EP.2 魔王の娘と少年 終
メディクスは、王室に置かれている玉座に座っているが最愛の娘を失ったことで脅迫のあった威厳は、死んでいた。
「シンよ……ふぅ、それで話とはなんだ?」
メディクスは息を吐きながら体制を整えシンの方を向いた。何もかもが絶望に変わってしまった彼に今から話すことを信じてくれるのかはわからなかった。それでも、
「メディクス、俺はあなたに、自身のすべて、そして未来を伝える」
覚悟を決めた。彼になんと言われようと吐くつもりだ。これから起こること、そして自分が何者なのかを。
シンの言葉にメディクスは一呼吸をして、
「わかった、話してみよ。そなたの、すべて、そして未来を」
このことをわざわざ伝えると言うことは、何かあるのだとわかった言葉だった。最愛の娘を失って、悲しみに暮れていた彼でも、それでもシンの言葉に耳を傾けてくれる。そんな彼をシンは強い人なのだと感じた。
最初に自分が何者で、どうやってこの世界に来たのか。
自分は獣人族の少女で、冒険者をしている。ある日、魔族のスキルによって目が覚めたら過去に飛んでいたこと(ちょっと自業自得なところあり)。この世界に来る前は小さい角と鱗が綺麗にならんでいる尻尾を持つ女の子と出会い、その後に事故で死んで目覚めたらこの世界にいたこと。そこでミューを救ったこと。あとは城で何を探していたのかを話した。
そして未来について。この時代は、自身がいた時代より前か、後なのか。それを解き明かす鍵が彼らの名称である。ミューに話を聞いたときに『魔族』、『人間界』、『魔界』、『亜人』だ。
シンは歴史に詳しくないため『魔族』や『魔界』について何も知らない。だが、わかることは『魔族』がいつ現れたか。それはシンの時代から二百年前だ。この頃に『魔族』は『人間界』に”迷宮”を作ったことから推測できる。
そして、メディクスたちの種族は『魔族』ではなく『亜人』であること。それは、獣人族と似た存在である。獣人族は『獣』と『人』の種族、動物の力が強く見た目も獣が強く表れる。逆に言えば彼らは角や羽が生えているからと言って、『魔族』ではなく『亜人』。つまり、彼らは『亜人』だけの世界だからこの名称である。なら、『魔族』の名はどこから来たのか。
『魔族』はそもそも名は『人間界』の人たちが勝手にそう呼んでのだろうと考えた。だが、今はそんな推測をしても意味はないため飛ばした。
黙々と聞いていたメディクスは、また一息をつき、
「そうか、お前は最初にこの人間じゃないと言っていたが、こうゆうことだったのか。だが、だいたい予想はしていた」
その言葉にシンも驚くことはなく逆に知っているとわかっていた。
「でしょうね、ミューから少しだけ話は聞いています。この世界で、もう一つの世界を知っている人物はあなただけと……自分のことについて話をしに来たのに申し訳ないが、あなたがどうしてもう一つの世界を知っているのかを聞かせて欲しい」
理由は、この方法なら現代じゃなくても過去の時代で向こう側に帰れる、からではない。知るには始まりがあるということだ。それに、たぶんミューを殺したトーブとアンブラ―が何かしらと策を作りその場所へ行かせないようにしているだろう。
「……そうだな、わかった。俺がもう一つの世界、お前の言葉で言うならば……『人間界』を知ったきっかけを。あれは、突然の出来事だった……」
◇
俺がまだ若く、王についてまだ未熟だった時代。この世界は様々な研究を行う国が多く、その日は遠出から帰還していた時の出来事。
「これでようやく一区切りだな……ん? おい、馬車を停めろ!」
馬車での帰り道に通りかかった洞窟から、一人の女性がボロボロの状態で出てきた。
俺は迷わず女性を馬車に乗せ、城へ急いで帰り、彼女を治療したのだ。
そして目を覚ました彼女は名はアムネシアと言った。彼女は竜人族と言い、里から追放を受けてしまい別世界につながる扉から来たという。その際に彼女は住んでいる天空から地上へ落とされ、近くにある洞窟からこの世界へとこなければならず、あのようなボロボロの状態だったのだ。
俺は彼女をどうするか迷った。保護し一緒に住むと案は出たが、彼女を信用もなしにこのようにしていいのかと考え、しばらく住みこませ様子見とした。そして洞窟から繋がる別世界の扉を封鎖した。封印する方が今後の問題に何もないと思ったが、下手に魔法を使いこの居場所がバレてしまい、研究意欲によって問題を起こす研究者がいる可能性があったからだ。
こうしてこちらの世界の情報をアムネシアに伝える代わりに、彼女の世界を俺に伝えると言った形で話を聞いた。そこで、もう一つの世界を知ったのだ。
