第六十二話 ダメな再会
レイと再会して数日、継承式は日程が決まり翌日へと決まった。
「いよいよだね、ご主人様」
「あるじ、きんちょう?」
三人部屋の宿の中、シンはソファーに身体を預け液体のようにふにゃふにゃ状態だ。
宿は宿でも王様が用意してくれた宿ではない。この国の城に滞在してもいいと言われたがそれを断って観光客が泊まるところへ来た。
ミアとニアは予想通りの回答でここに泊まっている。
城には獣人の、あの王様がいる。自分を森へと追い出したあの王が。一応到着した際に前に出たが、話が終わり次第すぐ城を出た。
そんなこんなで昨晩に我ら王様から連絡が届いた。なので、今日は明日に備えてだらけているのだ。準備は正直何もしない。する必要がない。行って、問題が起きたら対応する。それでタイミングのいいところで暴露する。この前、レイと再会した時に我々が知らない情報を得た。それは継承式がどうして森の奥なのか。これで当日は動きやすい。ミアとニアに作戦を伝え現在に至るのであった。
「まあ、そろそろお昼頃だし外行くか」
「いく!」
「いくいく~」
獣人の国は主に肉料理と野菜料理が目立つグルメだ。おかげでミアとニアは虜になってしまった。そう適当に昼食を探しに街を歩いていると、またあの少年に出会った。
「やあ、やっと見つけた」
レイだ。やっと見つけたと言ったが、自分を探していたのだろうか。
「レイか……そうだ、お前がくれた情報は役に立つ。感謝する」
「それはよかった」
「それで、やっと見つけたとは?」
「ああ、実はシンに会ってほしい人がいるんだ。昼食がまだだったら用意しているだろうし食べて行ってよ」
会わせたい人、それが誰かわからない。
「その会わせたい人って?」
当然、承諾する前にもう少し詳し情報を求める。
「俺の両親に。シンには恩があるし、一度会ってお礼がしたいと言っていたからね」
会わせたい人、それはレイの両親。つまり、自分の両親ということだ。会うべきなのかどうなのか、心の中で思考を巡らす。
会いたい気持ちはある。だけど、今会っては複雑な気持ちになってしまうし、むしろ、両親にもそう感じさせてしまうかもしれない。レイと初めて会った時、匂いでバレそうになったこともあって、あれから対策はしてある。しかし……
そう心の中で葛藤していると、ニアがシンの袖を掴んだ。
「どうした?」
「あるじ、いこ」
まさかの発言に言葉が出ない。
「ご主人様、挨拶は大事だよ!」
ミアも何を言っているのかわからない。
そうしてそのまま流れるようにレイの、カナリアの家への前へと着いた。
道中、ミアとニアに小言で聞いたが、二人そろって『挨拶は大事』と、何を考えているのか分からなかった。
◇
「それじゃあどうぞ」
「……」
躊躇しながらも家の中へと入っていった。
ほんのかすかな思い出の匂いが流れてきた。そこにおいしそうな温かな匂いも漂ってきた。そこで、料理を運んでいる女性がレイに気づいた。
「おかえり、レイ。あら、そちらの人たちは?」
「ただいま、母さん。この人たちは王都で出会った冒険者で、前に話した人だよ」
十何年も会っていなかった実の母の姿は、あの頃よりも痩せてしまっていた。
母は、シンの手を取ってずっとお礼を言っていた。ありがとう、ありがとうと。今でも正体を明かしたい。でも、すべてが終わってからと決めた。じゃないと、多分戻れなくなる。運命を背負って生きたシンに。そう思ってしまった。
「……すいません、娘が行方不明になってもう十一年。それでもこの現実に受け止められなくて、レイは姉を探すと外まで出て行方を捜していたんです。そこで、あなたが娘を助けてくださっったと聞いて、本当に……」
まだ、涙が流れ続ける母にシンはそっと手を握って言った。
「……事が解決すれば、すべてが終わります。それまで、待ってくれますか?」
今、カナリアが母に言える最低限の言葉。母は、頷いてくれた。
それから、仕事帰りの父も帰ってきて話を聞けは母と同じようにしてきた。
ここで、父と母の名前も知れた。父は”ワド”、母は”ルーシュ”。家族なのに、弟の名前しか知らなかった自分がいたその心に、穴を感じてしまった。
他愛のない話をして食事を終えたシンたちはそろそろと宿へもどることにした。出ていく際、母はシンを呼び留めて手を握ってくれた。
「また来てね、待ってるからね」
こうして、母の十一年ぶりの料理をこんな形で食べることになってしまったが、明日が終わればもっと楽しい食事になることを願っている。




