第五十話 十月3
今日は二話分更新予定です。
次は二十時になると思います。
「まさかここまで戦えるとはな」
「ええ……欲が出てしまいます」
初め指揮官のプフェと副官のルトナーは適当な所で撤退し、被害を減らすだけで良いと思っていた。
だがここまでの戦闘を見る限り、たとえ四年生のAクラス、Bクラスであっても戦えると思えた。
「よし、勝ちに行くぞ。
ギリギリまで撤退はしない。
お前達も覚悟しておけよ」
「「「……はい」」」
正直勝っても三年生に意味は無い。
やる気のある者と無い者の差は激しかった。
「俺の力でたとえ四年生といえど倒して見せよう」
「さすがケーゼ様ね!」
「うん、自信に満ち溢れている」
「カッコイイ」
「公爵様は違うね」
と、取り巻きが一人増えてやがる……。
お、落ち着け、中隊は五人の魔術師がいるからな。
取り巻きとは限らないだろう。
増えたのはヴィンデ。
普人族の男で背は高めだな。
誰とでも仲良く上手くやっていける器用な奴だ。
あんなケーゼ至上主義の場所でも上手くやっているようだ。
「俺達も結構やれるもんだな」
「そうだね」
「一応がんばるかー」
「適当でいいだろ」
「やれるだけはやろうよ」
はい、ジミーズはいつでも目立たない。
当たり障りのない事を言っていた。
「かつての同級生をぼこるのはおもれーな!」
「どうして優秀な貴方の方が留年しているのかしら?」
「先生の言った通り問題行動が多かったみたいだね」
「この人の考える事は良く分からないわね」
「ぼ、僕は足を引っ張らないようにするだけで精一杯だったよ」
冷静に先生の言った事を思い出していたのはトルペだ。
普人族の男でいつも冷静沈着だ。
物事を分析するのが好きらしい。
そして問題の中隊だ。
「次は今まで以上に頑張らないとね!」
「キルシュに……守って貰う……」
「私も守って貰うんだよー」
「僕は最後方で援護しますね」
「私は更に後ろで応援してるわよ」
キルシュ以外は全員やる気が無かった。
「えっ? 一応訓練なのだから頑張らないと!」
「私はそろそろ味方を残して逃げる気分を味わってみたいわ」
シャルさんがとんでもない事を言っていた。
「キルシュは……残りそう……」
「きっと泣きながら残ろうとするのを私が引っ張っていくんだよー」
「はい、きっと残りますね。無理矢理引っ張るのが大変です」
「私は置いていくけどね」
その光景が手に取るように想像できた。
……とりあえず真面目にやる気は無いようだった。
◇◇◇
「今までと同じだ!
敵が近づくまで遠距離攻撃で兵を減らせ!」
プフェの檄が飛ぶ。
そして四年Bクラスとの模擬戦闘が始まっていた。
「狙うのは最前列です!
足を止めればより多くの兵を倒せます!」
ルトナーの指示通り最前列を狙う。
そして敵の足が言葉通りに止まった。
「……待て、敵の攻撃が来るぞ!
クロスだ、魔術師を守れ―!」
敵が止まったのは攻撃をする為だった。
敵は防御を固めながら徐々に接近していた。
この距離でなら敵の攻撃も此方に届くという事だろう。
そしてその被害は大きかった。
防御は間に合った……だがその攻撃が強力だったのだ。
「ぐあっ!」
「ぐっ!」
「いったー!」
その魔法と物理の遠距離攻撃には本物の矢が多く混じっていた。
間違えた、気付かなかったと言える量では無かった。
味方の兵士が二十はやられただろう。
一人では動けない者もいる。
実戦なら見捨てるだろうがこれは訓練だ。
負傷者を運ぶのに更に十は必要だった。
合計で三割程の被害だ。
普通はここで撤退するのだが……。
「くそ、なんと卑劣な!
許さん、許さんぞ!」
「ええ、そうねケーゼ。
貴族の風上にも置けないわ!」
いや……去年ケーゼも似たような事したよね?
証拠は無かったけどあれはお前だったよな!?
どの口が言うのかとも思ったがケーゼの怒りは本物だった。
そして先んじてメッサーが魔術を放つ。
「ファイアウォール!!!」
炎の壁が敵と味方を完全に隔てた。
だがそれは隔てただけで敵には届いていなかった。
「ウィンドトルネード!!!」
更にケーゼがそこに併せた。
その炎の壁に風の竜巻が突っ込んでいく。
去年見た竜巻よりも大きい。
そしてそれだけでは無かった。
風が炎を巻き込み敵陣へと襲い掛かっていた。
その速度も速く避ける事も難しい。
ファイアストームとでも言えば良いのだろうか?
炎の竜巻が敵を蹂躙していた。
「「「ぐああああ!」」」
敵から悲鳴が聞こえる。
それは長い間消える事は無かった。
魔術も、悲鳴も。
アンチマジックフィールドだけではとても防ぎきれるとは思えない。
持続、速度、威力のどれをとっても一級品だった。
「……熟練の魔術師が扱う事があるとは聞いた事があるな」
「実際に見るのは初めてです。
五年生の中にすら使える者はいないでしょう。」
プフェとルトナーが話して居た。
そして話す余裕があった。
この戦いはケーゼとメッサーの魔術一つでけりがついてしまった。
◇◇◇
「……少しだけ見直したわ」
「フッ、俺の力だけでは無い。
メッサーの協力あってこそだ」
「ふふ、そうよね。
私とケーゼ様の力があってこそよね」
シャルがケーゼを褒めていた。
ありえねぇ……。
「でも去年貴方も敵と同じ事したわよね?」
「証拠がないではないか。それでは罰する事は出来んよ」
「……確かにそうね。ますます見直したわ」
やっぱやったのかよ!
そしてそこもシャルは褒めるのかよ!
それは褒めちゃ駄目な所だからな?
この日はこの一戦だけで終わった。
四年Bクラスの負傷者の手当てに時間が掛かった為だ。
「明日の試合だけどどうする?」
「あんまりする事が無かったんだよー」
「ここまで……楽勝……」
「問題ありませんね。この調子で終わって欲しい物です」
「俺なんて何もしてないぞ!」
第四外道中隊ではキルシュ以外での作戦会議が開かれていた。
「少し試したい事があるんだけど……やるかどうかはみんなで決めて」
「……私はやるんだよー」
「うん……やりましょう……」
「僕は皆さんの指示に従いますよ」
「俺は面白そうだから賛成!」
みんなはそれに賛成だった。
「なにが面白そうなんだい?」
ここでキルシュが話に参加して来た。
「……私達は真剣よ!
キルシュの言う通りやる気を出すわ。
明日の四年生との戦いは全力で行きましょう!」
俺はシャルに頭をぐりぐりされながらそれを聞いていた。
面白がってすいませんでした。
みんな真剣ですよね。
「それは嬉しいよ!
みんななら分かってくれると思って、明日の戦いでは先頭に行けるようにして貰ったから!」
こいつは……。
勝手に作戦会議で危ない所に配置されるように発言したらしい。
「陣形は始め横陣なんだけどね……」
その日はキルシュが作戦の説明をして終わった。
「明日は勝つんだよー」
「私が……勝つ……」
「私が勝つかもよ?」
「冷静な判断を期待します」
「俺はダメダメだと思うけどな」
思い思いの事を考えながら。
「明日は僕が活躍するよ!」
だがみんなが同じ事を願っていた。




