クラージュ団5
「……あっ」
ユウとエミリーはお互いを認識して、同時に声を上げた。
予想外の人物に呆気に取られていると、アリスが不思議そうに首を傾げる。
「なんだ、もしかして二人は知り合いなのか?」
ユウが「図書館で……」と口にしようと息を吸い込むと、先手を取るようにエミリーが、
「違います」
短く興味なさげに答えた。
そして、スタスタと端っこまで歩き、腰にある剣の鞘を壁に立て掛ける。
鞘は反っていて、刀のように思えた。
その長さはエミリーの身長の半分ほどだ。
「なんですか?」
じっとエミリーの武器を見ていたら、銀色の瞳で睨まれた。
なんだか機嫌が悪そうに見える。
(まあ、出会い方が最悪だったからな)
ユウは苦笑を浮かべて、自分の頬をかく。
「その武器って刀だったりするの?」
「そうですけど」
やはり、エミリーは刀を使うらしい。
俄然、日本人として親近感が湧く。
特にエミリーのような小柄な少女がどのように刀を扱うのか気になった。
「使っているところを見せてくれないか!」
「……いいけど」
ユウの前のめりな姿勢に押されて頷くエミリー。
「その前に」
そう言って、ユウは耳たぶを引っ張られた。
されるがままエミリーの赤い唇がユウの唇に近づき、横を通り過ぎる。
鼻息がユウの耳にかかるほどの距離で、
「あのこと誰かに話しましたか?」
ゾッとするほど冷たい声で呟かれ、慌てて首を横に振る。
「誰にも言っていないって。俺は秘密を守る男だから」
同じくコソコソと小さな声で返す。
「おいおい、何いちゃついているんだよ。もしかして二人は付き合っているのか?」
茶髪のアレンから茶化すような声が飛ぶ。
それに対して銀の瞳で睨み返したエミリーは、
「ちょうどいい。ユウに私の実力を見せてあげる」
刀の鞘を手に取り、アレンに向けて先端を突き付ける。
「げっ、まじか」
アレンは顔を引きつらせて、ぼそっと呟いた。
「その様子だと、自己紹介は不要のようだな。それじゃ、私も二人の戦いを見学するとしよう」
「賛成~」
そうして、エミリー対アレンの一対一が決まった。
真剣を使うわけではないらしく、エミリーは刀に似た木剣を手に取る。
そして、木剣を床に引きずるように先端を下に向け、下段に構えた。
対するアレンは幅の大きく重量感のある、いわゆる大剣と呼ばれる木剣を両手で構える。
「サラ、エミリーって強いのか?」
ユウは隣に座っているサラに視線を向けた。
「もちろん。強い順で言ったら、エミリー、アリス、アレン、最後に私かな」
銀級冒険者だけあって、さすがに一番強いようだ。
しかし、あのアリス以上というのが信じられない思いでいた。
ユウは始まろうとしている二人の戦いに意識を向ける。
「いきます」
短くそれだけ言うと、木剣を下段に構えたまま真っ直ぐ走り出した。
走りは綺麗だが、アリスと比べると遅いように思える。
アレンはその場から動かずに木剣をエミリーに振り下ろす。
エミリーは木剣を下段に構えているため、防御が間に合わないだろう。
ユウはエミリーの頭に木剣が当たる想像をし、眉を寄せた。
「氷壁」
木剣が当たる寸前、小さく呟かれた声が聞こえた。
その瞬間、アレンの振り下ろした木剣が何か固いものに当たった音がして勢いが止まる。
「ぐっ、相変わらずの硬さだ」
「隙あり」
無防備になったアレンの脇腹から鈍い音がする。
「へっ……全然痛くないね」
その声は震えており、やせ我慢なのは明白だった。
「そうですか。ではもう一本いきましょう」
エミリーは何食わぬ顔で元の位置に戻り再び木剣を構える。
「どうやってエミリーはアレンの攻撃を防いだんだ?」
明らかに頭へと当たったと思った一撃。
そんなユウの驚きにサラは涼し気な笑みをこぼした。
「あれが、エミリーの魔法だよ」
「魔法!?」
ユウは今まで異世界に来て魔法と呼ばれるものを見たことがない。
てっきり、ユウが転生したゲームは硬派でファンタジー要素が薄めなのかと思っていた。
「あら? そんなに驚く? 銀級冒険者の大半が魔法を使えるのだけれど」
サラから当たり前のように言われたユウは、無言で二人を見つめるアリスへと視線を向ける。
アリスとの試合で手加減されたとは感じなかった。
ということは、アリスは魔法を使えないのかもしれない。
だが、銀級冒険者のエミリーと比べて動きのキレは明らかに上だった。
(残酷だな)
魔法の強さは、火を見るよりも明らか。
アレンはしっかりと鍛えられた男の体をしている。
そんなアレンが大きな木剣を振り下ろしても、小柄で線の細いエミリーが難なく受け止めてしまうのだから。
「では、いきます」
再び、エミリーがそう声をかけると木剣を床に引きずるようにして走り出す。
アレンは木剣を上から振り下ろすと見せかけて体ごと吹き飛ばすように水平に振る。
「氷壁」
しかし、その一言で木剣の一撃は透明な壁に阻まれてしまう。
ユウが目を凝らすと、それは氷のようにも見えた。
「隙あり」
やる気のない声音で先ほどと同じ脇腹をバシンと叩かれる。
「ぐお……い、痛くねえ」
「では、もう一回」
再び、初期位置に戻って木剣を構える。
そんな惨劇が目の前で繰り広げられていた。
「と、止めなくてもいいのか?」
その一方的な戦いにユウはアリスに声をかけると、
「ん? ああ、気にしなくていい。いつものことだ」
アリスもサラも見慣れた光景と言わんばかりに静観している。
その後もエミリーはストレスを発散させるように、無表情でアレンの脇腹を叩き続けたのだった。
「よしっ、今日はここまでにしよう」
「くそお、一撃も入れられなかった」
アレンは悔しそうな顔で床を叩く。
脇腹を押さえた様子は相当痛そうだった。
「ユウ、これが訓練の時間表だ」
アリスから渡された用紙には、平日の夕方に訓練。土日には依頼と書かれていた。
「基本、うちの団は平日に訓練をして、土日にギルドからの依頼をこなす」
「なんで平日の訓練は夕方に固まっているんだ?」
アリスからの説明にそう問いかけた。
平日の朝と昼が不自然に開いていたからだ。
「そんなの学校があるからに決まっているだろ」
「が、学校!?」
「ん? もしかして、ユウは学校に通っていないのか?」
ユウは四人から生暖かい視線を浴びた。




