クラージュ団6
会館を出た後、ユウはアレンに誘われて一緒に帰路についている。
訓練が終わった頃には日が沈んでおり、街灯の明かりが夜道を照らしていた。
「アリスとの戦いだけど、銅級冒険者の中で彼女を圧倒できる人なんて見たことなかったよ。あの身のこなしといい、何か武術でもやっていたのか?」
なんとなくそんな気はしていたが、アリスは冒険者の中でも強いほうのようだ。
実際、自動戦闘というチートスキルを使っていても、ヒヤッとする場面が多かったから納得できる。
「いや、独学だ。アリスってやっぱり強いほうなのか?」
「次に銀級冒険者に上がるのは誰かと聞かれたら筆頭に上がる人物だな。まっ、あの戦いを見せられちゃ、アリスよりもユウのほうが早そうだけど」
つまり銅級冒険者の中でも上位の実力ということらしい。
そんな彼女を倒してしまったことで、新人から頼もしい仲間へと扱いが変わった雰囲気を感じた。
「俺は銅とか銀とか、そんな称号に興味はないんだ。ただ、生きていくだけのお金を稼げればそれでいい」
「それで冒険者を選ぶんだから、物が違うな。冒険者ってのは常に危険と隣り合わせだ。覚悟を持ってこの道を歩む者ばかりの中で、そんな考え方なやつは珍しい。まったく、頼もしい限りだよ」
にか、とさわやかに笑うアレンからは皮肉でもなんでもなく、本心からの言葉のように思えた。
(危険と隣合わせか)
快く受け入れてもらえたのはアリスの人柄もあるのだろうけれど、仲間が増えることによる安心感もある気がする。
それにしても、こんなイケメンに笑いかけられたら女子はイチコロだろうな。
美男美女グループに割って入る罪悪感がユウの中でふつふつと湧いてきた。
「そう言ってもらえて嬉しいよ。でも、俺なんか冴えない男が一緒で女子たちは嫌じゃないか?」
入団初日にサラの着替えを覗いてしまったり、初対面で悪印象を与えてしまったエミリーと一緒だったりで女子たちがどう思っているのかが気になってしまう。
アリスの手前、嫌だとは言いづらいだろうから内心で嫌われてたら嫌だなあ。
「ふふ……ユウが冴えないだって?」
笑いを堪えるように笑みにユウは眉をしかめた。
「なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言ってくれ」
「いや、悪いな。あまりにも真面目な顔で言うものだから冗談かと思ってな」
くくくと腹を押さえたアレンは軽い口調で言った。
「そんな二枚目みたいな顔しといて、何が冴えないだよ。最初はてっきりアリスが彼氏でも連れてきたのかと思ったぐらいだ」
「か、か、彼氏だと?」
アリスの彼氏。
そう考えただけでユウの顔が熱くなった。
「驚くことないだろ? 普段、男なんて興味ないみたい顔しているアリスが嬉しそうに連れてきたんだからな」
「男ならアレンだっているじゃないか」
「ん? ああ、僕はアリスの幼馴染ってだけだよ」
「幼馴染だって? つまり、ギャルゲーにおいて主人公とヒロインの関係じゃないか」
「えっと、ごめん。ユウが何を言っているのか分からない」
口をぽかんと開けるアレン。
そんな様子の彼を無視してユウは歩く速度を上げた。
「ちょ、ちょっと。急にどうしたんだよ」
「アレン。今からお前は俺の敵だ」
「は? 何か怒らせること言ったか?」
「知らん。くそ、油断するんじゃなかった」
早歩きのユウに追いすがるアレン。
「もしかして、僕とアリスが幼馴染だからって嫉妬しているのか?」
ユウはピタと足を止める。
嫉妬じゃない。
自分がこの世界にやってこなければ、アレンはまさに物語の主人公ポジション。
だから、この感情は罪悪感だ。
ユウの肩にポンとアレンの手が置かれる。
「というか嫉妬したいのは僕のほうだよ。初日からサラやエミリーと僕より仲良くなるなんて、どんな魔法を使ったんだい?」
正反対にアレンは嫉妬の感情を隠そうともしなかった。
「俺とエミリーの仲がいい? むしろ嫌われているだろ」
「あのな、女子が本気で嫌ってるやつの耳元に顔を近づけるかっての」
客観的に見たらアレンの言い分は正しいのだろう。
しかし、エミリーとの間には深い事情がある。
だが、それは二人だけの秘密なので、明かせないのがもどかしいところだ。
「否定しないんだな。モテる男は羨ましいね」
「だから、さっきから二枚目だのモテるだの、お世辞もほどほどにしろよ。過剰な褒め言葉はむしろ侮辱だ」
元の世界では女子と付き合ったこともない男がモテるわけない。
異世界にきたって顔は変わらないのだから。
と、鼻で笑った時、この世界に来る前のことが脳裏をよぎる。
少女のNPCと話をして、そこで何かを操作したような……。
(そうだ、キャラクリエイト画面だ。だが髪と目の色を変えただけでそれ以外はデフォルトのはず)
異世界に転生するという出来事に気をとられて、ユウは自分の容姿について無関心になっていたことに気が付く。
デフォルト設定とは、万人に受け入れられるということ。
そして、ゲームとは理想の人物に成りきるという側面もあるということ。
つまりは、
「ユウ、お前は自己評価が低すぎる」
アレンは苦笑しながら首を振る。
「君を見た百人が百人、異口同音に美形だと答えるだろう」
それにユウは何の反論もすることができなかった。




