クラージュ団3
壁に背をつけながら、体育座りのサラと話していると正面の入り口の扉が開き、冒険者の制服を着た二人組が一緒に入ってきた。
「みんな集まってるな。ユウも遅刻せずに偉いぞ」
一人はアリス。
金髪のショートカットを揺らしながら、力強い金色の瞳が二人を捉える。
そして、腰に手を当てて満足そうに頷く。
その腰からはカチャっと剣帯が揺れる音がした。
「おっ、新人発見」
もう一人は茶髪をした背の高い男だった。
背中に大きな鞘を背負いながら、額で庇を作りユウに白い歯を見せた。
茶色の瞳は好奇心を湛えている。
その爽やかな顔は女性陣に負けず劣らずの美形だ。
(この団、顔面偏差値高くね?)
ユウは内心で引け目を感じていた。
まるで、修学旅行の班決めでクラスカースト上位メンバーと一緒の班になったような気分。
「よ、よろしく」
ユウは気弱な笑みを浮かべて挨拶を返す。
「というか、サラと距離感近くないか!?」
男が驚いた様子でそう口にする。
その声にユウは横目で隣を見ると、体育座りをしていたサラはいつの間にか足を閉じて横座りに変わっていた。
「クラージュ団の仲間になるのでしょ? それなら、仲良くならないとだからね」
相変わらずおっとりとした口調でユウを見て微笑む。
碧色の瞳に見つめられ、ユウは赤面する。
「それなら、僕も横に失礼……」
そう言って一歩前に踏み出した男に、
「ふふふ……」
表情は柔らかなのに、どこか近寄りがたい笑みを浮かべたサラ。
そんな彼女に男は立ち止まり、距離を離して座った。
「ま、まあ。それは冗談として……」
そんな、水面下の駆け引きが終わり、一段落ついたところでみんなアリスに視線を向ける。
黙ってやり取りを見ていたアリスはごほんと咳払いをして、話出す。
「それじゃ、みんなが集まったということで、簡単に自己紹介をしてもらう。私はいいとして、アレンから」
アリスに促されたアレンは手を挙げる。
「はい、一人足りないと思います」
「ああ、心配ない。少し遅れると連絡をもらっている」
その口ぶりから、クラージュ団はここにいるユウ含めて四人と後から来る一人を合わせて五人の団員がいるのだと推測できた。
「それなら始めよう。僕はアレン・クライン。銅級冒険者の十七歳だ。よろしくな」
にか、と爽やかな笑みを浮かべる。
いい人そうだ。というのがユウが抱いた印象だった。
「それじゃ、次は私かな? といっても、もう済ませちゃったけれど、改めまして。私はエルフ族のサラ・リシャール。同じく銅級冒険者。この団では一番年上だよ」
サラは首を傾げてユウを覗き込み、口元を綻ばせる。
ユウは思わず制服の胸元に視線がいきそうになり、慌てて顔を逸らす。
順番的に次はユウの番らしく、みんなの視線が集まっていた。
「俺はユウ・タチバナ。十六歳。みんなと同じく銅級冒険者。冒険者になったばかりで、右も左も分からないから、いろいろと教えてもらえると助かります」
とりあえず、無難に自己紹介を終えた。
自分を大きく見せようとしても化けの皮がすぐに剥がれることは、ついさっき実体験として経験したことだから。
「それでは私の番だな。私はアリス・カルマ。このクラージュ団の団長をやっている。クラージュ団が掲げる信条。それは、一人は皆のために、皆は一人のためにだ。それができる人、そうしたいと思う人を入団させたつもりだ」
サラもアレンも温かく出迎えてくれたのは、アリスの方針に皆が従っているからなのだろうと自然と理解した。アリスの言葉を聞く二人の表情からも、どこか誇らしさが見て取れる。
(なんかいい集団だな)
最初こそ、ちょっとしたトラブルがあったものの、ユウはこの団で上手くやっていけそうな手ごたえを感じ始めていた。
「そういえば、みんな銅級冒険者なんだ」
何気なく呟いたユウの言葉に、三人は顔を見合わせる。
「いや、うちには一人だけ銀級冒険者がいる。遅れてやってくるから、その時に紹介するよ」
代表してアリスが口角を持ち上げて言った。
残りの一人は銀級冒険者なのか。
怖い人じゃなければいいなあ。
そんな風に思っていると、アリスは慣れた手つきで木剣が収納されたスタンドから細くて先端が丸い物を手に取る。一般的には細剣と呼ばれる刺突武器。
「そういうわけで、ユウ・タチバナ。好きな木剣を取れ」
「は?」
突然のことに、理解が追い付かず呆けた声が出た。
「ここはトレーニング室だぞ。何のためにこの場所を選んだと思っているんだ」
呼ばれたはいいが、何をするのかは聞かされてはいない。
だが、普通に考えればすぐに思いつくこと。
異世界で仲間ができて浮かれていたユウは、団の存在意義をすっかり忘れていた。
「お前の実力を確かめる。さぁ、木剣を取れ。ユウ・タチバナ」
優し気な口調は鳴りを潜め、武人のような鋭い視線が突き刺さる。
ユウは深呼吸をして立ち上がると、スタンドから使い慣れた鉄の剣に似たサイズの物を取る。
そして、アリスと対峙したユウは緊張から喉が渇いていた。
冒険者採用試験で、試験官だったジミー・ダーモンのことが脳裏をよぎる。
「さぁ、始めるぞ」
そんなユウの内心を知らずに、アリスは真剣な表情で木剣を構えたのだった。




