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EP.2 魔王の娘と少年 後編

 パーティー当日、シンは着慣れないスーツを着てパーティー会場で腕を組みながら壁に寄りかかっていた。あまりそういったパーティーの空気は好きでないシンには少し苦痛だった。しばらくして、メディクスとミューが会場にやってきて広い階段を降りてきた。メディクスは威厳を出すような衣装で、ミューはふわっとした黒いドレスを着ていた。そしてメディクスが飲み物を持ちあげ、挨拶を始めた。


「みなさま、今日はお集まりいただきありがとうございます。今年もよい結果を期待しているぞ。では、乾杯!」


 こうして研究者たちの成果の宴というのもが開催された。最初にそれぞれの成果を挙げてからミューが楽しみにしているダンスが始まる。それまで暇で研究の内容に興味がないシンは一人でそこらを歩くことにした。ミューを誘おうとしたが彼女の立場ではメディクスとともに回らなければいけないからだ。そうしてシンは適当にブースを通り過ぎて外へ出ようとしたらある研究者の題名に足を止めた。研究者名は”トープ”、題名は『呪いのアーティファクト』。


「おや、あなたは姫様の傍にいた者ではありませんか。えっと確か名前は……何でしたっけ?」

「気にするな。それで、おまえの研究題名のこれはなんだ?」


 トーブはうれしそうに答えた。


「これはそのままです。呪いのアーティファクトですよ」


 トーブはニヤリと笑みを浮かべこのアーティファクトについて話し始めた。


「呪いのアーティファクトはいわば呪いをベースとした道具です。通常のアーティファクトは魔方陣を道具に組み込みます。しかし呪いは魔方陣は存在しません」


 トーブは通常のアーティファクトと呪いのアーティファクトの構造図を見せながら説明をした。


「そこで生まれる疑問が。そう、魔方陣が存在しない呪いをどうやってアーティファクトにするかだ」


 トーブは大きなスライドを持ちながら興奮気味で説明を始めた。


「そこで、私は呪いを扱う魔物を研究したんだ。そしてたどり着いた! 呪いの正体を! それは――」

「トーブ、時間だ」


 トーブが話すのをわざと遮るように男が割って入ってきた。身長は高く成人男性のようだ。


「まだ時間じゃないぞ! それに今こいつに――」

「いいからこい、さっさと終わらせていくぞ」


 トーブは残念そうに男についていった。シンは気にせず呪いのアーティファクトを眺めた。そこで一つの確信ができた。過去に呪いのアーティファクトの効果を食らったことがあると。つまり、あのトーブが現代でシンが殺した魔族の一人。つまり、この時代は自身がいた現代より昔ということがわかったがそれは今どうでもいい。そのままブースを適当に避けて外へ出る扉まで来た。シンは、ミューを探してみたがいなかった。そのまま、適当に歩き続けた。だが、そんな気休めになる時間はくれなかった……


 会場は歓声から悲鳴へと変り、シンが辿り着いた先にはトーブと彼を連れて行った男が立っていた。そして、彼らの足下には、


 赤く染まったミューが横たわっていた。



 ミューは父が集中して研究者たちの話を聞いている隙に抜け出していた。彼女はそういったものには興味はないためいつも違うところで時間を潰しているのだ。そこでシンと一緒にいたいと思い探すがトーブのブースを見ていたため、先に外を歩いた。そうして城を探索していると不気味な視線を感じた。ミューは急いで大きな木のある庭へとやってきた。ここなら広く、明るいためまだ安全だと思った。そして、後から来たのはトーブを読んでいた男だった。


「アンブラー、あなたがどうしてここに? 今回は不参加と伺っていますが……」

「ええ、今回は研究材料が足りなくその回収に手こずっておりまして。ですが、その問題は今に解決します」


 ミューは危険を感じ取り後ろへ下がった瞬間、彼女の背後から胸に鋭い刃が貫通した。一瞬のことに彼女は、ただ貫通した刃に目を向けるしかできなかった。流れ出る血、緑だった地面が赤く染まり始めた。彼女はそのまま地面へ倒れた。背後には大きな化け物がいた。


「この化け物は私のお気に入りでしてね、私の能力で洗脳しているのです」


 アンブラー:『能力:黒霧』効果:『魔物を操ることができる、ただし霧と接触させなければならない、しかし自身でも操作可能』。


 アンブラーは息が虫のミューに近づき彼女が流した血を試験管に回収した。そして彼女の血を月に照らし笑みを浮かべた。


「はは、これでようやく私の研究が進む」

「あーあー、やりやがったよこいつ」


 アンブラーの後ろからトーブが出てきて彼女を見てはあきれた。ミューは彼らは共犯者だとわかり何が目的なのか聞こうしても体が、声が出なかった。そのまま視界がぼやけまぶたが重くなっていった。


(ああ、私、死ぬんだ……。シン様、ごめんなさい――)


 涙を流す彼女は意識がだんだんと遠くなっていくとき、彼の声が聞こえた。


「お前ら、何してんだ」


 シンがそこにいた。視界がぼやけ、まぶたが重く見ることができなかったミューはそれでも彼がそこにいルことがわかった。だが、手を伸ばそうとしても動くことはかなわなかった。


