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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第二章 成体
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第五十二話 十月5


「三年生が思ったよりも強くて、楽が出来ると思ったのに……」


 小隊員の兵士達がぼやいていた。

 いや兵士だけで無く魔術師達もか。


 エルフの軍と戦う。

 これまでの戦いで調子に乗っていた者達も、これには気後れするしかなかった。

 そしてエルフであるマルメラの説明が、それに拍車をかけた。


「面倒だけど……仕方ない……」


 そしていつもとは違う饒舌なマルメラを見る事が出来た。


「まず、エルフは全員が魔術師です。

 魔法ではまず敵わないでしょう。

 そして得意な武器は弓です。

 弓の腕前もそうですが、その弓自体が違います。

 エルフの国でしか取れない特殊な素材を使い、古より伝わる門外不出の製法で作られています。

 通常の弓とは威力も射程も違いすぎます。

 以上の事から近づく前に全滅します。

 ただ訓練なので近づくくらいは……もしかしたら……確率は低いですが……出来るかも? しれません」


 これはただの的で終わりそうだ。

 撤退のタイミングだけを心配しておけば良いのかもしれないな。

 乗り気な者は一人も居ないが、それは避けられない事だった。


「国のお偉いさんが査察に来られているらしい。

 今回の事はそのお偉いさんも認められている。

 諦めて陣形を組め!

 せめて一太刀位は当てて見せろ!」


 指揮官のプフェが声を張り上げる。

 この時ばかりは遠くで見ているだけで済む四年生達が羨ましく思える。


 敵のエルフの軍は人数だけは同じで百人程だ。

 魔術師の数は五倍も違うけどな。

 そして戦いが始まる前に、敵指揮官と思われる女性が此方に挨拶をしに来た。


「私が指揮官のローゼだ。

 怯える事はない、ただの余興だ。

 気楽に楽しんでくれれば良いさ」


 完全に上から目線だが、仕方のない事だろう。

 そして何を楽しめというのだろうか。

 さっさと終わらせてくれる事を祈るだけだな。


「指揮官のプフェです。

 胸をお貸し頂けるとの事で有難う御座います。

 此方は精一杯頑張らさせて貰います」

「せいぜい頑張るが良いさ」


 ローゼは全く興味無しと言う感じだった。

 いや別の事に興味があるのか、此方の陣営を観察している様にも見えた。

 どうやら何人か目ぼしい人物いるようだな。




◇◇◇




 そして遂に戦いが開始される。

 開始の合図は国王自らがマジックアイテムを使って発した。

 この国王ノリノリだな。

 そんな目立つ事して良いのかよ!

 お忍びで来てたんじゃなかったのか……。


 両軍共、距離はあるが同じ陣形で横陣だった。

 その違いは隊列にあり敵は規則正しく等間隔に人員が配置されていた。

 此方はクロス、防御主体でなんとかして接近する道しかなかった。


「さて、遊んであげましょうか」


 ローゼの声が聞こえる。

 こんな台詞は聞きたくもないが俺は聞こえてしまう。


「シャル、来るよ」

「こんな距離で?

 全員気を付けなさい、敵の攻撃が来るわよ!」


 まだ少し気を抜いていた小隊員達に気合が入る。

 そしてその攻撃が俺達に届いた。


「ぐっ」

「きっつー」

「本当に訓練用の矢なのかよ」

「Bクラスに使われた物より威力があるんじゃないか?」


 Bクラスは本物の矢を使って俺達を苦しめた。

 だがそれよりも今受けている攻撃は強い。

 なんというか重いのだ。

 これが本物の矢なら盾ごと貫きそうな勢いだった。


 そんな攻撃を耐えながらも少しずつ敵との距離を詰める。

 詰めている……はずだった。


「距離が変わりません。

 敵はどうやら弓を撃った者から後退し、此方との距離を調整しているようです」


 副官のルトナーがプフェに伝える。


「今回の訓練では戦闘範囲が決まっている。

 多少時間は掛かるが、何時かは追い詰める事が出来るはずだ。

 諦めずに進めー!」


 進めと言われば進むしかないが、これはきついな。

 倒されないかもしれないが体力が持たない。

 だがこれは小隊員に頑張って貰うしか無かった。


「もう少しで此方の魔術の射程に敵が入るわ!

