冒険者ギルド7
「すごいじゃないか」
声を掛けてきたのは、ユウと同じ運動着を着た少女だった。
ギルドから提供される運動着は冒険者のクラスによって袖の色が違う。銅級なら茶色、銀級なら銀色、金級なら金色といった具合。だから、目の前の少女が銅級冒険者なのだと一目で分かった。
朝日の光を受けて輝いた金髪のショートヘアに力強く見開かれた金色の瞳。真っ直ぐに整えられた眉から凛とした印象を受ける。露出している四肢は引き締まっており、よく鍛えられているのが一目瞭然。まさに、カッコいい女子を体現したような少女だった。
「あはは……ありがとう」
誰にも見られていないと思っていたユウは動揺を誤魔化すように笑みを浮かべる。
「見ない顔だが、新人か?」
「実は昨日から冒険者になったばかりなんだ」
「道理で。普段この時間帯は私以外滅多に人がいないからな」
少女につられるようにパルクール場を見渡すが、他に人影は見えなかった。
「それにしても、このコースをその速さで踏破できるものを私は初めてみたよ。もちろん、金級冒険者も含めてだ」
金髪の少女は感心した声を出す。
その瞳は心なしか輝いているようにも見える。
「あー……そう! 俺はアスレチックが得意なんだ」
なんとか絞り出したユウの言葉に力強く頷く少女。
「なるほどな。それで剣を振るときだけあんなにたどたどしかったのか。銅級冒険者にしては動きが良すぎるから驚いたよ」
「それは、どうも……」
どうやら、藁人形相手にしくじったのが怪我の功名となってくれたようだ。
本当の強さは誰にも知られたくない。できるだけ目立たず、穏便に、平和に生きていけるだけで十分だから。
これもひとえに自動戦闘『弱』のスキルがいい感じに弱いおかげだな。その弱い部分というのが、素の実力だというところは悲しいが。
「ん? どうした、そんな暗い顔をして」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
ここでの目的はもう終えたから、一度寮に戻るか。
そう思い、少女の横を通り過ぎようとしたら強い力で腕を掴まれた。
「待て」
少女に握られた腕からは温かい体温が伝わってくる。
元いた世界では女子に触れたこともなかったユウは、それだけでどぎまぎしてしまう。
「え、えと……何か?」
「私はアリス・カルマ。十五歳。クラージュ団のリーダーをやっている」
少女はユウの目を真っ直ぐと見つめて、
「うちの団に入団してくれないか? いや、入団してほしい」
力強い声を響かせる。
掌から伝わる温かい体温に、裏表のなさそうな純粋な瞳にユウの心は揺れる。
団には入ろうと思っていた。
しかし、アリスという少女がどういう人物なのかまだ知らない。
「もしかして、もうすでにほかの団に入団を決めているのか?」
「いや、冒険者になって昨日の今日だから、団についてもよく分かっていないんだ」
素直にそう言うと、握られていた腕が離された。
そして、難しそうな顔で自分の顎に拳を当て、考える人のポーズを取る。
「そうか、団というのはな……簡単に言えば命を共にする集団だ」
「命を共にする?」
「そうだ。どんな状況でも決して仲間を見捨てない運命共同体。一人は皆のために、皆は一人のために。そんな団を私は作りたいと思っている」
団の説明から、いつの間にかアリスの意思表明に変わっていた。
異世界に来たばかりのユウにも分かる。
そんな理想の集団なんて存在しない。誰もが自分の利益のために行動するものだ。
しかし、恥ずかしげもなく堂々と自分の理想を言い放つアリスの言葉は気持ちよかった。
だが一点だけ、
「なんで俺なんだ? 今さっき会ったばかりの男を、その運命共同体に入れてもいいのか?」
その答え次第で入団を決めようとそう質問をした。
「私の直感だ」
「……直感?」
「そうだ。君を一目見て、欲しいと思った。それじゃダメか?」
張のある声が耳に叩きつけられる。
誤魔化すこともなく、飾ることもなく、どこまでも自分の気持ちに率直なアリスが気持ちよかった。それが、とても心地よかった。
「そんな笑って、何かおかしなことを言ったか?」
「俺、アリスのことが好きだなって」
しまった。と思った時にはもう遅かった。
目の前にいる少女の顔がみるみる赤くなっていく。
「なっなっなっ……いきなり何を言い出すんだ!」
「そ、そういう意味じゃなくて! その、心意気がカッコいいなってそういう意味で!」
ユウは自分の顔が熱くなっていくのを意識して、余計に恥ずかしくなる。
「ふふふ、顔が赤いぞ」
「ははは、アリスこそ」
二人して顔を赤くしていることに気が付いて、どちらともなく笑いあったのだった。
深呼吸をしてから、ユウは手を差し出した。
「ユウ・タチバナ、十六歳だ。アリスのクラージュ団に入団したい」
「もちろん、大歓迎だ」
アリスが差し出された手を握る。
そうして、ユウ・タチバナは正式にクラージュ団へと入団することになった。




