歓迎会1
エミリーの鋭い打ち込みをすべて跳ね返し、再び距離を取る。
「……当たらない」
木剣を下段に構えたエミリーが顔を歪ませる。
「ふう」
ユウは息を整えるために深呼吸をした。
アリスと違って速さはないが、魔法である『氷壁』を使いながらこちらの打ち込みを逸らす戦い方は相当に厄介だと思う。大振りをすれば、魔法で防がれ一撃を加えられる。かといって、それを警戒して攻撃を控えると瞬く間に防戦一方の展開になる。その状況を打開するために、細かなステップを繰り返すから体力の消耗が激しい。
自動戦闘スキル『弱』のおかげで、均衡を保ってはいるがアリスが苦戦するのも頷けた。直進的な彼女にとっては相性が最悪だろう。
「よし、今日はここまでだ」
アリスの声が合図となり、お互いに木剣を下げた。
エミリーが悔しそうに地団駄を踏む。
「いい汗がかけたよ」
「……余裕そうですね」
その言葉にユウは頭を掻くしかなかった。
拍手の音に振り向くと、アレンがにかっ、とした笑みを浮かべている。
「いや、すげえな。エミリーを手玉にとれる奴なんて見たことねえ」
「私は弓専門だから剣術については分からないけれど、まさに達人って感じがするよ」
竜禍の森の依頼を受けてからというもの、トレーニングの相手はエミリーになることが多い。
ユウ相手だと普段よりもモチベーションが高いからというのがアリスの言葉だった。
「まさか、ユウがここまで強いとはな。勧誘した私も鼻が高い」
「それは大げさだ」
みんなからの注目を受けて、ユウは照れ笑いを浮かべた。
会館のトレーニング室での訓練が終わり、それぞれが疎らに座って息を整えていた時だった。
アリスが立ち上がり、視線を集める。
「歓迎会を開くから、次の休みは予定を空けておくように」
アリスが高らかにそう宣言をする。
歓迎会。それは新しい人を迎える儀式。この場に置いての新参者はユウ以外にはいない。みんなの視線が自分に向いていることに気が付き恥ずかしくなった。
「てことは、次の休みには依頼を受けないってことか?」
喜色を浮かべて尋ねるアレンにアリスが頷く。
休みというのは、冒険者といえど嬉しいものらしい。
「そうだ。竜禍の森の調査で報酬がたくさんもらえたからな。歓迎会を開くのにこの上ないタイミングだろう」
その発言にアレンのみならず、サラや普段は表情に出さないエミリーまでも心なしか頬を緩めている気がする。
竜禍の森での依頼が過酷なものだったので、休暇が欲しいと思う気持ちはユウも同じだった。
「それなら、私がみんなの料理を作るよ」
サラがのんびりとした声で手を振る。
まるで暗黙の了解といわんばかりに、誰からも異論はでない。
「助かる。他に料理が得意な人はいないからな」
「よっしゃー、サラの手料理とか久しぶりだぜ。めっちゃ楽しみ」
「言い過ぎだよ~」
二人に褒められたサラも満更ではない顔だ。
ぐうと小さくお腹の鳴る音が聞こえたほうに視線を向けると、頬を赤らめたエミリーがお腹をさすっていた。
そんな状況に自然と料理に対する期待度も上がってしまう。
美麗な顔に、服を押し上げるような胸。それに加えて料理までできるなんて完璧すぎるんじゃないだろうか。
「そんなに見つめてどうしたの? 私が料理できるのことがそんなに驚きだった?」
ユウの視線に気が付いたサラが、柔らかな笑みを浮かべる。
「いや、みんなが嬉しそうにしているから、俺も楽しみで」
「そうだ、よかったら一緒に食材を買いに行こうよ」
手を叩いて、ユウを誘う。
特に断る理由もなかったユウは頷いた。
サラと買い物か。
この都市についても知らないことばかりだからちょうどいいな。
「やったー、それじゃ当日の朝に会館前集合ってことにしよう」
「了解だ。あまりこの都市について詳しくないから案内を頼む」
「任せてよ。って、私もそこまで詳しくないけどね」
てへっ、と自分の頭に拳骨するサラが可愛かった。
待てよ、これってもしかしてデートなのか? 女の子と二人きりで買い物はデートだよな?
「僕も誘ってくれれば荷物持ちぐらいにはなるぜ」
「二人で十分かな。あまり人数多くてもしょうがないからね」
やんわりと断られたアレンが項垂れていた。
まるでいつものことだと言わんばかりにアリスは腰に手を当てている。
エミリーにいたっては、視線すら向けていない。
(ちょっとだけ、不憫に思えてきたな)
ユウが入る前は男一人に女三人と物語の主人公みたいで、そこに割って入るのに罪悪感があったけれど、思い違いをしていたのかもしれない。
女子の比率が高いチアリーディング部に男子が混じっている感覚だろうか。一見すると羨ましく思えるけれど、現実的に自分が入るところを想像すると、とても居心地が悪い思いをしそうだ。
アレンのユウに対する友好的な態度には、そういう理由もありそうだった。
「くそ……ユウさえいなければ……」
前言撤回。
嫉妬の炎を灯してユウを睨む視線からは友好的な気配は一切感じない。むしろ恨んでいる気すらする。
ユウは苦笑しながら頬を掻いたのだった。