 あと少しだけ耐えるのよ!」


 この状況では物理攻撃を行う余裕が小隊員には無かった。

 戦闘範囲の関係で敵の後退が止まり、距離は縮んだ。

 だが此方が攻撃に転じる前に、敵の一人が前へと出て来る。

 ……ローゼだった。


「よく耐えるな。

 だが次は耐えられるかな?」


 ローゼが剣を構える。

 似た様な物を俺は知っていた。


「シャル! 魔法剣(マジックブレイド)だ!

 魔術師も防御に回らないとまずいぞ!」


 防御は……間に合わない者が多かった。


「……手加減はしてやろう」


 ローゼの放ったその一撃は此方の前衛をほとんど吹き飛ばした。

 光の神聖属性だったと思う。

 まばゆい光と共に凄まじい衝撃が此方を襲った。


「なんて物を使いやがる!

 ……撤退だ! 魔術師を守りつつ兵も引くんだ!」


 プフェの出した指示は全員での撤退だった。

 兵士を犠牲にするのはプフェの望まない事なのだろう。


「あれはエルフの至宝、この目で見れるなんて!

 十等級の最高峰のマジックブレイドじゃないか!

 神聖属性を持ったそれは……」


 モーンが何か嬉しそうにしているのが聞こえて来る。

 こんな時に何を考えているのか。

 だがその危険度だけは良く理解する事が出来た。


「思ったよりも残っているな。

 ……だが逃がさない」


 ローゼの聞きたくない言葉ばかりが、やけに大きく俺には聞こえていた。

 そしてその言葉通りの追撃が此方を襲う。

 今度は敵が前進しながら遠距離攻撃を行って来たのだ。

 これでは簡単には逃げられない。

 後退しながら守る事は難しく、敵との距離を一向に開ける事が出来なかった。

 そしてもたもたしていたら、またあのマジックブレイドの一撃が来るかもしれない。


「もう兵士を犠牲にするしか道はありません。

 このままでは全滅です」


 ルトナーがプフェに進言する。

 もしかしたらこの撤退の指示を出させる事が、今回の戦いの意味だったのかもしれない。

 慢心させない為に、上からの指示を忠実にこなす為に。

 だがプフェは指示を出さない、いや出せない。

 どっかの王子様みたいに甘い指揮官だった。


「キルシュみたいな指揮官ね。

 本当に使えないわ」

「聞こえているよ!

 一緒にしないで欲しいな、僕はもっと勇敢だよ!」

 

 それは良いのか悪いのか。


「ならちょっとあのムカつく敵指揮官を倒して来なさいよ!」

「……突出しているね。援護があれば狙える……か?」

「命令違反は駄目よね。

 ファースト、作戦を思い付いたわ。

 指揮官に説明してきなさい!」

「了解!」


 俺はこの場では割と自由に動けるしな。

 どうせ攻撃が当たってもその重さで吹き飛ばされるだけだ。

 痛くも痒くもないからな。

 俺は急いでプフェの元へと飛んだ。


「……と言う訳で許可を!」


 そして全てを端折り簡潔に内容をプフェに伝えた。


「使い魔ばかりに頼るのは好かんが仕方ないか。

 許可する!

 もう他に手は無い、防御を捨てて全体でお前らを援護する。

 タイミングはそっちが合せろ!」


 そしてプフェが全体に指示を出す。


「全軍で魔法と物理の遠距離攻撃だ!

 届かなくても良い、全力で敵に向かって撃つんだ!

 行くぞ、タイミングを合わせろ!

