第五十一話 十月4
本日二回目の投稿です。
四年Aクラスとの最終戦。
双方横陣での開始だった。
これまでの戦いで相手の射程は大体分かっている。
それはほぼ互角、激しい遠距離戦が予想された。
「接近戦で行く……クロスだ!
防御を固めて進め!」
プフェが指示を出す。
俺の予想は大抵外れるな。
模擬戦闘では遠距離攻撃が制限されているからな。
圧倒的な差が無い限りは有効では無いという事か。
敵もケーゼ達の魔術を警戒してか防御主体で進軍して来た。
接敵する直前、俺達は陣を変更した。
「今だ! 左右に広がれ!」
それは鶴翼。
Vの字に陣を広げる。
俺達の第四中隊は左に、ケーゼ達の第二中隊は右に広がった。
だが相手もそれを読んでいたのかの如く陣を左右に分けて来た。
そして右側にはあまり人数を掛けていない。
「右は足止めか!?
第四中隊は気を付けろ!
敵が一気に攻めてくるぞ!」
プフェの指示が飛ぶがそれは一歩遅かった。
敵はケーゼ達の魔術を警戒し、其方に当てる部隊は足止めの捨石にするようだった。
そして見てから対応したのではどうしても後手に回ってしまう。
第四中隊に敵のほとんどが進軍して来た。
「来たようだね!
ある程度敵が集中するのは分かっていた事だよ。
落ち着いて守ろうか!」
キルシュが声を上げる。
だが予想はしていたが敵の量は思ったよりも多く防ぎきれない。
「シャル! マルメラとショコラの小隊が!」
「分かっているわよ!
……キルシュどうするの!?」
敵の進軍は止まらず第四中隊は分断されてしまった。
前方にいたマルメラとショコラの小隊はそれぞれが完全に孤立してしまった。
魔術で援護しようにも敵味方が入り乱れ、これでは味方を巻き込む恐れすらあった。
そしてここまでは完璧だった。
シナリオ通り。
この不利な状況は女性陣が画策した物だ。
四年Aクラスを相手にこの余裕は舐めているとしか思えない。
いや本人達は真剣だったか。
『なんだか心が痛むよ……』
『嘘つきなさい! 結構乗り気だったくせに!』
うん、キルシュにはこれくらいやらないと駄目だろう。
そして肝心のキルシュだが……迷っていた、いや考えているのか。
この時点でもうね、直感で行けよと思うのは俺が魔物だからじゃないよね?
人数的に助けれるのは片方だけだ。
それぞれが此方の倍以上の数に囲まれている。
シャル達は賭けをしていた。
マルメラとショコラはそれぞれ自分達を助けに来る方に予想した。
シャルは助けれないと分かっていても部隊を分けて助けに行くと予想した。
トートはここは冷静に判断し両方を見捨て後方部隊と合流すると予想した。
俺は右往左往するだけで判断を下せないと予想した。
キルシュ、シャル、トートの三小隊で向かえば片方はギリギリ何とかなるだろう。
部隊を分けたとしても結局はキルシュがどちらかに行かなければならない。
キルシュだけ、キルシュともう一小隊と複数考えられる所からこれが一番確率が高そうだ。
これは訓練だ。
それならば確実に後退して戦況を見極めるのもありだろう。
キルシュの事だから判断が遅れ、何方かが倒されるまで指示を出せない可能性も十分あるだろう。
「キルシュ何をしているの!
早く指示を出して!」
シャルがキルシュを急かすのは状況が切迫しているからか、はたまた自分の予想が当たるようにか。
そしてキルシュは決断を下した。
「シャルはショコラを!
トートはマルメラを助けるんだ!
僕が援護する!
合流した後は急いで後方に下がるんだ!
……必ず下がるんだよ!」
キルシュは指示を出しながら傍に控えていた使い魔のトルテに騎乗した。
これまで兵士が盾になれないので騎乗していなかったが、急いで移動する為だろうか。
キルシュはこれまで中隊の最後方にいた。
騎乗し向かう先はシャルかトート、何方の後に付くのか?
