするな。


「ファースト、指示を出しなさい!

 一匹も逃しちゃ駄目だからね!」


 おっと俺も仕事だ……サボったらヤバい。


 そしてその追撃戦に女性陣は参加しなかった。

 こんな気持ち悪い死骸だらけの所にはあまり長いしたくないようだ。

 当然、膨大な量になる魔石回収も全て男性陣で行った。


 これにはメッサーに言われたからかケーゼも参加していた。

 ……しかも楽しそうに。

 まったく憎めない奴だぜ。




◇◇◇




 そして全てを終えて学園に戻る。

 学園の買い取り業者達は大慌てで仕事をしていた。

 それは大量の魔石が持ち込まれたからだ。

 その数は万を超えていた。

 学園始まって以来の量らしい。


 正直、討伐よりも魔石の回収に手間取ったほどだった。

 その売り上げは三千万ギルほどになる。

 それは人数で均等割りされ、一人四百万ギルを受け取る事になった。

 残りは打ち上げの費用に当てられた。


 ……計算が合わないって?

 シャル、ショコラ、マルメラ、メッサー、アネモネ、リーリエそしてトートだ。

 女性陣だけでそれは分配されたのだ。酷い。


 使い魔のトルテは貰えなかった。

 使い魔の扱いが冷遇された訳では無く、キルシュに回収されてしまうかららしい。

 ……決めたのはシャルだから本当の理由は知らないが。


 そしてトートは女性陣に認められたみたいだ。

 魔石弾の費用も鑑みてだが。

 女性だけでなくゴブリンにも認められたし、本当に凄い奴だぜ!

 ……本人は複雑な表情をしていたが。


 最後に打ち上げだが女性ばかりが楽しんでいたように思えた。

 男性は疲れていてそれどころじゃない感じだった。

 俺は一つだけ気になっていた事が聞けたし……満足だ。


「でも、みんな男性の事が心配で救援に来てくれたんでしょう?」

「そうなんだよー、でも一番行きたがっていたのはシャルなんだよー」

「そ、そんな事ないでしょう?

 ショコラはキルシュー、キルシューって言ってたし!

 マルメラも嫌がりながら準備万端、揃ってたし!

 アネモネは言わずもがな。

 メッサーはケーゼに狂信的でしょ?

 リーリエはなぜかトー……」

「ちょっと何言ってるのよ!」


 シャルの口は直前でリーリエに塞がれてしまった。


「シャルが一番行きたいって言ってたのは本当でしょ!」


 そして皆が口をそろえて行った。

 いやー、照れるなー。


「「「魔石の為に!!!」」」


 ですよねー。

 分かっていたけどね!

 ……悲しくなんて無いんだからね!




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