EP.1 ドラゴン娘と少年
(森の匂いがする。ここは森の中? 俺は確か、いろいろあって……)
一人の少年が目を覚ました。そこは鳥の鳴き声が、木の葉が揺れる音がよく聞こえ、土や木の匂いがした。少年は起き上がり状況整理をしようと近くに川の流れる音を聞き音を頼りに歩き始めた。記憶が正しければドラゴンの魔石に纏まりついていた魔族が作った洗脳魔法「黒霧」を受けたのは覚えている。一応洗脳魔法だったことは鑑定で調べていたため万が一に備えていろいろとスキルは発動した状態でそれ以外のスキルを解除していた。なので彼が洗脳状態でも魔族を殺したというのはまだ知らない。そんな誰もがこの話を聞いたら先にミアとニアに怒られる未来を想像しながら川の音へ向かった。
木と木の間を通りたどりついた場所は見事穏やかな川だった。自分でもよくこんな穏やかな川の音でも気づけたなと思いながら水を飲もうと水面を覗いた。そこであることに気が付き手を止めた。
「あれ、この顔って前世の俺じゃん」
今の彼は、狐の少女『カナリア』でも、仮面を被る冒険者『シン』でもない。前世の日々谷真だったのだ。服装も黒色には変わりないがいつもの服装とは若干小さく、簡単な服装だった。そもそもなぜ自分が森にいるのかを改めて感じた。誰かがここへ運んだとなれば話は別だがそれはありえない。なぜなら顔が日々谷真なのだからだ。スキルを解除したからと言って元は狐の少女だからだ。ならなぜこの顔なのか、そもそも今スキルの大半が使えないことにも気づく。なのでただいま迷子の日々谷真なのである。そう困って水面をぺちぺちしているとどこからか女の子の鳴き声が聞こえた。声のする森をかき分けていくと割れた水晶玉を前に縮みこんで泣いている少女を見つけた。
「大丈夫?」
突然の掛け声に驚く女の子。よく見ると頭に小さな角が生えておりお尻らへんに鱗がきれいに並んでいる尻尾が出ていた。そんな少女は最初は真に驚くがそれよりも割れた水晶が事の重大さを示しているのか欠片を泣きながらも必死に拾い集めた。
「なあ、何をそんなに急いでいるんだ? 手伝おうか?」
真が手を貸そうと伸ばすが少女はそれを無視して手を切ってしまったのか小さな血が付きながらも欠片を抱えていった。真はどうしたらいいか困っていると少女は震えながらも初めて声を出した。
「……これ、大切な魔晶。今日の儀式に使うのに、私、わたしは――うぅ」
少女はこれを集めたところでもう戻らないとわかっていたけども、抱えた欠片を地面に落としまた泣いてしまった。そんな少女を見ているとふと見覚えのある色の水晶だと気が付いた。
「ねえ、魔晶って魔石のこと?」
「……え? た、確かに人間界では魔石ともいいますけど、ここではこの魔石は水晶の形をしているので、魔晶っと呼んでいます。……あれ、その持っている物って」
鼻をすすりながらも話してくれた少女。そこで大半のスキルが使えない中で唯一使えるスキル『収納』からこれだけが入っていたので同じものだと思った真は取り出し、少女に渡した。それに少女は目を丸くし先ほどまで何も持っていなかった男から少女が割ってしまった魔晶と同類のものが現れたのだ。
「もしかしたら、これって使える?」
「え、あ、はい……えっと」
それは『収納』になぜか収納されていたレイドで倒し回収したドラゴンの魔石だ。真自身もなぜこの魔石だけが入っているのかは不思議だが今少女の助けになるならばそれは気にしないと手渡した。それに困惑しながらも受け取る少女。
「君の住んでいる所は近いの?」
「え、あ、はい。そこをまっすぐ行けばすぐです」
なら安心だなっと思った真は彼女が割ってしまった魔晶の欠片を代わり回収した。そして今度はまた割らないように途中までついていくことにした。決してそんな感情はない。単純に情報収集だ。今得られる情報は少女だけであり、この子の住んでいる所へ行けばいろいろとわかるだろうけどもこれから訪ねては少女が言っていた儀式の邪魔になってしまうと思い少女から話を聞こうと考えたのだ。
「そういえば名前を聞いていなかったね、俺は……シンだ」
「シンさんですね、私の名前はフォーナです」
それから彼女からいろいろと情報を得たことを整理した。まずは時代からだ。シンが今いる時代は彼女からの話から推測すると大昔だとわかった。歴史には詳しくなく、自分がどの時代に住んでいるのかもわかっていないくてもシンの時代にあるものとフォーナの時代にあるものとは大きく異なることからわかる。衰退した未来かもしれないと思ったがそれはありえないでよさそうだ。
話しているうちに建物がいくつか見えてきた距離へと歩いていた。ここでフォーナとお別れだ。
「いろいろ話してくれてありがとう、助かったよ」
「い、いえ。私の方こそいくら恩を返そうと返せないです」
短い時間だったが体感では長い道を歩いた錯覚がするほど楽しかった。お別れは悲しいが彼女は竜人族だからもしかしたら未来で会えるかもしれないが最後の別れと言って頭を撫でて先ほど歩いてきた道を戻っていった。そんなシンの背中を見えいたフォーナは大きな声で彼に言った。
「いつか、またいつか! 会いましょう、シンさん!」
涙目の声でそれでも強い声で彼に思いを伝えた。シンはそんな彼女に手を振って森へと入っていった。
◇
「……どうしたものか」
フォーナと別れてから自分でもどれだけ歩いたかわからないところまで来た。フォーナから話を聞いて自分がどの時代にいるか把握はしたもののどうやって現代へ帰るのかはまた別のお話だ。今のシンは少し力がありスキルも魔法を全然使えない一般男性と同じレベルまで下がっている。そんなこんなで適当に崖の端っこまで立ってみた。
「……この状況が実際に過去へタイムリープしているのか、はたまた夢なのか」
タイムリープによる過去への干渉か夢による干渉でまた別れる。本当にタイムリープなら今死んでしまったら現代に戻れる保証はない。ただ、夢ならば死ねば現代の体に戻れると思っているがこれも保証はないため実行しようにもできないのだ。なので崖っぷちで物事を考えていたら、もう誰もが予想できている、もしくはそうなるだろうと風によってシンは高い地面に自由落下してしまい何かがつぶれた音と共に意識を失った。