アムネシアは『転生論』が好みでいつも部屋には『カレンデュラ』という花が飾ってあった。最初は転生について興味はなかったが、彼女を見ていく内に心を奪われカレンデュラがたくさん生えている花畑へ案内もした。
そうして、彼女と過ごしていき、恋が芽生え、俺は彼女に告白をした。彼女は最初は驚ていたものの、喜んで受け入れてくれた。
それからは幸せな生活が続いた。朝起きて彼女の静かな寝顔を見て、朝食を共に食べ、仕事中の俺に彼女は笑顔で話しかけてきて、城を共に回って、庭に大きな木を生やして、周りにはたくさんのカレンデュラを一緒に植えよう、そんな約束をした。
数年後、アムネシアはお腹に子を授かり、そして元気な女の子を産んだ。
だが、その幸せな時間は、壊された。
◇
その日は仕事が多く、メディクスは部屋に籠っていた。
アムネシアとまだ生まれて彼女に抱かれている娘、ミューと城の中を散歩していた。
書類の山を徐々に減らしながら一区切りしようと席を立った瞬間、城全体に爆発音と共に大きな揺れが起きた。
何が起こったのか状況確認のため外へ出ると城が大きく崩れていたのがわかった。それは外部からの攻撃だと察知できた。急いで兵士たちを集め城を守るよう命令を下すが、メディクスは城の中を走り崩れた場所へ走っていった。
アムネシアの散歩をするルートはいつも決まっていた。崩れたそこが彼女のルートの一つである。
メディクスは祈るしかなかった。彼女は安全な所へいてくれと。だが、その祈りは届くことはなかった。
◇
「それから十六年、母の愛情を知らないままミューを育ててきたのだが……」
メディクスは少し疲れたのか深く呼吸をした。その呼吸は静かな部屋の中へと消えていった。
沈黙の中、その静かな空気を破る言葉を放った。
「……ミューは、転生論を信じてました」
この会話は今まで中で関係ないものだ。
「ああ、妻もそうだった。しかし今の会話とは何の関係もないだろ?」
疑問が起こるのは当然だ。だが、シンの目には真剣だった。
「その転生は、この世界にどう影響を出すのかはわかりませんが、転生は存在します。俺自身がその証拠であり、真実です」
「……つまり、ミューも妻も、転生しているというのか?」
確証はない。自身も転生したもののこの世界の人間ではなく、魔法のない世界からやってきたのだ。もしかしたら転生してもシンのように魔法のないこちらからは干渉できない世界に転生したかもしれない。
「……少なくとも、俺は転生して今の俺がいる」
このことを打ち明けたことによってメディクスはどのような判断を下すかはわからない。だが、シンはこれだけは言っておきたかった。理由はわからない。
「……シンよ、それは言っていいものなのか?」
予想外の回答に少し間抜けな顔をしてしまったが、咳ばらいをし答えた。
「いや、多分駄目だと思う。でもそれを信じるかはあなた次第です」
「……そうか、それで死んだ人間はすぐに転生するのか?」
「いや、そこまではわからないが数百年はかかると思う」
「そうか……シンは未来から来たと言ったな。それは正確にはどのくらい先なのだ?」
シンもそれが知りたいと顔をするとメディクスは少し笑ってしまった。
「ははは、すまい。シンの時代は今より楽しいのか?」
「いいや……まあ、時代より仲間が楽しい」
そんなことを語るシンの顔はミューと一緒にいる時と同じ顔をしていた。
「シンよ、お主は元の時代に戻るのか?」
当然だ、元の時代に戻って自分のやるべきことを済ませるために。そう頷いた。
「なら、お願いがある。元の時代に戻ったら娘と、できれば妻も、見つけて欲しい」
「いるかわからないよ?」
「それでも構わない。俺はこう見えて何百年も生きることはできる……もしかしたら、未来で会えるかもな」
その言葉にシンは鼻で笑い、
「ああ、そうかもな」
そうしてシンは最後にメディクスと握手を交わし、ミューを置いた大きな木の生えている庭へ来た。そこでただ木に額を付け、心の中で「またな」。そう言葉を残し城を去っていった。
◇
城を出てからどれだけ時間が経ったかはわからないが遠くまで歩いてきた。山奥でそこからは城が小さく見えた。
「ふう、ここまで歩いてきたんだ」
そう言葉を漏らしながらもどんどんと進んでいった。そう言ってたどりついた場所は崖になっている場所だった。前回は不慮の事故によって転落死してこの世界に移動してきた。ならば、今回も同様に高いところからの転落死をすることで次の場所、もしくは元の世界に帰るかもしれない。
目を閉じ、ひと呼吸をし、背中から落ちた。自由落下による風が体を押しながら、一瞬ですべてが終わった。