「おや、あなたはトーブのところにいた……、まあいいでしょう。あなたは私たちの行動を見てしまった、なので生きては帰しません」


 アンブラーは指を鳴らし彼のお気に入りといった化け物がシンに向かい、鋭い刃が心臓めがけて飛んできた。風を切る音と共に、地面へと倒れる音が鳴った。


「弱いな、こいつ」


 それは化け物が地面に叩きつけられた音だった。この光景に驚きが隠せない二人、そこでアンブラーが感づきある質問を問いかけた。


「さては、私の白蛇を殺したのはお前だな!」


 白蛇、シンがこの世界に来たときにミューを殺そうとしていた蛇だろう。その主が彼だからといって何かが変わるわけもない。


「だから?」


 今はどうでもいい、そんな返しをされたアンブラーは侮辱を感じた。


 一歩一歩と近づくシン、これ以上の戦闘は不利になると感じ取ったトーブがペンダントを取り出し拳に力を入れ始め、


「試作段階のこのアーティファクトを食らえ!」


 彼が投げたペンダントが光り出しシンは見えない何かに拘束された。これは彼の研究している呪いのアーティファクトなのだろうが、試作段階といってたように過去に食らったものよりかは威力がなかった。ならば力ずくでも抜け出せるということ。


「やばい、拘束するほどの力がない。やはり生き物の違いか――アンブラー、ここから脱出して向こう側の世界にいくぞ!」


 アンブラーは持っていた笛を吹くと大きな鳥が彼らをつかみどこかへ飛んでいってしまった。


「ミュー!」


 シンは急いでミューの元へ駆け寄った。彼女を抱き起こした。しかし鼓動が弱く、呼吸も浅いかった。一方で、傷口から熱い血だけが流れ地面は赤く染まっていくばかりだった。手につく血、それを見るシンは何か手がないか探す。魔法は、せめて止血だけでも。そんな焦りを、優しく、弱々しい手が彼の頬をなでて止めた。


「……シン、さま」


 彼女は意識が遠ざかっており声が出せなくなってきている。彼女の体温は次第に冷たく、流れる血だけが熱を出す。


「ミュー、助けてやるから、死ぬな!」


 彼は、彼女の前で泣いた。大きな涙が彼女の頬に落ちる。この世界に転生し、思わなかった彼は、今、自身が力がなければ何もできない。ただ死ぬのを見ていることしかできない無力差に、自身を責めた。これまでチート能力で解決してきた、だからこそ感じてしまうこの悲しみが、彼を唯一殺してしまう感情だ。


「なぁ、お前から約束したじゃないか……パーティーで一緒に踊ろうって。なぁ……起きてよ、ミュー……」


 シンは抱きしめた。もう、だめだとわかっていても最後まで方法を探す。認めたくないこの現実を、否定されたくなかった。


 彼女の肩に顔を埋め、涙を流す。かすれた声で、


「おねがいだ……みゅー。おきてよ」


 だが、彼女はもう眠りにつき始めていた。


「……」


 かすかに聞こえた彼女の声。シンは耳を傾け、聞いた。


「……もし、しんで、いつか、あえることが……できるなら」


 ミューはシンを抱きしめようと力を振り絞り、弱い力でも彼女は彼を包み。


「……わたしと、おどって……くれますか?」


 だんだんと腕も力が弱くなり、下がり始めていた。


 ミューは目を閉じた、それでも彼女は言った。


「……わたしを、だきしめて……くれます、か?」


 シンは彼女を強く抱きしめ必死に伝える。


「ああ、踊ってやる――何度だって。いくらだって抱きしめてやるから、だから――!!」


 スルりと彼女の腕は完全に落ち、鼓動が、呼吸が、止まってしまった。



 シンはボロボロになっている会場の広場で、階段に座り俯いていた。


 シンが会場を離れ、ミューが殺されている頃に、会場で突如出現した魔物によって破壊、後にトーブとアンブラーの仕業だと判明。誰も手足が出ず、メディクスも苦戦していたところをシンが全部を殺した。


 怒りにまかせ、潰し、引きちぎり、投げて、殺した。その怒りはどこから来たのかとメディクスは聞く、そして絶望へ変わった。ブースを共に見て回っていた最愛の娘が姿を消し、また逃げ出したのかと見逃し、そして殺された。メディクスはこの現実を確かめるためシンがあの広場に、眠らせてきたと言った。大きな木が生えている庭、その木に寄りかからせて、彼女が好きだっと言っていた花の周りで。遠くからでも聞こえる彼女の父の泣き叫ぶ声が、シンの心を締め付けた。

 城の中は静かで、悲しみで覆われていた。最愛の娘を失い、何もかもを失ったミューの父メディクス。もっと早く彼女の傍にいて助けてあげられなかったこと、そして力がないことがどれだけ苦しみに蝕まれてしまうのかを知ったシン。


 悲しみに何もできないメディクスにシンは決めた。


「俺はあなたに、自身のすべて、そして未来を伝える」

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