冒険者ギルド6
「いい感じの部屋じゃないか」
それが、エミリーと別れて寮に帰ってきたユウ・タチバナの素直な感想だった。
銅級冒険者の待遇はよくないと聞かされていたけれど、二十五平米の部屋は独り暮らしには十分な広さに思える。
最低限の家具しか置いてないのもあり、窮屈さは感じない。
キッチンにベッド。シャワーとトイレが完備されており、綺麗に掃除もされている。冒険者ギルドと聞くと荒廃したイメージを浮かべるが、案外しっかりとした組織なのかもしれないと思った。
「異世界生活も悪くないな」
そう呟いたユウは冒険者ギルドでもらったパンフレットを開く。
そこには、冒険者が利用できる施設の種類と場所が載っている。
上から流し見しているとお目当ての施設をすぐに見つけることが出来た。
トレーニング施設と書かれた場所を確認すると、ゴロンと床に寝転がった。
「明日は自動戦闘スキル『弱』を試してみるか……いい塩梅の強さであってくれよ」
転生直後は強いスキルに浮かれなかったと言えば嘘になる。
しかし、強すぎるスキルがこんなに使いづらいものだとは夢にも思わなかった。
新しい環境で疲労が溜まっていたユウはそのまま眠りに落ちていった。
◇◇◇
早朝、人の少ない時間帯を狙ってユウはトレーニング施設へとやってきていた。
見渡すほど広い草原には様々な障害物が置かれている。
大小様々な木箱に石の壁。足場が細い円柱のポールや空中に吊るされた網。そして藁人形がコースの間に置かれている。また、障害物の横にはカラフルな手のひらサイズのボールが入った籠もあった。
近くの看板には『パルクール場』と書かれている。
「予想通り早朝は人がいないな。これなら、目立たずにスキルを確認できる」
運動着を着たユウは腰の鞘に鉄の剣を収めた姿でスタート地点へと立つ。
軽く手足を振って準備運動。
最後にもう一度首を振り、周囲を確認する。
(誰もいないな)
そして、目を閉じ、意識を集中させた。
このスキルを使うときは少し覚悟が必要になる。
なぜなら、体の自由が制限され、まるで自分が操り人形になったかのような奇妙な感覚になるからだ。
「自動戦闘『弱』発動!」
スキルを唱えると、瞳が紅蓮に染まる。
何かが自分の中に侵入してくるような違和感が生まれては、絵具を混ぜるように体の中で一つになり、消えていく。
「パルクールなんてやったことないけど、今ならコースを見るだけで最適な動きが分かる気がする」
ユウは脳内で場内コースのシミュレートを完了していた。
そして、動き出す。
(体の自由がいつもより効くな)
風を切るように最初の障害物に片足を乗せて超える。勢いをそのままに、徐々に高くなる障害物も両手を使い超えていく。
三メートルほどの高さまで来たところで、その先は崖になっており、下に降りなければならなかった。
ユウは両手で壁にぶら下がり、身を低くして飛び降りる。
着地で膝を曲げて衝撃を吸収。前転をして前を向き直ると藁人形が交互に立っていた。
「切れってことか」
すぐさま鞘から鉄の剣を引き抜き、胴体を切りつけようとしたところで体勢を崩して横の地面に振り下ろしてしまう。
「あれ、急に体が重く……」
すぐに気持ちを切り替えて、斜め前の藁人形に剣を振りかぶるも重心が後ろに行き過ぎて、たたらを踏みながらもなんとか振り下ろす。
ガサッと藁人形の表面を切ることに成功した。
この区間を抜け、鉄の剣を鞘に収めると再び疾走。まるで、自転車に乗っている最中に突然電気自転車に変わったかのように体が軽くなる。
片足しか乗せられないほどの足場しかないポールへと爪先で着地し、軽快に次々飛び移っていく。徐々に高くなるポールにもかかわらず動きは落ちない。
最後は空中に吊るされた網を手と足で掴み、背中を地面に向けて重力に抗いながら進む。腰にある鉄の剣の重量も相まって相当な負荷がかかっているはずだが、ユウは水中を泳ぐようにスイスイとゴールまでたどり着いた。
「ゴール! よし、ある程度スキルについても分かってきた」
剣を使って藁人形を切ろうとした時だけ、明らかに体が鈍くなった。
だが、それ以外では雲のように体が軽い上に自由も効く。『中』や『強』に比べて自分の意思で動いている実感がある。
「自動戦闘『弱』というのは攻撃だけアシストがない。ということなのかもしれない……これは、使えるぞ」
ゴール台から階段を使って下りながら、ユウは一人ほくそ笑む。
強すぎず、弱すぎない。そんな理想のスキルだったからだ。
だが、問題があるとすれば相手を攻撃する時だけはユウ自身の能力が問われるということ。
「元々アクションゲームをやるつもりだったんだ。少しずつ強くなっていけばいいだろう」
爽やかな顔で階段を下り終えると、突然、遠くから拍手の音が耳に届いた。