それは何方でも無かった。
「あの馬鹿を騎乗させちゃ駄目だな。
……止めらんねぇよ!」
俺はぼやいていた。
キルシュは護衛の小隊員達を置き去りにし、敵陣深くへと単騎で突っ込んでいた。
「はぁ、自分を囮に味方を助ける?
まだ小隊が残ってるのに中隊長がそんなことしちゃ駄目でしょうが」
「やっぱキルシュは私が付いていないと駄目なんだよー」
「馬鹿は……死ななきゃ治らない……」
「僕はあの方のお目付け役なんですが、どうしたら良いのでしょう?」
トートが少し可哀想になる。
いやマルメラとショコラの方がもっとか?
何方かしか助けられない。
なら自分を犠牲に両方を助けるか……。
キルシュらしいと言えばらしいが……それはキルシュが選んで良い道では無い。
王になったらそんな甘い事は許されないだろうに。
「……次は死んでも片方しか助けれない状況にしないとね」
シャルが怖い事を言っていたが聞かなかった事にした。
「さぁ、手加減はもう良いでしょう。
あの馬鹿を助けに行くわよ!」
キルシュの突撃のお陰でショコラ、マルメラとは簡単に合流できた。
本当は手を抜いていただけなのだがそれは内緒だ。
第四中隊が粘っている間に、右側のケーゼ達が足止め部隊を倒していた。
そして敵本体を包囲する事に成功し、そのまま此方側の勝利となった。
「僕は活躍出来たかな?」
キルシュが的外れな事を言っていた……。
「馬鹿ね」
「馬鹿なんだよー」
「馬鹿……」
「馬鹿ですね」
「馬鹿!」
みんなの意見は一緒だった。
「……みんな酷くないかい?」
キルシュを慰める者はこの場には誰もいなかった。
この場には……だが。
「息子さんは勇猛果敢ですわね」
「いやはやお恥ずかしい。
あれではいかんと言ってはいるが……。
儂の言う事は全く聞かないのでほとほと困っておるわ」
王が過保護になるのも分からないでもないな。
「それにしても上級生を倒すとは凄いですわ。
これで全勝、懸念された魔術師の数の低下は質で補えるという事でしょうか?」
「どうであろう。訓練だけではなんともいえんよ」
「では一つ提案がありますわ」
「ほほう?」
何やら嫌な予感がする……。
「……それは面白い!
此方からもお願いしたい事ではあるな」
はぁ……聞きたくない事を聞いてしまった。
まー、聞かなくても変わらないか。
どうやら俺達は……もう一戦する事になりそうだった。
◇◇◇
「賭けは私の勝ちよね?」
「んー、正確には当ててないよね?」
「私の言った事は何も間違っていなかったわ!」
シャルはみんなの前で自分の勝ちを宣言していた。
「仕方ないんだよー」
「シャルの……勝ち……」
「そうですね、一応正解していますし」
納得はいかなかったが俺には否定しても得る物など無かったので別に良かった。
『ふふーん、ちょろいわね』
シャルは儲かったので上機嫌だった。
『この賭けに自信があったの?』
『キルシュは催促すれば必ず指示を出すと思ったわ』
『もし片方を選んだら?』
『キルシュに片方なら私一人で助けれるってこっそり言えば良い。
キルシュは賭けの事は知らないから大丈夫なはずよ』
『汚い!』
『勝負とは非常な物よ』
初めから勝ちは確定していたのか……。
「みんな集まって何かの相談かい?」
指揮官のプフェに呼ばれていたキルシュが皆の所へ戻って来た。
「……遠征の打ち上げをしようかなって」
シャルが上手く誤魔化していた。
「それは良いね。
……だけどまだ終わりじゃないみたいだよ。
もう一戦、模擬戦闘をやるって指揮官から言われたよ」
「もう全員と戦ったのに誰とやるの?」
俺は知っていたがシャルにはまだ言っていなかったな。
「……エルフの軍勢とだよ。
護衛の人達が僕らの相手をしてくれるってさ」
力は未知数だが現役の軍隊。
それは訓練か余興か……。
エキビジョンマッチが始まろうとしていた。
+25,770,731 前回残高
.. +9,000 賭けの儲け(一人三千ギルで三人分)
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+25,779,731 二千五百七十七万九千七百三十一ギル