 三、二……撃て!」


 玉砕覚悟の遠距離攻撃。

 敵の攻撃はノーガードで喰らう事になる。

 当たらない事を祈るだけだがこれは訓練だ。

 当たっても多分死なない……多分。

 皆は思い切り良く攻撃に転じられたと思う。

 だがその攻撃はかろうじて敵指揮官のローゼに届くかどうかと言う物だった。

 ローゼは数本の矢をマジックブレイドで弾いただけで簡単に守ってしまった。


「最後は破れかぶれの攻撃か。

 兵も魔術師も共に倒れる事を選ぶとは潔いな」


 俺達はそんな潔くないと叫びたかった。

 叫んでも聞こえないか。


「フッ、やはり俺に頼る事になったか」

「やりましょう、ケーゼ様!」


 此方の攻撃はまだ終わっていない。

 最大火力とも言えるケーゼとメッサー、二人の魔術がローゼ一人に対して放たれた。


「ファイアウォール!」

「ウィンドトルネード!」


 二つの魔法が合わさる。


「「ファイアストーム!!!」」


 命名は俺だ。採用された。

 たった一人に対して使うには範囲が広すぎるが避けられる心配は無かった。


「これは訓練で見せて貰ったわ」


 此方からは魔術の陰になり見えなかっただろう。

 だが俺にはそれが分かった。

 ローゼの持つマジックブレイドが光に包まれ魔力量、出力が上がる。

 その状態の剣を振るうと、ケーゼ達の魔術は斬り裂かれ煙のように消え去る。


 そして逆に敵からは陰になり見えなかった物もある。

 キルシュが使い魔のトルテに騎乗し突撃を掛ける。

 値千金の活躍の場は整っていた。


「それも見せて貰った」


 だがローゼはそれを予測していた。

 狼狽える事無く騎乗したキルシュを迎え撃つ。

 騎乗したキルシュが有利なはずだった。

 だがローゼの持つ剣はマジックブレイドだ。

 そしてローゼが狙ったのはキルシュでは無く使い魔のトルテ。

 通常ならその体躯の差から立ち合える物ではないはずだった。


「ぐはっ!」


 だがマジックブレイドの力なのか、騎竜ごとキルシュを吹き飛ばす。

 その時にはマジックブレイドの光は先ほどよりも抑えられていた。

 手加減してもこの威力……という事だろう。

 キルシュはもう動けない。


 ここで最後の攻撃がローゼを襲う。


「はぁぁ!」


 上空からの奇襲。

 全てを囮に使い完全な死角からの攻撃。

 シャルを俺が一時的に空へと持ち上げる。

 去年の遠征時と違い、俺の力は格段に上がっている。

 幼生のままでも空高くへとシャルを持ち上げていた。


 ズドン!

 明らかに人が落ちた音とは思えない音が辺りに響く。

 シャルの着地地点から円形状にクレーターのような物が出来ている。

 シャルは本当に人間なのだろうか?

 本人自身もただでは済まないような攻撃だった。


「それは見ていないが……ドラゴンを使い魔にした、と言う者の事は知っている」


 ローゼはその攻撃を回避していた。

 珍しいという事で知られていた、そしてその攻撃方法も予測する事が出来たようだ。


「それに魔法の発動を簡単に察知できた。

 そのような稚拙な魔術では私を倒せんよ」


 魔法の発動を察知だと?

 エルフの感覚はどうなっているんだ。

 いや多分俺も出来るけどさ!

 

「……まだよ!」


 シャルは衝撃で痺れる足を無理矢理動かしてでも攻撃を続ける。

 あのマジックブレイドを受け切るのは無理だ。

 攻めるしかない。


「判断は正しいが実力は伴っていない」


 シャルの攻撃を回避しつつ講釈を垂れる。

 そしてシャルの剣をマジックブレイドで受けとめた。


「そのようなまがい物で何時まで耐えられる?」


 シャルの剣は刀身が欠け、ひびが入っていた。

 これ以上の攻撃は受け止められる事さえも許されない。

 もし剣が魔法を帯びていなかったら、折れるどころか粉々だろう。


 シャルは剣を腰元に構えた。

 居合切りの構えに近いそれは敵から刀身が見えにくくなる角度で構えられていた。


「……それなりの修練は積んでいるようだな」


 この期に及んでもまだローゼには余裕があるようだ。


「褒めるのは……まだ早いわ!」


 シャルが攻める。

 居合切りでは無いがそれなりの速度はあったと思う。

 直前まで刀身を隠しながら、そして右腕一本で攻撃する。

 体を極力動かさず、最後まで刀身を隠していた。

 だがすでに刀身の長さをローゼは確認していた。

 それに魔法の発動も察知出来る。


 ……見誤るという事は無かった。

 シャルの剣とローゼのマジックブレイドが交差する。

 シャルの剣はついに粉々に砕けてしまった。

 真っ二つに折れたのでは無く、粉々に砕けた(・・・・・・)のだ。


「フッ」


 ローゼは勝利を確信したのか初めてここで油断した。

 いや油断はしていなかったかもしれない。

 魔法の発動の警戒だけは解いてはいなかったのだから。

 だがローゼにもう一撃、攻撃が襲い掛かる。


「はぁぁ!」


 シャルの剣、アイスソードだ。

 いやそれはソードとは呼べないな。

 ただの氷の棒だった。


 魔法の発動はローゼに察知される。

 シャルは予め発動してあったアイスソードと通常の剣を分けて使用した。

 砕かれたのは通常のただの剣だった。


 そして片腕で持たれた氷の棒で殴られただけだったが……ローゼは地に片膝をついていた。


「ふんっ」


 そしてシャルのこのドヤ顔である。

 それがシャルの勝利を物語っていた。


「……こんな攻撃は効かん!」


 確かにダメージ自体はほとんど無かっただろう。

 氷の棒も簡単に砕けてしまった。

 だがこれは訓練だ。

 戦闘不能扱いだと思うのだが、それはローゼには通用しなかった。 


 何を思ったのかマジックブレイドの光が強くなっている。

 魔力の出力を上げやがった!

