冒険者ギルド3-sideクリストフ
ユウ・タチバナが部屋を出て行ってから、紅茶をカップに入れて飲んでいると再び扉がノックされた。
「入ってくれたまえ」
扉が開いて部屋に入ってきたのは角刈りの大男であるコール・モリゾだ。
彼こそが先ほどユウに勧めたボウキー団のリーダーであった。
「失礼する」
野太い声が、室内に響く。
声音通りに太い眉に厳つい顔をした男。
背中に背負っている大きな長方形の盾を下ろし、壁に立て掛けてから近くのソファーへとドスンと座った。
胸には獅子が彫られた金の記章が付けられている。
それは金級冒険者であることを示していた。
ギルド長を前にしても不遜な態度で、大股で座り視線を投げかける。
「それで、話ってのは?」
「君たちが連れてきたあの男のことだよ」
それを聞くとコールは眉をしかめて天井を見上げてると、記憶を探るように頭を振った。
しばらくして思い出したのか「ああ」と呟きギルド長を見る。
「あの、ヒョロヒョロのガキか。行く当てがないってことで、うちのやつが馬車に同乗させた。そいつが何かやらかしたのか?」
コールはソファーに体を預けながらあくびをした。
「その彼が冒険者採用試験中に指導長ジミー・ダーモンを倒してしまった。それも、無傷でだ」
「へっ、あんなガキにやられるとか、あのじじいも耄碌したもんだな」
コールは身を乗り出して、愉快そうに口の端を歪める。
前のめりな姿勢になったところから、先ほどまでと違い少しは興味を持ったようだ。
「君の目から見て、彼はどう映る?」
執務机に両肘を乗せ、微笑を浮かべながら問いかけた。
それに対して、コールは不快そうに鼻を鳴らす。
「相変わらず遠回しな言い方をしやがる。何を聞きたいのか知らないが、俺から見たら青臭いガキでしかなかった。人を疑うということを知らなそうな子供だ。冒険者なんて荒くれものが集まる場所でやってけるとは到底見えなかったぜ」
息まいて吐き捨てるように言った後、自責するように舌打ちをする。
「そんな奴が、あのじじいを倒したと言うんだからにわかには信じがたい。まぁ、ギルド長が嘘つく理由もないから本当なんだろうがな」
「誰も君の見る目がないなんて思わないさ」
コールの内心を推し量るようにクリストフは小さくそう言った。
「それでギルド長からの評価は? じじいを倒したんだ銀級以上は確定だろ」
まるで常識だと言わんばかりの彼に対してクリストフは一度、手元の紅茶をすすった。そして、おもむろに椅子から立ち上がると、窓の外を臨む。
ギルド長室のある部屋は冒険者ギルドの最上階にあるため、人々が行き来する姿が小さく見える。試験に落ちたものは項垂れながら歩き、受かったものは姿勢よく背筋を伸ばして歩く。
長年ギルド長をやっていると、遠目でみるだけでも合否が分かるものだ。
「彼を銅級冒険者にしたよ」
「はぁ? あのじじいを相手にできるやつが銅級なわけねえだろ。いくら昔より腕が落ちてるとはいっても腐っても元金級だ。帝国でも屈指の実力を持つ男だぞ」
コールの言う通り、銅級が見込みのある素人だとしたら、金級冒険者は国のトップ戦力にも数えられる実力者となる。級の壁はそれほどまでに大きいのだ。
最初の試験で銅級と判定されたものは、大半が銅級のまま冒険者を終えることになる。
それにもかかわらず、ユウ・タチバナは銀級ではなく銅級を選んだ。
彼の言う通り、何かの間違いでジミーを負傷させただけの可能性も完全には捨てきれない。
「彼自身が望んだことでもある。それに、彼からは何も見えなかったのだよ」
「はっ、人の才能を見抜く魔道具とやらも案外大したことないんだな」
コールの言葉に、クリフストフは右目に掛けてある片眼鏡を触った。
そこに魔力を籠めると、眼鏡越しにコールが持っている魔力が全身から溢れているのが見える。冒険者と一般人を分けるのはこの魔力量の大小だ。しかし、ユウ・タチバナからは何の反応も示さなかった。
「別に、この魔道具だけで人の実力を決めつけたりはしないがね」
ため息をつき、椅子に座ると残りの紅茶を流し込んだ。
「話がこれで終わりなら俺はもう行くぜ」
ソファーから立ち上がり、背を向けて部屋から出ていこうとする。
「ああ、そうそう君の団に彼を誘ってみたよ」
「はぁっ!? 俺がそいつの面倒を見ろってか?」
予想通りの反応にクリストフは笑みをこぼした。
「いや、断られたよ」
「はぁっ!? 俺の団に入りたくねえってのか!」
「入ってほしいのか嫌なのか、どっちなんだい?」
「来るもの拒まず、去るもの追わずが俺の信条だ。それじゃあな、たくっ、時間を無駄にしたぜ」
今度こそコールはバンッとドアを閉めて、部屋から出て行った。
一人になったクリストフは、銀色の瞳を細めて窓の外に視線を向ける。
「スィル村に現れたのは成体のレッドドラゴン。金級冒険者が束になってようやく討伐できるレベルの敵だ。誰が倒したのかは気になるが、それよりも問題なのは……」
顎に手を当てて深い思考に沈む。
「あまり時間の猶予はないかもしれないな」
クリストフは平坦な声でそう呟いた。




