↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強のオートファイター  作者: 空延翼
三章 初任務
22/29

初任務7

 壁が薄いのか、部屋の前を歩く足音が聞こえてくる。

 ユウは瞼(まぶた)を蓋(ふた)したままで耳を澄(す)ましていた。

 しばらく寝起きの、たゆたうような感覚を楽しんでいると、ドタドタと明らかにこちらの部屋に向かってくる足音に気が付く。

 ただ通り過ぎる人と、意図を持って近づいてくる人が本能で理解できる。そんな人間の感覚ってすごいと思う。

 

 ユウは迎え入れるために体を起こした。

 ランプの明かりはいつの間にか消えており、代わりに太陽の光が窓から室内を照らしている。

 両手を眼前で開いたり閉じたりを繰り返す。

 昨日の戦いの疲労はすっかり抜けて、体が軽かった。


 「おーい、ユウ。起きてるか?」


 アレンの声がドア越しに聞こえてくる。

 彼にはここまで運んでくれた恩(おん)義(ぎ)があったため、二つ返事で受け入れた。


 「起きてる。入ってきてよ」


 「それじゃ、失礼して」


 くぐもった声の後にドアが開かれる。

 しっかりと承(しょう)諾(だく)を取ろうとするなんて、意外と律(りち)儀(ぎ)な男だ。


 鎧(よろい)を脱いだアレンはシャツにズボンという質素な服装をしている。

 それが逆に彼の肉体が強調され、とても似合っているような気がした。

 ユウの顔を見ると、にかっ、と笑顔を見せて近くの椅子に座る。


 「おはよう。体は良くなったか?」


 「おかげ様で。昨日は迷惑をかけたな」


 ユウが申し訳なさそうに眉を下げるも、アレンは軽く首を振った。


 「あれぐらい朝飯前だ。何しろ普段から鍛えてるからな。人一人ぐらい抱えながらでも一日を過ごせるぐらいだ」


 キラリと歯を光らせて腕をまくるアレン。

 その姿からは冗談で言っているようには見えなかった。


 「そういえば、エミリーがいないけど、どっか散歩にでも行ってるのか?」


 その声にユウは隣のベッドに視線を向けると、布団だけ捲(めく)れていて誰もいなかった。

 近くの床には黒いスパッツが落ちている。

 それだけではなく、紺(こん)色(いろ)のスカートも乱雑に脱ぎ捨てられていた。


 「まったく、服も脱ぎっぱなしでやっぱまだ子供だな」


 アレンの言葉にユウは寝ぐせを直しながら苦笑で返す。


 「まあ、まあ」


 「それにしても、昨日は驚いたよ。エミリーが急にユウと相部屋がいいって言い出すもんだからな。僕はユウと男同士の夜話とかする気満々だったのに」


 「なんかその言い方だと、いやらしく聞こえるな」


 「友情を深めるのにいやらしいもあるかい。それを言うなら、女と二人部屋で一夜を過ごしたお前こそだな……」


 そこで語尾が尻すぼみ、エミリーの脱ぎ散らかしたスパッツとスカートに目をやる。


 「まさかとは思うけれど、エミリーに手を出してはいないよな? 相手がサラなら気持ちも分かるが、年(とし)端(は)もいかない少女となんて……」


 アレンのひきつるような顔にユウは呆れた溜息をこぼす。

 部屋に来て早々、この男は一体何を言い出すんだよ。


 「あのな、そんなことするわけ……」


 ないだろ、と言いかけたところで、もぞもぞと股間付近の布団が盛り上がる。

 小さな手がユウの太ももを手すりのように掴(つか)んだ。


 (おい、まさか)


 そんな嫌な予感にじっとりと冷や汗をかく。

 アレンがごくりと唾(つば)を飲み込むように喉(のど)ぼとけが動いた。


 「失礼ですね。私はそんなに幼くありません」

 

 ユウの横から、ひょいっと小さな顔を出したエミリーが血色のいい赤い唇(くちびる)で言葉を紡(つむ)ぐ。白の上着姿の上半身を出した辺りで、ぐるぐると布団を体に巻き付けて下半身を覆(おお)う。

 肌を一切も露(ろ)出(しゅつ)させないその巧(たく)みさは見事だった。 


 「アレン。視線がいやらしいです」


 エミリーは下半身を覆う布団をきゅっ、と強く握りしめる、


 「ち、違うぞ! 僕はただ驚いただけで。というか、お前ら一緒のベッドで……」


 アレンは口を開けてユウとエミリーを交互に視線をやる。

 何かを言いかけては言葉を選ぶように口を閉ざす。

 

 「ユウ、昨日のことは秘密です」


 エミリーは銀の瞳を細めて、ぺろりと、赤い舌で唇を舐(な)める。

 白い頬(ほお)を微(かす)かに赤らめた姿はとても艶(なま)めかしかった。


 「お、お、お前ら……やっぱり……」


 「待て。アレンはとてつもない勘違いをしているぞ」


 その時、二人の足音がドアの外から聞こえてきた。

 女性の話声がドアの前で止まり、開かれる。


 「ユウ、起きてるか」

 

 「おはよう~」

 

 薄手の服装のアリスと、胸当てをはずした姿のサラが胸を弾(はず)ませながら部屋に入ってきた。そして、ベッドに座るユウと、同じベッドの上で布団を体に巻き付けているエミリーを見て硬(こう)直(ちょく)する。

 二人の視線は床に散らばった女性服に向いているのが明らかだった。

 ユウは額(ひたい)に手を当てて、天井を振り仰(あお)ぐ。


 「お前ら……まさか」


 「ユウって小さな女の子が好みだったんだね」


 アリスの絶句した表情に。

 サラの見開いた碧(へき)色(しょく)の瞳に。


 「何を勘違いしているのか分かるぞ。俺も同じ立場なら似たようなことを思うだろうから。代わりにエミリー、説明してくれ」


 できるだけ冷静に答えたユウは、助けを求めるようにエミリーに顔を向ける。

 なぜ、同じベッドで寝ているんだ。という、ユウ自身の疑問の答えも求めながら。

 四人の注目を一身に浴びたエミリーは銀髪を梳(と)くように触り、にこりと微(ほほ)笑(え)んでこう言った。

 

 「おはようございます。昨日はぐっすりと眠れました。これも、ユウが私を受け入れてくれたおかげですね」


 そんな誤解しか生まない言葉選びに、ユウはしばらく居心地の悪い思いをするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。