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最強のオートファイター  作者: 空延翼
二章 クラージュ団
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クラージュ団4

 アリスの持つ木(ぼっ)剣(けん)の先(せん)端(たん)が突(つ)き付けられている。

 ピリピリとした空気を肌で感じながら、ユウは自動戦闘スキル『弱』を発動した。その途端に瞳(ひとみ)が紅(ぐ)蓮(れん)に染まる。


 「いい眼だ。では、いくぞ」


 それが開始の合図だった。

 間合いの駆け引きなどなく、一直線にアリスが飛び込んできた。

 流れるような滑(なめ)らかさでユウの胸元へと木剣の先端が突(つ)き出される。

 速い。そう思ったときには木剣が目と鼻の先まで迫(せま)っていた。

 だが、ユウの体は寸(すん)でのところで身を翻(ひるがえ)して躱(かわ)す。

 

 「なっ!?」

 

 アリスの驚(きょう)愕(がく)する声が目の前を通り抜ける。

 その背中に木剣を振り下ろすが、空(くう)を切るだけに終わった。

 外れたと思ったのもつかの間、体が後ろへ引っ張られるようにジャンプする。

 シュッ、とユウの立っていた場所に足を狩るようなアリスの回し蹴りがかすめていった。

 そして、お互いにバックステップを踏み距離を取る。

 

 感(かん)嘆(たん)の声が周囲から沸(わ)き上がった。


 「おお、初見でアリスの突撃を躱(かわ)すなんてやるな」


 「最初の突きは当たったかと思ったよ」

 

 アレンとサラの称(しょう)賛(さん)の声とは裏腹にユウは冷や汗をかいていた。

 銅級冒険者。所(しょ)詮(せん)、最下級ランク。心の中でどこか見下していたのだと気づかされる。

 アリスの突撃を受け切ったのはユウではない。スキルの力だ。

 スキルなしでは反応することすらできなかった。

 

 対してアリスは木剣を構えながらも、先ほどのように攻めてくる気配がない。

 息を整えながら、鋭(するど)い目つきでユウを見(み)据(す)える。

 こちらが一歩動くと、それに合わせて距離を取る。

 無言の一(いっ)進(しん)一(いっ)退(たい)が繰り広げられていた。

 

 俊(しゅん)敏(びん)性(せい)を生かした突きスタイル。さらに、体術まで心得ている。

 突きも蹴(け)りも一つ一つ空気を切り裂(さ)くような音には相当な威(い)力(りょく)が込められているのが分かる。

 だからこそ、下手に近づけない。

 自動戦闘スキル『弱』には攻撃サポートがないからだ。

 防御に関しても『強』では、ドラゴン相手に自動でカウンターまで入れていたのと比べると、最低限といった感じ。いや、それでも脳が認識する前に体が動く時点で、十分すぎるほど強いのだけれど。


 元いた世界で武術などをやっていたわけではないユウは、相手から攻撃されるストレスに体が動けないでいた。

 

 「来ないなら、こちらからいくぞ」


 アリスが木剣を振り上げて今度は円を描くように走り出す。

 死角を取られないように、それに合わせてユウも細かなステップで体の向きを調整。

 スキルの効果で体は軽い、複雑な足さばきも難なくこなすことができる。

 ユウの片足がわずかに地面から離れた瞬間、急停止からの直角に突撃してきた。


 垂直な線を描くような刺(し)突(とつ)を認識できたころには、木剣を構えた内側にアリスの木剣が侵(しん)入(にゅう)している。普通なら避(よ)けられない距離。だが、ユウは相手を引き込むように重心を後ろに倒すことによってできた、わずかな時間で体を横にし、再び寸(すん)でのところで刺(し)突(とつ)を回避。


 その一瞬、アリスの動きが鈍る。

 今度こそは、と木剣を振り下ろすと、ショートカットをした金髪の端(はし)をかすめる。

 ぎりぎりで顔を傾(かし)げて回避された。だが、その際に見えた横顔は陰(かげ)っていた。


 しかし、アリスは攻撃の手を緩めない。

 再び、今度は速度を優先させた一直線の動き。

 ユウにはアリスの動きが速すぎて反応が遅れるが、スキルがクルリと体を動かし躱(かわ)す。まるで同じ映像が巻き戻されるように、何度も繰り返される。


 そんな中、カウンターぎみに放たれたユウの振り下ろしがアリスをついに捉(とら)えた。

 どうせ回避されると思って放ったユウの加減なしの一撃を、左腕に受けてバシンと音が鳴る。


 「っ……」


 アリスは痛みをこらえながら後退し、間合いを開けた。


 「あっ、ごめん! 大丈夫?」


 ユウは試験官のジミー・モーダンの件もあり、肝(きも)を冷やしていた。

 その声に、アリスは構えを下ろして静かに目を閉じる。


 「ここまでだな」


 そう言ったアリスは、下唇を噛(か)みしめて悔(くや)しそうな表情を見せた。

 思いがけず始まった一対一が終わり、ユウは長い息をはく。


 「すげぇ……つ、強いじゃないか。ユウ!」


 アレンはまるで見世物でも見たように拍手をしている。


 「まるで子供と大人の戦いを見ている気分……」


 サラのおっとりとした碧(へき)色(しょく)の瞳は見開かれていた。

 しかし、二人の称賛にユウは素直に喜べない。

 アリスは想像よりも何倍も強かった。

 勝てたのは偏(ひとえ)に自動戦闘スキルという反則スキルのおかげだ。

 生身じゃ手も足もでなかっただろう。


 「アリス、いい勝負だった。あの刺突には何度もヒヤッとさせられたよ」


 「……お世辞はいい。こんな完敗を喫(きっ)したのは、久しぶりだ」


 はっきりと負けを認めるアリスはそう言って天井を見つめた。


 「まあでも、これで二回目だ。つまり、私の見る目が間違っていなかったということでもある。頼もしい団員が一人増えたことを素直に喜ぶべきなんだろうな」


 ユウは両手をだらんと下げたアリスに、掛(か)ける言葉が思いつかなかった。

 今の彼女にどんな慰(なぐさ)め言葉を送っても逆効果にしかならないだろう。

 敗者に掛ける言葉なし。

 そんな、沈黙が場を支配していた時だった。


 入口の扉が開く音がした。

 

 「遅れました」

 

 抑(よく)揚(よう)のない声に振り向くと、そこには見覚えのある人物が立っていた。

 銀髪の長髪を垂(た)らし、光を反射させるような白い肌。余計な肉がついていないシュッとした顎(あご)に健康的でつややかな赤い唇(くちびる)。感情の掴(つか)めない銀色の瞳で室内を見渡すのは、図書館で出会ったエミリーだった。

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― 新着の感想 ―
やはり5人目は彼女か…。これで男が他に居なかったらタチバナ氏を血祭りにあげていたところだった…。 今はまだ、「チートスキルの存在がバレて団員達から軽蔑される悪夢」を見やすくなる呪詛の念を送るに留めてや…
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