 そんな物で丸腰のシャルに攻撃するつもりなのか!?


 ローゼのマジックブレイドがシャルを襲う。

 今度はシャルが油断していたのかもしれない。

 俺は咄嗟にマジックブレイドとシャルの間に入り、盾となる。

 だが幼生の体では簡単に吹き飛ばされてしまう。


 幼生の体では……だがな。


「黒い……ドラゴンだと……」


 俺は成体へと変態していた。


 出力の上がったマジックブレイドだろうがなんだろうが、俺は簡単に受け止める事が出来た。

 この大きな体なら当たり負けする事も無い。

 逆にマジックブレイドの方が弾かれたほどだ。


「もう良いだろう?

 エルフの勝利は決まっている。

 これ以上戦う必要は無い」


 ローゼにこれまでの余裕はない。

 そして戦いをやめるつもりが無いのか、更にマジックブレイドの光が強まる。


「……エルフの至宝を用いて負ける事などあってはならんのだ!

 黒……時空属性か!

 幾らアンチマジックフィールドで軽減しようとも、次の一撃は止められない!」


 体が黒いから時空属性って……。

 あってるけどそんな安直な。

 そんな悠長な事を考える時間はあまり無い。

 お前は少しやり過ぎた。

 そして今尚、それを続けようとしている。


 マジックブレイドの光が強まり、その光自体も大きくなっている様に見える。


「止めないのなら仕方ないな」


 だがそれが振られる前に俺は攻撃した。


「ドラゴンブレス!!」

「なっ!?」


 俺はローゼに向かって炎を吐いた。

 それは迷宮で使った時と同じだ。

 だが迷宮は閉鎖空間でその攻撃範囲が良く分からなかった。

 一応その時よりも威力は落としたが、死んでも構わないとも思っていた。


 その炎はローゼだけでなくその後方に陣取っていたエルフの軍すら巻き込んだ。

 というか……閉鎖空間ではないはずなのに、迷宮と同じく視界には炎しか無かった。

 迷宮の時とは違い、シャルを守るのは忘れていないがな。


「シャル、大丈夫か?」

「ええ、私は大丈夫よ。

 それよりもその炎を消しなさい!」

「あんな奴ら別にどうでも良いだろ?」

「良いから消す!!!」

「……了解」


 炎の海は俺の意志で簡単に消す事が出来た。

 その後には俺と同じ黒色の消し炭しか見えない。


「もー、探すのが大変じゃない!

 ……あったあった!」


 シャルはその消し炭の中から剣を探し出していた。

 ローゼの持っていたマジックブレイドである。


「ま、て。それ……は、エル、フの……至宝……」


 ついでにローゼも見つかった。

 マジックブレイドの力で炎の威力を軽減したのか、まだ命の灯は消えていなかった。

 よく見ると後方にいたエルフの軍勢も生き残っているようだった。

 アンチマジックフィールドくらいは使えたのだろう。

 全員が魔術師だったから生き残ったのかどうかは分からないが。


「私の剣は壊れちゃったからね。

 ……代わりにこれを貰うわ!」


 それが目的ですか!

 ローゼはシャルの声をもう聞いていなかった。

 生きてはいるようだが意識を失っているようだ。


 そして俺とシャル以外、傍には誰もいなかった。

 キルシュもシャルが戦っている間に、後方へと下がったのだろう。


「……少し疲れたわ。

 みんなの所まで運んでくれる?」

「ああ、了解だ!」


 俺はシャルを背に乗せ空を飛ぶ。

 みんなの所までそんなに距離がある訳では無かったが……高く、高く飛んだ。


「貴国はこの様な戦力を隠していたのですね」

「……儂も今の今まで知らなんだわ」


 今回の件で俺の力は公のものとなったようだ。

 シャルはなるべく隠すように言っていたが仕方ない……よね?


「今はとりあえず救助と治療が優先ですわね。

 ……私自身も手伝いに行ってまいりますわ」

「済まぬ。我が国の治癒魔術師も総動員しようぞ」


 そして起こした結果より、これからの状況の方が重要になる。

 各国の戦力比が一変しようとしていた。


 俺の、シャルの意思次第で……。




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