鍛冶屋2
「装備品を買いに行くぞ」
ギルド本部から出た途端に、アリスがそう宣言をした。
口角を持ち上げて、高らかに金貨の入った鞄を掲げている。
金髪のショートヘアーが太陽の光でまぶしく輝いていた。
「装備品? 誰の?」
報酬を得て気分が高揚しているアリスにユウはポカンとした表情で首を傾げる。
晴天の爽やかな風が彼女のスカートを揺らす。
「そんなの決まっているだろ。ユウ、お前のだ」
ユウの腰に差さっている鉄の剣が収まった鞘を見ながら言った。
そうして、ユウはアリスに連れられて装備品を買うことになった。
◇◇◇
馬車で数十分。
ユウたちは武器店や防具店が連なる一画を歩いていた。
辺りには鎧を着た冒険者たちが多くいる。
「ついたぞ、ここだ」
ユウの目の前には古風な木造建築。
看板の前にはミカエルと文字が彫られた看板があった。
「おお、なんだか匠な雰囲気があるな」
「そうだろ? 装備品の質も高いんだ。少し変わった店主だけど、まあユウなら大丈夫だろう」
「へ? それはどういう」
「ほら、入った入った」
アリスに促されるまま店の暖簾をくぐった。
中は日本家屋を思わせる畳に囲炉裏が設けられており、ヤカンらしき鉄の入れ物が吊るされている。
その奥に左目を隠すように眼帯をつけた男が寝転がっていた。
「ここがお店なのか? なんだか、親戚の集まりで行く祖父母の家という雰囲気なんだが」
「安心しろ。ちゃんとした鍛冶屋だ。おっちゃん! アリスだ」
寝ている男に向かってアリスが大きな声を出す。
すると、男はあくびをしてこちらに視線を向けた。
「あ? おお、アリスか。何だ今日は彼氏でも紹介しにきたのか」
「か、彼氏ではない! 客だ! 客を連れてきた」
頬を赤らめながら突っ込むアリスを無視して、男が立ち上がり歩いてくる。
黒い眼帯に赤い長髪の男が黒い着流しを着ている。
どこかぼんやりとした表情でユウの体を横目で見た。
「よくこんな美少年をものにしたな。結婚はいつだ?」
「だ、か、ら! 違うと言っているだろう!」
「あはは、冗談だ冗談。ふ~ん、俺はミカエル・フォージョン。名前は?」
ミカエルと名乗った男は顎でユウを指す。
店の看板に彫られた名前と同じということは、この人が店主なのだろう。
態度は軽いが、柔らかい声質のせいか嫌な気はしない、不思議な人だと思った。
「ユウ・タチバナだ。アリスに連れられてこの店に来たんだが……店であってるよな?」
生活感たっぷりな内観を見まわす。
畳の上には座布団が敷かれており、装備品の類は全くない。
普通、店っていうのは商品をお客に見えるところに置くものではないだろうか。
「ん? ああ、うちは紹介制でやってるからな。そんなひょろい体で強そうには見えないがアリスの頼みだしな。見繕ってやろう」
頭を掻きながらやる気のない口調で男は背を向ける。
人差し指をくいっと動かすのを見るに、付いてこいと言っているようだ。
「この人は信用して大丈夫なのか?」
ユウは不安な顔でアリスを見やる。
それに対してアリスは「ああ」と笑う。
「腕はピカ一だ。私の装備もすべてオーダーメイドで作ってもらっている。だから、安心していい」
アリスが言うのならと、ユウは靴を脱いでミカエルの後を追った。
居間の奥は廊下に繋がっており、かなりの奥行がある。
迷わないように早歩きになると、曲がり角を曲がった突き当りの部屋へと案内された。
畳張りの客室といった感じの部屋。
「ここで待ってろ。今、採寸してもらうから。アリスはこっちに来い。武器のメンテナンスをしてやるから」
「助かる。またなユウ」
二人はユウの返事も待たずに、伝えるだけ伝えると部屋を出て行ってしまった。
「また……って、置いてけぼり?」
嵐のように過ぎ去っていった二人に唖然としながらも、懐かしい畳の部屋に気分が高揚していた。
足から伝わる硬すぎず柔らかすぎない感触に、強めの草の匂いに風情を感じる。
と、そこにノックの音が響く。
「お客様。失礼いたします」
「は、はい!」
慌てたユウの言葉にゆっくりと扉がスライドされていく。
開かれた扉の前には青い着物姿の少女が正座をしていた。
長髪をお団子でまとめた艶のある黒髪に襟首から覗く瑞々しい肌。幼さの残る丸顔には庇護欲をくすぐられる魅力がある。サラほどではないが、大きく実った胸が着物を押し上げていた。
「私はフローラ・ホルタと言います。以後お見知りおきを。では、採寸致しますので、動かずに姿勢を正しておいてください」
年齢はアリスよりも若そうに見えるが、丁寧な言葉づかいに感心する。
やはり、冒険者と商人ではそこらへんの違いも出てくるのだろうか。
なんて、考えていたユウは少女の着物を見て噴き出した。
「ぶっ」
「どうかしましたか?」
こくりと首を傾げるフローラに対してユウの視線は着物の裾に釘付けになる。
体に巻き付けている赤い帯の下がサイズを間違えたかのように短い。
太ももの半ばまで丸出しのミニスカート状態になっていたのだ。
「そ、それは着物なのか? すごく短いけれど」
そう言うと、少女は頬を赤らめながら両手で裾を押さえると、
「あまり……見ないでください」
俯きながら、ささやくような小さな声を発した。
「ご、ごめん」
思わず謝ってしまったユウだが、これは自分が悪いのかと疑問が浮かぶ。
この世界、戦闘時の女性陣の格好といい、やたら女子のスカート丈が短い。
やはりビジュアル重視のゲーム世界観がそのまま現実に置き換わっているのかもしれない。
「では、採寸を始めます」
フローラは手に細長い紙製の測りを持ち、真剣な表情でユウに近づいた。




