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EP.2 魔王の娘と少年 後編の前夜

 大書庫で時間に関する書を漁り一ヶ月、『魔法以外で時間に干渉できる現象』という条件で調べたが見つけることはできなかった。すべて魔法によるタイムトラベルなのかもしれない。無意識に飛んでいるかもしれない。つまり、現象ではく、シンがあの時、自身で過去に飛んだということだ。ならば現代に戻るための魔法をチートで作っちゃえと思うが今のシンは活動に制限が掛けられており何もできない状態。前回のように死がトリガーによってタイムトラベルとなるとそれを実行した方が効率はいいだろうけども保証も何もない。それに前回は事故のようなもので死んだことで今回は慎重にいかなければならない。そんなことを頭で回転させて廊下を歩いていると一人の少女が嬉しそうに駆け寄ってきたのだ。


「シン様!」


 ミューだ。以前、彼女にあげたヘアゴムでポニテを作り、走るにつれてゆさゆさと揺れながら彼の前まで来た。何をそんなに嬉しそうなのか疑問に思うと彼女は距離感がおかしいほど顔を近づけていった。


「今度、ここで大きなパーティ―が開かれるんです! それは世界中の研究者たちが集まりそれぞれの研究内容を父に貢献するといったパーティーです!」

「そんなのがあるんだ。でも俺はそういった空気は苦手だから不参加か外で時間を潰すかな」


 ブースのようなものだろうと思ったシンは苦手な空気になると思い先に断っていた。だが、そんな彼女が興奮して説明するのには疑問を抱いた。それはその後に起こるイベントにあるという。


「そしてパーティーなのでダンスもあります! つまり、シン様! 私と一緒に踊ってくれませんか?」


 彼女はシンにエスコートダンスというものをやってほしいそうだ。シンとミューの関係は恋仲には発展していないものの、そんな彼女は今の自分にとっては癒しであり、そんな彼女に惹かれつつあるのだ。シンは一応男、恋人を作りたくないだろうと恋は突然やってくるのだ。


 シンは彼女の要求を受入れ、パーティーが開催されるまでダンス講師に社交ダンスを習った。シンのダンスの成長に講師は驚きマスターしてしまたシンはいでも踊れると言われてしまった。そうしてパーティー前日、シンが泊めさせている部屋に誰かが訪ねてきた。


「シン様、入ってもよろしいですか?」


 ミューだった。もう日は完全に落ちて星だけが浮かぶ時間にやってきたのだ。シンは不思議に思いながら部屋に入れた。彼女をよく見ると寝スカートで生地は薄く、肌の露出が多い。彼女は赤面しながらも彼の前に立っている。


「シン様、その、どう、ですか?」


 寝着姿の髪型はポニテではなくストレートだった。顔を下に向け、恥ずかしいのか動かなくなってしまった。なぜならシンは彼女が入ってきてから一言も口を開いていないからだ。だが、シンは何も言わず彼女の顔を上げ、髪を優しく払い顔を見た。瞳には恥ずかしさと期待が映っていた。そしてミューは口をきゅっと締め彼の見上げる。


 シンはどうしたらいいのかわからなかった。彼女は何を期待しているのか。彼女は何をしに来たのか。だけど、これだけはわかった。だからシンはそれに答えるようにベッドに座り彼女を招いた。ミューはゆっくりとシンの隣に座った。そして、顔を見るわけもなく、何かを話すことなく、静かな部屋の中、時間だけが過ぎていった。


 ようやくシンは口を開いた。


「ミュー、不安?」


 シンはミューの顔を見ながら言った。ミューはシンの顔を見ては赤面し今にも湯気が発生しように染まっていた。


「シン様は……私との婚約を、断っていますよね。わかっています、恩だからと言って婚約はおかしいですよね……」


 ミューは、苦笑をしながら言葉を続ける。


「私は、シン様に助けられ、そして、恋をしたんです。初めての」


 ミューは寝スカートを掴みながら言った。


「それは、わかっています。ただの片思いって。お父様が婚約のことを口にしたとき、私は期待していたんです。ですが、シン様には思う人がいますよね」


 ミューは、ぽつりと涙をこぼしながら続ける。


「でも、私は……シン様が好きなんです。あなたには愛する人がいるのかもしれない。だから私の気持ちに答えることはできないって……。でも、どうしても……お伝えしたかった。私は、あなたが好きと……」


 ミューは覚悟してきたのだ。シンが婚約を断る、それは彼に愛する人がいるからかもしれない。だから、彼女自身が直接伝え、終わりにしようとしたのだ。


 シンは、ミューの反対の肩に手を回し、体を寄せた。そしてシンはゆっくりと話した。自分が何者なのか。


「ミュー、俺はこの世界の人間じゃないんだ。過去か、もしくは未来から来たんだ」


 ミューは何も言わずシンの会話を聞いた。


「確かに思う人はいる、だけどそれは仲間だ。恋人ではないけど、そいつらは家族なんだ。だからと言ってミューとの婚約を断る理由にはならない」


 ミューはシンが肩に乗せた手に自身の手を重ねた。


「俺が断る理由は、単純だ。こんなことで結ばれてはいけない。きちんと巡り合える人に会い、恋をして、自身で決めて欲しい」


 シンは、恋するなら自分から見つけ、このような形で結ばれるなら断り彼女の意思で動くべきと。ミューは彼の話を聞き、深呼吸をし体を彼に預けるように寄りかかった。


「……では、婚約の話はなしでお願いします」


 ミューは、シンの顔を見上げ、言った。


「なので、シン様、私は私の意思であなたに婚約を申し上げたいのです。これなら受け入れてくれますか?」


 シンは潤う彼女の目を見て額にキスをした。彼女は当然困惑した。何が起こったのかパニックを起こす彼女に構わず言葉を続ける。


「すまないが、婚約の話は断らせてもらう。だけど、ミュー、俺は自分の仲間にもある愛を、お前にもしているんだ。綺麗事だな。だけどミュー、俺はこの二か月、お前が俺にしてくれたことは、すごくうれしかった。孤独を覚悟していた俺に、光を照らしてくれた感覚だった」


 ミューは、シンの胸に顔を埋めた。そして彼女は囁いた。


「……それでも、私はあなたを愛しています。シン様が元の時代に戻るのであればいつか迎えに、これるかはわかりませんが……」


 ミューは、もう一度、シンの顔を見上げた言った。


「それでも、もう一度、会えたその時、私を連れ出し、傍にいさせてくれませんか?」


 シンが他の人を好きになっても構わない、だけど、自身が愛した人からは離れたくなかった。


「私は、あなたと共にいると自分は何も縛られず自由に空を飛べる鳥のように羽ばたくことができるんです。だから、時代が違えど、あなたに会うために、超えてみせます。けど――」


 涙を流しながらシンを見上げ、ミューは彼から離れようとしたその時、シンは、彼女を抱きしめた。困惑するミュー、力を振り絞りシンから離れようと押しのけるがびくともしない。そのままシンに抱きしめられながら時間は過ぎ、最後はベッドに横たわりシンは彼女の耳元で言った。


「……もし、巡り合えることができれば、君がまだ俺を愛しているならば、俺の本当の姿を見てもまだ愛してくれるなら、君の気持ちに答えられるように努力するよ。だから、もう、このまま寝よっか」


 シンは眠り、ミューは幸せそうにシンを抱きしめながら眠った。

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